胚盤胞移植の着床率を上げるには?

最終更新日時:
2024-10-09
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

胚盤胞移植の着床率を上げる方法

体外受精では、良好な受精卵(胚盤胞)を移植することで妊娠の確率が高くなります。

そのために、その人に合った卵巣刺激法を行い、質の良い卵子を採取し、状態の良い精子と受精させることで、胚盤胞移植の着床率を上げるための工夫が行われています。

また、胚盤胞移植には、卵子の質だけでなく子宮内膜の状態や身体全体の免疫、健康状態が影響するため、生活習慣や食事に気を付けることで、より良い妊娠環境を保つことができます。

本記事では着床率を上げるために気を付けるべきことについてご紹介します。

胚盤胞移植の着床率を上げるには【医療編】

質の良い卵子を採取する

質の良い卵子を採取するためには、その人に合った卵巣刺激法の選択が重要です。卵巣刺激法とは、本来は1周期に1つずつしか育たない卵胞を、排卵誘発剤を使用して複数個成熟させるものです。

卵巣刺激の方法は、主に「高刺激法」と「低刺激法」に分けられます。

高刺激法は、主に排卵誘発剤の注射を多く使用し、一度に多くの卵子を発育させるため、1周期に多くの卵子を得ることができます。たくさんの卵子が得られるため、受精卵も複数個得ることができ、良質な受精卵(主に胚盤細胞)を獲得できる可能性が高くなります。一方、薬剤の使用量が増え、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高まることがあります。

低刺激法は主に内服の排卵誘発剤を使用します。注射回数が少ないため、薬剤の負担は少ないですが、1周期に獲得できる卵子の数は少なくなります。OHSSのリスクは低いですが、獲得卵子数が少ないため、得られる受精卵の数も少なくなります。

torch clinicでは、患者様それぞれに合わせた、家族計画を見据えた卵巣刺激方法を相談しながら決めております。

質の良い精子を回収する

より良い受精卵を得るためには、良い精子と受精させることも重要です。

一定期間の禁欲後に採取した精液は、精子の核の質や運動率がよくなることが知られているため、2〜5日の禁欲期間をおいた後に採取した精子を用います。

また、精子は酸化ストレスに弱いため、より良い精子を回収するために、漢方薬やビタミン剤などのサプリメント、抗酸化剤を提案することもあります。

質の良い胚を選定する

卵子と精子が受精すると、数日かけて受精卵が分割し、胚盤胞になります。この胚盤胞は、見た目の細胞の形態などから、Gardner(ガードナー)分類を用いてグレードがつけられます。

Gardner分類では、胚盤胞の成長段階と栄養外胚葉、内部細胞塊の形態を基準にしてグレード付けされます。

このグレードは、移植の着床率、妊娠率に影響することが知られています。

つまり、グレードの高い胚を移植した場合はグレードの低い胚を移植した場合より、着床率、妊娠率が高いという報告があるため、より良い胚の獲得が、妊娠率を上げることにつながります。

胚盤胞移植の着床率を上げるには【食事編】

胚の健康や成長、ホルモンバランス、着床率の向上、胎児と母体の健康、不妊リスクの低減には、食事から摂取する様々な栄養素が影響します。適切な栄養素の摂取は、妊娠の成功と健康的な妊娠の維持においてとても大切です。タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル等をバランス良く摂取しましょう。特に葉酸、ビタミンD、鉄分、亜鉛などの栄養素が胎児の発育には重要になります。

必要な栄養素を摂る

ビタミンD

ビタミンDを十分に摂取している女性は、体外受精での着床率が高く、卵巣予備能も高いという報告があります。ビタミンDはきのこ類、魚肉(マグロ、サケ、サバなど)や卵黄に多く含まれますが、日本人女性はビタミンDが不足しがちであることが知られていますので、妊娠を希望される女性はサプリメントなどで補うことをおすすめします。

葉酸

葉酸不足は胎児の神経管閉鎖障害のリスクを増加させます。葉酸サプリメントを妊娠前から摂取することが重要です。

鉄分

鉄分が不足すると、妊娠中に低出生体重児になるリスクがあります。鉄分の吸収率を高めるためビタミンCと一緒に摂取すると効果的です。

亜鉛

亜鉛は、子宮内膜を着床しやすい子宮環境に整える作用があります。亜鉛は牡蠣、豚レバー、赤身肉、鶏肉、魚介類に多く含まれます。

気を付けるべき食べ物

糖質の高い食べ物

糖質は体のエネルギー源となりますが、摂り過ぎると肥満や糖尿病の原因になります。肥満・糖尿病になると排卵しにくくなるなど、不妊症や不育症につながることがあります。また、急激な血糖値の上昇は、ホルモンバランスや体内の代謝に影響を与え、健康や妊娠の可能性に悪影響を及ぼすことがあります。白米や食パンに含まれる白い糖質よりも、茶色い糖質(玄米や全粒粉)のほうが血糖の上昇が緩やかです。

また、タンパク質や食物繊維を摂ることが、血糖値の上昇を緩やかにする助けになります。炭水化物を食べる際には、野菜やタンパク質を一緒に摂ることを心掛けましょう。

胚盤胞移植の着床率を上げるには【生活習慣編】

適度な運動

中等度の運動が不妊治療における着床率の上昇に関連しているという報告があります。中等度の運動とは、ウォーキング、サイクリング、スイミング、軽いジョギング等です。過度な運動は逆に悪影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。

良質な睡眠

睡眠障害や短い睡眠時間が妊孕性に悪影響を与えるという報告もあります。質の良い睡眠をとるためには、寝る前にリラックスする習慣を作ったり、規則正しい生活を意識することが大切です。

ストレスを溜めない

ストレスは女性の妊娠に影響を及ぼし、ホルモンの乱れによる月経周期や卵子の質の低下、自律神経の乱れを引き起こし、不妊や不育のリスクを増加させる可能性があります。妊活中はストレスになることからなるべく離れ、適切なストレス解消方法を見つけることが大切です。

体を冷やさない

体温の低下は血流の悪化を引き起こし、卵巣や子宮の機能低下を招く可能性があるため、妊活にとっては冷えは問題とされます。卵巣や子宮の血流が悪くなることで卵子が発育しにくくなったり、受精卵が着床しにくくなったりします。特に下半身を冷やさないよう意識しましょう。

おわりに

トーチクリニックでは医師による治療の診断やカウンセリングに加え、心理カウンセラーが心理的なご負担・人に話しづらい悩みなど医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考えさせていただく機会も設けております。

働きながらでも通いやすいよう、恵比寿駅徒歩1分・週7日開院(平日・土日祝)としています。

体外受精を含む不妊治療にご関心のある方は、お気軽にご相談ください。予約はウェブからも受け付けております

また、すでにお取り組みいただいている不妊治療中のお悩みについても、セカンドオピニオンの対応なども行っております。セカンドオピニオンを含めたクリニックへのよくあるご質問はこちらをご参考ください。