体外受精で生まれた子は発達障害になりやすい?─デンマーク124万人の研究が示したことー

市山 卓彦
市山 卓彦 医師
上野院 院長 婦人科 生殖医療科 医師
お二人の道のりが明るく照らされるよう「理解」と「納得」の上で選択いただく過程を大切にしています。エビデンスに基づいた高水準の医療提供により「幸せな家族計画の実現」をお手伝いさせていただきます。
医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

不妊治療の保険適応、そして東京都での不妊治療の助成が充実するにつれて、体外受精で妊娠されるカップルが増えてきています。しかしながら体外受精で授かったお子さんの発達について、心配される親御さんは少なくありません。この記事では、デンマークで生まれた約124万人のお子さんを対象に、不妊治療と「発達・行動に関する病気の治療薬の使用」との関係を調べた大規模研究(Fertil Steril, 2025)をご紹介します。結論を先にお伝えすると、研究チーム自身が「不妊治療によって子どもの発達障害リスクが高まるという根拠は乏しい」と結論づけています。なぜそう言えるのか、順を追って見ていきます。

なぜこの研究が行われたのか

世界では毎年50万人以上が体外受精などの生殖補助医療(ART)で生まれており、その数は増え続けています。一方で、これらの技術で生まれたお子さんの長期的な発達への影響については、これまでの研究結果が一致していませんでした。自閉症やADHD(注意欠如・多動症)との関連を指摘する報告もあれば、関連はないとする報告もあり、はっきりしていなかったのです。

こうした研究結果のばらつきは、対象人数が少なかったり、必要な情報が欠けていたりといった研究方法上の限界が原因と考えられました。そこで研究チームは、デンマークの国全体の登録データという大規模で偏りの少ないデータを使い、改めてこの問いに取り組みました。

どんな研究だったか

デンマークで1994年から2012年に生まれた約124万人のお子さんを対象とした、国の登録データに基づく研究です。このうち約5万8千人(4.7%)が生殖補助医療(体外受精、顕微授精、人工授精など)で生まれていました。

この研究は発達障害の有無を「発達・行動に関する病気の治療薬が処方されたかどうか」で判定しています。具体的には、抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、ADHDの薬、睡眠薬・鎮静薬の処方を、7歳になるまでの間で確認していました。

そして特に重要なのが、結果を確かめるために行った「きょうだい比較」という手法です。これは、同じお母さんから生まれたきょうだいのうち、「自然妊娠で生まれた子」と「不妊治療で生まれた子」を比べる方法です。同じ家庭で育つきょうだい同士を比べれば、遺伝や家庭環境といった「親側の要因」の影響を取り除いて、治療そのものの影響を見極めやすくなります。

わかったこと

結果を整理すると、次のようになります。

① 単純な比較では、わずかな差が見られた

自然妊娠で生まれた子と比べると、生殖補助医療で生まれた子は、発達・行動の薬を処方される割合がわずかに高い結果でした(オッズ比1.15)。ただし、これは「約1.15倍」という小さな差です。

② しかし「出生体重」を考慮すると差は消えた

生殖補助医療で生まれた子は、低出生体重や早産がやや多い傾向があります。そして低出生体重・早産はそれ自体が発達への影響と関係することが知られています。この研究では、出生体重を計算に入れると、上記のわずかな差は統計的に意味のあるものではなくなりました。つまり、見られた差の多くは「治療そのもの」ではなく「低出生体重・早産」を介したものだったと考えられます。

③ きょうだい比較では、リスク上昇は見られなかった

最も重要な点です。同じお母さんのきょうだいで「自然妊娠の子」と「不妊治療の子」を比べたところ、はっきりしたリスクの差は認められませんでした。これは、見られた関連が治療そのものではなく、親側の要因によって説明されることを強く示唆します。

研究チームは興味深い解釈も加えています。不妊治療を経て授かった親御さんは、お子さんの様子をより注意深く見守る傾向があり、その結果として早めに受診・治療につながりやすい(=薬の処方が増えやすい)可能性がある、というものです。

この結果をどう受け止めるか

この研究には、規模が大きく偏りが少ないという大きな強みがあります。一方で、いくつか注意点もあります。

発達障害の有無を「薬の処方」で判断しているため、薬を使わずに対応されたお子さんは拾えていない可能性があり、また睡眠薬などは一時的な別の理由で処方されることもあります。さらに、治療で使われたホルモン剤の詳細な情報はなく、0〜7歳という早い時期に限った観察である点も限界として挙げられています。

それでも、研究チームが総合的に下した結論は明確です。わずかに見られた関連、親御さんの注意深さ、低出生体重・早産が差を説明していたこと、そしてきょうだい比較で差が消えたこと——これらを合わせると、生殖補助医療そのものが発達障害のリスクを高めるという根拠は乏しい、というものでした。

当院の考え方

この研究が示す最も大切なメッセージは、不妊治療・体外受精そのものが子に悪影響を及ぼすことを過度に恐れる必要はないということです。見られたわずかな差は、治療の手技ではなく、低出生体重や早産、そして親側の背景を介したものでした。

だからこそ当院では、お母さんとお子さんの安全のために、低出生体重や早産につながりやすい多胎(双子以上)を避ける単一胚移植を基本としています。お子さんの発達について不安な点があれば、それは多くの親御さんが感じる自然な気持ちです。どうぞ遠慮なく診察の際にお聞かせください。

おわりに

当院では、これから妊娠を考えている方や不妊治療を検討されている方に向けて、一人ひとりの状況に合わせたご相談・診療を行っています。論文の数字だけでは判断しきれない、ご自身やご家族の具体的な不安についても、診察の際にていねいにご説明させていただきます。

出典・参考文献

1)Angel P, Hermansen M, Ramlau-Hansen CH, Gaml-Sørensen A, Kristensen DM, Lindahl-Jacobsen R. Neurodevelopmental or behavioral disorders in children conceived after assisted reproductive technologies: a nationwide cohort study. Fertil Steril. 2025;123(4):665-676. doi:10.1016/j.fertnstert.2024.10.017

文責

小林 睦(torch clinic 常勤医師)