ホルモン検査

最終更新日時:
2024-05-29
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各種ホルモンの名称

  • Gn(Gonadotropin):性腺刺激ホルモンsome text
    • LH (Lutenizing hormone): 黄体形成ホルモン
    • FSH (Follicle-stimulating hormone): 卵胞刺激ホルモン
  • E2(Estradiol):エストロゲン、卵胞ホルモン
  • P4(Progesterone):プロゲステロン、黄体ホルモン
  • PRL(Prolactin):プロラクチン、乳腺刺激ホルモン
  • TES(Testosterone):テストステロン、男性ホルモン
  • AMH(Anti-mullerian hormon):抗ミューラー管ホルモン
  • TSH(Thyroid-stimulating hormon):甲状腺刺激ホルモン
  • fT4(Free thyroxine):甲状腺ホルモン
  • βHCG:ヒト絨毛性ゴナドトロピン

ホルモン基礎値(E2・LH・FSH)

卵巣予備能(機能)を判断するための、基本的かつとても重要な血液検査です。

加齢などにより、卵巣機能の低下とともにLH、FSHの基礎値が上昇することが報告されています。FSHやLHのバランスは、排卵障害の鑑別にも用いられます。

妊活チェックで実施する場合、最も評価しやすい月経1−5日目の測定を推奨しています。

E2(Estradiol):エストロゲン、卵胞ホルモン

主に卵子を取り囲む細胞(顆粒膜細胞)から分泌されるホルモンです。

作用

  • 女性のカラダ作りを助けるホルモンで、生殖器や乳房の発育、子宮内膜を肥厚させる作用があります。卵子の成熟度を示しており、不妊治療において卵胞成熟の指標としてよく利用されます。
  • エストラジオール(E2)はエストロゲンの中でもっとも活性が強く、一般的に検査で測定される血中エストロゲンの主成分です。

基準値

  • 月経中のE2はおよそ10-50pg/ml程度です。排卵が近づき卵胞が成熟すると、卵胞1個あたり200pg/ml以上のE2を分泌します。
  • 月経中に100pg/mlを超えている場合には、前周期の遺残卵胞が存在する可能性があります。
  • 月経中のFSHが正常でE2が上昇している (>60 ~ 80 pg/mL) 場合、卵巣機能が低下している可能性があります。
  • 排卵誘発剤などで卵胞が複数育った場合、その個数分の値を示しますので、E2が3000pg/mlを超えると「卵巣過剰刺激症候群」のリスクが高まるとされます。

参考:Fertil Steril. 1998 Jun; 69(6):1010-4

LH (lutenizing hormone): 黄体形成ホルモン

脳の下垂体から分泌され、卵巣や精巣に作用するホルモンです。

作用(女性)

  • 卵巣における卵胞の成熟と、排卵を起こす作用があります。卵胞が成長し、女性ホルモン(エストロゲン)が一定時間以上(24〜36時間)高い状態が続くと、急激に放出されます(LHサージ)。LHサージによって排卵が誘発されます。LHサージが起きてから36-48時間に排卵するとされます。排卵後は黄体(卵胞が排卵したあとの袋)を刺激します。
  • 卵巣機能が低下すると上昇します。基礎値は通常7mIU/ml未満であり、排卵期以外はFSHより低い値を示します。
  • LHが持続的に高値で、FSHが正常な場合は多嚢胞卵巣症候群(PCOS)を疑います。3mIU/ml未満の場合は視床下部・下垂体系の排卵障害を疑います。

作用(男性)

  • 睾丸からの男性ホルモンの分泌を促します。精子数が減少していて、LH値が低い場合は、下垂体機能に異常がある可能性があります。

FSH (follicle-stimulating hormone): 卵胞刺激ホルモン

脳の下垂体から分泌され、卵巣や精巣に作用するホルモンです。

作用(女性)

  • 卵巣での卵胞発育を促します。
  • 卵巣機能が低下すると上昇します。基礎値が高値(10mIU/ml以上)の場合は卵巣機能が低下している可能性があります。異常高値の場合は卵巣機能不全(早発機能不全、閉経など)の可能性があります。
  • 異常低値の場合は視床下部性無月経、下垂体機能低下症などの可能性があります。
  • 卵巣機能が低下している場合、血清E2が早期(月経中)に上昇し、FSHを正常範囲まで低下させることがあり、FSHやE2値単独ではなく、ホルモン値は総合的に判断する必要があります。

作用(男性)

  • 睾丸に働き、精子の形成を促します。
  • 高値の場合は造精機能が低下している可能性があります。異常高値の場合は精巣機能低下症(無精子症など)の可能性があります。
  • 異常低値の場合は下垂体性精巣機能低下症、視床下部性精巣機能低下症などの可能性があります。

参考:Fertil Steril. 2004; 82: 180-185

P4(Progesterone):プロゲステロン、黄体ホルモン

作用

  • 排卵後の黄体から分泌されるホルモンです。
  • エストロゲンによって厚くなった子宮内膜を、分泌期に変化させます。受精卵の着床の準備を整えます(着床の窓が開く)。
  • 基礎体温を上昇させ、頸管粘液を減少、粘稠性を増加します。
  • 一般的に、黄体期の長さが10日以下となる場合を「黄体機能不全」といいます。黄体中期のP4が10ng/mlという基準が用いられることがありますが、基準は曖昧で不妊症かどうかの臨床的意義は不明です。
  • 排卵誘発剤の使用後などに異常高値となる場合が多く、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)などを来している場合があります。

E2・LH・FSH・P4の基準値一覧

ホルモンの名称働き・意味月経期-卵胞期排卵期黄体期男性の基準値
LH : 黄体形成ホルモン(mIU/ml)成熟した卵胞を排卵させる2.4-12.614.0-95.61.0-11.41.7-8.6
FSH:卵胞刺激ホルモン(mIU/ml)卵胞の発育を促す3.0-10.05.0-24.01.3-6.21.8-12.0
E2:卵胞ホルモン(pg/ml)子宮内膜を厚くして着床の準備をする28.8-196.836.4-525.944.1-491.914.6-48.8
P4:黄体ホルモン(ng/ml)厚くなった子宮内膜を維持する0.3以下5.7以下2.1-24.20.2以下

参考資料:エクルーシス試薬 cobas (ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)

AMH(Anti-mullerian hormon):抗ミュラー管ホルモン

作用

  • 胞状卵胞(一次胞状卵胞、前胞状卵胞、初期胞状卵胞)の顆粒膜細胞から分泌されます。
  • 胎児期の性分化に関係する(男性のミュラー管を退化させる)ホルモンです。
  • 臨床の現場においては、残存する卵子の数や治療に反応する卵胞の数を評価する指標として利用されます。年齢とともに減少するため卵巣年齢とも言われますが、これは適切な表現ではなく、卵子の数を反映し質の良し悪しを表すものではありません
  • AMHはFSHよりも卵巣予備能の感度が高く、FSH が上昇する前に低下する傾向があります。
  • ピルの内服中はAMHが一時的に20-30%程度低下すると言われています。AMHは発育しようとしている卵胞数を反映するため、ピルの内服により原始卵胞からの卵子の供給が減るとAMHが一時的に減少します。長期内服をされている場合は3ヶ月程度で内服前の状態に戻るとされています。
  • 異常高値の場合は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合があります。
  • 異常低値の場合は卵巣機能不全(早発機能不全、閉経など)の場合があります。

参考:Hum Reprod. 2025 Oct;30(10):2364-75, Gynecol Endocrinol. 2016;32(5):383-5

AMH測定値の年齢別分布(中央値)

年齢(歳)N(例)中央値(ng/ml)95%RI(ng/ml)
≦275584.690.76〜14.18
283874.270.84〜12.44
295554.140.86〜11.97
306634.020.79〜12.74
318653.850.44〜13.08
328723.540.62〜13.87
339593.320.40〜12.76
3410643.140.38〜11.16
3511912.620.37〜10.18
3611222.50.33〜9.93
3711542.270.24〜8.50
3812301.90.11〜7.81
3911761.80.13〜7.45
4010571.470.08〜6.13
418881.30.06〜5.52
4271510.05〜5.81
435090.720.03〜4.49
443090.660.03〜3.98
451440.410.03〜3.43
46≦1270.30.02〜1.67
全群155452.360.12〜10.67

参考:山本貴寛. 日本生殖医学会雑誌61.487.2016.

PRL(Prolactin):プロラクチン、乳腺刺激ホルモン

作用

  • 脳の下垂体から分泌されます。
  • 妊娠中や分娩後に多く分泌され、母乳を作る働きをします。多量に分泌されることで無排卵や無月経、黄体機能不全を引き起こす可能性があります。
  • PRLは変動の大きいホルモンで、夜間、食後、排卵期周辺、ストレスによっても高くなります。そのため月経期に起床後数時間で、食事前、安静時に検査することが勧められています。
  • 高プロラクチン血症の頻度は、健康な女性で0.4%、月経異常のある女性で9%−17%と言われています。乳汁漏出がある場合、3分の2程度が高プロラクチン血症とされています。
  • 高プロラクチン血症の鑑別として機能性、下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)があげられます。薬剤性の場合は軽度の上昇(100 ng/ml程度)にとどまる事が多いとされます。
  • 男性の場合、EDや不妊症の原因になります。

基準値

4.91〜29.32ng/mL

参考:FML

TES(Testosterone):テストステロン、男性ホルモン

作用

  • 男性の場合は主に精巣から分泌されます。
  • 男性ホルモン(アンドロゲン)のひとつで、骨格や筋肉、体毛などの男性らしいカラダ作りを助けるホルモンです。
  • 女性は副腎や卵巣でテストステロンを分泌していますが、テストステロンが高い場合、多嚢胞性卵胞症候群(PCOS)など排卵障害を認める場合があります。

基準値

年齢男性(pg/mL)女性(pg/mL)
20-298.8〜31.71.5〜4.9
30-397.3〜28.90.8〜4.1
40-496.2〜24.90.5〜4.0
50-596.1〜25.0未設定
50-595.8〜18.2未設定

11.8pg/mL未満はボーダーライン(男性ホルモン低下傾向)とされます。

基準値(参考:FML, 加齢男性性腺機能低下症候群 – LOH症候群 – 診療の手引き)

fT4(Free thyroxine):甲状腺ホルモン

作用

  • 甲状腺(前頸部にある蝶ような形をした臓器)から分泌されます。
  • 甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝を促進する働きがあり、甲状腺機能異常は不妊症や流産の原因となることがあります。
  • 甲状腺ホルモンであるサイロキシン (T4) は、甲状腺機能亢進症で増加、機能低下症では減少します。
  • 血中遊離型サイロキシン(FT4)量の測定は、甲状腺機能診断の有用な指標となります。

基準値

0.75~1.45 (ng/dL)

参考:SRL総合検査案内

TSH(Thyroid-stimulating hormon):甲状腺刺激ホルモン(TSH)

作用

  • 脳の下垂体から分泌されます。
  • 甲状腺(前頸部)を刺激して、甲状腺ホルモンの分泌を促します。通常甲状腺ホルモンは、過不足がないよう調整されています。
  • 甲状腺機能異常は不妊症や流産の原因となることがあり、不妊治療中は自己抗体の有無や背景によって、一般とは異なる厳しい基準値(TSH<2.5μIU/mL)で管理します。
  • 異常高値の場合は、甲状腺機能低下症(橋本病)の可能性があります。
  • 異常低値の場合は、甲状腺機能亢進症(バセドウ病・亜急性甲状腺炎)などを疑います。

基準値

0.610〜4.230mIU/L

参考:FML

βhCG:ヒト絨毛性ゴナドトロピン

作用

  • 受精卵が着床して妊娠が成立すると、形成された胎盤の絨毛という部分から分泌されます。
  • 妊娠中に産生されるホルモンで、尿や血液から検出されます。hCGは妊娠8~12週にピークに達した後出産まで検出されます。

基準値

妊娠週数hCG(mIU/ml)
非妊娠時8.8〜31.7
3週0〜50
4週20〜500
5週500〜5,000
6週3,000〜19,000

参考:BML