2022年4月からそれまでは自費診療で行われていた人工授精・体外受精・顕微授精などの不妊治療や一部の不妊検査が保険適用となり、以前より不妊治療を始めやすくなりました。
ただし、体外受精や顕微授精には年齢・回数の制限があり、治療の組み合わせによっては費用が増える場合もあります。
本記事では、不妊治療が保険適用になる条件やメリット・デメリットを整理し、経済的負担を軽減するための制度もご紹介します。
不妊治療の種類とかかる費用
不妊治療は大きく2種類に分類されます。
- 一般不妊治療:タイミング療法、人工授精
- 生殖補助医療(ART):体外受精(媒精法・ふりかけ法)、顕微授精(ICSI)など
基本的にはタイミング療法から始め、必要に応じて人工授精や体外受精へとステップアップします。
不妊治療のステップアップの流れについては以下の記事を参考にしてください。
ここでは、各治療の概要とおおまかな費用の仕組みを解説します。
タイミング療法・人工授精
タイミング療法と人工授精の内容とおおよその費用目安は以下のとおりです。
※ 再診料・管理料・検査料・薬剤料などが別途発生します。
タイミング療法は経腟超音波検査によって排卵日を予測し、性交渉のタイミングなどについて指導が行われます。そのため、超音波検査や必要に応じて行われる血液検査や排卵誘発剤などの使用で合計10,000円程度が目安となります。
人工授精は精液を排卵のタイミングに合わせて子宮内に注入する方法で、人工授精当日に人工授精自体の費用として5,460円がかかります。この他に、タイミング療法と同様に診察料や検査代、薬代などがかかります。
タイミング療法と人工授精の詳しい方法や費用については、以下の記事をご覧ください。
関連記事:タイミング療法
関連記事:人工授精
体外受精・顕微授精
一般不妊治療で妊娠に至らない場合は、生殖補助医療へのステップアップが検討されます。原因によっては初めから生殖補助医療を行うこともあります。
体外受精(媒精法・ふりかけ法)と顕微授精の内容は以下のとおりです。
体外受精(媒精法・ふりかけ法)、顕微授精は、主に以下の5つのステップがあります。
- 採卵
- 体外受精(媒精法・ふりかけ法)または顕微授精
- 受精卵培養(子宮に移植可能な状態(胚)になるまで、適切な環境で育てる)
- 胚凍結保存(体外で受精・発育した胚を凍結保存する)
- 胚移植(受精卵を子宮に戻す)
かかる費用は、一人ひとりの治療プランによって異なります。
体外受精(媒精法・ふりかけ法)の費用例
ここでは、採卵・体外受精(媒精法・ふりかけ法)・胚培養・凍結保存・融解胚移植の費用例を示します。実際の費用は採卵数や凍結保存する胚の数などにより変動します。また体外受精の周期では、この他に、卵巣刺激のための通院費用や超音波検査、採血検査、排卵誘発剤の薬剤費、採卵の際の麻酔の費用などがかかります。
【採卵5個+体外受精+凍結保存2個+融解胚移植1個を行った場合の費用例1)】
体外受精の詳しい方法や費用については、以下の記事もご覧ください。
関連記事:体外受精
顕微授精の費用例
顕微授精は、通常の体外受精では受精が難しい場合や、精子数が極めて少ないなどの男性不妊の場合に行います。
顕微授精では治療する卵子の個数に応じて、以下のように点数が定められています。
【顕微授精の点数と費用1)】
採卵術・採卵数・受精卵培養・凍結保存・移植にかかる費用は体外受精と共通であり、体外受精の点数が顕微授精の点数に置き換わります。
以下の表は、顕微授精を行った場合の一例です。この他に、卵巣刺激のための通院費用や超音波検査、採血検査、排卵誘発剤の薬剤費、採卵の際の麻酔の費用などがかかります。
【採卵5個+顕微授精3個+凍結保存2個+融解胚移植1個を行った場合の費用例1)】
上記も大まかな一例であり、実際の費用は採卵数や顕微授精の個数、凍結個数により増減します。
顕微授精の詳しい方法や費用については、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:顕微授精
不妊治療が保険適用になる条件
タイミング療法と人工授精は、年齢や治療回数の制限なく保険適用となります。
一方、体外受精や顕微授精には年齢・回数に制限があり、上限を超えると保険は適用されず自費となります。
体外受精と顕微授精が保険適用になる条件は以下のとおりです2)。
【年齢の条件】
体外受精の治療開始時の年齢が43歳未満であること
保険適用の条件や適用範囲の詳細は、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:不妊治療の保険適用の条件はどこまで?メリットや注意点も解説
保険適用による不妊治療のメリット
2022年から保険適用の不妊治療が増え、主に以下のメリットが得られています。
- 経済的な負担が軽減される
- 高額療養費制度を利用できる
- どの病院でも同じ内容・費用で治療が受けられる
経済的な負担が軽減される
保険適用の最大のメリットは、これまで1回の診療に数十万円から百万円以上かかることもあった治療費の自己負担が、原則3割となり、経済的な負担が大幅に軽減されることです。
以前、体外受精や顕微授精は保険適用外だったため、高額な費用により治療を諦める人も少なくありませんでした。
保険適用の範囲が広がり、費用面のハードルが下がったことで、不妊治療を前向きに検討しやすい環境が整っています。
高額療養費制度を利用できる
保険診療では、1か月の医療費が高額になった場合は「高額療養費制度」が利用できます。高額療養費制度とは所得に応じて定められた自己負担限度額を超えた分が払い戻される制度です。
保険内で支払う金額に上限が設けられるため、経済的な負担がさらに軽減されます。不妊治療がより継続しやすくなるでしょう。
どの病院でも同じ内容・費用で治療が受けられる
保険適用の不妊治療は、保険点数によって料金と治療内容が統一されています。
以前は医療機関ごとに費用や提供内容に差がありましたが、現在は標準化により全国どこでも同じ治療が受けられます。
住む場所に関わらず、有効性と安全性が確かめられた治療を受けられるのは、妊娠を望む人にとって大きな安心材料でしょう。
保険適用による不妊治療のデメリット
保険適用により不妊治療は受けやすくなりましたが、制度には枠組みがあるため、治療内容に制限が生じる場合があります。
特に次の4つは注意しておきたいポイントです。
- 混合診療を行うと全額自費になる
- 治療の選択肢が限られる
- 不妊治療の回数を超えたら保険適用にならない
- 国の助成制度廃止により費用負担が増えたケースがある
ご自身にとって最適な治療を受けるために、注意点も理解しておきましょう。
混合診療を行うと全額自費になる
日本では、保険診療と自費診療を同時に行う「混合診療」は原則認められていません。混合診療を行うと、本来は保険でカバーされるはずの治療も自費扱いになります。
例えば、保険適用の治療と保険適用外の検査を一緒に行うと、診療全体が自費となり費用負担が大きくなります。
費用面の不安を減らすためには、どこまでが保険適用でどこからが保険適用外になるのかをあらかじめ医療機関に確認しましょう。
治療の選択肢が限られる
保険診療は、国が定めたルールに沿って行われます。そのため、患者の状態に合わせてより効果的だと考えられる治療法や薬剤があっても、保険適用外であれば選択できません。
ただし、先進医療に認定されている検査・治療は自費診療ではありますが例外的に保険診療と併用できます2)。治療の選択肢を広げたい場合は、事前に希望する施設が先進医療に対応しているかを確認しておくと安心です。
不妊治療の回数を超えたら保険適用にならない
体外受精や顕微授精は、治療開始時の年齢によって保険適用の回数に上限があります。上限の回数を超えた後の治療は自費となり、高額療養費制度の対象にもなりません。
限られた回数の中で納得のいく治療を受けるには、医師と相談しながら綿密な治療計画を立てることが大切です。
国の助成制度廃止により負担が増えたケースがある
保険適用に伴い、国が実施していた特定不妊治療助成制度は廃止されました。助成金が無くなったことで自己負担が増えてしまい、保険適用がかえってデメリットになった人もいます。
ただし、自治体によっては独自の助成制度を新設し、経済的負担をカバーしています。次項で詳しく解説します。
不妊治療の費用負担を軽減する助成金・制度
不妊治療による経済的な負担を和らげるために、国や各自治体ではさまざまな制度が設けられています。特に以下は、費用面の負担を大きく緩和できる制度です。
- 自治体が設けている助成金
- 医療費控除
- 保険外併用療養費制度
安心して不妊治療を受けるために、あらかじめ内容を把握しておきましょう。
自治体が設けている助成金
自治体によっては、不妊治療費の一部を助成する制度があります。妊娠を望む人が安心して治療を続けられるよう、経済面を支える取り組みのひとつです。
不妊治療だけでなく、検査の段階から助成が受けられる場合もあります。助成の有無や金額・条件は自治体ごとに異なるため、まずはお住まいの地域に制度があるか確認しましょう。
東京都では、不妊検査から先進医療まで幅広くサポートする助成制度が用意されています。
以下3つは、東京都で設けられている代表的な制度です。
ここからは、表で紹介した制度を簡単にご紹介します。
TOKYOプレコンゼミ
「TOKYOプレコンゼミ」とは、プレコンセプションケア事業の一環で、妊娠・出産に関する正しい知識を学ぶための講座です。
講座を受講した後、登録医療機関で対象の検査やアドバイスを受けると、30,000円を上限に検査費用の助成を受けられます4)。
東京都に住む18歳以上40歳未満の人が対象であり、助成を受けるには一定の条件を満たす必要があります。詳しくは東京都福祉局の公式サイトをご確認ください。
なお、トーチクリニックは「TOKYOプレコンゼミ」の登録医療機関です。プレコンセプションケアに関連した各種検査を提供しており、東京都の助成制度を利用すれば自己負担なく検査をお受けいただけます。
「TOKYOプレコンゼミ」について詳しく知りたい人は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:TOKYOプレコンゼミの検査と助成金とは?torch clinicで始めるプレコンセプションケア
不妊検査等助成事業
東京都の不妊検査等助成事業では、不妊検査及び一般不妊治療にかかった費用について、 夫婦1組につき50,000円を上限に助成が受けられます。妊娠を望む人が早期に検査を受け、必要に応じて適切な治療を開始できるようサポートする取り組みです。
その他の詳細な要件については、東京都福祉局の公式サイト及び以下の記事をご確認ください。
関連記事:ブライダルチェックを東京で受けたい場合は?助成金や東京のトーチクリニックの詳細について
特定不妊治療費(先進医療)助成事業
保険適用の体外受精・顕微授精と併用して、原則自費となる先進医療を受けた場合、その費用の一部について助成が受けられます6)。
助成される金額は先進医療にかかった費用の7割で、1回の治療につき上限15万円です。
対象となるのは、厚生労働省が指定した登録医療機関での実施に限られます。登録医療機関以外で行った場合は助成を受けられないため注意しましょう。
なお、トーチクリニックは先進医療の実施医療機関として指定を受けています。
東京都の先進医療助成事業について詳しく知りたい人は、東京都福祉局の公式サイト及び以下の記事をご覧ください。
関連記事:東京都不妊治療の助成金と渋谷区・台東区の助成金について
医療費控除
不妊治療にかかった医療費が高額になった場合、医療費控除が受けられます。
医療費控除とは、世帯の年間医療費が10万円(または所得の5%)を超えた場合、確定申告をすることで所得税や住民税が還付・軽減される制度です。不妊治療費も対象となります。高額療養費制度や助成金で補填された分は除外されますが、忘れずに手続きを行いましょう。
保険外併用療養費制度
原則として保険診療と保険外診療は同時に行えませんが、前述の「先進医療」など一部の医療では例外的に保険診療との併用が認められています8)。先進医療とは、国が有効性や安全性を検証している先進的な医療技術です。
保険外併用療養費制度を活用すれば、保険診療と組み合わせて高度な治療を受けられます。経済的負担を軽減しつつ治療の選択肢を広げられるでしょう。
制度を利用するには、先進医療を実施できる認定医療機関で治療を受ける必要があります。
トーチクリニックは先進医療に対応しています。治療内容と費用負担のバランスをみながら、ご自身にとって最適な治療計画を医師とともに考えましょう。
保険外併用療養費制度については、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:保険外併用療養費制度(選定療養)のご案内
おわりに
参考文献
1)厚生労働省. 診療報酬の算定方法の一部を改正する告示 令和6年厚生労働省告示第57号 別表第一(医科点数表). 厚生労働省ウェブサイト.
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001251499.pdf
2)こども家庭庁. 不妊症・不育症へ向き合いやすく:保険診療の基礎知識. こども家庭庁ウェブサイト.
https://funin-fuiku.cfa.go.jp/expert/17.html
3)厚生労働省. 高額療養費制度を利用される皆さまへ. 厚生労働省ウェブサイト.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
4)東京都福祉局. プレコンセプションケア. 東京都福祉局ウェブサイト.
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/preconceptioncare
5)東京都福祉局. 不妊検査等助成事業の概要. 東京都福祉局ウェブサイト.
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/funinkensa/gaiyou
6)東京都福祉局. 東京都特定不妊治療費(先進医療)助成事業の概要. 東京都福祉局ウェブサイト.
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/kosodate/josei/funin-senshiniryou/gaiyou
7)国税庁. タックスアンサー No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除). 国税庁ウェブサイト.
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
8)厚生労働省. 保険外併用療養費制度について. 厚生労働省ウェブサイト.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/sensiniryo/index_00007.html