AGA(薄毛)の薬を飲んでいると、精子に影響はありますか?─「飲んでいた期間」が重要だという研究

小林 睦
小林 睦 医師
医師 婦人科 生殖医療科 医師
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torch clinic医師

AGA(男性型脱毛症)の飲み薬を長く続けている男性で、精液の量や精子の運動率が下がることが報告されています。この記事では、デュタステリド(AGA治療薬のひとつ)を服用中の男性200人を対象に、服用期間と精子所見の関係、そして「やめれば戻るのか」を調べた韓国の研究(Clin Exp Reprod Med, 2025)をご紹介します。結論を先にお伝えすると、服用期間が短いうちは中止後6か月でおおむね回復しましたが、およそ1年半〜2年を超えて服用していたグループでは、中止しても十分に戻らなかったという結果でした。妊活を考えている方には、服用の有無にかかわらず、まず精液検査で現状を知っていただくことをおすすめします。

なぜこの研究が行われたのか

AGAの飲み薬は、いまや多くの若い男性が使用しています。デュタステリドの世界市場は2023年に11億ドル規模に達し、その伸びはAGA治療での使用の広がりによるものとされています。日本と韓国ではAGAへの使用が承認されており、クリニックで処方を受けている方も少なくありません。

一方で、これらの薬が精子に与える影響については、これまで十分に調べられてきませんでした。過去の研究(Amoryら, 2007)で服用中に精液所見がやや低下することは示されていましたが、「長く飲み続けた場合はどうなるのか」「やめれば元に戻るのか」という、妊活中の男性にとって最も知りたい部分が空白のまま残されていたのです。

そこで研究チームは、服用期間の長さで男性を分け、薬をやめてから6か月後にどこまで回復するかを追いかけました。

AGA薬はどう効くのか──作用のしくみ

研究のご紹介の前に、AGA薬のはたらきを整理しておきます。

男性ホルモンであるテストステロンは、体内で「5α-還元酵素」という酵素によって、より強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換されますこのDHTが毛根に作用すると、髪が細く短くなり、薄毛が進みます。AGAの飲み薬は、この酵素をブロックしてDHTを減らすことで薄毛の進行を抑えます。

ここで大切なのが、5α-還元酵素には1型と2型の2種類があり、それぞれ体内での分布が違うという点です。血液中のDHTのうち約33%は皮膚(毛包・皮脂腺・汗腺)にある1型から、残りの約66%は前頭部や頭頂部の毛乳頭・前立腺・精嚢・精管・精巣上体といった生殖器にある2型からつくられています。つまり、DHTを減らす薬は髪だけでなく、精液をつくる臓器にも同時に作用しうるということです。

どんな研究だったか

韓国の一施設(CHA Bundang Medical Center 不妊センター)で、2021年1月〜2023年11月に不妊検査で受診した男性を対象に行われた研究です。条件に合わない114人を除き、200人(28〜39歳、平均34.3歳)が解析対象となりました。全員がAGA治療としてデュタステリド0.5mg/日を服用していました。

参加者は、受診時点までの服用期間によって5つのグループ(各40人)に分けられました。

 ① 6か月未満 ② 6〜12か月 ③ 13〜18か月 ④ 19〜24か月 ⑤ 24か月超

全体の平均服用期間は14.1か月(範囲3〜60か月)でした。

そして全員が、初回受診時に精液検査を受けたうえで薬を中止し、6か月後にもう一度精液検査を受けました。中止期間中は、カフェインを控える、6〜8時間の睡眠、禁煙・禁酒、1日2Lの水分、週2〜3回の運動といった生活習慣の改善も指導されています。

調べた項目は、精液量・精子濃度・運動率(総運動率と前進運動率)・正常形態率・生存率・精子DNA断片化率です。

わかったこと

① 長く飲んでいる人ほど、精液量と運動率が低かった

まず、薬を中止する前(服用中)の検査値を、服用期間別に比べた結果です。

精液量と運動率は、服用期間が長いグループほどはっきり低い傾向でした。精液量は3.0mLから1.1mLへとおよそ3分の1に、総運動率は42.9%から20.0%へとおよそ半分です。13か月以上服用しているグループ(③〜⑤)では、総運動率の平均値がWHOの基準値(42%以上)を下回っていました。

また、精子DNA断片化率は逆に、服用期間が長いグループほど高い結果でした(28.5%→37.8%)

一方で精子濃度は、数字としては下がっているように見えても、グループ間の差は統計学的に意味のあるものではありませんでした(p=0.055)。しかも最も長いグループ⑤でも平均49.9×10⁶/mLで、WHO 2021年版の基準値(16×10⁶/mL)を大きく上回っています。つまり「精子の数そのものが減っていた」わけではない、という点は安心材料といえます。正常形態率・生存率についても、グループ間ではっきりした差はありませんでした。

② 薬をやめてから6か月後、どこまで戻ったか

全員が初回検査のあと薬を中止し、6か月後に再検査を受けています。その結果が下図です。

すべてのグループで、数値自体は改善方向に動いています。薬をやめれば良くなる、という方向性そのものは共通です。

ただし、改善の幅は服用期間が長いほど小さくなります。精液量では+33.3%→+8.3%、総運動率では+22.8%→+5.7%と、きれいに右肩下がりです。

そして、ある期間を超えると「統計学的に意味のある改善」とはいえなくなります。総運動率では19か月以上(④⑤)、精液量では24か月超(⑤)が、その境目でした。特に総運動率は、④⑤では中止後もWHO基準(42%以上)に届いていません。

なお、前進運動率については全グループで意味のある改善が見られましたが、改善幅は①の+36.5%から⑤の+12.2%まで、やはり服用期間が長いほど小さくなっていました。精子濃度・正常形態率・生存率・DNA断片化率は、どのグループでも統計学的に意味のある改善は見られませんでした(もっとも精子濃度は、もともとWHO基準を上回っていたため、大きく改善する余地が乏しかったとも考えられます)。

③ 「戻りにくくなる」目安は、およそ1年半〜2年

研究チームは統計的な手法(ROC解析)で、回復しにくくなる服用期間の目安を算出しました。

・精液量:17.8か月(約1年6か月)

・総運動率:20.3か月(約1年8か月)

これを超えて服用を続けていた場合、中止後も所見が改善しにくい傾向がありました。

④ なぜ精液量と運動率だけが影響を受けるのか

研究チームの解釈はこうでした。精液のうち約20%は前立腺からの分泌液です。デュタステリドは前立腺の細胞を減らし(アポトーシス)、動物実験では前立腺に線維化(かたく変化すること)が起こることも報告されています。この変化がある程度まで進むと元に戻りにくくなり、精液量の回復を妨げているのではないか、という考えです。

一方、ラットの研究では精子をつくる働き(精子形成)そのものには影響が見られなかったことから、精子濃度が保たれていた今回の結果とあわせて、「精子をつくる力」ではなく「精子の通り道や精巣上体での成熟・輸送」の側の問題ではないか、と推測されています。

この結果をどう受け止めるか

この研究にはいくつかの限界があります。

・対象は200人と比較的小規模で、一施設のみのデータです

・服用を始める前の精液所見が分かっていません。研究者自身が最大の限界として挙げている点で、「もともとの値からどれだけ下がったのか」は厳密には言えません

・対象は「不妊検査で受診した男性」です。一般の服用者全体を代表しているとは限らず、所見が低めに出やすい集団である可能性があります

・精液所見の低下が、実際にどれだけ妊娠しにくさにつながるのかまでは調べられていません。研究チームも「現行のガイドラインでは、精液所見の低下の程度と妊娠率の関係は明確でない」と述べています

・追跡は中止後6か月までです。それ以上の時間をかければさらに回復した可能性は否定できません

・今回調べられたのはデュタステリドのみです。フィナステリドなど他のAGA薬に同じことが当てはまるかは、この研究からは分かりません

したがって、「AGAの薬を飲むと不妊になる」という受け取り方は行き過ぎです。一方で、「1年半〜2年を超える長期服用では、中止しても精液所見が戻りにくい方が一定数いる」という点は、妊活を考える男性が知っておく価値のある情報だと考えます。

当院の考え方

この研究から、妊活中・これから妊活を考えている男性の方にお伝えしたいことは2つです。

1. まずは精液検査で「今の状態」を知ってください

服用期間が長い方ほど、ご自身の現在地を知る意味は大きくなります。逆に、検査で問題がなければ、それは何よりの安心材料です。研究チームも「将来の妊娠を希望する若い男性がデュタステリドを服用する場合は、定期的な精液検査を行いながら服用期間を慎重に管理すべき」と結論づけています。

2. お二人そろって検査を

「妊活は女性が中心」という思い込みから、男性側の検査が後回しになるケースは少なくありません。AGA薬に限らず、まずお二人そろって検査を受けていただくことが、遠回りをしないための近道です。

おわりに

当院では、これから妊娠を考えている方や不妊治療を検討されている方に向けて、一人ひとりの状況に合わせたご相談・診療を行っています。ご夫婦だけでは判断しきれない、ご自身やご家族の具体的な不安についても、診察の際にていねいにご説明させていただきます。

出典・参考文献

  1. Kim YJ, Lee SR, Yu YD. Long-term use of dutasteride to treat androgenic alopecia in young men may lead to persistent abnormalities in semen parameters. Clin Exp Reprod Med. 2025;52(4):376-385. doi:10.5653/cerm.2024.07675
  2. Amory JK, Wang C, Swerdloff RS, et al. The effect of 5alpha-reductase inhibition with dutasteride and finasteride on semen parameters and serum hormones in healthy men. J Clin Endocrinol Metab. 2007;92(5):1659-1665.(本文中で引用されている先行研究)

文責

小林 睦(torch clinic 常勤医師)

※ 本記事は2026年7月時点の情報に基づいて作成しています。