不妊治療は何歳から始めたり、何歳まで可能なのか目安を知りたいという人も多いのではないでしょうか。不妊治療を開始する年齢に一律の基準はありませんが、この記事では欲しい子どもの数に合わせて、体外受精を開始するべき年齢の目安を算出している海外の調査結果や、保険適用の年齢の条件などについて解説します。
不妊治療は何歳から始めるべき?
不妊治療を検討するタイミングは、個人によってもさまざまですが、年齢や希望する子どもの数も考慮するべき点です。一般的に妊娠のしやすさは女性の年齢とともに低下するため、何歳までに不妊治療を始めるかの目安を把握しておくのも良いでしょう。
参考になる情報として、2015年のオランダでの研究結果を紹介します。望む子供の人数に対して、自然妊娠での妊活を開始するべき女性の年齢と、体外受精などの不妊治療を開始するべき女性の年齢の目安を算出している報告です1)。
体外受精を実施する前提で、1人の子どもを望む際に90%の確率で達成できる年齢は35歳、2人および3人の子どもを望む場合は、それぞれ31歳と28歳が目安となるという結果でした。
一方で、1人の子どもを50%の確率という条件であれば、体外受精なら42歳までが目安として示されています。
20代で不妊治療を検討するべきケース
女性の不妊頻度は、「患者さんのための生殖医療ガイドライン」によると20代前半が5%以下、20代後半が9%前後とされており2)、20代では不妊の割合は高くありません。
ただし、20代であっても不妊症の定義に該当するような場合は検査を受け、結果によっては不妊治療を検討することが望ましい場合もあります。
日本では、「妊娠を望む健康な男女が、避妊をしないで性交していたにもかかわらず、1年間妊娠しない場合」を不妊症と定義しています3)。
また、先述の報告(Habbema et al., 2015)では、子ども3人を90%の確率で望む場合は、体外受精を28歳までに開始することが示されており、こちらをひとつの目安として考えてもよいでしょう。
30代前半と後半で変わる治療開始の目安
女性が30代に入ると妊娠率は少しずつ低下し、35歳を過ぎるとさらに下がります。「患者さんのための生殖医療ガイドライン」では、不妊の割合は30代前半で15%、30代後半が30%とされています2)。
不妊症の「1年間」という期間の定義は年代によって変わりませんが、アメリカの生殖医学会では、「定期的な性交を行っており、どちらのパートナーにも生殖能力の低下を示す要因がない場合、女性が35歳以上の場合は6か月後に評価を開始する必要がある」としており4)、35歳以上では6か月が不妊検査を受けるタイミングの目安となります。
先述の報告(Habbema et al., 2015)では、体外受精を行う前提でも90%の確率で子どもを望みたい場合、子ども2人であれば31歳まで、子ども1人でも35歳までに治療を開始するのが目安とされており、30代は不妊治療を本格的に検討する年代となります。
40代での不妊治療は?
40代は「患者さんのための生殖医療ガイドライン」でも約64%が自然妊娠の望みがなくなるとしており2)、子どもを望む場合は不妊治療を早期に検討したい年代です。
体外受精の不妊治療を実施した場合でも、日本での総治療あたりの妊娠率は40歳で17.2%、41歳で13.9%、42歳で10.6%と1年ごとに大きく下がり、45歳では4.2%という結果になっています5)。
40代で子どもを望む場合はなるべく早期に妊活や治療を開始すること、治療を実施しても必ずしも子どもが望めるわけではない点に注意しましょう。
不妊治療は何歳までできる?
不妊治療が何歳までできるかは一律には決められていません。医療機関によっては年齢上限を設定している場合もありますが、患者さんの希望があれば状態を考慮した上で治療を実施してもらえることもあります。
ただし、体外受精や顕微授精の不妊治療については、保険適用となる年齢は明確に設定されているため注意が必要です。
具体的には、43歳未満が体外受精や顕微授精が保険適用となる年齢の条件となります。
体外受精・顕微授精は43歳未満が保険適応の上限年齢
体外受精と顕微授精に関して、保険適用となる年齢と回数の条件は以下のとおりです6)。
これは、女性の年齢が上がるにつれて、体外受精で出産に至る割合は下がり、流産の可能性や妊娠・出産時の合併症リスクが高まるという医学的な理由から決められています。
保険が使えない場合の費用感
43歳以上で体外受精や顕微授精の治療を始めた場合や、保険適用外の方法を選んだ場合は自費診療となります。
自費診療では医療機関ごとに価格設定が異なり、さらに実施する治療法などによってもかかる費用が大きく変わります。
トーチクリニックでも実施する治療によって概算の費用が異なり、採卵 + 新鮮胚移植の自費診療の例では約339,010円、採卵 + 凍結融解胚移植の自費診療の例では約953,520円のケースを紹介しています。
治療法ごとの概算費用については、以下のページで詳しく解説しているのであわせてご確認ください。
関連ページ:治療法ごとの概算費用
男性の年齢が不妊治療に与える影響
男性の年齢による妊娠率への影響は、女性ほど大きくないと考えられてます。不妊治療の保険適用の条件でも、現時点では男性側の年齢は考慮されません。
しかし、男性側も加齢による精液量の減少や精子の運動率の低下が知られています。体外受精・顕微授精では男性の年齢が40歳未満の場合は、それ以上の年齢と比較し妊娠率や出産率が高かったという報告もあります7)。
男性側の年齢も、不妊治療の成功率には一定の影響がある可能性を意識しておくのがよいでしょう。
不妊治療の助成金制度
住んでいる地域によっては、不妊治療の治療費の助成を受けられる場合があります。
例として東京都では以下のような助成制度があります。
・不妊検査等助成事業
・特定不妊治療費(先進医療)助成事業
不妊検査等助成事業は、不妊検査及び薬物療法の他に、人工授精等の一般不妊治療にかかる費用の一部を助成してもらえます。
特定不妊治療費(先進医療)助成事業は、体外受精及び顕微授精を行う際に、保険適用された治療と併用して自費で実施される 「先進医療」の費用の一部を助成してもらえる制度です。
都道府県だけでなく市区町村でも助成制度を設けている場合もあり、併用して利用できることも多いため、自分が住んでいる地域でどのような制度があるか調べてみるとよいでしょう。
助成金が受けられる年齢は?
年齢などの助成金が受けられる条件は、制度ごとによって異なります。
東京都の助成制度の例でみると、不妊検査等助成事業は検査開始日における妻の年齢が40歳未満が条件となります。
特定不妊治療費(先進医療)助成事業では、1回の治療の開始日における妻の年齢が43歳未満であることとされています。
上記のように各制度によって変わるため、希望する助成制度の対象となるかの要件を確認するようにしましょう。
おわりに
参考文献
1)Habbema JDF, Eijkemans MJC, Leridon H, te Velde ER. Realizing a desired family size: when should couples start? Hum Reprod. 2015;30(9):2215-2221.
https://academic.oup.com/humrep/article/30/9/2215/621769
2)令和4年度厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業(健やか次世代育成総合研究事業) 標準的な生殖医療の知識啓発と情報提供のためのシステム構築に関する研究. 患者さんのための生殖医療ガイドライン. 東大病院女性診療科・産科/女性外科ウェブサイト
https://www.gynecology-htu.jp/reproduction/dl/seishokuiryo_gl_2-q2.pdf
3)日本産科婦人科学会. 不妊症. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5718/
4)American Society for Reproductive Medicine. Definition of infertility. Practice Committee Documents. ASRM.
https://www.asrm.org/practice-guidance/practice-committee-documents/definition-of-infertility
5)日本産科婦人科学会. 2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/activity/art/2023_JSOG-ART.pdf
6)厚生労働省. 令和4年4月から、不妊治療が保険適用されています. こども家庭庁ウェブサイト
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/bef0ee9a-c14d-4203-b02b-051adf80f495/cf3a6623/20230401_policies_boshihoken_funin_01.pdf
7)Murugesu S, Kasaven LS, Petrie A, et al. Does advanced paternal age affect outcomes following assisted reproductive technology? A systematic review and meta-analysis. Reprod Biomed Online. 2022;45(2):283-331.
https://www.rbmojournal.com/article/S1472-6483(22)00229-2/fulltext

