高プロラクチン血症は不妊の一因にもなり得るホルモン異常の病気です。本記事では、その原因や症状、検査や治療法について詳しく解説します。
高プロラクチン血症とは？
高プロラクチン血症とは、血中のプロラクチン濃度が異常に高い状態を指し、不妊症の原因となることがあります。
プロラクチンは、主に脳の下垂体から分泌されるホルモンで、妊娠や出産後に母乳をつくる役割を担っています。一方で、排卵を抑える働きもあるため、妊娠していない時期にプロラクチンが必要以上に分泌されると、月経が不規則になったり、排卵が起きにくくなったりすることがあり、不妊につながる可能性があります。
原因はさまざまですが、下垂体の良性腫瘍や薬の影響、ストレスなどが関係していることが多く、検査と治療で改善できる場合がほとんどです。
高プロラクチン血症を発症しやすい年齢
高プロラクチン血症は、20〜30代の女性に多くみられる傾向があります。
月経が止まってしまったり、妊娠していないのに乳汁が出たりといった症状がある場合は、高プロラクチン血症の可能性があります。また、それによる排卵障害のリスクもあるので病院で検査を受けるようにしてください。
高プロラクチン血症の原因
高プロラクチン血症の原因は、日常生活で感じるストレス、医学的な疾患、使用している薬剤まで多岐にわたります。治療の第一歩となる高プロラクチン血症の主な原因について、それぞれ解説します。
ストレス
ストレスは、高プロラクチン血症を引き起こす要因のひとつです。精神的・身体的なストレスが続くと視床下部と下垂体の働きに影響してホルモンバランスが乱れ、プロラクチンの分泌が一時的または慢性的に過剰になることがあります。これは「ストレス性高プロラクチン血症」と呼ばれ、身体的ストレス（過労や睡眠不足）、精神的ストレス（不安や緊張）のどちらも原因となります。採血や内診などによる疼痛でも上昇します。
下垂体腺腫（プロラクチノーマ）
下垂体腺腫（下垂体腫瘍）とは、下垂体にできる腫瘍で、多くの場合は良性であり、プロラクチノーマとも呼ばれます。下垂体腺腫にはプロラクチンを過剰に分泌する機能性下垂体腺腫と、ホルモンの過剰分泌はなく視神経などを圧迫する非機能性下垂体腺腫があります。
ホルモンを過剰分泌する機能性下垂体腺腫は高プロラクチン血症の代表的な原因のひとつで、月経不順や排卵障害などを起こします。下垂体腺腫が10mm以上の場合と、10mm未満でも高プロラクチン血症による月経異常や卵巣機能不全を認める場合には治療が必要です。10mm未満で月経が正常で他に目立つ症状がない場合には経過を観察します。
視床下部の機能異常
視床下部は、ホルモンの分泌を調節する重要な部分で、プロラクチンの分泌もこの部位によって制御されています。視床下部の機能異常によりドパミンの分泌が減少すると、プロラクチンの過剰分泌が起こる可能性があるのです。
視床下部の機能異常は、腫瘍、炎症、外傷、放射線治療の影響など、さまざまな要因によって引き起こされます。この影響でプロラクチンの分泌調節が乱れ、高プロラクチン血症を発症することがあります。
薬剤によるもの（抗ドパミン薬や精神科治療薬など）
ドパミンの働きを抑える薬や精神科治療薬、消化器系の薬などは、プロラクチンの分泌を増加させることがあります。
高プロラクチン血症の原因となりうる薬剤の例として、以下のようなものがあります。
・抗ドパミン薬：スルピリド（製品名：ドグマチールなど）
・精神科治療薬（SSRI、SNRI等）：パロキセチン（製品名：パキシルなど）、デュロキセチン（製品名：サインバルタなど）
・消化器系治療薬：ファモチジン（製品名：ガスターなど）、メトクロプラミド（製品名：プリンペランなど）
これらの薬剤を使用している場合で、月経がこないなどの症状に気づいた際には、早めに医師へ相談してください。
甲状腺機能低下
甲状腺機能低下症も高プロラクチン血症の原因のひとつです。甲状腺ホルモンの分泌が不足すると、脳の下垂体はこれを補うために甲状腺刺激ホルモン（TSH）を多く分泌します。このとき、プロラクチンの分泌も同時に促されることがあるため、血中のプロラクチン濃度が上昇します。
甲状腺機能が低下していると、月経不順や排卵障害が起こりやすくなり、不妊につながることがありますが、その背景に高プロラクチン血症が潜んでいるケースもあります。血液検査によって甲状腺ホルモンとプロラクチンの値を調べることが可能です。症状がある場合には甲状腺ホルモンの補充治療により、プロラクチン値も正常化することがあります。
その他の病気の影響（胸壁疾患、慢性腎不全など）
胸壁疾患や慢性腎不全などの疾患が、高プロラクチン血症の原因になることもあります。たとえば、肋骨の骨折や帯状疱疹後の神経障害など、胸の周囲に強い刺激が加わると、神経反射を通じてプロラクチンの分泌が促進される場合があります。
また、慢性腎不全ではプロラクチンの代謝が低下し、血中に蓄積されやすくなるため、透析を受けている方を中心に高プロラクチン血症の発症頻度が高いとされています。さらに、肝硬変などの慢性疾患も影響する場合があり、さまざまな病気の影響を受けるホルモンと言えます。
高プロラクチン血症の症状
高プロラクチン血症は、女性のホルモンバランスに影響を与え、さまざまな体調の変化を引き起こすことがあります。症状としては月経不順や排卵障害、乳汁分泌などがあり、それぞれの症状について解説します。
月経異常
生理や排卵の周期は、女性ホルモンによって制御されています。しかし高プロラクチン血症を発症すると女性ホルモンの分泌が抑制されるため、生理不順や無月経になることがあります。また、排卵障害が起こると、不妊につながります。
生理不順については下記の記事も参考にしてください。
産後以外の乳汁分泌
プロラクチンは出産後に乳汁を分泌させるために多く分泌されるホルモンです。
通常、脳内のドパミンという物質が、プロラクチンの分泌を抑える役割を果たしているため、妊娠や出産をしていない状態で乳汁が出ることはありません。しかし、下垂体腺腫が原因でプロラクチンが過剰に分泌されたり、何らかの理由でドパミンの抑制がうまく働かなくなったりすると、産後ではないにもかかわらず乳汁が分泌されることがあります。このような症状は、高プロラクチン血症の重要なサインのひとつです。
妊娠中にも乳汁分泌は見られることがありますが、これは通常、生理的な変化によるもので心配はありません。ただし、妊娠とは無関係に高プロラクチン血症が背景にあるケースも、ごくまれに存在します。そのため、妊娠中であっても症状が気になる場合は医師に相談してください。
視力視野障害
高プロラクチン血症の原因となる下垂体腺腫は、腫瘍が大きく成長することで視神経を圧迫し、視力や視野に障害を起こすことがあります。下垂体は、トルコ鞍（あん）と呼ばれる頭蓋内の骨のくぼみに位置しており、視神経に非常に近いため、腫瘍が大きくなるとその影響を受けやすくなります。
ごくまれなケースではありますが、視野が欠けたり見えにくくなったりする場合は、早急な診察が必要です。視力や視野に異変を感じた場合は、単なる目の疲れと自己判断せず、速やかに医師に相談してください。
高プロラクチン血症の検査・診断方法
高プロラクチン血症が疑われる場合、まずは血液検査でプロラクチンの値を確認します。その後、原因を明確にするためには、ホルモンのバランスや画像検査など、いくつかの検査が必要です。以下では、検査と診断の過程について詳しく説明します。
血液検査
高プロラクチン血症が疑われるとき、最初に行うのが血液検査です。通常は、月経終了後7日以内で、早朝の空腹時に採血して、血液中のプロラクチン濃度を調べます。基準値は検査機関によって異なりますが、閉経前の女性の基準値例は4.91〜29.32ng/mLであり、それより高い値が出たときに注意が必要です。
注意点として、プロラクチンはとても繊細なホルモンで、ストレスや睡眠不足、採血時の緊張、運動などによって一時的に高くなることがあります。そのため、初めての検査で高値が出ても、医師の指示で、時間帯や条件を変えて再検査を行い、安定した状態での数値を確認したうえで、診断を進める場合もあります。
当院で実施しているホルモン検査については、以下に詳しく記載しているので参考にしてください。
ホルモン検査 | 渋谷区 恵比寿・台東区 上野の体外受精・不妊治療専門 torch clinic(トーチクリニック)
画像検査（CT・MRI）
血液検査でプロラクチン値の高値が複数回確認された場合には、次のステップとして画像検査を行うことがあります。
下垂体腺腫などが疑われる場合に、CTやMRIで腫瘍の有無や状態を確認します。CTは比較的短時間で受けられる点が特長ですが、小さな腫瘍を詳しく調べるにはMRIの方が適しており、多くのケースで選択されています。
下垂体腺腫は早期発見と適切な治療により、薬や手術で改善が期待できます。腫瘍の有無を確認することは、治療方針を立てるうえで重要です。
高プロラクチン血症の治療方法
高プロラクチン血症の治療法には、薬物療法や手術療法などがあります。治療法は、症状や原因に応じて選択されます。ここでは、プロラクチンの過剰原因の除去、薬を使った治療法や、腫瘍が原因の場合に行われる手術療法について解説します。
原因の除去（休薬・薬剤の変更）
高プロラクチン血症は、ドパミンの働きを抑える薬や精神科治療薬、消化器系の薬などがプロラクチン分泌に影響を与えることがあります。これらの薬が原因である場合、ドパミンに影響を与えにくい新しいタイプの薬に切り替えるなどが考えられるため、服用中の薬を正確に医師に伝えるようにしましょう。
ドパミンはプロラクチン分泌を抑える役割を持っていますが、ドパミンの働きをブロックする薬は逆にプロラクチン分泌を増加させることがあります。薬剤の変更によって症状が良くなることもありますが、その効果が現れるまでに時間がかかることもあります。
高プロラクチン血症の治療の原因として、薬剤の影響が疑われる場合は、自己判断せずに必ず医師に相談してください。
薬物療法
高プロラクチン血症の原因が下垂体腺腫や視床下部機能障害の場合は、薬物治療が最初に選択されます。使われる薬はドパミン作動薬と言われるものであり、プロラクチンの分泌をドパミンの作用によって抑えることで高プロラクチン血症を改善することが期待できます。
具体的な薬剤として、カベルゴリン（製品名：カバサールなど）、ブロモクリプチン（製品名：パーロデルなど）などがあります。特にカベルゴリンは下垂体腺腫の腫瘍を縮小させる効果も期待でき、マイクロアデノーマで80〜90%、マクロアデノーマで60〜70%の正常化率とされています1）。
そのほか、甲状腺の働きが低下しているケースでは、甲状腺ホルモンを補う治療が行われます。
手術療法
下垂体腺腫が原因の場合は薬物療法が最初の選択肢となりますが、薬剤が効かない場合や腫瘍内の出血を伴う場合は、手術が選択されることもあります。ただし、下垂体腺腫の手術は再発しやすい点や合併症のリスクもあるため慎重に検討されます。
現在は、鼻から内視鏡を使って腫瘍を取り除く方法が一般的で、この方法は体への負担が少なく、回復も比較的早いのが特徴です。
高プロラクチン血症についてよくある質問
高プロラクチン血症についてよく寄せられる質問をまとめました。症状や原因、診断方法、治療法に関する情報をわかりやすく解説しています。
疑問点がある場合は、こちらをご参考にしていただき、必要に応じて医師に相談することをおすすめします。
Q：高プロラクチン血症になりやすい人の特徴はありますか？
高プロラクチン血症になりやすい人にはいくつかの特徴があります。主に以下の要素が関係しています。
・ストレスが多い人
・睡眠リズムが乱れている人
・甲状腺機能低下症がある人
・特定の薬を服用している人
・妊娠・授乳中またはその直後の人
・視床下部や下垂体に異常がある人
・卵巣の機能異常がある人（卵巣の働きが低下していると、排卵がうまく行われず、ホルモンバランスが崩れやすくなります）
・よく見られる年齢層は20～30代で、女性に多い傾向
高プロラクチン血症は、ホルモンバランスの乱れが原因となりやすく、生活習慣や健康状態にも影響を受けます。気になる症状があれば、早期に専門医に相談して適切な検査と治療を受けることが大切です。
Q：高プロラクチン血症を放置するとどうなりますか？
高プロラクチン血症を放置すると、さまざまな健康リスクがあります。プロラクチンの過剰分泌は、月経不順や排卵障害を引き起こし、無月経に至ることもあります。
また、エストロゲンの低下を伴うため、骨密度が低下し、長期的には骨粗しょう症のリスクが高まります。エストロゲンの低下や排卵障害などが不妊の原因となる場合もあります。
さらに、高プロラクチン血症は、視床下部や下垂体に異常がある場合や、甲状腺機能の低下などが関与していることがあります。
これらの疾患は進行することがあるため、症状が軽くても自己判断せず、医療機関で定期的にホルモン値や腫瘍の変化をチェックすることが重要です。早期発見と適切な管理により、妊娠の可能性を高めるだけでなく、将来の健康リスクを未然に防ぐことができます。
Q：高プロラクチン血症では乳がんのリスクが上がる？
高プロラクチン血症と乳がんのリスクに関しては、いくつかの研究で関連性が示唆されています。例として、血漿プロラクチン値の高値と乳がん発症との関連性を評価した調査では、血漿プロラクチン値の高値は、乳がん発症のリスクが1.26倍になるという結果が報告されています2）。
一方で、抗精神病薬によって誘発された高プロラクチン血症と乳がん発症リスクを調査した研究では、明確な因果関係を示す決定的な証拠は認められなかったという結論になっています3）。
乳がんのリスクはさまざまな要因が関与するため、個別にリスク評価を行うことが重要です。ただ、高プロラクチン血症と診断された場合には、定期的な乳房検診を受けることが推奨されます。
Q：高プロラクチン血症で太ることはありますか？
高プロラクチン血症のマウスでは食欲が増進しており、ヒトにおいても高プロラクチン血症によって太りやすい傾向が示されています。ただし、高プロラクチン血症が肥満に直結するわけではありません。また、高プロラクチン血症による肥満は疾患の治療で速やかに改善します。
Q：高プロラクチン血症でも妊娠できますか？
高プロラクチン血症では排卵障害が起きますが、適切な治療を受ければ妊娠の可能性は十分にあります。薬の治療などによってプロラクチン値を正常化することで排卵が再開し、自然妊娠が期待できます。
また、下垂体腺腫が原因の場合でも、薬の治療により腫瘍の縮小とホルモンバランスの改善が見込めるため、治療を進めることで妊娠に至るケースもあります。妊娠を希望する方は、早期に診断を受け、計画的に治療を進めることが大切です。
Q：高プロラクチン血症は男性でもかかりますか？
高プロラクチン血症は男性にも発症しますが、女性と比べて発症頻度は少ない傾向にあります。男性の場合、プロラクチン値が高いと性機能に影響を与え、勃起障害や性欲低下が見られるほか、まれに乳汁漏出（男性乳汁漏出症）を起こすこともあると報告されています。
男性における高プロラクチン血症の原因としては、下垂体腺腫や薬の副作用、過度なストレスなどが考えられます。症状を感じた場合は、早期に医師に相談し、適切な検査と治療を受けることが重要です。
おわりに
参考文献
1）富永篤、木下康之、栗栖薫．下垂体腫瘍に対する手術適応．脳神経外科（Jpn J Neurosurg）．2016；25(8)：637–645．
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/25/8/25_637/_pdf
2）Aranha AF, Dos Anjos LG, Turri JAO, et al. Impact of the prolactin levels in breast cancer: a systematic review and meta-analysis. Gynecol Endocrinol. 2022;38(5):385-390.
https://www.tandfonline.com/doi/10.1080/09513590.2022.2047173
3）De Hert M, Peuskens J, Sabbe T, Mitchell AJ, Stubbs B, Neven P, Wildiers H, Detraux J. Relationship between prolactin, breast cancer risk, and antipsychotics in patients with schizophrenia: a critical review. Acta Psychiatr Scand. 2016;133(1):5-22.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/acps.12459
