精液量を増やすには時間をかけて生活習慣を改善したり栄養摂取を心がける方法があります。ただし、妊活の観点では、精液量単独よりも全体的な精子の質に着目するのが良いでしょう。今回の記事では精液量の増やし方や精液量の妊娠への影響、医療機関でできる精液検査や不妊治療について解説します。
精液量を増やすにはどうする?
精液量を短期間で劇的に改善する方法はありません。時間をかけて個人でできることは生活習慣の改善や栄養摂取が挙げられます。
精液量は妊娠のしやすさに直結するものでなく、妊娠予測においては必ずしも重要とされていません1)。そのため、妊活において過度に気にする必要はない指標です。一方で、精液量が極端に少ない場合は精子数や精路(精子を運ぶ通路)に問題がある可能性があります。なお、男性の精液検査では、精液量以外にも以下のような項目を検査し、精子の質を判定する上で重要な指標となります。
精液量や精子の質を整えるためにできる生活習慣の改善や栄養摂取について以下で解説します。
精液量や質を整えるために意識したい生活習慣
精液の量や質を整えるために、以下5点を意識しましょう。
- 1.適度な運動・筋トレをして適正体重を保つ
- 2.良質な睡眠を確保する
- 3.禁煙する
- 4.アルコールは控える
- 5.下半身を締め付けたり、温め過ぎたりしない
ご自身のライフスタイルと照らし合わせながら、取り入れやすいものから実践してみてください。
適度な運動・筋トレをして適正体重を保つ
肥満の男性は、精子の数や運動率、正常な形態の割合が低下する傾向があることが知られており3)、体重管理は男性不妊の予防・改善において基本的なアプローチとなります。体重を適正に保つためには、定期的な運動や筋トレを取り入れた生活習慣が効果的です。
スクワットや腕立て伏せといったレジスタンス運動(筋肉に負荷をかける運動)には、男性ホルモンであるテストステロンの分泌を促すことが期待でき、テストステロンは、精子をつくる過程に欠かせないホルモンです。
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動と筋トレをバランスよく組み合わせることで、無理のない体づくりとホルモンバランスの改善が期待できます。
良質な睡眠を確保する
睡眠不足はもちろん、長すぎる睡眠もホルモンバランスに影響を与え、精子の濃度や運動率の低下に関係する可能性があるとされています3)。
実際に睡眠時間が短くなると、精子の指標を悪化させる傾向があるという研究報告もあります4)。
理想的な睡眠時間は6〜8時間が目安であり、毎日同じ時間に就寝・起床することで体内時計を整えることが大切です。
また、就寝前にスマートフォンやパソコンの画面を長時間見続けると、脳が刺激を受けて眠りが浅くなることもあります。リラックスした環境で眠れるよう工夫することが、精子の健康維持にもつながります。
禁煙する
喫煙は精子の状態に悪影響を及ぼすことが知られています。タバコに含まれるニコチンやその他の有害物質は、精子の数を減らすだけでなく、運動率や正常な形態の割合まで低下させることが報告されています5)。
喫煙者本人だけでなく、パートナーや未来の赤ちゃんにも関わることであるため、禁煙に取り組むことは非常に意義のある選択です。
アルコールは控える
アルコールの過剰摂取は、精子の質に悪影響を及ぼす可能性があります。日常的に大量のお酒を飲む習慣があると、精子の数や正常な形の割合が低下し、結果として精液の質が下がることが指摘されています6)。
タバコとは異なり、アルコールは必ずしも完全に断つ必要はありませんが、摂取量には注意が必要です。厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒量」は、1日あたり純アルコールで約20g程度とされています。ビール中瓶1本(500mL)、日本酒1合(180mL)、チューハイ(7%)なら350mL缶1本相当です7)。
精巣を温め過ぎない
精子は熱に弱いことが知られており、温め過ぎないほうが良いとされています。
例として、長時間のお風呂、膝の上でのパソコンの使用は、いずれも精巣の温度を上昇させてしまいます。サウナについても、長時間・高頻度の利用で一次的に精子数が低下する可能性があるため注意しましょう。
精液量や精子の質の改善をサポートする食生活
精子の状態を良好に保つためには、日々の食事が非常に重要であり、4つのポイントを元に食生活を送りましょう。
- 1.さまざまな食べ物をバランスよく摂取する
- 2.ビタミンやミネラルを意識的に摂取する
- 3.脂っこい食事を控える
- 4.不足しがちな栄養を補給するためにサプリメントを活用する
さまざまな食べ物をバランスよく摂取する
健康な精子を育てるためには、1日3食、バランスのとれた食事を継続することが基本です。
「これさえ食べればよい」といった特定の食品に偏るのではなく、さまざまな栄養素を含む食材を組み合わせて摂ることが、体の機能を整えるうえでも大切です。
食事の基本スタイルとしておすすめなのが、日本の伝統的な「一汁三菜」に代表される、主食・主菜・副菜のそろった献立です。
- 主食(ごはん、パン、麺類)
- 主菜(肉、魚、卵、大豆製品)
- 副菜(野菜、きのこ、海藻類)
毎食に「主食・主菜・副菜」がそろった食事を心がけることで、精子の形成やホルモン分泌を支える体の基盤が整っていきます。
ビタミンやミネラルを意識的に摂取する
精子の質を保つためには、ビタミンやミネラルをしっかりと摂ることが大切です。これらの栄養素は、抗酸化作用やホルモンバランスの維持、精子形成機能を改善する可能性があることが分かっています。
特に意識したいのは、以下の栄養素です。
現代の日本人は、野菜の摂取量が推奨量を大きく下回っていると言われており、ビタミンやミネラルが慢性的に不足しがちです。こうした栄養素を含む食品を意識して取り入れることが、健康な精子を育む第一歩になります。
脂っこい食事を控える
精子の質を守るためには、脂っこい食事を控えることも大切です。質の良い精子を形成するには脂質の摂取も大切ですが、摂りすぎも良くありません。
なかでも注意したいのが、トランス脂肪酸と呼ばれる人工的な脂肪です。マーガリンやショートニング、加工菓子などに含まれており、精子の濃度や総数を低下させる可能性があるとする研究報告もあります。海外で行われた研究では、トランス脂肪酸の摂取量が多い人ほど、精子の質が低い傾向にあることが示されています8)。
日常的にトランス脂肪酸が多く含まれているクッキーやケーキ、牛肉や揚げ物をよく食べている方は、控えめにすることを意識するだけでも、精子にやさしい食生活へ近づきます。
不足しがちな栄養を補給するためにサプリメントを活用する
健康な精子づくりの基本は、あくまでもバランスの良い食事です。しかし、忙しい日々の中で毎食きちんと栄養バランスを整えるのは簡単ではありません。
そんなときには不足しがちな栄養素を補う目的でサプリメントを活用するのも一つの方法です。
サプリメントを飲めば、精液量や質が直接的に改善するわけではなく「食事の補助」として使うことが大切です。
精液量に関しては、セレンのサプリメントを摂取することで精子数、精子濃度、精子形態と共に改善されたという海外の研究もあります9)。ただし、ビタミンやミネラルでも、摂りすぎは健康を害するおそれがあるため、使用量を守ることが重要です。
精液量は妊娠に影響する?自然妊娠が期待できる基準
前述のとおり、精液量はあまり妊娠への影響はないとされています1)。精液量以外で、精子の濃度や運動率などの指標は、妊娠のしやすさに関わっています。
ただし、極端に精液量が少ない場合は、対処が必要になることもあります。精液量や他の指標についての基準について確認していきます。
男性の精液量の平均と基準値
一般的な成人男性の1回の射精における精液量は、海外の研究において平均が約3.2mLいう調査結果があります10)。
一方でWHOの基準では精液量を含めた精液検査の指標の下限基準値が設定されています。精液量の下限基準値は1.4mL以上とされています2)。
精液量が下限基準値を下回る場合は精路(精子を運ぶ通路)の閉塞などが疑われます。しかし、男性の精液は日による変動も大きく、検査結果が基準値以下だった場合でも、再検査で問題ない結果となることもあります。
精液量以外の指標
精液量以外の指標の意味や、下限基準値より低い場合に考えられる病気の種類は以下のとおりです。
精液量が少ない原因
精液量が少ない原因として、男性生殖器の疾患の可能性があります。男性生殖器の疾患は、男性不妊の原因にもなります。
男性不妊は造精機能障害、性機能障害、精路通過障害が主な原因とされますが、このうち性機能障害と精路通過障害では特に精液量が減少することがあります。例えば、性機能障害のひとつである逆行性射精や、精路通過障害に分類される射精管閉塞は、精液量の減少を起こす可能性があります。
逆行性射精は、射精時に精液が膀胱に逆流するため、精液量が減ることがあります。逆行性射精は前立腺肥大症の手術や糖尿病、脊髄損傷、特定の薬などで起こる可能性があります。
射精管閉塞は、精嚢液と精子が合流する射精管が閉塞されており、精液の大部分を占める精嚢液の供給が阻害されるため、精液量が減ることがあります。射精管閉塞は尿道炎や結核の感染症、慢性前立腺炎、膀胱頸部切除などで起こる可能性があります。
精液量や精子の質が気になるときに医療機関でできること
精液量や精子の質が気になる場合、医療機関では精液検査を受けることができます。また、妊活中に精子の状態が良くない場合でも、不妊治療を行うことで妊娠できる可能性もあります。
精液検査と不妊治療について以下で解説します。
精液検査
トーチクリニックでは、禁欲2~3日後にマスターベーションにて精液を採取いただき、精液量を測定します。さらに、顕微鏡を使って精子濃度、運動率、総精子数、前進運動精子数を算出します。
精液の所見は日によって変わるため、1回の精液検査だけで精液の状態を完全に判断することはできません。1回目の精液検査の結果が不良で再検査をした人のうち、23%は2回目の検査で正常であったという研究報告もあります11)。当院では結果が不良であった場合、3か月後の再検査を推奨しております。
精液検査の詳細については、以下の診療内容ページで解説しているのであわせてご覧ください。
関連ページ:精液検査
不妊治療
トーチクリニックでは、一般不妊治療(タイミング療法や人工授精)に加えて、高度生殖医療(体外受精、顕微授精など)も提供しています。精液検査の結果が不良である場合でも、妊娠の可能性がある不妊治療もあります。
例えば、精子濃度が低い場合や精子運動性が不良な場合でも、卵子と精子を同じ培養液に入れる方法の体外受精を実施することで、妊娠の可能性があります。
さらに、精子濃度や精子運動性の状態が極めて不良な場合でも、顕微鏡を使って精子を卵子に注入する方法である顕微授精を行うことで、妊娠できる可能性があります。
体外受精や顕微授精などの高度生殖医療については、以下の診療内容ページで解説しているのであわせてご覧ください。
関連ページ:高度生殖医療
精液量に関するよくある質問
精液量に関して多く寄せられる質問にお答えします。ご自身の状況と照らし合わせながら、参考にしてください。
Q:精液量を増やしたり質を改善する即効性のある方法はありますか?
精液量や精子の質が短期間で大きく変わったと感じられる方法はありません。精液の状態は、年齢やホルモンバランス、日々の生活習慣、さらには精神的なストレスなど、さまざまな要因が関わって決まります。
バランスの取れた食生活、適度な運動、十分な睡眠といった生活習慣の改善を継続することが、精液の量や質を高めるための最も確実な方法です。
Q:年齢とともに精液量は減っていきますか?
加齢とともに精液量は少しずつ減少していく傾向があります。ただし、その変化には個人差があり、必ずしも全員が同じように減るわけではありません。
年齢の影響を受けやすいのは、精液の量そのものよりも、精子の運動率や正常な形の精子の割合(正常形態率)です。妊活を考えている場合には、年齢による変化も踏まえて計画を立てることが大切です。
おわりに
参考文献
1)Bonde JP, Ernst E, Jensen TK, et al. Relation between semen quality and fertility: a population-based study of 430 first-pregnancy planners. Lancet. 1998;352(9135):1172-1177.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9777833/
2)World Health Organization. WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen. 6th ed. World Health Organization; 2021.
https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/343208/9789240030787-eng.pdf
3)こども家庭庁. 男性不妊について. こどもまんなか 不妊治療と不育症ポータルサイト. 2024.
https://funin-fuiku.cfa.go.jp/dictionary/theme06/
4)hen HG, Sun B, Chen YJ, et al. Sleep duration and quality in relation to semen quality in healthy men screened as potential sperm donors. Environ Int. 2020;135:105368.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016041201933137X
5)日本泌尿器科学会. 2024年版 男性不妊症 診療ガイドライン.
https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/52_male_infertility.pdf
6)La Vignera S, Condorelli RA, Balercia G, Vicari E, Calogero AE. Does alcohol have any effect on male reproductive function? A review of literature. Asian J Androl. 2013;15(2):221-225.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23274392/
7)厚生労働省. アルコール. 健康日本21(アルコール).
https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5.html
8)Chavarro JE, Mínguez-Alarcón L, Mendiola J, Cutillas-Tolín A, López-Espín JJ, Torres-Cantero AM. Trans fatty acid intake is inversely related to total sperm count in young healthy men. Hum Reprod. 2014;29(3):429-440.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24419496/
9)Salas-Huetos A, Rosique-Esteban N, Becerra-Tomás N, Vizmanos B, Bulló M, Salas-Salvadó J. The effect of nutrients and dietary supplements on sperm quality parameters: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. Adv Nutr. 2018;9(6):833–848.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2161831322012728
10)Rehan N, Sobrero AJ, Fertig JW. The semen of fertile men: statistical analysis of 1300 men. Fertil Steril. 1975;26(6):492-502.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1169171/
11)Blickenstorfer K, Voelkle M, Xie M, Fröhlich A, Imthurn B, Leeners B. Are WHO recommendations to perform 2 consecutive semen analyses for reliable diagnosis of male infertility still valid? J Urol. 2019;201(4):783-791.
https://www.auajournals.org/doi/10.1016/j.juro.2018.11.001