男性不妊の原因は主に造精機能障害、性機能障害、精路通過障害に分けられ、それぞれ原因や対処法が異なります。また、男性不妊になりやすい人は、陰嚢(いんのう)や精液の見た目、病歴や手術歴、食生活などの生活習慣にも特徴があります。この記事では男性不妊の原因やなりやすい人の特徴、セルフチェックの内容について解説します。
男性不妊の原因と割合
男性不妊の原因は大きく3つに分けられ、それぞれの割合は以下のとおりです。
それぞれ詳しく解説します。
造精機能障害

男性不妊の原因で最も多いものが造精機能障害です。造精機能障害は、精子をつくる機能が低下している状態のことをさします。元気な精子が少なかったり、精子の運動率が低かったりする状態であり、男性不妊全体の82.4%が造精機能障害です1)。
精索静脈瘤や停留精巣といった名前の疾患は造精機能障害に含まれ不妊の原因になる可能性があります。その他、造精機能が低下する原因は不明なケースも多く、染色体や遺伝子の異常が関連していることも考えられています。
性機能障害

性機能障害は、性交時に十分な勃起が得られない・勃起が維持できない・射精感があっても精液が膀胱内に逆流しているなどの理由で、思うように性行為ができない状態のことです。男性不妊の13.5%が性機能障害とされています1)。
男性の性機能障害は、性交への精神的なプレッシャーやストレスなどが原因になり得るとされていますが、糖尿病による合併症や、誤った知識によるマスターベーションが原因となることもあります。
精路通過障害

精路通過障害は、何らかの原因で精子の通り道が閉塞している状態のことです。精子が正常に作られていても、精子が外に出られないため不妊の原因となり、男性不妊の3.9%とされています1)。
精路通過障害の原因として、生まれつき精管がないケースや、精巣上体炎などの炎症によって精管が詰まっているケースなどがあげられます。
男性不妊になりやすい人の特徴は?
男性不妊になりやすい人は、陰嚢や精液の見た目に特徴がある場合があります。また、病歴や手術歴、食生活などの生活習慣にも特徴があることがあります。それぞれ詳しく解説します。
陰嚢の見た目の特徴
陰嚢に以下のような特徴がある場合は、男性不妊になる可能性があります。
- 陰嚢が腫れている
- 陰嚢の血管が浮き出てでこぼこしている
- 陰嚢の形が左右非対称になっている
- 陰嚢の上部に睾丸がある
上記の特徴は、精索静脈瘤や停留精巣の可能性があります。精索静脈瘤と停留精巣は、両方とも男性不妊の原因のうち、造精機能障害に分類される疾患です。
精索静脈瘤
精索静脈瘤は、精巣の静脈が逆流することによって陰嚢内の静脈が腫れる状態です。立った姿勢で目立つことがあり、陰嚢が腫れたり、血管が浮き出てでこぼこしている場合は精索静脈瘤の可能性があります。また、多くは左側の陰嚢に発生するため、陰嚢の形が左右非対称に見える場合も疑われるケースです。
精索静脈瘤になると、精子の数が少なくなったり、運動性が低下する可能性があり、男性不妊につながります。精索静脈瘤は男性不妊の40%に関与すると言われています2)。
停留精巣
停留精巣は、胎児の時にお腹で作られた精巣が、生まれてからも陰嚢まで降りていない状態です。睾丸が陰嚢の上の方にみえたり、片側性の場合は、陰嚢が左右非対称に見えることもあります。
停留精巣だと、精巣が陰嚢にある場合よりも高温環境におかれるために、精子を作る細胞が失われてしまい、男性不妊につながる可能性があります。
精液の見た目の特徴
男性不妊になる可能性がある場合でも、精液の見た目ではわからないことも多いです。ただし、精液量が極端に少ない場合は注意が必要な場合があり、性機能障害に分類される逆行性射精や、精路通過障害のひとつである射精管閉塞の可能性があります。
逆行性射精は精液が膀胱に逆流するため、射精管閉塞は射精管と言われる精嚢液と精子が合流する部分が閉塞されるため、精液量が減少します。
精液の色は問題ない場合も多い
精液の色の見た目がいつもと違っても、必ずしも男性不妊にはつながりません。黄色っぽくなっている場合は、多くの場合は禁欲期間が長かったことによる自然な変化です。
ただし、精巣炎や前立腺炎などの感染症がある場合は、精液に白血球が増える膿精液症の可能性があります。膿精液症の場合は、精子の生殖能力が低下する可能性があるため、精液の変色以外にも男性器の腫れや痛みといった症状がある場合は注意が必要です。
精液に赤みがあるような場合は、血精液症という精液に血液が混じった状態が考えられます。ほとんどの場合は痛みもなく自然に治まり、不妊に直接関係することは多くありません。ただし、症状が長引いたり出血量が多いと感じる場合は、念のため医師に相談するようにしましょう。
病歴や手術歴の特徴
以下のような病歴や手術歴がある場合は、男性不妊となる可能性があります。
- 鼠径ヘルニア手術を受けたことがある
精子の通り道となる鼠径管の手術を行ったことで、精子がうまく通らなくなっている可能性があります。
- おたふく風邪、副睾丸炎、前立腺炎に罹患したたことがある
おたふく風邪に感染後、睾丸が腫れあがった人や、おたふく風邪でなくとも高熱が続き、睾丸付近に痛みを感じたことがある人は、睾丸の働きが悪化している可能性があります。副睾丸炎や前立腺炎に罹患したことがある人も、精子が通りにくくなっていることがあります。
- 抗がん剤治療や放射線治療を受けたことがある
睾丸の状態が悪くなっている可能性があります。抗がん剤を使うと、治療終了から長期間経過していても精子がうまく作れなくなっていることがあります。
食生活などの生活習慣の特徴
食生活の他、喫煙、飲酒、睡眠不足、ストレスといった生活における習慣は、男性不妊に影響を与えることがあります。
食生活の影響
精子の質や妊娠しやすさには、日々の食生活も関係します。偏った食事は必要な栄養素の不足につながるため、1日3食、バランスのよい食事を摂ることが大切です。
肥満は、精子の数や濃度、運動性の低下を引き起こす要因であり、適正体重を維持することで精子の質が改善されることも知られています。
また、糖尿病のある方では勃起障害や射精障害から、男性不妊につながることもあるため、この点からも食生活は重要と言えます。
喫煙・飲酒・睡眠不足・ストレスの影響
喫煙や飲酒、睡眠不足、ストレスなどの生活習慣は、精子の数や運動率、形態に影響を与えることがあります。
喫煙は、精子の濃度や運動率の低下、奇形率の上昇、血流の低下による勃起不全などに影響することが知られています。妊活を考えるうえで、できるだけ控えたい習慣です。
睡眠不足や慢性的なストレスも精子の質を下げる要因となる場合があります。
また、飲酒は不妊との直接的な関係は明確ではないものの、過剰な飲酒は勃起不全(ED)のリスクを高めることがあります。その結果、妊娠の可能性に影響することがあるため注意が必要です。
男性不妊が疑われるときのセルフチェック
前述の「男性不妊になりやすい人の特徴」を表にまとめているので、セルフチェックのリストとしてご活用ください。
男性の不妊検査
男性の不妊検査では、精液検査をはじめとした複数の検査があります。
精液検査
精液検査は、マスターベーションにより採取した精液を顕微鏡で観察して、精液量・精子濃度・精子運動率・精子の形態などを確認する検査です。
精液の状態は日ごとに変動するため、同じ人であっても結果がばらつきやすい点に注意が必要です。1回の精液検査で悪い結果が出たとしても、再検査をして問題がないと判断されることもあります。
精液検査にかかる費用は医療機関によって異なるだけでなく、自治体によっては費用の助成制度が設けられていることもあります。自治体の制度についても確認するのが良いでしょう。
精液検査の流れ
精液検査は、一般的に2〜3日程度の禁欲期間を設けたうえで、マスターベーションによって精液を採取しておこないます。
トーチクリニックにおける精液検査の流れや費用などの詳細は、以下の診療ページで解説しているのであわせてご覧ください。
関連ページ:精液検査
その他の検査
一般的な精液検査以外では精液検査の精密検査、男性ホルモン検査、クラミジア抗体検査、風疹抗体検査、感染症検査などがあります。
それぞれの検査の概要は、以下のとおりです。
- 精液検査の精密検査:一般の精液検査では分からない「精子DNA断片化検査(DFI検査)」「精液抗酸化力検査(TAC検査)」を実施
- 男性ホルモン検査:LH、FSH、テストステロンなどの分泌状況を調べる
- クラミジア抗体検査:不妊の原因にもなるクラミジア感染症の有無を調べる
- 風疹抗体検査:風疹ウイルスに対する抗体の有無を調べる
- 感染症検査:B型肝炎・ C型肝炎・梅毒・HIV感染症の有無を調べる
トーチクリニックではブライダルチェックとして上記のような検査も提供しています。男性ブライダルチェックの詳細については以下の診療ページで解説しているのであわせてご覧ください。
関連ページ:男性ブライダルチェック
男性不妊の治療
男性不妊の治療は、原因が明確なものに対しては主に手術で治療し、勃起不全のように薬で対処できるものは薬物治療も実施されます。
原因が分からない場合は、人工授精や体外受精、顕微授精などの不妊治療に入っていくケースもあります。
人工授精
人工授精は排卵の時期に合わせて子宮の入口からカテーテルを挿入し子宮内腔へ処理された精液を直接注入する方法です。
採取された精液から、動きの良い精子を濃縮して子宮内に届ける方法であり、軽度の乏精子症や性交障害・ED・性感染症・仕事の都合などで性交渉がとれない場合などで実施されます。
人工授精の詳細については以下のページもあわせてご覧ください。
関連ページ:人工授精
体外受精
体外受精は卵巣で発育した卵子を採卵術で体外に取り出し、精子と受精させる治療方法です。
人工授精では効果が薄いほど精子濃度が低かったり、精子運動性が不良な場合などに実施されます。
体外受精の詳細については以下のページもあわせてご覧ください。
関連ページ:体外受精
顕微授精
顕微授精は顕微鏡を使いながら培養士が精子の形態や運動性を見ながら良好な精子を選択し、細いガラス針で卵子の細胞質内に直接精子を注入する授精方法です。
精子濃度が極めて低い場合、精子運動性が極めて不良である場合、男性不妊症(無精子症)に対する外科手術によって獲得された精子を用いる場合など、重症度が高めの男性不妊でも実施できる可能性があります。
顕微授精の詳細については以下のページもあわせてご覧ください。
関連ページ:顕微授精
不妊原因の男女の割合は?
不妊原因の男女の割合として、半数近くは男性側にも原因があることが知られています。
WHO(世界保健機関)による不妊症の原因調査では、男性のみに原因があるが24%、男女ともに原因があるが24%であり、合わせて48%は男性側にも原因があることになります。
男性不妊は決して珍しいものではなく、不妊症が疑われる場合は男女ともに適切な検査と必要な治療を受けることが重要です。
おわりに
参考文献
1)こども家庭庁. 男性不妊について. こども家庭庁ウェブサイト
https://funin-fuiku.cfa.go.jp/dictionary/theme06/
2)日本泌尿器科学会. 精索静脈瘤. 日本泌尿器科学会ウェブサイト
https://www.urol.or.jp/public/symptom/14.html