体外受精の妊娠率は1回の治療で10〜30%程度であり、年齢によっても大きく変わることが知られています。この記事では、体外受精における年齢別の妊娠率や妊娠率に影響を与える要因、妊娠率を上げるためにできることなどについて解説します。
体外受精とは?妊娠率を見る前に知っておきたいこと
体外受精は、女性の体から卵子を取り出し、体外で精子と受精させたのち、受精卵(胚)を子宮内に戻して妊娠を目指す生殖補助医療(ART)の一種です。タイミング法や人工授精などで妊娠に至らなかった場合に選択肢のひとつとなる治療法です。
広い意味での体外受精には主に「ふりかけ法(IVF)」と「顕微授精(ICSI)」の2種類があり、それぞれ解説していきます。
体外受精のふりかけ法とは

ふりかけ法では、採取した卵子を培養液に入れ、そこに一定濃度の運動良好な精子を加えることで受精を促す方法です。受精自体は精子の自然な力に任されます。
顕微授精とは

顕微授精とは 、顕微鏡下でひとつの卵子にひとつの精子を直接注入する方法です。精子の数が少ない場合や、動きが弱く卵子までたどり着けない場合、精子がほとんど動かない場合などに選択される受精法です。
体外受精の妊娠率・成功率(生産率)はどのくらい?【データで解説】
体外受精の成果を示す指標には、主に「妊娠率」と「生産率」の2つがあります。
「妊娠率」は名前のとおり妊娠に至った割合です。生殖補助医療における「妊娠」の定義は、子宮内に胎嚢(赤ちゃんの袋)を確認できた場合としています1)。この妊娠の定義にまで至った数を不妊治療数や胚移植数で割った値が妊娠数となります。
「生産率」は出産まで至った割合であり、流産などで産まれなかった場合は含まれません。実際に出産まで至った数から不妊治療数や胚移植数で割った値が生産率となります。
ここからは、体外受精の妊娠率と生産率についてそれぞれ解説します。
年齢別(20~40代)の妊娠率と生産率

体外受精における妊娠率・生産率は、年齢によって大きく変化します。 とくに、35歳以降では数値の低下が顕著です。
日本産科婦人科学会が公開している「ARTデータブック2022」より具体例を挙げると2)、総治療数に対する妊娠率は25〜29歳で27.9%、30〜34歳でも同じく27.9%、35〜39歳で22.8%、40〜44歳で11.7%です。
総治療数に対する生産率は25〜29歳で22.6%、30〜34歳で21.8%、35〜39歳で16.4%、40〜44歳で6.7%となります。
このように、体外受精の妊娠率および生産率は、年齢が上がるにつれて明確に低下していくことがわかります。
体外受精の回数別の成功率
体外受精においても回数を重ねることで、累積の成功率が上がります。海外の調査で体外受精の回数別の出生率をみた結果では、体外受精1回での出生率は28.5%、3回までの累積の出生率は57.1%、6回まででは75.5%という結果になっています3)。
上記の調査は、対象の年齢層が31〜35歳の人数が最も多く、40歳を超える人数の割合は8%です。そのため、40歳以上でも治療人数が多い日本の不妊治療の実態とはやや異なりますが、それでも複数回の体外受精を行うことで累積の成功率が上がることはことが期待できます。
ただし、回数を重ねるごとに成功率が上昇する幅も少なくなることもあり、日本では体外受精の保険適用になる回数が決められています。子ども1人に対して40歳未満では通算6回、40歳以上43歳未満では通算3回までとなっており、無制限に保険が適用できるわけではない点に注意しましょう。
胚移植の方法による違い(凍結胚・新鮮胚)
胚移植の方法によっても妊娠率や生産率が変わることがあります。胚移植の方法として、凍結融解胚移植と新鮮胚移植の2種類があります。
凍結融解胚移植は、体外受精後に得られた受精卵(胚)を凍結保存し、子宮の状態が整ったタイミングで胚を融解し、移植する方法です。体外受精で複数の胚が得られた場合、移植に使わなかった胚は凍結保存して、次回以降に活用することができます。
新鮮胚移植は、採卵後に体外受精・培養を行った後、同じ生理周期内の数日で胚(受精卵)を子宮に戻す方法です。妊娠までの期間が短縮されるメリットがあります。
近年の日本産科婦人科学会が公開しているARTデータブックでは、胚移植数あたりの凍結融解胚移植の妊娠率は37.8%、新鮮胚移植の妊娠率は21.9%であり、凍結融解胚移植の方が実施されている治療数も多く主流となっています2)。
一方で、卵巣の機能が低下しているなど、体外受精の治療効果が低いことが予想される患者さんに限った調査では、新鮮胚移植での出生率のほうが高かったという報告もあり4)、医師の判断によって新鮮胚移植が選択されることもあります。
トーチクリニックの成績

トーチクリニックでは体外受精患者における胚移植数あたりの妊娠率は、25〜29歳で65.2%(全国平均:50.1%)、30〜34歳で59.0%(同:48.1%)、35〜39歳で49.7%(同:40.9%)、40〜44歳で40.7%(同:26.1%)、45〜49歳で17.7%(同:8.6%)です。
一人ひとりのお体やご希望に合わせた治療を提案することで、各年代のいずれにおいても、全国平均より高い水準を維持しています。
体外受精の妊娠率を左右する要因とは?
体外受精の妊娠率を左右する要因には以下のものがあります。
- 年齢
- 胚のグレード
- 子宮内膜の厚さ
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や子宮内膜症の影響
年齢
体外受精の妊娠率は、さまざまな要因によって左右されますが、中でも「年齢」が最も大きな影響を及ぼすことが多くの研究で明らかになっています。女性が35歳を過ぎると、妊娠率は目に見えて低下していきます。
背景には「卵子の老化」があります。加齢により卵子の数が減少し、同時に質の低下も進むため、妊娠の可能性が下がるのです。
日本産科婦人科学会の「2022年ARTデータブック」によれば、体外受精による妊娠の流産率は35歳で21.5%、40歳で32.6%、45歳では57.1%にまで上昇する結果となっています2)。
胚のグレード

体外受精では、移植する胚の「グレード」も妊娠率に影響するとされています。
グレード(Gardner分類)とは、胚の発育の状態や細胞の構造を評価する指標のことです。「ステージ」「内部細胞塊」「栄養外胚葉」の3つによって決まります。
海外の研究では、グレードが高い胚ほど、妊娠や出産の成功率が高い傾向があることが発表されています。
ただし、グレードが低いからといって必ずしも妊娠できないわけではありません。胚の評価はあくまで「目安」であり、医師と相談しながら最適な治療方針を選ぶことが大切です。
胚のグレードについては以下の記事でも紹介しているので併せて参考にしてください。
関連記事:盤胞グレード(Gardner分類)とは?胚盤胞移植の妊娠率やメリットについても解説
子宮内膜の厚さ
子宮内膜の厚さも、着床のしやすさや妊娠率に関係するといわれています。
一般的に、内膜が6〜8mm以下では妊娠率が下がる可能性があるとされており、そのようなケースでは、薬剤によって子宮内膜の厚さを改善するための治療をすることもあります5)。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や子宮内膜症の影響
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)や子宮内膜症も、体外受精における妊娠率に影響することがあります。
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、卵巣に小さな嚢胞(卵胞)がたくさんある、もしくは状態で、生理周期の異常があったり、男性ホルモンの値が高くなるなどホルモン値の異常がある状態です。排卵が定期的に起きない状態であり、不妊の原因にもなる病気です6)。
子宮内膜症は普段は剥がれ落ちる子宮内膜の組織が、子宮の内側以外の場所に入り込んで発育する病気です。特に起こりやすい場所として卵巣があり、卵巣の子宮内膜症性嚢胞はチョコレート嚢胞とも言われます。子宮内膜症の半分程度の人が不妊に悩むとされています7)。
体外受精を行う上で、これらの病気が妊娠率に与える影響は個人差があり、大きな問題にならない場合もあります。一方で不妊の原因となることもあるため、必要に応じて病気の治療を並行して進めることがあり、医師とよく相談することが重要です。
体外受精の妊娠率を上げるためにできること
体外受精の妊娠率を上げるためには、日々の生活習慣や治療との向き合い方も重要です。
生活習慣の見直し
体の状態は、妊娠のしやすさに直接関係します。喫煙や過度の飲酒、睡眠不足、ストレスの蓄積などは、ホルモンバランスに悪影響を及ぼすことがあります。
心身の健康を保つには、適度な運動や栄養バランスのとれた食事、良質な睡眠などが大切です。妊娠には適正体重の維持も重要であるため、体重のコントロールも意識できるとよいでしょう。
不妊治療をできるだけ早く開始する
体外受精の妊娠率には、年齢が大きく影響します。とくに女性は年齢とともに卵子の数と質が低下するため、妊娠を望む場合は早めに医師に相談しましょう。
女性の年齢が35歳を過ぎると、妊娠率の低下が著しくなっていきます。妊娠への不安や気になる症状がある場合は、躊躇せず早めに受診することが大切です。すでにタイミング法や人工授精の不妊治療を受けている方は、治療のステップアップについても医師とよく相談することが重要です。
医師と相談のうえ自分に合った不妊治療法を検討する
不妊の原因は人それぞれ異なります。不妊治療にはさまざまな方法があるため、パートナーや医師とよく相談し、自分の年齢や体の状態、ライフプランに合った治療方法を選ぶことがポイントです。
また、治療スケジュールや費用についても事前に理解を深めておくとよいでしょう。仕事との両立や金銭面の負担などについて、パートナーと十分に共有したり、制度について下調べしたりしておくと、不妊治療への不安やストレスが軽減できる可能性があります。
体外受精の妊娠率に関するよくある質問
体外受精の妊娠率に関してよくある質問とその回答をご紹介します。安心して治療に臨めるよう、正しい情報を知っておきましょう。
Q:体外受精は何回くらい続けるといい?
体外受精の限界を決めるのは難しいといわれています。経済的な負担や通院の負担などを踏まえ、パートナーや医師とよく相談する必要があります。
体外受精は保険適用可能ですが、要件が定められています。大きな要件としては、初めての治療開始時点で40歳未満の女性の場合は1子ごとに通算6回まで、40歳以上43歳未満の女性の場合は1子ごとに通算3回までが保険適用とされています。
Q:体外受精は回数を重ねると妊娠率が下がるって本当?
体外受精は、何度かチャレンジを重ねることで、最終的に妊娠できる可能性(累積の妊娠率)は上がっていきます。しかし、1回あたりの体外受精で妊娠できる確率は、データ上は回数を重ねるごとに少しずつ下がっていく傾向があります。
これは、早い段階で妊娠する人は少ない回数で治療を卒業し、やや妊娠しにくい人は治療を継続することになるためです。データ上の解釈であり、個人単位でみた場合は「回数を重ねるから妊娠しにくくなる」というわけではない点に注意しましょう。
Q:体外受精は自然妊娠よりも流産率が高い?
体外受精の流産率は自然妊娠と大きく変わるものでないと考えられています。
一般的な流産率は15%程度と考えられています8)。一方で体外受精の流産率は、2022年ARTデータブックにおいて25.5%とされており、体外受精の流産率が高いようにもみえます。この理由として、体外受精を実施している患者さんには、40代の人など出産する上では高齢といえる人も多く、この場合は必然的に流産率も高くなります。
令和6年における第1子出生時の母親の平均年齢は31.0歳とされていますが9)、31歳の体外受精の流産率は17.9%であり、一般的な流産率と大きな差はないことがわかります。
Q:体外受精による妊娠は双子である可能性が高まる?
体外受精で複数の胚を同時に移植するケースでは、双子や三つ子などの「多胎妊娠」の可能性は高くなります。通常の妊娠では双子の確率は1%程度と考えられていますが、体外受精では2022年のデータで3.09%の方が多胎妊娠であったことが示されています2)。
日本産科婦人科学会は多胎妊娠を防止する目的で「生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解」として、移植胚数1個を原則とすることを示しています。
Q:体外受精では障害をもった赤ちゃんが生まれる可能性が高まる?
現時点では、体外受精によって明らかに障害のリスクが上がるという科学的根拠は乏しいとされています。ある調査によると、体外受精で生まれた子どもと自然妊娠で生まれた子どもでは、8歳の時点で身体的成長や精神的発達に大きな差はなかったと報告されています10)。
おわりに
参考文献
1)日本受精着床学会. Q13 妊娠率について教えてください. 日本受精着床学会ウェブサイト
http://www.jsfi.jp/citizen/art-qa13.html
2)日本産科婦人科学会.2022年ARTデータブック. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/activity/art/2022_JSOG-ART.pdf
3)McLernon DJ, Maheshwari A, Lee AJ, Bhattacharya S. Cumulative live birth rates after one or more complete cycles of IVF: a population-based study of linked cycle data from 178,898 women. Hum Reprod. 2016;31(3):572-581.
https://academic.oup.com/humrep/article/31/3/572/2384747
4)Wei D, Sun Y, Zhao H, et al. Frozen versus fresh embryo transfer in women with low prognosis for in vitro fertilisation treatment: pragmatic, multicentre, randomised controlled trial. BMJ. 2025;388:e081474.
https://www.bmj.com/content/388/bmj-2024-081474.long
5)名古屋大学医学部附属病院 愛知県不妊専門相談センターウェブサイト
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/obgy/afsc/aichi/faq/ans/070628_42.html
6)本邦における多囊胞性卵巣症候群の診断基準の検証に関する小委員会. 多囊胞性卵巣症候群に関する全国症例調査の結果と本邦における新しい診断基準(2024)について. 日本産科婦人科学会ウェブサイト.
https://www.jsog.or.jp/news/pdf/PCOS1_20231204.pdf
7)日本産科婦人科学会. 子宮内膜症. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5712/
8)日本産科婦人科学会. 流産・切迫流産. 日本産科婦人科学会ウェブサイト.
https://www.jsog.or.jp/citizen/5707/
9)厚生労働省. 令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況 結果の概要. 厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai24/dl/kekka.pdf
10)成育疾患克服等総合研究事業―BIRTHDAY / 国立研究開発法人日本医療研究開発機構. ART出生児の発育・発達に関する研究結果. 生殖補助医療で生まれた子どもの健康に関する予後調査について
https://prog-survey.jp/under8_report.html