妊活や不妊治療をはじめるうえで、自分の卵子の質が気になる方は多いでしょう。この記事では卵子の質とは何か、卵子の質を上げることはできるのかについて説明します。また、妊娠しやすい体づくりに取り組むにあたって、おすすめの生活習慣やサプリメントについても解説します。
卵子の質とは何か
卵子の質とは、一般的に卵子が成熟し、受精やその後の細胞分裂を順調に進められる力を指します。成熟していない未熟な卵子や変性卵子(細胞の質が悪く、受精する力を持たない卵子)は受精できません。また受精できたとしても、卵子に染色体異常があれば細胞分裂が途中で止まってしまうことがあります。
卵子の質は一般的に年齢とともに低下していくとされています1)。卵子の質が低下すると未熟卵子や染色体異常の発生率が増え、とくに染色体異常は30代後半から顕著に増加することが知られています。妊娠を希望する女性にとって卵子の質の維持は重要といえるでしょう。
卵子の質が低下する原因とは?
卵子の質が低下する主な原因は加齢です。加齢による卵子の質の低下を防ぐことは難しく、なるべく早い時点で卵子を保存しておくことが現実的な対処法となります。
卵子の質が低下する詳細なメカニズムについては、まだ解明されていない部分が多いですが、加齢によるミトコンドリア機能の低下や酸化ストレスが関与しているとの報告もあります2)。卵子の質が年齢と密接に関係していることは確かなため、妊活や不妊治療を検討する際にはできるだけ早く行動を起こすことが重要でしょう。
加齢が卵子に与える影響
卵子の数と質は、年齢による影響を受けます。
卵子のもとになる卵母細胞は、胎生期から減り始め、生まれたときは約200万個あるものの、排卵がはじまる際には約30万個まで減ります。このうち生涯で排卵できる卵子の数は400〜500個とされ、その後年齢とともに減っていき増えることはありません。37歳以降では急速に減っていくとされています3)。
また、卵子は実年齢とともに老化していきます。年齢が上がるにつれ、卵子の染色体異常の頻度が高まり、これが受精率や着床率の低下、さらには流産のリスク増加につながります。妊娠を望む方にとって、年齢と卵子の質の関係は避けて通れない関係なのです。
卵子の質は上げることができる?
卵子の質を上げることができるという根拠がある方法は、現時点の医学では確立していません。加齢による卵子の染色体異常の増加は、卵子凍結以外に防ぐ手段はないとされているからです2)。
一方で、生活習慣の見直しや体調管理をすることにより、妊娠しやすい体を目指すことはできます。バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけることで、ホルモンバランスを整え妊娠しやすい状態の体へと整えられるでしょう。
卵子の質を直接改善することは難しくても、生活習慣などにより体のコンディションを整えることは妊活において大切です。まずは無理のない範囲で、できることからはじめていきましょう。
卵子の質は検査でわかる?
卵子の質を直接測る検査方法は、現時点ではありません。顕微鏡で卵子を観察し、外見から成熟度などを評価することはできますが、染色体異常などの卵子の質を完全に評価することはできないとされています。
卵巣予備能(卵巣に残っている卵子の数の目安)を測る方法としては、抗ミュラー管ホルモン(AMH)検査があります。AMHは卵巣内にどれだけ卵子が残っているかの目安にはなりますが、質を評価するものではありません。AMH値が高くても卵子の質が良いとは限らないとされています4)。
染色体異常や受精能力などの卵子の質は、検査で知ることは難しいため、妊娠する力は年齢や、AMH値、胞状卵胞数、FSH基礎値(卵胞刺激ホルモン:下垂体から分泌される、卵胞発育に必要なホルモン)などから総合的に評価されることが多いです。
AMH検査でわかること・わからないこと
AMH検査は、前胞状卵胞という、未熟な卵胞のなかにある卵子を包む細胞から分泌されるAMHというホルモンを測定することで、卵巣に卵子がどれくらい残っているかを予測する検査です。
AMHの値が低い場合は、排卵できる期間が短い可能性があるため、治療のスピードや方針を早めに検討する必要があります。逆に、AMHが高い場合は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)※という病気の可能性があり、検査することで早期発見につながることもあります。
治療において、一般不妊治療についてはステップアップのスピードや生殖補助医療に進むタイミングを検討する判断材料になります。生殖補助医療については、1回の採卵でとれる卵子数と相関するとされ、卵巣刺激法の選択に有用とされています。
ただしAMHはあくまで卵子の数に関する指標であり、卵子の質を示すものではありません。検査結果はあくまで参考にとどめ、年齢や体調も含め総合的に判断することが重要です。
AMH検査の基礎知識については、以下の記事でも紹介しているので気になる方はご覧ください。
参考記事:AMH検査の基礎知識:検査の目的・受け方・流れ・費用・保険適用など解説
※多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):多数の卵胞が卵巣にとどまってしまい、排卵が起こりにくくなる病気。男性ホルモンの増加が原因のひとつとされる。
生活習慣や環境要因が卵子に与える影響
卵子の質には、生活習慣や環境要因が大きく影響します。とくに肥満は、卵巣の機能低下や排卵障害を引き起こし、不妊のリスクを高めると報告されています5)。
また喫煙も卵巣内の卵胞を減少させ、卵巣の機能を低下させます6)。喫煙は流産のリスクを上げる原因のひとつとしても知られているため、妊活をはじめる段階からやめることをおすすめします。
さらに、二酸化窒素や微粒子状物質などの大気汚染物質も、妊娠率や流産してしまう確率を上げるリスクがあると考えられており、こちらも避けたい環境要因のひとつです6)。
日々の生活習慣を見直し、妊娠しやすい体をつくりましょう。
卵子の質を上げるために意識したい生活習慣
卵子の質を高める明確な方法はありませんが、妊娠しやすい体づくりのために生活習慣を整えることはできます。妊娠に向けて意識したい生活習慣は、禁煙、バランスの良い食事、適度な運動などです。ストレス管理や十分な睡眠も大切でしょう。
飲酒は少量であれば毎日飲んでいても問題ありませんが、量が多い場合、不妊につながるという報告もあります7)。妊活をはじめる際はお酒の量を減らすか、飲酒自体を止めることをおすすめします。
また、冷え性対策も取り入れたい生活習慣のひとつです。冷えは血行不良の原因となり、さまざまな体の不調を引き起こします。湯船にゆっくりと浸かったり、温かい飲み物を飲んだりするなど、体が冷えないように心がけましょう。
以下の記事でもAMHの改善や妊娠に向けた体づくりについて解説しているので、ぜひご覧ください。
参考記事:AMHを改善したい!AMHが妊娠に与える影響や低下してしまう原因・改善方法の有無を解説
栄養バランスを整える
妊活中では、栄養バランスの整った食事をすることが大切です。食事をとる際は、主食を中心にエネルギーを、副菜でビタミンやミネラルをしっかりととるようにしましょう。
妊活中にしっかり摂りたい栄養素として、タンパク質、鉄分、葉酸、亜鉛、カルシウム、ビタミンD、ビタミンEなどがあります。葉酸は妊娠前から摂取することで、赤ちゃんの神経管閉鎖障害※を予防することが知られています。
葉酸と鉄分は推奨されている量を全て食事からとることは難しいため、サプリメントを使って効率よく摂取するのがおすすめです。
また、ビタミンEは細胞の老化を防ぐ抗酸化力をもつ栄養素として知られていますが、近年の研究によると子宮の血流を増やすことで子宮内膜を厚くする働きがあると報告されています8)。ビタミンEを効率よく摂るには、ナッツ類、植物油、緑黄色野菜などをバランスよく食事に取り入れると良いでしょう。ひとつの栄養素に偏らず、バランス良い食事をとることが大切です。
※神経管閉鎖障害:妊娠初期に神経管の形成がうまくできず、赤ちゃんの脳や脊髄に異常が生じる病気。
適度な運動
運動には血流促進やホルモンバランスの安定、気分のリフレッシュなどの効果が期待できます。上記でも説明したとおり、肥満は不妊の原因になる恐れがあるため、妊娠に向けて適度な運動を日常に取り入れましょう。
また妊娠前に運動習慣があった人は、運動習慣がなかった人よりも妊娠中の腰痛の発現率が低かったという報告もあります9)。継続的な運動は妊娠後の生活にも影響する可能性があるため、ウォーキングやストレッチなど、無理なく続けられる運動を習慣にすることがおすすめです。
質の良い睡眠を確保する
良質な睡眠は、ホルモンバランスを整え、疲労を回復し、ストレス軽減などをする働きがあります。睡眠不足になると、ホルモンバランスが乱れ、不妊の原因になる恐れがあります。
適切な睡眠時間は、個人差はありますが成人の方で6〜8時間が目安です。少なくとも6時間は睡眠時間を確保することが推奨されています10)。
眠りの質を高めるために、寝る前のスマホやカフェインは控えるようにしましょう。眠りの質を意識することでホルモンバランスが整えられ、妊娠しやすい体になることが期待できます。
ストレスをためないメンタルケア
妊活中のストレスは、ホルモンバランスの乱れや排卵・月経異常につながるなど、不妊の原因となる可能性があります。そのため妊活中のストレス管理は重要です。
日々の生活でまったくストレスを感じずに生活するのは難しいため、ストレスを感じたときにどのように解消するかを考えることが大切です。たとえば人に話を聞いてもらう、映画鑑賞や読書をする、散歩やスポーツで体を動かすといったこともおすすめです。
自分に合ったリフレッシュ方法を見つけておくとよいでしょう。
卵子の質をあげるためのサプリメント
上記でも説明したとおり、卵子の質を上げる方法は現在の医学では確立していません。しかし、近年の研究で、メラトニンとレスベラトロールが卵子の質を改善することが期待される成分として注目されています。
加齢による卵子の質の低下は、卵子内のミトコンドリア機能の低下と活性酸素による酸化ストレスが関与していると考えられています。
メラトニンは睡眠と覚醒のリズムをつくるホルモンですが、強い抗酸化作用をもつ成分です。卵胞に対して直接的に抗酸化作用を発揮することで、卵子の成熟、受精能、胚発育の向上が期待されています11)。
レスベラトロールは、ブドウの果皮や赤ワインに含まれるポリフェノールの一種です。こちらも強い抗酸化力を持っており、卵巣機能低下の予防が期待されています。さらに多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状を改善するという報告もあります12)。
PCOSとは、卵巣で男性ホルモン(テストステロン)が多く作られることで排卵ができにくくなる病気です。レスベラトロールはPCOS患者において、テストステロンの分泌を低下させ、ホルモンのバランスを整えることが期待されています12)。
ただし、いずれの成分についても現時点では明確なエビデンスが確立されているわけではありません。効果や安全性には個人差があり、使用する際は必ず医師に相談してからはじめましょう。
卵子の質に関連する質問
卵子の質に関連する質問についてまとめました。気になる方はぜひ読んでおきましょう。
Q. 卵子の質を上げるために漢方は有効?
漢方薬が卵子の質を上げるとされる明確な根拠は、現時点ではありません。ただし、体質や月経周期の乱れ、冷えなど個別の体調に応じて、漢方が補助的に使われる場合はあります。
日本東洋医学会によると、排卵障害患者に対してクロミフェンクエン酸塩の内服療法に当帰芍薬散を併用すると、妊娠にいたるまでの周期が短くなったとの報告があります13)。これは当帰芍薬散によりホルモンバランスが整えられたことによる効果だという考えがある一方で、明確に解明できているわけではありません。
なお、漢方薬によっては妊活に良くない影響が考えられるものもあるため、妊活中に漢方を使用する際は、自己判断ではじめることは避けましょう。医師との相談のうえ、処方されたものを使用してください。
漢方はあくまで補助的な選択肢のひとつです。妊活の基本は、医師の指導のもとで生活習慣や治療を総合的に見直すことだということを覚えておきましょう。
Q. 精子の質を上げるにはどうすればいい?
精子の質を上げる方法は明確には確立していませんが、生活習慣の見直しが重要とされています。高血圧、喫煙、肥満は男性不妊と関連があるとされ、これらを避けることが基本的な対策となります。
またビタミンなどの抗酸化剤を摂取することにより、妊娠率が向上する可能性があるという報告もされています。男性不妊症診療ガイドラインによると、L- カルニチンやセレニウム、ビタミンEの単独摂取、または亜鉛+ビタミンE、亜鉛+ビタミンCおよびEの組み合わせは精子の運動率を改善させたと報告されています。また、コエンザイムQ10やL-カルニチンなどを含む合剤による精子の運動率の改善も認められています。14)。
しかし、抗酸化剤が精子の質を改善することを証明するエビデンスは少ないため、サプリメントだけを頼りにするのは止めましょう。栄養バランスのとれた食事、適正体重の維持、禁煙、適度な運動といった生活全体を整えることが大切です。
Q. 生活習慣の改善で妊娠率も上がる?
生活習慣の改善が必ず妊娠率を上げるとは言い切れませんが、妊活や将来的な妊娠を見据える上で生活習慣を整えることは重要です。
ホルモンバランスを整えるためにも適切な食事、運動、睡眠、ストレス管理を意識することが大切といえます。妊活には女性だけでなく、男性の生活習慣も関係してきます。パートナーとお互いに支えながら、生活を整えるようにしましょう。
おわりに
参考文献
1)北島智也. 卵子の染色体数異常の原因. ファルマシアVol. 58 No. 1 2022
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/58/1/58_24/_pdf/-char/ja
2)髙橋 俊文. 不妊症を生物学的・社会学的に探求する ─ 卵子凍結に潜むリスクとベネフィット ─. 福島医学雑誌 / 72 巻 (2022) 1 号. p. 1-9
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fmedj/72/1/72_72.1_1/_pdf/-char/ja
3)日本生殖医学会ホームページ. 不妊症Q&A
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa24.html
4)S Lie Fong, EB Baart, E Martini, I Schipper, JA Visser, APN Themmen, FH deJong,BJCM Fauser, JSE Laven. Anti-Müllerian hormone: a marker for oocyte quantity, oocyte quality and embryo quality?. Reproductive BioMedicine Online Volume 16, Issue 5, 2008, Pages 664-670
https://www.rbmojournal.com/article/S1472-6483(10)60480-4/pdf
5)原田 美由紀. 生殖内分泌とプレコンセプションケア. 日本生殖内分泌学会雑誌 Vol.25 2020. p26
https://jsre.umin.jp/20_25kan/25_topix_1.pdf
6)Optimizing natural fertility: a committee opinion. Volume 117, Issue 1P53-63 January 2022. American Society for Reproductive Medi-cine.
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282%2821%2902130-0/fulltext?utm_source=chatgpt.com
7)Jan Eggert, Holger Theobald, Peter Engfeldt. Effects of alcohol consumption on female fertility during an 18-year period. FERTILITY & STERILITY. VOL. 81, NO. 2, FEBRUARY 2004
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(03)02717-1/fulltext
8)Akihisa Takasaki, Hiroshi Tamura, Ichiro Miwa, Toshiaki Taketani, Katsunori Shimamura, Norihiro Sugino. Endometrial growth and uterine blood flow: a pilot study for improving endometrial thickness in the patients with a thin endometrium. Fertil Steril. 2010 Apr;93(6):1851-8
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(08)04783-3/fulltext
9)小野 玲, 澤 龍一, 山崎 蓉子, 藤井 ひろみ, 奥山 葉子, 谷川 裕子, 総毛 薫, 高田 昌代. 妊娠期の腰痛と身体活動量の関係 : 妊娠前運動習慣の影響. 平成25年度研究助成報告書. 2015 年 42 巻 2 号 p. 156-157
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/42/2/42_KJ00009930380/_pdf/-char/ja
10)厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド 2023.
https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
11)Javier Espino, María Macedo, Graciela Lozano, Águeda Ortiz, Carmina Rodríguez, Ana B Rodríguez, Ignacio Bejarano. Impact of Melatonin Supplementation in Women with Unexplained Infertility Undergoing Fertility Treatment. Antioxidants (Basel). 2019 Aug 23;8(9):338
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6769719/#sec5-antioxidants-08-00338
12)Mojdeh Bahramrezaie, Fardin Amidi, Ashraf Aleyasin, AboTaleb Saremi, Marzieh Aghahoseini, Samaneh Brenjian, Mahshad Khodarahmian, Arash Pooladi. Effects of resveratrol on VEGF & HIF1 genes expression in granulosa cells in the angiogenesis pathway and laboratory parameters of polycystic ovary syndrome: a triple-blind randomized clinical trial. J Assist Reprod Genet. 2019 Jul 21;36(8):1701–1712.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6708036/#Sec15
13)安井敏之, 苛原稔, 青野敏博, ほか. 排卵障害患者に対するクロミフェン・当帰芍薬散併用療法の有用性の検討. 日本不妊学会雑誌 1995; 40: 83-91.
https://www.jsom.or.jp/medical/ebm/er/pdf/950016.pdf
14)男性不妊症診療ガイドライン. 2021年版 日本泌尿器科学会 p45
https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/52_male_infertility.pdf