不妊症の原因の約半数は男性側にあるとされており、男性不妊症は珍しいものではありません。妊娠を目指すためには男性不妊症を正しく理解し、検査や治療、生活習慣の見直しなどを行うことが大切です。この記事では、男性不妊症の原因や代表的な症状、検査、治療について解説します。
男性不妊症とは?
不妊症とは妊娠を望む健康な男女が、避妊をしないで性交していたにもかかわらず、1年間妊娠しない場合のことを指します1)。不妊の原因が男性にある場合は、男性不妊症に該当します。
なお、年齢や既往歴(例:停留精巣、クラミジアなどによる精巣炎骨盤内炎症性疾患、手術歴など)によっては1年を待たずに早めに相談したほうがよいケースもあります。
自覚症状がない場合でも、生活習慣の乱れやクラミジアなどの性感染症、過去の病歴や手術が男性不妊の原因となる場合もあるため、注意が必要です。
男性不妊症の実態

WHO(世界保健機関)の調査では、不妊症の原因が「男性のみ」は24%、「男女とも」は24%と報告されており、不妊カップルの約半数に男性側の要因が関与していることが分かっています。
また、海外の研究では男性の約7%が不妊症と診断されているという報告もあり2)、男性不妊症自体は珍しいものではありません。
男性不妊症は、検査と治療によって改善が期待できるケースもあるため、早期に発見し適切に対応することが非常に重要です。例えば、男性不妊の原因として最も多い「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」は、手術によって精子の質が改善し、自然妊娠に至るケースも少なくありません。
また、近年では生殖補助医療(ART)の技術も進歩しており、顕微授精などの方法で妊娠の可能性が広がっています。
男性不妊症の主な原因疾患は?
男性不妊の主な原因として以下が挙げられます。
- 造精機能障害(精子をつくる力の低下)
- 性機能障害(勃起障害、射精障害など)
- 精路通過障害(精子の通り道の閉塞など)
このうち最も多いのが造精機能障害で、男性不妊症全体の約82.4%を占めています。次いで性機能障害が13.5%、精路通過障害が3.9%です2)。
また近年では、精子のDNAに傷がつくこと(精子DNAの断片化)も、不妊症の原因のひとつであることが明らかになっています。
造精機能障害・性機能障害・精路通過障害
造精機能障害は、精子をつくる機能が低下している状態のことを指します。造精機能障害の代表例である精索静脈瘤では、精巣などの部位における静脈が拡張して精子がつくられにくくなります。
性機能障害は、勃起障害(ED)や射精障害などが該当します。精神的な原因が関連することも少なくないとされています。
精路通過障害は、精子の通り道である精管や射精管に何らかの問題がある状態です。炎症などで管が詰まった状態になると、精子が通れないため不妊の原因となります。
男性不妊の原因となる造精機能障害、性機能障害、精路通過障害については、以下の記事で詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
関連記事:男性不妊の原因|検査内容や費用、治療法についても解説
精子DNA断片化(SDF)
精子DNA断片化とは、精子の遺伝情報を含むDNAが切断された状態のことを指します3)。SDF(sperm DNA fragmentation)とも呼ばれ、精子自体には損傷を受けたDNAを修復する能力がないため、DNA断片化が男性の妊孕性(にんようせい:妊娠する力)に影響を及ぼす可能性が指摘されています。
DNAが傷ついている度合いは「精子DNA断片化指数(DFI)」という数値で評価され、断片化が多いほどDFIは高くなります。DFIが高くなる主な要因は、加齢や、肥満・喫煙などの生活習慣です。
そのため、精子DNAの断片化を防ぐには、生活習慣の見直しと改善も重要とされています。
男性不妊の代表的な症状
男性不妊は必ずしも自覚症状があるわけではありませんが、中には気づきやすいサインもあります。それぞれ解説します。
自覚症状がないケースも多い
男性不妊症は、明確な自覚症状が現れない場合も少なくありません。精子の数や運動率、形態の異常は身体の違和感として感じられないため、日常生活の中で異変に気づくことは困難です。
その結果、妊娠が成立しない状況が続いたタイミングで初めて検査を受け、不妊の原因が明らかになるケースが多くあります。
気づきやすい身体のサイン
男性不妊の特徴が見た目に現れる場合もあります。
例として、造精機能障害の原因となる精索静脈瘤では、精巣の周囲にある血管がこぶのように膨らむ(多くは左側に発生する)見た目の変化があります。

また、胎児期に精巣が本来下降してくるべき経路で止まってしまう停留精巣では、左右の陰嚢の大きさや精巣の位置に違いが出ることがあります。

上記のような見た目の場合でも必ず不妊につながるわけではありませんが、気になる場合は受診も検討してみるのもよいでしょう。
男性不妊と見た目の特徴については、以下の記事でも詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
関連記事:男性不妊になりやすい人は見た目でわかる?特徴と原因を解説
男性不妊症のセルフチェック
男性不妊症のセルフチェックとしてできる内容は、上述のような「気づきやすい身体のサイン」があるかどうかや、過去の病歴や手術歴、生活習慣の特徴などが挙げられます。
- 陰嚢の見た目のセルフチェック
- 陰嚢が腫れていたり、陰嚢の形が左右非対称になっている、陰嚢の上部に睾丸があるなどがある場合は造精機能障害(精索静脈瘤や停留精巣)の可能性がある
- 精液の見た目のセルフチェック
- 精液量が極端に少ない場合は、逆行性射精や射精管閉塞の可能性がある
- 病歴や手術歴のセルフチェック
- 鼠径ヘルニア手術、おたふく風邪、副睾丸炎、前立腺炎などの経験がある場合、精子の通りが悪い可能性や睾丸の働きが悪い可能性がある
- 生活習慣のセルフチェック
- 食生活の乱れや喫煙・飲酒・睡眠不足・ストレスがある場合、精子の質が悪い可能性、性機能障害の可能性がある
男性不妊のセルフチェックについては以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。
関連記事:男性不妊の原因やなりやすい人の特徴は?セルフチェックや割合について解説
セルフチェックの限界と専門検査の重要性
セルフチェックはあくまで受診のきっかけであり、最終的な判断は医療機関での診察や専門的な検査を受ける必要があります。
精巣の機能が低下していても性行為自体に問題がない場合も多く、異常に気づきにくいものです。
また、精液量以外では精液の見た目だけで精子の状態を判断することは困難です。染色体異常やホルモン異常といった原因も、血液検査や超音波検査などを行わなければ診断できません。
妊活を始めて1年以上経っても妊娠に至らない場合や、セルフチェックで気になる点がある場合は、自己判断せず受診を検討しましょう。
男性不妊症の検査
男性不妊の検査では精液検査で精子の数や健康状態を確認します。その他では、問診や血液検査、超音波検査などを組み合わせて不妊の原因を調べる場合があります。
精液検査
精液検査は、マスターベーションで採取した精液を顕微鏡で調べる検査です。この検査を受けることで、精液量や精子濃度、運動率などがわかります。
なお、精子の状態は体調によって変動しやすいため、一度結果が悪くても自然妊娠の可能性がゼロになるわけではありません。必要に応じて再検査が行われる場合もあります。
精液検査にかかる費用は、保険適用では数百円程度、自由診療では3,000〜6,000円程度が目安です。不妊症の診断や治療の一環として医師が必要と判断した場合は保険適用となるケースもあります。
トーチクリニックの精液検査については、以下のページで詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
関連ページ:精液検査
その他の検査
血液検査や超音波(エコー)検査が主なものとなります。血液検査では男性ホルモン(テストステロン)や性腺刺激ホルモン(FSH、LH)、プロラクチンなどのホルモンの値を見る検査と、無精子症や高度の乏精子症など男性不妊の根本原因を明らかにする染色体検査や遺伝子検査が該当します。
超音波(エコー)検査では、精巣周囲の血管異常の有無や精巣の大きさ、腫瘍の有無などを確認します。
男性不妊の検査については、以下の記事でも詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
関連記事:男性不妊の検査はどこでできる?検査内容や費用、受けるタイミングについても紹介
男性不妊症の治療法について
男性不妊症の治療は、原因や重症度に応じて、生活習慣の改善から薬物療法、手術、生殖補助医療まで多岐にわたります。原因が異なればアプローチも変わるため、複数の治療法を組み合わせることもあります。
専門医と相談しながら、ご自身の状態とカップルの希望に合った治療法を選択していくことが重要です。
以下は、日本生殖医学会のサイトで紹介されている男性不妊に対する主な治療の内容です4)。
男性不妊症の薬物療法・サプリメント
薬物療法やサプリメントは、ホルモンバランスを整えたり、精子の質を改善したりする目的で用いられます。
ホルモン療法
ホルモン療法は、精子をつくるのに必要なホルモンの分泌が低下している場合に行われる治療法です。
血液検査でホルモン異常が確認された場合は、不足しているホルモンを補充したり、体内での分泌を促したりする治療が行われることがあります。
治療には飲み薬によるクロミフェン療法や、注射によるhCG/hMG療法などが用いられることがあります。
漢方薬
男性不妊症に対する補助的な治療として、漢方薬が用いられることがあります。漢方薬は体のバランスを整え生殖機能をサポートすることで、精液所見の改善を目指します。
例えば、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や八味地黄丸(はちみじおうがん)などが処方されることがあります。
ただし、効果の現れ方には個人差があり、科学的エビデンスは限定的です。そのため、他の治療と併用しながら、体質改善の一環として用いられることが一般的です。
サプリメント・ビタミン剤
抗酸化作用のあるサプリメントは、精子の質を向上させるための補助的な役割として用いられることがあります。
代表的なものには、精子DNA断片化を減らすことや抗酸化作用を期待したビタミンB12やビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10、L-カルニチンなどが挙げられます。
ただし、サプリメントだけに頼って不妊を治療するということはあまり現実的ではありません。不妊の原因によっては、医療的な処置や生活習慣の見直しなども必要となります。
また、サプリメントは過剰摂取すると体に負担をかけることもあり、どの成分が自分に必要かを判断することも簡単ではありません。自己判断で始めるよりも、医師と相談しながら必要に応じて適切なサプリメントなどを取り入れていくのが良いでしょう。
生活習慣の改善
精子の状態をより良くするためには、日々の生活習慣を見直すことも重要です。以下のような生活習慣を意識しましょう。
男性不妊症についてよくある質問
男性不妊症についての疑問点について解説します。
男性不妊症は治りますか?
原因によっては改善する可能性があります。男性不妊症には治療可能な原因もあり、適切な治療によって精液所見の改善が期待できるためです。
例えば、精索静脈瘤や精路通過障害は手術によって原因を根本的に取り除くことで、精液所見が改善することがあります。また、ホルモン異常が原因であれば薬物療法が有効な場合もあります。
一方で、不妊の原因が特定できないケースもあります。その場合は、精子を採取する手術を行ったり、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療を行ったりして妊娠を目指します。
男性不妊症はどうやってわかるのですか?
代表的な検査は精液検査です。男性不妊症は自覚症状が乏しいことが多く、検査によって精子の状態を確認することが重要です。
精液検査では、精液量や精子濃度、運動率などを調べます。また、必要に応じて、ホルモン値を調べる血液検査や、精巣や精管の異常を確認する超音波検査なども行います。
検査や治療に費用はいくらかかりますか?保険は適用されますか?
検査費用は医療機関によって異なりますが、精液検査は保険適用で数百円程度、自由診療は3,000〜6,000円程度が目安です。トーチクリニックではブライダルチェックとして以下のような検査とプランを提供しています。
※DFI:DNAに損傷がある割合
TAC:酸化ストレスに対する抵抗力
検査の内容や費用は医療機関によって異なるため、詳細は受診を検討する医療機関へお問い合わせください。
トーチクリニックの男性ブライダルチェックについては、以下のページで詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
関連ページ:男性ブライダルチェック
おわりに
参考文献
1)日本産科婦人科学会. 不妊症. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5718/
2)Chen T, Belladelli F, Del Giudice F, Eisenberg ML. Male fertility as a marker for health. Reprod Biomed Online. 2022 Jan;44(1):131-144.
https://www.rbmojournal.com/article/S1472-6483(21)00483-1/fulltext
3)日本泌尿器科学会. 2024年版 男性不妊症 診療ガイドライン. 日本泌尿器科学会ウェブサイト
https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/52_male_infertility.pdf
4)日本生殖医学会. Q15 男性不妊の場合の治療はどのようになるのですか? 日本生殖医学会ウェブサイト
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa15.html


