不妊治療の全体像と保険適用の範囲について
不妊治療にはいくつかのステップがあります。
はじめに行なわれるのは、原因を探る検査です。検査により不妊の原因が判明すれば、原因に対する治療が行なわれます。原因不明の場合や、治療の効果が見られない場合は、一般不妊治療または生殖補助医療に進みます。
基本的な不妊治療は健康保険の対象です。先進医療については自己負担となり、お住まいの自治体によって、助成金が支給される場合もあります。
一般不妊治療は主に「タイミング法」と「人工授精」があります。タイミング法では排卵の時期を特定し性交をするよう指導する方法で、人工授精は、排卵時期に精液を注射器で子宮内に直接注入します。どちらも比較的安価で行うことができます。
一方で、生殖補助医療は卵子の採取や受精卵の培養を行うなど、高度な技術を必要とする治療です。主に「体外受精」「顕微授精」「男性不妊の手術」があります。
体外受精と顕微授精は、体外で卵子と精子を人工的に受精させて受精卵を作り、子宮内に戻す治療です。男性不妊の手術は、無精子症などの患者さんに対して精巣から直接精子を採取する手術です。これらは令和4年4月から保険適用されました。
①保険適用となる「不妊症検査」
不妊の原因は大きく分けると、「男性不妊」「女性不妊」「原因不明の機能性不妊」があります。おもに、診察所見や血液検査、画像検査などにより診断されます。保険適用となる基本的な検査について男性側、女性側で見ていきましょう。
男性
男性の基本的な検査は精液検査です。精液検査の前に、2〜7日程度の禁欲期間(射精しない期間)が必要です。精液をマスターベーションで採取し、精液量・精子濃度・運動率・精子の形態などを調べます。その他必要に応じて行なわれるのは、男性ホルモンを調べる血液検査や、陰嚢や精巣等の超音波検査などです。
不妊に悩むカップルの約半数は、男性由来の不妊であることがわかっています1)。不妊に悩むカップルは、女性だけでなく男性も一緒に検査を受けることが推奨されます。
女性
女性の基本的な検査は、血液検査・経腟超音波検査・子宮卵管造影検査などがあります。
血液検査では、妊娠に関連するホルモンの値や感染症の有無等を調べます。ホルモン検査では、月経期には卵胞ホルモン(エストロゲン)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)の分泌をチェックします。施設によって、排卵後のホルモンの検査をするところもあります。
経腟超音波検査は、検査用の超音波プローブを腟から挿入し、子宮や卵巣の状態を確認する検査です。卵巣や子宮の病気が発見されるケースもあります。
子宮卵管造影検査は、子宮口から子宮内に造影剤を注入し、子宮の形や卵管の閉塞の有無、癒着の有無などを確認します。
②保険適用となる「原因疾患の治療」
男性側に原因があるケース
保険適用となる男性側の原因は、精管閉塞や先天性の形態異常、逆行性射精、造精機能障害などです。
精管閉塞は、精巣内で精子が造られていても、精管の閉塞により精液に精子が出てこない状態です。不妊の原因となる閉塞性無精子症を引き起こします。精管の再建術、開通術などの手術が行なわれます。
糖尿病性神経障害や脊髄損傷などによって引き起こされるのは、逆行性射精です。膀胱括約筋が正常に機能せず、精液が膀胱に流入します。射精感やオルガズムは感じても、射精できない状態です。抗うつ薬による治療が行なわれます。
造精機能障害をもたらす原因のひとつは、精索静脈瘤です。精巣周囲にできたコブの影響で、精子が造られにくくなったり、精子にダメージを与えたりするとされています。治療は手術療法が中心となります。
女性側に原因があるケース
女性では、子宮形態の異常や感染症による卵管癒着、子宮内膜症が原因の癒着、ホルモン異常による排卵障害や無月経の治療などがあります。
子宮形態の異常の中では、「中隔子宮」の手術が保険適用となります。中隔子宮とは、子宮内腔に壁ができ、左右に分かれる形態異常です。流産を繰り返す場合には、子宮鏡下中隔切除術が行なわれます。
子宮内膜症は、重症化すると卵巣や卵管の癒着が起こり、不妊症を引き起こすこともあります。手術療法として腹腔鏡下手術が行なわれます。薬物治療が行なわれるケースもありますが、すでに存在している癒着を改善させることはできません。
不妊症をもたらすホルモン異常の1つには、高プロラクチン血症があります。プロラクチン血症による薬物療法は保険適用です。プロラクチンは脳下垂体から分泌されるホルモンで、排卵を抑制する働きがあります。過剰に分泌されると、排卵異常や無月経を引き起こします。
③保険適用となる「一般不妊治療」
保険適用となる「タイミング法」について
タイミング療法とは、妊娠しやすい日に性交渉をすることで妊娠を目指す方法です。卵子の発育状況を医師がエコーで診て排卵日を予測します。
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タイミング療法 | 不妊治療専門クリニック torch clinic(トーチクリニック)
保険適用となる「人工授精」について
人工授精(AIH)とは、排卵の時期に合わせて子宮の入口からカテーテルを挿入し子宮内腔へ処理された精液を直接注入する方法です。タイミング療法と異なる点は以下の通りです。
- 精子が受精地点まで到達する距離が短くなります。
- 採取された精液から動きの良い精子を濃縮して子宮内に届けられます。
「人工」と名前がついていますが、体外受精のように採卵手術をしたり、受精卵を子宮に戻したりする工程は必要なく、精子を子宮に注入する方法であるため自然妊娠に近く女性の身体への負担は少ない不妊治療です。
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人工授精 | 不妊治療専門クリニック torch clinic(トーチクリニック)
④保険適用となる「生殖補助医療」
保険適用となる「体外受精」について
体外受精は、卵巣で発育した卵子を採卵術で体外に取り出し、精子と受精させる治療です。卵子と精子を同じ培養液に入れ、精子自らの力で受精させる自然に近い方法です。
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体外受精 | 不妊治療専門クリニック torch clinic(トーチクリニック)
保険適用となる「顕微授精」について
顕微授精とは、顕微鏡を使いながら培養士が精子の形態や運動性を見ながら良好な精子を選択し、細いガラス針で卵子の細胞質内に直接精子を注入する授精方法です。体外受精では精子を卵子に振りかけることで受精させますが、精子や卵子の受精する力が弱く、なかなかうまく受精できない場合に顕微授精を用います。
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保険適用となる「男性不妊の手術」について
保険適用となる男性不妊の手術は、精巣内精子採取術です。精巣内精子採取術は、単純なもの(TESE)と、顕微鏡を用いる顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)があります。
TESEは、閉塞性無精子症で、精管再建の適応でない場合に選択されます。陰嚢の皮膚の一部を切開し、精子を採取する治療です。造精機能が保たれている場合は、精子の採取が可能です。
一方MD-TESEは、非閉塞性無精子症で行なわれます。大きな精索静脈瘤がある場合の治療法のひとつです。陰嚢の皮膚を切開して精巣を取り出し、顕微鏡を用いて精子が造られる場所を探し、精子の採取を目指します。ただし、非閉塞性無精子症では、精子を採取できないこともあります。
不妊治療が保険適用となった際の費用と自己負担について
不妊治療が保険適用された場合、一般不妊治療でも生殖補助医療でも3割負担になります。生殖補助医療のうちオプション治療については、保険適用されたものや、「先進医療」として保険診療と併用できるケースがあります。ただし、年齢などによって治療が行える回数に制限があるので注意が必要です。また、クリニックによっても費用が変わることがあるため、通院するクリニックに相談・確認をするようにしてください。
不妊治療の保険適用についてのよくある質問
Q:不妊治療の保険適用の回数を超えたらどうなりますか?
不妊治療の保険適用の回数には制限があり、40歳未満の女性では「子供ひとりにつき最大6回」、40歳以上43歳未満の女性では「子供ひとりにつき最大3回」となっています。回数を超えたうえでの診療は保険適用外となるので、自己負担額が増えます。こちらも通院先のクリニックに費用について相談・確認するようにしてください。
保険診療でも、体外受精と顕微授精については年齢・回数の制限が設けられています。年齢・回数の上限を超えると保険の適用外となり、自費診療となります。詳しくは通院先のクリニックに相談・確認してください。
Q:不妊治療で保険適用外のサービスは受けられますか?
自由診療を行なっているクリニックであれば、保険適用外の治療も受けられますが、行っている診療の有無はクリニックによって異なります。
自由診療とは、公的な医療保険が適用とならない診療のことです。治療にかかる費用は全額自己負担となります。治療費が高額になるデメリットはありますが、新しい医療技術や医薬品を採り入れられ、オーダーメイドの治療が可能となります。
保険適用外の治療例は以下のとおりです。
- PICSI
- IMSI
- タイムプラス
- 子宮内細菌叢検査(EMMA・ALICE)
- 子宮内膜受容能検査(ERA)
- SEET法
- 子宮内膜スクラッチ
受けたい治療が行われているかは、受診したいクリニックに問い合わせをして確認しましょう。
また、先進医療として費用の助成を受けられる場合もあります。詳しくは、お住まいの市町村窓口にご確認ください。
Q:保険適用による不妊治療の回数はリセットされますか?
保険適用による不妊治療は1子ごとにリセットされます。体外受精、顕微授精については年齢による回数制限があります。制限条件は以下のとおりです。
- 治療開始時においての女性の年齢が43歳未満であること
- 初めての治療開始時点の年齢が40歳未満の場合:通算6回まで(1子ごと)
- 初めての治療開始時点の年齢が40歳以上43歳未満:通算3回まで(1子ごと)
おわりに
トーチクリニックでは、ブライダルチェックや不妊検査を提供しています。恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。
医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
ブライダルチェックや不妊検査にご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ブライダルチェックのご予約はウェブからも受け付けております。
また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考ください。
参考文献
1)こども家庭庁.みんなで知ろう、不妊症、不育症のこと.“男性不妊について”.こども家庭庁ウェブサイト
https://funin-fuiku.cfa.go.jp/dictionary/theme06/