東京都では2026年4月から、不妊治療費の助成制度が拡充されます。これまで、先進医療に該当する部分の費用のうち7割までが助成の対象でした。今回の変更では、体外受精など保険診療で行われる生殖補助医療の自己負担額も新たに助成の対象になります。この記事では、制度の改正内容や対象となる治療、具体的な費用例を紹介します。
※2026年4月時点の内容となり、今後新しい情報に伴う解釈の変更の可能性があります。
東京都の不妊治療助成制度の改正ポイント

東京都では2026年4月から、不妊治療費の助成制度が拡充されます。
これまでは、保険診療の体外受精や顕微授精と併せて実施した「先進医療費のうち7割」が助成対象でした。一方、2026年の改正により、先進医療費に加えて、保険診療の自己負担分(3割負担分)の全額(10割)まで、助成の対象になります。
今回の拡充により、これまで助成されなかった保険診療の自己負担分も助成の対象となり、治療にかかる自己負担額を抑えやすくなります。
助成の対象は2026年4月以降に開始した不妊治療
助成の対象となるのは、2026年4月1日以降に開始した治療です。
生殖補助医療は、採卵・受精・培養・移植など、複数の工程を組み合わせ、長期的なスケジュールを立てて進めます。
新しい制度が適用されるかどうかは、治療の開始日(初めて治療計画を立てた日)が基準です。開始日が2026年4月1日以降であれば、拡充後の助成制度の対象となります。
一方、2026年3月31日までに治療を始めた場合は、4月以降に継続していても、旧制度のルール(先進医療費の7割のみ助成)が適用されます。
助成の対象となる不妊治療
助成の対象となる対象となる不妊治療は、保険診療として実施した生殖補助医療(ART)です。生殖補助医療には、主に以下の治療や処置が含まれます。
- 体外受精(c-IVF)
- 顕微授精(ICSI)
- 胚凍結、胚培養、胚移植
胚凍結や胚培養、胚移植は、体外受精や顕微授精に伴って実施されます。ここでは、体外受精、顕微授精、保険診療と併用して実施する先進医療について詳しく解説します。
なお、全額自己負担(自費診療)で行った体外受精・顕微授精は、今回の助成の対象外です。タイミング療法や人工授精などの一般不妊治療も対象ではないため、ご注意ください。
体外受精(c-IVF)
体外受精とは、卵巣で育った卵子を採卵術で体の外に取り出し、精子と受精させる治療方法です。卵子と精子を同じ培養液に入れ、精子の力で受精させる、自然に近い方法で受精を促します。
体外受精では排卵誘発剤を使い、複数の卵胞を育ててから卵子を採取します(排卵誘発剤を使用せず単一卵子を採取する方法もあります)。その後、培養した胚(受精卵)は次の2つの方法のいずれかで子宮に移植されます。
新鮮胚移植:採卵した月経周期内に胚を子宮に移植する方法
凍結融解胚移植:胚を一度凍結保存し、別の月経周期に融解して移植する方法
関連ページ:体外受精
顕微授精(ICSI)
顕微授精は、細いガラスの針を使って精子を卵子の細胞質内に直接注入して授精させる方法です。顕微授精では、培養士が顕微鏡で精子の形や動きを確かめながら、良好な精子を選んで授精を行います。
顕微授精は、精子の数が極端に少ない場合や運動率が低い場合など、体外受精では受精が難しいケースに選択される治療です。
採卵・胚の培養・移植のプロセスは体外受精と同様で、新鮮胚移植または凍結融解胚移植のいずれかの方法で胚を子宮に戻します。
関連ページ:顕微授精
保険診療と併用して行った先進医療
保険診療の体外受精・顕微授精と併用して実施した先進医療も、助成の対象となります。2026年3月時点で助成の対象となっている先進医療は、以下のとおりです1)。
- SEET法
- タイムラプス
- 子宮内膜スクラッチ
- PICSI
- ERA / ERPeak
- 子宮内細菌叢検査(EMMA / ALICE)
- IMSI
- 二段階胚移植法
- 子宮内細菌叢検査(子宮内フローラ検査)
- 膜構造を用いた生理学的精子選択術(マイクロ流体技術を用いた精子選別)
- 着床前胚異数性検査(PGT-A)
先進医療を提供できる医療機関は限られており、施設によって実施状況が異なります。また、新たな技術が追加される可能性もあるため、最新情報は厚生労働省のホームページを確認してください。
助成の対象者と回数制限
助成を受けるためには、いくつかの条件や年齢に応じた回数制限があります。ここでは、それぞれの条件について説明します。
対象者の要件
助成を受けるには、以下の要件をすべて満たす必要があります1)。
- 「1回の治療」の初日から申請日まで、法律上の婚姻関係があること(事実婚も対象)
- 「1回の治療」の初日から申請日までの間、夫婦いずれかが継続して東京都内に住民登録をしていること
- 保険診療として体外受精および顕微授精を受診していること
- 先進医療を受診している場合は、登録医療機関で受診していること
- 「1回の治療」の開始日における妻の年齢が43歳未満であること
法律婚の場合、夫婦いずれかが都外在住でも、都内在住の方を申請者とすることで、助成を受けられます。一方、事実婚の場合は、住民票の続柄や住所の要件などが法律婚より細かく規定されています。
詳細については東京都のホームページをご確認ください。
年齢と回数制限
助成を受けられる回数は、保険診療における体外受精・顕微授精の回数制限に準じます1)。
- 治療開始日の妻の年齢が39歳までの場合:6回まで
- 治療開始日の妻の年齢が40歳〜42歳の場合:3回まで
子どもが生まれた場合は、1子ごとに助成回数がリセットされます。2人目以降の治療でも、改めて上記の回数まで助成を受けることが可能です。
ただし、2022年度以降に東京都の「特定不妊治療費(先進医療)助成制度」を受けた回数は、今回の制度の回数に通算されます2)。
助成金を活用した場合の費用例
トーチクリニックでの費用例をもとに、助成金を活用した場合の自己負担額の目安をご紹介します。なお、実際の費用は治療内容や薬剤の使用量によって異なります。あくまでも参考としてご確認ください。
また、健康保険の高額療養費や付加給付金が支給された場合は、それらを差し引いた金額をもとに助成額が計算されます。
関連ページ:治療法ごとの概算費用
ケース1:体外受精(採卵+新鮮胚移植)
新鮮胚移植は、採卵した周期内に培養した胚をそのまま子宮に移植する方法です。胚を凍結しないため、治療期間が短くなりやすいという特徴があります。
以下は、低刺激で排卵誘発を行い、新鮮胚移植を実施した場合の費用例です(保険適用の点数は2026年3月時点のものを参照)。
※採卵3個・受精方法は体外受精のみ・得られた胚盤胞1個とした場合
※保険が適用された後の自己負担額(3割)の金額
※高額療養費制度などの活用により金額が異なる場合があります。
ケース2:体外受精・顕微授精(採卵+凍結融解胚移植)
凍結融解胚移植は、採卵後に培養した胚を一度凍結保存し、別の周期に融解して子宮に移植する方法です。複数の胚を凍結しておくことで、移植のタイミングを調整しやすいという特徴があります。
以下は、高刺激で排卵誘発を行い、凍結融解胚移植を実施した場合の費用例です(保険適用の点数は2026年3月時点のものを参照)。
※採卵15個・受精方法は体外受精および顕微授精・得られた胚盤胞を4個とした場合
※保険が適用された後の自己負担額(3割)の金額
※高額療養費制度などの活用により金額が異なる場合があります。
高額療養費制度や付加給付金を併用する場合
高額療養費制度や付加給付金を利用する場合は、支給された金額を差し引いたうえで、上限15万円まで助成されます。たとえば、不妊治療費が10万円で、高額療養費制度から3万円が支給された場合は、以下のように計算されます。
高額療養費制度や付加給付金の内容は健康保険組合によって異なるため、詳しくは加入している健康保険組合にご確認ください。
申請受付の時期
助成金の申請受付は、2026年10月1日から開始されます1)。2026年4月1日以降に治療を開始した場合でも、10月の受付開始までは申請できません。ただし、受付開始後にさかのぼって申請できます。
申請期限は、「1回の治療」が終了した日の属する年度末(3月31日)までです。1〜3月に終了した治療について、3月31日までに申請が間に合わない場合は、同年6月30日まで申請できます。
申請に必要な書類や具体的な申請方法は、後日、東京都福祉局のホームページで案内されます。
令和8年度の特例
2026年4月1日以降に治療を開始し、申請受付開始日である10月1日より前に都外へ転出する予定がある場合には、特例が設けられています。
以下の3つの条件をすべて満たす場合に限り、申請期限までの申請が可能です1)。
- 「1回の治療」の初日時点で夫婦いずれかが東京都に住民登録をしている
- 2026年9月30日までに治療が終了している
- 治療終了後、2026年10月1日までに都外へ転出している
なお、治療終了前に転出した場合は対象外です。また、2026年10月1日以降は、治療が終了していても申請前に転出してしまった場合は、あとから申請できないため、ご注意ください。
東京都の不妊治療助成制度に関するよくある質問
ここでは、東京都の不妊治療に関する助成金について、多く寄せられる質問に回答していきます。
Q:先進医療を受けていなくても、助成金を申請できますか?
2026年4月1日以降に開始した治療であれば、先進医療を受けていなくても、保険診療の自己負担額について助成金を申請できます。
なお、自費診療で行った体外受精や顕微受精は対象外となりますので、ご注意ください。
Q:令和8年3月に採卵を行い、4月に移植した場合、新制度は適用されますか?
この場合は、2026年3月31日以前に開始した一連の治療として扱われるため、新制度は適用されません。
原則として、治療計画から移植後の妊娠判定などに至るまでが「1回の治療」です。採卵と移植を別々の制度に分けて申請することはできません。
2026年3月31日以前に開始した治療は、保険診療と併せて実施した先進医療費の7割が助成対象となります。
Q:過去に特定不妊治療の助成を受けた回数は、今回の制度でリセットされますか?
不妊治療が保険適用になる前の助成制度(2022年3月以前)の回数は含まれません。
ただし、2022年度以降に東京都の「特定不妊治療費(先進医療)助成制度」を利用した回数は、今回の制度の回数に通算されます。たとえば、助成回数の上限が6回で、過去に先進医療の助成を2回利用している場合、今回の制度では残り4回申請できます。
Q:タイミング療法や人工授精は助成の対象になりますか?
タイミング療法や人工授精などの一般不妊治療は、本制度の助成対象には含まれません。
ただし、東京都では一般不妊治療を対象とした「不妊検査等助成事業」を別途実施しています。不妊検査や人工授精などの一般不妊治療にかかった費用について、夫婦1組につき1回、上限5万円まで助成されます3)。
不妊検査等助成事業の詳しい内容については、東京都のホームページをご確認ください。
おわりに
参考文献
1)東京都福祉局. 東京都不妊治療費助成事業の概要. 東京都福祉局ウェブサイト
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/kosodate/josei/funin-senshiniryou/gaiyou
2)東京都福祉局. 不妊治療費助成制度Q&A
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/fukushi/2026-03-26-145141-916
3)東京都福祉局. 不妊検査等助成事業の概要. 東京都福祉局ウェブサイト
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/funinkensa/gaiyou

