AMH値が低い人の特徴や低くなる原因とは

最終更新日時:
2024-11-15
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

AMH(抗ミュラー管ホルモン)とは

AMHは、抗ミュラー管ホルモン(Anti-Müllerian Hormone)と呼ばれ、卵巣内にある卵胞から出るホルモンのひとつです。卵胞とは卵子が入っている袋のことで、卵胞数は卵子数とほぼ同等と考えられます。AMHは排卵できる卵の残存数を間接的に評価できるため、「卵巣年齢」の指標と言われます。

もともと男性へと性別が決まっていく過程で働くホルモンとして1940年代に発見されましたが、1990年代に女性の卵胞からも分泌されていることがわかりました。

現在では、AMHの値により、成長する卵胞がどの程度あるのかを予測し、どの段階から不妊治療を開始するかや、排卵誘発の方法など、不妊治療の治療方針を決定する1つの指標として利用されています。

AMHの役割と不妊治療との関係性

女性は、産まれた時点で原子卵胞を約200万個持っており、排卵のたびに減っていきます。通常1か月に1個排卵しますが、その陰で約1000個が消えていきます。精子と異なり、女性は、産まれた後に新たに卵子が作られることはありません。

卵子は卵胞という袋に包み込まれており、原子卵胞→前胞状卵胞→成熟細胞という順番で発育します。この過程にある前胞状卵胞からAMHは分泌され、卵巣予備能力の指標として利用されています。AMH値やその他の指標(AFC:2〜10mmの胞状卵胞数など)を元にして、適切な治療ステップの提案や卵巣刺激法・排卵誘発法が選択されているのです。

「AMH値が低い」とはどういう状態か

では、AMH値が低いとはどういう状態なのでしょうか。AMHの検査方法から年齢別のAHM値をふまえて解説しましょう。

AMHの検査方法

AMHは月経周期による変動がほとんどないため、血液検査でいつでも測定できます。当院ではAMH測定を自施設内で行っているため当日に結果をお伝えすることが可能です。

2024年6月から保険適用での検査が可能になり、費用は、保険適用の場合には1,800円(自己負担3割)、自費診療の場合は大体5,000〜8,000円程度が相場です。ただし、保険適用での検査は6か月に1回までとなっているため、ご注意ください。

また、低用量ピルなどのホルモン剤を服用している方は、検査結果に影響を与えることがあるため事前に医師に伝えましょう。

年齢別のAMH値について

AMH値は思春期から20代前半にピークを迎え、年齢を重ねるとともにその分泌量は減少していきます。閉経後はほとんど検出されません。年齢ごとのAMH値の中央値は以下の表と図のとおりです。

年齢(歳) 中央値(ng/ml) 95%RI(ng/ml)
≦27 4.69 0.76〜14.18
284.270.84〜12.44
294.140.86〜11.97
304.020.79〜12.74
313.850.44〜13.08
323.540.62〜13.87
333.320.40〜12.76
343.140.38〜11.16
352.620.37〜10.18
362.50.33〜9.93
372.270.24〜8.50
381.90.11〜7.81
391.80.13〜7.45
401.470.08〜6.13
411.30.06〜5.52
4210.05〜5.81
430.720.03〜4.49
440.660.03〜3.98
450.410.03〜3.43
46≦0.30.02〜1.67
全群2.360.12〜10.67

参考:山本貴寛. 日本生殖医学会雑誌61.487.2016.

しかしながら、AMH値は個人差が大きく、若い女性でも低い場合や高齢の女性でも高い場合があります。

なぜなら、AMH値は卵子数を予測するためのものであり、卵子の質を評価することはできないからです。数が少ない分チャンスが少ないのは事実ですが、AMH値が低くても妊娠可能性が低いとは一概にはいえません。

不妊治療では、AMH値だけではなく、年齢や他の女性ホルモン濃度、生理周期などを総合的に評価しています。

AMH値が低いとどうなるのか

AMH値が低いと妊娠率も低くなると思われがちですが、卵子の数が少ないというだけで、卵子の質や妊娠率と最も相関しているのは年齢です。AMH値が低くても妊娠できる可能性はあります。

しかし、平均値と比較して値が低い場合には、残されている卵子が少ないため今後妊娠できる期間に限りがある、または治療方法の選択の幅が狭まる可能性などが考えられます。特に、AMH値が1.2未満と極端に低い場合には、早発卵巣不全という病気の可能性も考えられるため早めの受診が必要です。早発卵巣不全とは、40歳未満で卵巣機能が低下して無月経(月経が3ヶ月以上無い状態)となった状態です。

AMH値が低い人の特徴や低くなる原因や要因について

年齢とともにAMH値は低くなりますが、その他の要因として以下のようなものが挙げられます。

・ピルの内服
AMH値が一時的に20〜30%程度低下すると言われています。長期内服されている場合には、3か月程度で内服前の状態に戻ると言われています。

・自己免疫疾患のある方
一部の自己免疫疾患が卵巣の機能を低下させると言われています。また、甲状腺機能低下症(橋本病)でも低下する可能性があると報告されています。

・卵巣の手術、抗がん剤治療、放射線治療をされた方
卵巣は抗がん剤や放射線による影響を受けやすい臓器です。またその影響は薬剤や投与量等によって変わります。

・喫煙
喫煙によるAMH値低下の報告があります。本人だけでなくパートナーや周囲の方の禁煙も必要です。

AMH値が低いときの対処法

残念ながら、基本的にAMH値を改善したり、増加させたりする方法はありません。

極端にAMH値が低い場合は、例えば早発卵巣不全に対してはホルモン補充療法が必要になります。その他生殖機能に異常がある場合には、原因に応じた治療が為される場合もあるため、専門の医師の診察が必要となります。

AMHの改善や増加は期待できませんが、普段の生活の中でも妊娠率を上げるためにできることには次のようなものがあります。

・ストレスを溜め込まないこと
ストレスは妊娠に関わる重要なホルモン(黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)エストロゲン)の分泌や合成を低下させてしまいます。ご自身に合うストレス解消法を見つけましょう。

・十分な睡眠時間を確保すること
睡眠障害や睡眠不足が妊娠にとって悪影響を及ぼす可能性があるため、規則正しく質の高い睡眠をとることが大切です。生殖年齢の成人には一般的に6〜8時間程度の睡眠が推奨されています。

・食生活を見直すこと
バランスの良い食生活を心がけましょう。無理なダイエットはエネルギー摂取量の低下や穀物・炭水化物の摂取量の低下により不妊につながる可能性があります。

・適度な運動をすること
適度な運動により血液の流れが良くなります。女性の場合は、特に骨盤内に血流が増加し、生殖器官の機能が向上します。

おわりに

トーチクリニックでは、医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。

恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。

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