妊娠中、特に妊娠初期の飲酒は、胎児性アルコール症候群(FAS)や流産のリスクを高めるため、禁酒が必要です。本記事では、妊娠中の飲酒により生じるリスクや、妊娠周辺時期の飲酒の是非などについて説明します。
妊娠中は飲酒はNG|妊娠初期に限らず中期・後期でも避ける
1.2%の妊婦(平成29年度)が飲酒をしているという報告1)がありますが、妊娠中の飲酒は避けるべきです。特に赤ちゃんの器官形成期である妊娠初期の飲酒は、胎児性アルコール症候群、胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)のリスクを高めることが知られています。妊娠中・後期であっても流産や胎児の成長障害、中枢神経障害の原因となるため、妊娠期間全体を通して禁酒が必要です。
胎児に全く影響がないとされるアルコールの安全量は規定されていません。そのため、少量であっても飲酒するべきではないでしょう。
流産のリスクが増加
原理はわかっていませんが、妊娠中のアルコールは流産のリスクを高めることが知られています。約5000人の妊婦に対して実施された米国の研究2)によれば、お酒の種類や量に関わらず妊娠29日目まで飲酒を続けた妊婦では、飲酒していない妊婦に比べて自然流産のリスクが37%高まっていました。
これは、流産に与える飲酒の影響の高さを示しています。特に最終月経から5〜10週の間における飲酒が、流産のリスクを高めるようです。
胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)
胎児性アルコール・スペクトラム障害(Fetal Alcohol Spectrum Disorders, FASD)とは、妊婦の飲酒によって胎児に起こるさまざまな症状の総称です。一例としては、胎児期の睡眠障害、そして成長してからの学習障害や精神疾患といった精神発達への影響が知られています。
FASDの中で最も重篤なものが後述する胎児性アルコール症候群(FAS)であり、特異的顔貌や知的障害が症状としてみられます。FASDのリスクは妊娠中(特に妊娠初期)の飲酒によって高まります。FASDに確固たる治療法はないため、妊娠中の禁酒が唯一の予防策です。
胎児性アルコール症候群(FAS)
胎児性アルコール症候群(Fetal Alcohol Syndrome, FAS)は、妊娠中(特に妊娠初期)の飲酒によって胎児に生じる先天性の疾患です。
お酒をたくさん飲むことで赤ちゃんの脳が萎縮することがFASの主な原因です。
診断基準としては
1. 特徴的な顔貌(不完全な人中、薄い上唇、短い眼瞼裂など)
2. 発育の遅れ(低身長低体重、体重増加の遅れ)
3. 中枢神経の問題(小頭症のような脳の形成異常、学習障害、知的障害など)
が挙げられます。
特に非遺伝性の知的障害は、FASが最たる原因であるともいわれています。特異的顔貌や低体重などは成長に伴い改善されていきますが、FASに由来する発達障害や依存症などの精神的問題が、児童期以降に発現することがあります。
妊娠超初期に気づかずに飲んでしまったけど大丈夫?
妊娠に気づかず妊娠超初期に飲酒してしまった場合でも、飲酒量が少量であればFASDや流産に直結するようなことはないと考えられます。さきに述べた論文(Sundermann et al., 2021)では、妊娠発覚後の飲酒量が1週間増えるごとに流産のリスクが上昇していくことが示されていました。そのため重要なのは、妊娠発覚後ただちに禁酒をすることです。
ただし、1日にビールやワインを5杯以上飲むような大量飲酒生活を送っている場合は、FASDのリスクが高まることが懸念されます。
妊娠期間中の飲酒量別の影響
かつては、1日「15mL≒ビール350mL」未満のアルコールであれば胎児への影響はないとされていました。しかし、お酒の飲み方や体質によって左右されるほか、少量の飲酒でもFASDの発症リスクがあるとされるため、結局のところ絶対安全なアルコール量というものは存在しません。そのため、やはり妊娠中は禁酒を行うべきでしょう。
なお、1日60mL以上のアルコールを摂取するとFASDのリスクはさらに高まり、90mL以上では奇形の発生率が明らかに上昇することが、日本産婦人科医会より報告されています。また、1日120mL以上のアルコールを摂取すると、FASの発生率が30~50%に上昇するようです。
妊娠初期の飲酒についてよくある質問
妊娠中は、アルコール以外の食生活にも気を配る必要があります。また、ノンアルコール飲料だからといってアルコールが全く含まれていないとは限らないため、こちらも注意が必要です。
以下、妊娠初期の飲酒に関するよくある質問をまとめました。
Q:妊活中から飲酒は避けるべき?
妊活中に厳格な禁酒を行う必要はありませんが、胎児にとって絶対的なアルコールの安全量はありません。そのため、妊娠がわかった時点での胎児への影響を最小限にするためにも、生理予定日以降の 排卵前後や体外受精の胚移植後といった、妊娠の可能性がある時期の飲酒は控えた方がよいでしょう。
生理中のような、妊活の中で妊娠の可能性が低い時期に適量摂取する分には、あまり問題はないでしょう。
Q:出産後はすぐに飲酒できる?
授乳中の飲酒は、依然控えることが推奨されます。
飲酒で取り込んだアルコールのうち、肝臓で代謝しきれない分は血中を巡って乳腺に達し、母乳に取り込まれます。母乳中のアルコール濃度は、お母さんの血中アルコール濃度とほぼ同じともいわれます。大人に比べてアルコールの代謝能力が未熟な赤ちゃんがアルコール入りの母乳を飲んでしまうと、成長障害や中枢障害を引き起こすリスクがあります。
一般的にアルコールは体内で2~3時間経つと分解されるため、少量の飲酒であれば3時間以上あけてから授乳することでリスクを抑えられます。ただし、母乳は「いつでも飲みたいときに飲みたいだけ与える」ことが赤ちゃんにとっていいので、いつでも授乳する可能性を考えると、授乳中の飲酒は原則は控えるべきでしょう。
Q:ノンアルコールビールなどは大丈夫?
日本の酒税法では、アルコール1%未満の飲料を「ノンアルコール」と定義しています。中でも「0.00%」表記のノンアルコール飲料はアルコールを全く含まないため、妊娠中でも飲むことができます。
ただし、特に海外産のノンアルコールビールはアルコール分1%未満を含むものが多いため、飲んではいけません。ノンアルコール飲料を飲む際は、表記をきちんと確認してから楽しみましょう。
また、妊娠中はカフェインの過剰摂取も控えるべきですので、アルコールだけでなくカフェイン量にも気を配るようにしてください。
Q:妊娠初期にアルコール以外で注意したいものは?
生ハムやナチュラルチーズのような非加熱食品には食中毒菌(リステリア)が、加熱不十分な豚肉・羊肉などには寄生虫(トキソプラズマ)が含まれるおそれがあるため、妊娠中は摂取を避けるべきです。妊婦がリステリアやトキソプラズマに感染した場合、流産や胎児への悪影響の原因となる場合があります。
また、水銀やカフェインは過剰摂取しないよう心がける必要があります。これらの物質は胎盤を通じて赤ちゃんに蓄積され、組織の発達に悪影響を与えます。水銀はクロマグロやカジキといった大型魚に多く含まれ、「1回約80gとして妊婦は週に1回まで」とされています。カフェインはエナジードリンクやコーヒーなどに多く含まれ、世界保健機関(WHO)は妊婦に対し、コーヒーを1日3〜4杯までにすることを呼びかけています。摂りすぎないよう心がけましょう。
詳しくは下記の記事もご覧ください。
参考:妊娠中に意識して摂りたい食べ物と避けたほうがよい食べ物|妊娠時期別の食事のポイントについても紹介
おわりに
トーチクリニックでは、将来妊娠を考えている方向けのブライダルチェックなども提供しています。ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。
恵比寿駅・上野駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、土曜日も開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。
医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
ブライダルチェックにご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ブライダルチェックのご予約はウェブからも受け付けております。
また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考ください。
参考文献
1)厚生労働省.「 健やか親子21(第2次)」中間評価を見据えた調査研究. 厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000592894.pdf
2)Sundermann AC, Velez Edwards DR, Slaughter JC, et al. Week-by-week alcohol consumption in early pregnancy and spontaneous abortion risk: a prospective cohort study. Am J Obstet Gynecol. 2021;224(1):97.e1-97.e16.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7807528/