適切な射精頻度は?健康や妊活に与える影響や精子の量・運動率を高めるための習慣も解説

市山 卓彦
市山 卓彦 医師
理事長・恵比寿院院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

射精頻度は個人によって差がありますが、極端な頻度でなければ体に悪影響を与えるものではありません。この記事では、年齢別の射精頻度やマスターベーションの注意点、さらには妊活と射精頻度に関してなどをまとめました。これから妊活を考えている方はぜひ参考にしてください。

年齢別の射精頻度(毎日〜週1)の割合

健康や妊活を考えるうえで、一般的な射精頻度はどれくらいの回数なのか気になる人も多いでしょう。

近年のアンケート調査によると、週1回以上マスターベーションをする割合は、10〜20代で73.8%、30代で71.5%、40代で61.3%、50代で54.9%でした1)。年齢が上がると、射精の頻度は少しずつ減る傾向にあります。

頻度別の割合を細かく見ると、毎日マスターベーションを行う割合が10〜20代では27.2%、30代では17.7%、40代では5.6%、50代では4.8%という結果でした。いずれも10〜20代がピークで年齢を重ねるごとに割合が低下する傾向となっています。

マスターベーションをおこなう際の注意点

マスターベーションは自然な生理現象であり、妊活中の方も無理に控える必要はありません。自分の体や性の感覚を知るひとつの手段として、また心身の健康の維持につながる面もあります。ただし、1日に何度も繰り返すような過度な頻度は性器に負担がかかり、感覚にも影響を及ぼしかねません。

妊活中の方などはマスターベーションでの射精頻度に不安や疑問を感じる場合もあるかもしれませんが、日常生活に支障がなく精神的にも安定しているのであれば問題ありません。

マスターベーションの正しい方法

マスターベーションの仕方によっては性器の健康に悪影響が出る場合もあるため、マスターベーションの正しい方法について紹介しましょう。

まず、衛生面に気を配り、手を洗います。爪が伸びているようでしたら事前に切っておいてください。

強すぎる刺激は性器の皮膚を傷つけることがあるため、やさしく行いましょう。うつぶせになって、性器を押し付けたりすることも、性器にとってよくないので避けるようにします。

射精頻度が健康に与える影響

射精頻度の健康や妊活への影響も、知っておいていただきたいポイントです。頻繁な射精が脳や体に悪影響を及ぼすことはないとされています。マスターベーションは自然な行為であり、健康を損なうことはなく、罪悪感や誤解のほうが精神的な負担になる可能性もあります。

性欲や射精頻度には個人差もあり、無理に我慢することがストレスとなる場合もあるため、心身のバランスを保つうえで、適度な射精は自然で健やかな行為といえるでしょう。

射精頻度と前立腺がんとの関係性

射精頻度の健康への影響のひとつに、前立腺がんと射精頻度の関係性があります。

海外の大きな調査では、射精頻度が一定の頻度より高いと、前立腺がんのリスクが下がる可能性があるとされています。例えば、月に21回以上射精していた人は、月に4〜7回の人に比べて前立腺がんになる割合が少なかったという結果が出ています2)

ただし、前立腺がんについては、年齢や生活習慣など他の影響も考えられるため、射精の頻度だけでリスクが決まるわけではありません。

射精頻度(禁欲期間)が妊活に与える影響

男性の射精頻度(禁欲期間)は、精子の状態に影響があり妊娠のしやすさにも関わってきます。あまりに頻繁に射精すると1回あたりの精子の量は一時的に減少します。

一方で、長く射精しない状態が続くと、古い精子が溜まり精子の運動率が下がる傾向にあります3),4)。また、禁欲期間が長すぎると精子のDNA断片化というDNAが傷ついた状態になる場合があり、受精や妊娠のしやすさに影響が出る可能性があります5)

世界保健機関(WHO)の資料では禁欲期間として2〜7日が推奨されていますが6)、これは精液検査をする時の推奨期間であり、妊活においては必ずしも推奨される禁欲期間ではありません。

最近の研究では、禁欲期間が4日間の場合よりも1日のみの方が精子の運動性や機能が良かったという結果もあるため7)、妊活のときの禁欲期間はあまり長期間にならない方が良いでしょう。

妊娠しやすいタイミング

妊娠しやすいタイミングは排卵日の4~5日前から排卵日当日までの数日間です。その期間の中でも、排卵日の1~2日前は、妊娠確率が最も高くなる時期です。このタイミングは、卵子と精子のそれぞれが受精可能で卵子と精子が出会う確率が高くなるからです。

卵子が受精できるのは排卵後24時間で、特に排卵後10時間が受精しやすいとされています。精子の方は約3~5日間受精能力を保つことができるので、排卵日の少し前や当日が妊娠しやすいタイミングとなります。妊活中の方は禁欲期間の設定と排卵日を意識してみてください。

排卵時期の予測については、以下のコラムで詳しく解説していますので、参考にしてください。

関連記事:妊娠しやすいタイミング|排卵時期を予測する方法や妊娠力の高め方についても解説 

射精頻度以外で精子の量や運動率などに影響を与える習慣

射精頻度以外にも、精子の量や運動率などに影響がある生活習慣があります。ここでは、精子の量や運動率に影響があるとされる食生活やストレス、喫煙について、気をつけるべきポイントを解説します。

妊活中に意識したい食生活|精子の質を上げる栄養と習慣

精子の量や運動率を高めるためには、射精頻度の調整だけでなく、日々の食生活にも目を向けることが大切です。精子の質を保つには、体に必要な栄養素をバランスよく摂ることが欠かせません。

まず、食生活で意識したいのは適正体重を維持することです。体重が増えすぎると糖尿病リスクがあり、合併症の勃起・射精障害になる場合もあります。一方、体重が軽く低BMIの場合は精子の量や運動率への悪影響が懸念されます。妊活中は過食や過度な食事制限を避け、栄養不足にならないよう注意しましょう。

栄養素については、野菜や果物に含まれる抗酸化成分(ビタミンC、E、リコピン、βカロチン、ポリフェノールなど)が精子の運動の改善、亜鉛が精子のコンディションによいとされています。

ストレスが射精頻度や運動率に与える影響と妊活への注意点

過度なストレスが続くとホルモンバランスが乱れやすくなります。テストステロンやコルチゾールというホルモンの分泌が低下して、精子をつくる機能が低下することもあります。また、ストレスレベルが高い場合、精液の量や濃度が少なく運動率が通常より低くなることがあります。

日常生活や仕事でストレスを避けることは難しいですが、なるべくストレスをためこまないように適度な運動やリラックスする時間を意識的に確保しましょう。また、十分な睡眠をとることもホルモンの安定に役立ちます。ストレス管理は、健康全般はもちろん精子の運動率や量の改善のためにもとても大切です。

妊活中の喫煙は要注意|射精頻度や運動率に影響の可能性

喫煙は妊活に悪影響を及ぼす要因のひとつです。とくに男性の場合、喫煙が精子の濃度や運動率、精子のDNA破損に悪影響を与えることがわかっています。男性ホルモンの低下やニコチンの影響で血流が悪くなってED(勃起不全)になる場合もあり、喫煙は男性不妊の要因のひとつといえます。

妊活を本格的に始める前に禁煙をして、精子の状態を整えたいものです。精子の形成周期は約60〜70日ほどなので、妊活や精子検査の2か月くらい前から禁煙をするとよいでしょう。

精巣の温めすぎに注意|妊活中は精巣の温度管理も意識して

妊活中は精巣の温度管理も意識したいポイントです。精巣は体温よりやや低い状態で機能します。たとえば長時間のサウナや電気毛布、ノートパソコンの膝上使用など精巣周囲を温めすぎる行動は精子の量や運動率の低下につながるおそれがあるので、できるだけ避けるようにしましょう。

リフレッシュのためのサウナも使用時間を短めにしたり、頻度を調整したりと温めすぎない工夫を取り入れてください。また、股間を刺激しすぎると、血管を圧迫したり温度の上昇につながったりします。サイクリングなどスポーツの際にも注意するようにしましょう。

射精頻度や生活習慣を意識しても妊活がうまくいかないときの対処法

射精頻度や食生活、ストレス管理といった生活習慣を意識していても、妊活が思うように進まないことがあります。精子の量や運動率を保つ努力を続けても、一定期間妊娠に至らない場合は不妊症の可能性も視野に入れて考える必要があります。

一般的には、1年程度の妊活で妊娠に至らない場合、不妊の疑いがあるとされます。男性が年齢を重ねるにつれて精子の数や運動率は低下します。妊娠を希望しているもののタイミングが合っているか不安な場合など、早めに専門機関に相談してください。

男性側にも原因があるケースも少なくないため、男女同時の検査・受診が推奨されています。パートナーと妊活や検査について話し合ってみてください。生活習慣の改善に加えて、必要に応じて専門的なサポートを受けることで、妊活の選択肢も具体的になるでしょう。

不妊治療について以下の記事で解説しているので、関心のある方は参考にお読みください。

参考記事:不妊治療とは?何をするのかわかりやすく解説

男性が受ける不妊症の検査

男性が受ける不妊症の検査には、大きく分けると精液検査と泌尿器科的な方法で行う精密検査があります。精液検査はまず最初に受けていただく基本的で大切な検査です。

当院では禁欲2~3日後にマスターベーションにて採精容器に精液全量を採取いただき、「精液量」を測定、顕微鏡下で「精子濃度」「運動率」「総精子数」「前進運動精子数」を算出します。

検査費用は検査費用は医療機関によって異なりますが、一般的には精液検査のみ実施する場合、保険適用では数百円、自費では3,000〜6,000円(税込)程度が目安になります。当院での精液検査の費用は3,000円(自費・税込み)(再診療や診断料別途)です。

精液検査については、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:精液検査や不妊治療の採精でおすすめの禁欲期間について

その他に当院で行う詳しい検査には、「精子DNA断片化検査(DFI検査)」と「精液抗酸化力検査(TAC検査)」があります。これらの検査はWHOが新しい精液検査項目として認めており、一般検査に加えて行うことで、男性不妊症のより詳しい原因やリスクを特定できる可能性があります。

また、泌尿器科の検査は主に超音波の検査や触診、血液検査による内分泌検査などがあります。男性不妊症の原因として頻度の高い精索静脈瘤の有無や精液異常の原因について検査します。

射精頻度に関連する質問

射精頻度や精子の量、運動率などに関してよく聞かれる質問についてまとめましたので、参考にしてください。

Q. 射精後に精子の数が元に戻る期間は?

一度射精をすると、精子の数が元に戻るまでには約3〜4日かかると言われています。これは精液中の精子数が一定水準まで回復するまでの期間です。前述のとおり、精子がつくられる形成周期は約60〜70日であり、継続して少しずつ新しい精子がつくられ続けています。

Q. 射精頻度が多すぎると精子はなくなってしまいますか?

射精頻度が多いと一時的に精子の量は減る可能性はありますが、完全になくなることはありません。精子は日々新しくつくられています。無理な禁欲はせず、定期的に射精することで元気な精子を保つようにしましょう。

Q. 精液量を増やすにはどうすれば良いですか?

精液量を増やしたい場合に、個人でできる範囲で劇的な効果が期待できるものはあまりありません。前提として、精液量そのものは妊娠のしやすさに直結するものではなく、妊活では過度に気にする必要のない指標です。

しかし、極端に少ない場合は精路通過障害などの病気の可能性もあるため、その場合は検査を受けるようにしましょう。精液量の基準値は1.4mL以上が目安となります。

精液量を増やしたい場合は、まずは生活習慣を意識し、食生活やストレス管理などから始めるのが良いでしょう。海外の調査ではセレンサプリメントや栄養補助食品の使用により精液量が改善したという報告がありますが6)、サプリメントの選択や体への影響など自分で判断することが難しい面もあります。

対策する必要があるかどうかも含めて、なるべく医師と相談しながら進めていくと良いでしょう。

おわりに

トーチクリニックでは、将来妊娠を考えている方向けのブライダルチェックなども提供しています。ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。

恵比寿駅・上野駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、土曜日も開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。

医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。

ブライダルチェックにご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ブライダルチェックのご予約はウェブからも受け付けております。

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また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考にしてください。

ブライダルチェック
ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。

参考文献

1)一般社団法人日本家族計画協会. ジャパン・セックスサーベイ2024.p.15.
https://www.jex-sh.jp/pdf/japan_sex_survey/sexsurvey2024.pdf

2)Rider JR, Wilson KM, Sinnott JA, Kelly RS, Mucci LA, Giovannucci EL. Ejaculation frequency and risk of prostate cancer: updated results with an additional decade of follow-up. Eur Urol. 2016;70(6):974–982.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27033442/

3)Agarwal A, Gupta S, Du Plessis S, Sharma R, Esteves SC, Cirenza C, et al. Abstinence time and its impact on basic and advanced semen parameters. Urology. 2016;94:102–110.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27196032/

4)Lo Giudice A, Asmundo MG, Cimino S, Cocci A, Falcone M, Capece M, et al. Effects of long and short ejaculatory abstinence on sperm parameters: a meta-analysis of randomized-controlled trials. Front Endocrinol (Lausanne). 2024;13:1373426.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38828413/

5)Setti AS, et al. Oocyte ability to repair sperm DNA fragmentation: the impact of maternal age on intracytoplasmic sperm injection outcomes. Fertil Steril. 2021;116(1):123-129.
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(20)32617-0/fulltext

6)World Health Organization. WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen. 6th ed. Geneva: World Health Organization; 2021.
https://www.who.int/publications/i/item/9789240030787

7)Okada FK, Andretta RR, Spaine DM. One day is better than four days of ejaculatory abstinence for sperm function. Reprod Fertil. 2020;1(1):1-10.
https://raf.bioscientifica.com/view/journals/raf/1/1/RAF-20-0018.xml

8)Salas-Huetos A, Rosique-Esteban N, Becerra-Tomás N, Vizmanos B, Bulló M, Salas-Salvadó J. The effect of nutrients and dietary supplements on sperm quality parameters: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. Adv Nutr. 2018;9(6):833–848.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2161831322012728?via%3Dihub