採卵術(超音波ガイド下 経腟的卵胞穿刺術)
採卵(穿刺)について
経腟的採卵
排卵誘発剤によって大きくなった状態の左右の卵巣は、腟の奥(腟円蓋)に接しています。
そのため、普段の婦人科診察のように経腟超音波(エコー)でモニターを確認しながら、腟から採卵用の細い針を押し当てることで、卵巣の中の卵胞を穿刺し、卵胞液(卵胞の中の液体)を吸引して卵子を回収することができます。
※世界で初めて体外受精が成功した頃、採卵術は腹腔鏡下で行われていました。現在は超音波技術の発展により開腹手術や腹腔鏡下手術などの大きな手術は必要ありません。
経腹的採卵
卵巣や子宮筋腫などの腫瘍、子宮内膜症や子宮腺筋症などの癒着によって、経腟的な穿刺が困難な場合もあります。
当院では、経験豊富な医師が、慎重に適応を見定めながら経腹的採卵術を行っております。他院で癒着によって経腟的に卵胞が穿刺できなかったなどは是非ご相談ください。
所要時間
採卵手術は穿刺する卵胞の数にもよりますが、5–20分程度で終了します。術後は1時間程度安静室でお休みいただきます。
採卵後はどなたかにエスコートいただいての帰宅をおすすめしております。
採卵時の麻酔
当院では発育した卵胞の個数と希望に合わせては、鎮痛剤のみ、局所麻酔、もしくは全身麻酔(静脈麻酔)下で採卵術を行います。
鎮痛剤
痛み止めの座薬を使用し痛みを軽減します。腟壁はお産のときに備えてもともと痛みを感じにくい臓器です。個数が3-4個であれば鎮痛剤で十分なケースがほとんどです。点滴をとる必要もないですし、術後はスムーズにご帰宅可能です。
局所麻酔
鎮痛剤に加えて腟壁に局所麻酔薬を注射することで、穿刺時の痛みを緩和可能です。この際は意識がはっきりしておりますが腟壁の痛みはほとんどありません。術後はスムーズに帰宅が可能です。
静脈麻酔
卵胞が多数ある場合やご希望の際は、静脈麻酔を行います。点滴でうとうと眠っているような状態で採卵します。採卵時の記憶はなく目覚めたときには採卵が終わっています。
採卵の流れ
採卵日の決定から、採卵後までの流れは以下のとおりです。
採卵2日前
排卵誘発を行い、卵胞が十分に発育しましたら採卵の日程が決定します。
採卵予定時間の約36-38時間前(2日前の夜)に、hCGの注射もしくはアゴニスト製剤の点鼻スプレーを行います(排卵誘起、トリガーといいます)。
トリガーはとても重要で、卵子の減数分裂を促進し、成熟卵を得るために絶対不可欠なものです。
指定された投与日・時間を厳守し、絶対に間違えないようにしましょう。
採卵前日
前日のお食事は23時までに済ませ、以降のお食事は控えていただきます。
麻酔時に食べ物や胃酸が肺に流れ込むことを防ぐためです。
排卵を抑える座薬を7:00、15:00、23:00に挿入していただきます。
なお当院では手術当日の飲水(水に限る)は朝7時まで可能としています。抗生剤や指示のあった内服薬を内服ください。
採卵当日
採卵前
- AM7:00 ご自宅で座薬を挿入いただきます。
- 指示された時間に来院していただきます。
- 来院後に同意書、採精カップの確認をさせていただきます。
- 安静室へ移動し術衣に着替えていただき、点滴の確保、採血を行います。
- 採卵の順番まで待機いただきます。
採卵
- 採卵の順番になったら採卵室へご案内いたします。
- 酸素モニター・心電図・血圧計を装着します。
- (局所麻酔の場合)腟内を消毒後、局所に麻酔を十分効かせ、採卵を行います。
- (静脈麻酔の場合)麻酔を開始し、おやすみになられた後に腟内を消毒。採卵を行います。
採卵後
- 覚醒後、安静室で1時間ほど休んでいただきます。
- 痛みや気分が悪くなければ、採尿いただき問題なければ点滴を抜きます。
- 超音波検査で採卵後の状態を確認します。
- 採取した卵子や精子の状態を説明し、治療方針(新鮮胚移植 or 全胚凍結)を決定します。
- 採卵5日後に診察の予約をお取りし、ご帰宅いただきます。
帰宅後の過ごし方
- 採卵当日はご本人様による車の運転はご遠慮いただいております。ご了承ください
- 採卵当日は激しい運動や性交渉をお控え下さい。
- 採卵当日は湯船にはつからず、シャワー浴のみとしてください。
採卵手術に伴う危険性・合併症
アレルギー
採卵時には、麻酔(静脈あるいは局所)を行う場合があり、まれに呼吸抑制や血圧低下がみられることがありますが、各種モニターを装着し、医師および看護師が管理することで予防に努めています。
卵巣出血・感染・他臓器損傷
卵巣の穿刺は超音波ガイド下で慎重に行っていますが、子宮や膀胱を穿刺しないと採卵ができない場合もあります。一時的な痛みや出血がおこりますので、安静や処置が必要となることがあります。
穿刺による卵巣表面からの出血は通常自然に止血しますが、出血が多いときは輸血が必要となったり、そのほかの合併症として、腟壁からの出血、膀胱・尿管・腸管の損傷、感染(膿瘍形成)などがあります。これらの治療のために手術を行わなければならないこともあります。(こうした合併症の発生率は、1%以下と言われています。)