男性不妊とは
不妊とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性交をしているにも関わらず、一定期間妊娠しない状態のこと1)をいいます。
期間については、ASRM(アメリカ生殖医学会)では1年、FIGO(世界産婦人科連合)では2年と定めていますが、日本産科婦人科学会では「1年というのが一般的である」と定義しています。
また、不妊のうち、妊娠を希望していて医学的治療を必要とする場合を不妊症といいます。
性別ごとの不妊の分類は、女性に原因がある場合を女性不妊、男性に原因がある場合を男性不妊とされています。女性不妊と男性不妊の割合は半々と考えられています。
男性不妊の可能性がある人の特徴
男性不妊の可能性がある人は、以下のような特徴があります。
睾丸に異常がある人
例えば、精巣が小さかったり、柔らかかったりする場合は、精液の状態があまり良くない可能性があります。
また、精巣の上に血管のコブのようなものがある場合も注意が必要です。これは「精索静脈瘤」と呼ばれるもので、精巣の温度を上げてしまい、精子の形成・成熟を妨げてしまうことがあります。
通常、精巣は陰嚢の中にあり、体温よりも低い温度で保たれています。これは、精子が作られやすいようにするためです。しかし、精索静脈瘤があると、陰嚢内の温度が高くなってしまい、精子が作られにくくなってしまうのです。
さらに、精巣が陰嚢の上部や鼠径部にある場合も、精巣の温度が高くなり、精子を作る能力が低下している可能性があります。
鼠径ヘルニア(脱腸)手術、抗がん剤治療・放射線治療歴がある人
睾丸でつくられた精子は、鼠径管と呼ばれる太ももの付け根にある管を通ります。
子どもの頃に鼠径管の手術を受けたことがある人は、精子がこの管をうまく通れなくなっている可能性があります。鼠径ヘルニアの手術を受けたことがある男性は、不妊になりやすいと言われているので、注意が必要です。
おたふく風邪にかかり睾丸が腫れた人
過去におたふく風邪にかかり精巣が腫れた経験のある方で、睾丸炎を起こしていた場合、精子を作る能力が低下している可能性があります。
また、高熱が続いた際に精巣の周囲に痛みを感じたことがある方や、前立腺炎にかかったことがある方も、精巣の働きに影響が出ている可能性があります。
そのほか、抗がん剤治療や放射線治療を受けたことがある方も、精子を作る機能が低下し、無精子症になっている場合があります。
男性不妊の原因
男性不妊の主な原因は、造精機能障害・性機能障害・精路通過障害の3つに分類できます。
造精機能障害

男性不妊の主な原因の1つ目は、造精機能障害です。造精機能障害とは、精子をつくる機能が低下している状態のことを指し、男性不妊全体の割合の約8割を占めているといわれています。
造精機能障害になる原因は不明なことが多いですが、精巣やその周囲の血管にコブができる精索静脈瘤がある人は造精機能障害になりやすいと考えられています。
性機能障害

男性不妊の主な原因の2つ目は、性機能障害です。性機能障害とは、勃起障害(ED)や膣内射精障害などの理由で性行為がうまくいかない状態のことを指します。
ストレスや妊娠・性行為に対しての精神的なプレッシャーが原因であることが多いと考えられていますが、誤った知識によるマスターベーションや糖尿病などが原因となることもあります。
精路通過障害

男性不妊の主な原因の3つ目は、精路通過障害です。精路通過障害とは、精子の通り道である精管や射精管に何らかの問題があり、精子が排出できない状態のことを指します。
生まれつき精管がない場合や、精巣上体炎などの炎症によって精管が詰まっていることが主な原因と考えられています。
無精子症とは
無精子症とは、成人男性の約1%に見られる病気で、精液中に精子が存在していない状態のことをいいます。無精子症は大きく2つに大別されます。
1つ目は「閉塞性無精子症」です。これは、精巣では精子が作られているのに、精子が通る道がどこかで塞がれてしまっているために、精液の中に精子が出てこられない状態です。もし、塞がっている場所が短ければ、手術で繋ぎ直すことで、精液の中に精子が出てくるようになる可能性があります。
2つ目は「非閉塞性無精子症」です。これは、精巣で精子が作られていないために、精液の中に精子がない状態です。無精子症の人の約10人に1人は、このタイプに当てはまります。原因としては、遺伝的な要因などが考えられていますが、半分以上の人は原因がはっきりとは分かっていません。
男性不妊の診断をおこなうための検査
男性不妊の診断をするための検査方法は、問診・診察、精液検査、精密検査の3つに大別できます。
問診・診察
まず、夫婦生活について詳しく問診されます。性交障害の有無はもちろん、性行為の回数や頻度、タイミングなどについても質問されます。少しデリケートな内容ですが、正確な診断のために、正直に答えるようにしましょう。
他にも、性感染症・精巣炎・鼠径ヘルニアの手術歴などの既往のほか、過去の妊娠・出産経験、不妊期間、過去の不妊治療の内容なども質問されます。
問診に加えて、触診や超音波検査を行うこともあります。これは、精巣、精管、前立腺、射精管などに異常がないか、精索静脈瘤がないかなどを確認するためです。
精液検査
精液検査は、マスターベーションにより採取した精液を顕微鏡で観察して、精液量・精子濃度・精子運動率・精子の形態・感染症の有無などを確認する検査です。
精液検査における一般的な検査項目と正常値2)は以下の通りです。正常値の基準は病院によって異なる場合があるため、検査をする際は担当の医師に確認しましょう。
また、精液の状態は日ごとに変動するため、たとえ1回の精液検査で悪い結果が出たとしても、再検査をして問題がないと判断されることもあります。そのため、1回だけの結果で診断をせず、少なくとも2回以上の検査を行ってから評価・診断することとされています。
精液検査にかかる費用
不妊検査にかかる費用は、保険診療と全額自己負担で実施する自由診療の2つのケースに分かれます。
検査費用は医療機関によって異なりますが、一般的には精液検査のみ実施する場合、保険適用では数百円、自費では3,000〜6,000円(税込)程度が目安になります(当院で精液検査を自費で実施する場合の費用は3,000円(税込))。
また、自治体によっては、精液検査などの一般不妊検査にかかる費用の一部を助成する制度を設けている場合があるため、検査を検討している方は事前にお住まいの自治体に確認することをおすすめします。
泌尿器科でおこなう精密検査
泌尿器科で行う精密検査は、精液検査で病気や異常が認められる場合に行われます。
具体的には、診察に加えて内分泌検査(ホルモン検査)と染色体・遺伝子検査の2種類の検査が行われることが一般的です。
内分泌検査(ホルモン検査)
内分泌検査は、採血を行うことで血液中の男性ホルモン(テストステロン)や精巣の機能を調節する性腺刺激ホルモン(LS、FSH)、プロラクチンといったさまざまなホルモンの値に異常がないかを調べる検査です。
FSHが高値だと精巣における造精機能障害を、FSHが低値だと視床下部・下垂体といった内分泌に関わる部分の異常によって造精機能障害が生じている可能性を疑い、ホルモン補充療法などの治療を判断する上で役立ちます。
内分泌検査によって精液の異常の原因を探すことができ、また勃起障害や射精障害がある場合にも必要な検査といえます。
染色体・遺伝子検査
染色体・遺伝子検査は、精子の数が極端に少ない「乏精子症」や、精子が全く見つからない「無精子症」の場合に行われる検査です。
精子が非常に少ない、あるいは全く見つからない場合には、性染色体であるY染色体に異常があることが多いと言われています。このような染色体や遺伝子の異常が、精子形成を妨げている原因になっていることがあるため、詳しい検査が必要となります。
染色体や遺伝子に異常がある場合、その異常が子供に遺伝する可能性があります。そのため、染色体・遺伝子検査で異常が見つかった場合には、精子を採取する前に医師から詳しい説明を受けることが推奨されています。
男性不妊の治療法
男性不妊は、原因に応じて薬物療法(内科的治療)や手術(外科的治療)が行われます。
ここでは、男性不妊の原因ごとの治療法について解説します。
乏精子症・精子無力症
乏精子症・精子無力症は、原因によって薬物療法か手術かを選択します。
精巣を刺激するホルモンが不足しているなど、ホルモンのバランスが崩れていることが原因である場合は、薬物療法を行います。ホルモン剤などの薬を使って、精子の産生を促します。
精索静脈瘤が原因の場合は、手術を行います。顕微鏡を使った精密な手術で、精巣の機能回復を目指します。
無精子症
精液に精子が全く含まれていない無精子症の場合は、原因別に治療法が異なります。
精子の通り道が塞がっている「閉塞性無精子症」の場合は、手術で閉塞箇所をつなぎ直す方法があります。また、最近では精巣から直接精子を採取して顕微授精を行う「精巣内精子回収法(TESE)」も選択肢の一つとなっています。
一方、精子を作る能力自体が低下している「非閉塞性無精子症」の場合は、精巣の中でほんのわずかでも精子がつくられている可能性を探る「顕微鏡下精巣内精子採取術(microdissection TESE)」が治療法の第一選択となります。
勃起不全
勃起不全は、性行為をする時に、十分な勃起が得られないか、うまく勃起できなかったり、勃起が続かなかったりして、満足に性行為ができない状態のことです。
治療法としては、主に内服薬による薬物療法か、心の問題を解決するための心理療法・カウンセリングがあります。
勃起不全の原因には、身体的な原因と精神的な原因があるため、原因によって適切な治療方法を選択する必要があります。
男性不妊の治療にかかる費用
男性不妊の治療は、これまで自由診療で実施されてきましたが、2022年4月から不妊治療の保険適用が開始され、現在では多くのケースで保険が適用されるようになりました。
具体的には、精管閉塞、先天性の形態異常、逆行性射精、造精機能障害、勃起障害、顕微鏡下精巣内精子採取術(microdissection TESE)などに対して行われる薬物療法や手術療法も保険適用となります。
男性不妊検査における助成制度
また、自治体によっては、男性不妊検査にかかる費用について助成制度を設けているところがあります。ここでは東京都を例に解説します。
東京都では、保険医療機関で行った不妊検査および不妊治療にかかる費用について、5万円を上限に助成金を受け取ることができます。助成の対象となる主な不妊検査、不妊治療の内容は以下の通りです。
なお、助成対象者となるには要件を満たす必要があることと、助成回数・申請期限・対象医療機関・対象となる不妊治療などについて条件があることに注意が必要です。
例えば、ブライダルチェックなどの健康診断目的で受ける検査、入院時の食事療養費、不妊検査や不妊治療に直接関係のない費用については助成対象外となります。
元気な精子を育てるためのポイント
男性不妊の治療を進める上で、精子の状態を良く保つことも大切です。精子の数や運動率を高めるために、日常生活でできることをまとめました。
精巣周囲の温めすぎに注意する
精巣は、精子を作るための大切な器官です。精子は熱に弱いため、精巣は陰嚢の中にあって、体の奥深くにある他の臓器よりも低い温度で保たれています。
もし、精巣の温度が上がってしまうと、精子がうまく作れなくなることがあります。そのため、日常生活では、精巣の温度を上げないように気を配ることが大切です。
生活をする上で具体的に気をつけることは以下の通りです。
・サウナやお風呂に長時間入らない
・使用中のノートパソコンを膝の上に乗せない
・ズボンの前ポケットにスマートフォン、カイロなどの温かいものを入れない
・下着は通気性が良く、熱のこもりにくいもの(トランクスなど)を履く
禁煙や適度な飲酒を心がける
タバコを吸う男性は、勃起しにくくなったり、精子の形が変形したり、運動率が低下したりすることがあります。そのため、不妊の原因になる可能性も考えられています。
また、男性の喫煙による女性の受動喫煙も妊娠・出産へ影響を及ぼす可能性があるため、妊娠を考えているのであれば、タバコは吸わない方が良いでしょう。普通のタバコだけでなく、電子タバコも同様です。
お酒も、飲み過ぎると体に良くありません。健康のためにも、ほどほどにしましょう。
規則正しい生活習慣を送る
睡眠不足や栄養不足、ストレスなどがあると精子の状態に影響する可能性があります。
毎日十分な睡眠をとり、適度な運動を心がけ、栄養バランスの良い食事を摂るようにしましょう。食事だけでは必要な栄養素を補いきれない場合は、サプリメントを活用するのも良いでしょう。
また、肥満についても不妊のリスクを高める報告があります。食べ過ぎや運動不足に注意し、健康的な体重を維持しましょう。
おわりに
トーチクリニックでは、医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。
不妊治療にご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ご予約はウェブからも受け付けております。
また、すでに不妊治療を受けている方々のお悩みやセカンドオピニオンにも対応しております。セカンドオピニオンを含めたクリニックへのよくあるご質問はこちらをご参考ください。
参考文献
1) 公益社団法人 日本産科婦人科学会. 不妊症:不妊とは. 更新日2018/6/16. 閲覧日2025/1/19 .
https://www.jsog.or.jp/citizen/5718/
2) World Health Organization. WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen Sixth Edition. World Health Organization. 発行日2021.7.26. 閲覧日2025/1/25 .
https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/343208/9789240030787-eng.pdf