不妊治療の保険適用について〜条件や費用なども解説〜

最終更新日時:
2024-06-05
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

不妊治療の全体像と保険適用の範囲について

不妊治療にはいくつかのステップがあります。まず、妊娠しない原因の検索を行います。これは現在も自費診療で、お住まいの自治体によっては助成金が支給される場合もあります。

女性に子宮筋腫や卵巣嚢腫など、何かしらの器質的な異常がある場合は、その原因疾患の治療を行います。これは、令和4年3月以前から保険適用されていました。原因疾患が特定できない場合や、原因疾患の治療後も妊娠ができない場合は、「一般不妊治療」または「生殖補助医療」へと進むことになります。

一般不妊治療は主に「タイミング法」と「人工授精」があります。タイミング法では排卵時に性交をするよう指導し、人工授精では精液を注射器で子宮内に直接注入します。どちらも比較的安価で行うことができます。

一方で、生殖補助医療は卵子の採取や受精卵の培養を行うなど、高度な技術を必要とする治療です。主に「体外受精」「顕微授精」「男性不妊の手術」があります。

体外受精と顕微授精は、体外で卵子と精子を人工的に受精させて受精卵を作り、子宮内に戻す治療です。男性不妊の手術は、無精子症などの患者さんに対して精巣から直接精子を採取する手術です。これらは令和4年4月から保険適用されました。

①保険適用となる「不妊症検査」

ここでは、新たに令和4年4月以降に保険適用となった検査について説明します。

  1. 一般不妊治療
  • タイミング法

医師の指示で妊娠しやすいタイミングで性交渉を行う方法です。 タイミング法は、不妊治療で最初に行う方が多い治療法です。

  • 人工授精

排卵の時期に合わせて、子宮の入り口から管を入れて精液を子宮内へ直接注入する方法です。

  1. 生殖補助医療
  • 体外受精

採卵手術により排卵直前に体内から取り出した卵子を体外で精子と受精させる治療です。受精が正常に進み、細胞分裂が順調に進んで発育した良好な胚を体内に移植することで、妊娠率が高まります。一般的には2-5日間の体外培養後、胚を選んで腟から子宮内に胚移植します。

  • 顕微授精

顕微授精は、顕微鏡で拡大視しながら、受精の手助けを行う方法です。ひとつの精子を直接卵子に注入して受精を促します。

  • 男性不妊の手術

射精が困難であったり、無精子症などの患者さんに対して、精巣から直接採取する方法です。精巣精子採取術、顕微鏡下精巣上体精子採取術、顕微鏡下精巣精子採取術などがあります。

②保険適用となる「原因疾患の治療」

男性側に原因があるケース

男性不妊症の原因は、以下の3つに分類されます。

①造精機能障害

男性不妊の中で最も多い原因となっています。精子を作る機能が落ちてしまっている状態を言います。

②勃起不全、射精不全

勃起や射精が満足にできずに性行為がうまくいかないことを言います。近年勃起不全や射精不全を訴える患者さんが増えています。

③精路閉塞障害

精子の通り道である精管が詰まってしまったため、精巣内で精子はできているのですが、それが外に出てくることができなくなっている状態をいいます。 射精液の90%以上は前立腺液もしくは精嚢液であり、普通に射精ができるので、精液検査をしなければわかりません。 

女性側に原因があるケース

女性の不妊症の原因には、

①排卵因子(排卵障害)

②卵管因子(閉塞、狭窄、癒着など)

③子宮因子(一部の子宮筋腫や子宮内膜ポリープなど)

④頸管因子(子宮頸管炎、子宮頸管からの粘液分泌異常など)

⑤免疫因子(抗精子抗体など)

などがあります。

このうち排卵因子、卵管因子に男性不因子を加えた3つは頻度が高く、不妊症の3大原因と言われています。

③保険適用となる「一般不妊治療」

保険適用となる「タイミング法」について

タイミング療法とは、妊娠しやすい日に性交渉をすることで妊娠を目指す方法です。卵子の発育状況を医師がエコーで診て排卵日を予測します。

詳しくはこちらをお読みください。

タイミング療法 | 東京渋谷区の不妊治療専門クリニック torch clinic(トーチクリニック)

保険適用となる「人工授精」について

人工授精(AIH)とは、排卵の時期に合わせて子宮の入口からカテーテルを挿入し子宮内腔へ処理された精液を直接注入する方法です。タイミング療法と異なる点は以下の通りです。

  • 精子が受精地点まで到達する距離が短くなります。
  • 採取された精液から動きの良い精子を濃縮して子宮内に届けられます。

「人工」と名前がついていますが、体外受精のように採卵手術をしたり、受精卵を子宮に戻したりする工程は必要なく、精子を子宮に注入する方法であるため自然妊娠に近く女性の身体への負担は少ない不妊治療です。

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人工授精 | 東京渋谷区の不妊治療専門クリニック torch clinic(トーチクリニック)

④保険適用となる「生殖補助医療」

保険適用となる「体外受精」について

体外受精は、卵巣で発育した卵子を採卵術で体外に取り出し、精子と受精させる治療です。

卵子と精子を同じ培養液に入れ、精子自らの力で受精させる自然に近い方法です。

詳しくはこちらをお読みください。

体外受精 | 東京渋谷区の不妊治療専門クリニック torch clinic(トーチクリニック)

保険適用となる「顕微授精」について

顕微授精とは、顕微鏡を使いながら培養士が精子の形態や運動性を見ながら良好な精子を選択し、細いガラス針で卵子の細胞質内に直接精子を注入する授精方法です。体外受精では精子を卵子に振りかけることで受精させますが、精子や卵子の受精する力が弱く、なかなかうまく受精できない場合に顕微授精を用います。

詳しくはこちらをお読みください。

顕微授精 | 東京渋谷区の不妊治療専門クリニック torch clinic(トーチクリニック)

保険適用となる「男性不妊の手術」について

精液の中に精子が存在しない場合で精管再建の適応でない場合に顕微授精目的に精子を採取する手術を精巣内精子採取(TESE)と言います。

精巣内精子を取り出す方法としては、造精機能がある程度保たれている場合は、針で精巣から精細管を吸引する方法や精巣を少し切開する方法(TESE:精巣内精子採取術)で精子を採取できます。

造精機能が障害されている場合は、精巣を半分に割って精巣内ほぼ全体を顕微鏡で観察して精子がありそうな場所を見つける方法(MDTESE:顕微鏡下精巣内精子採取術)があります。

不妊治療が保険適用となった際の費用と自己負担について

不妊治療が保険適用された場合、一般不妊治療でも生殖補助医療でも3割負担になります。ただし、年齢などによって治療が行える回数に制限があるので注意が必要です。また、クリニックによっても費用が変わることがあるため、通院するクリニックに相談・確認をするようにしてください。

不妊治療の保険適用についてのよくある質問

不妊治療の保険適用の回数を超えたらどうなりますか?

不妊治療の保険適用の回数には制限があり、40歳未満の女性では「子供ひとりにつき最大6回」、40歳以上43歳未満の女性では「子供ひとりにつき最大3回」となっています。回数を超えたうえでの診療は保険適用外となるので、自己負担額が増えます。こちらも通院先のクリニックに費用について相談・確認するようにしてください。

不妊治療で保険適用外のサービスは受けられますか?

受けられます。自由診療を行っているクリニックであれば、保険適用外の治療も受けることができます。自由診療とは、国の公的医療保険が適用されない医療技術や薬剤による治療です。自由診療は保険不適用のため、治療費は全額自己負担となります。 保険診療でもしっかりした不妊治療を行えますが、希望をすれば自由診療の治療もできます。

自由診療となる不妊治療には以下のようなものがあります。

・凍結精子使用

・着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)

・PFC-FD療法(血小板由来因子濃縮物-凍結乾燥)

・GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)を用いた胚移植

・ペントキシフィリン処理

こういった保険適用外の治療は、全ての不妊治療クリニックが行っているわけではありませんので注意してください。

保険適用による不妊治療の回数はリセットされますか?

一般不妊治療のタイミング指導(タイミング法)や人工授精(AIH)には年齢・回数制限はありませんが、生殖補助医療(ART)には年齢制限と回数制限があります。この回数は出産ごとにリセットされます。

おわりに

トーチクリニックでは、医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。

恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週6日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。

不妊治療にご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ご予約はウェブからも受け付けております

また、すでに不妊治療を受けている方々のお悩みやセカンドオピニオンにも対応しております。セカンドオピニオンを含めたクリニックへのよくあるご質問はこちらをご参考ください。