妊娠中の飛行機搭乗は必ずしも避ける必要はありませんが、体調や時期に応じて注意すべき場合があります。特に妊娠初期はつわりや体調変化のリスク、妊娠後期は出産のタイミングが早まる可能性なども考慮が必要です。
この記事では飛行機に乗るリスクや注意するべきポイントなどをまとめているので、妊娠初期や妊娠中に飛行機を利用するか迷う場合は参考にしてください。
妊娠中は飛行機に乗っても大丈夫?
すでに切迫早産のような合併症がある場合を除いて、妊娠中に飛行機に乗ることによって赤ちゃんに直接影響が及ぶことはないため、飛行機に乗ること自体は可能です。
しかし、長時間のフライトや慣れない環境でのストレスが、母体や赤ちゃんに健康上のリスクをもたらす場合があることを理解しておきましょう。ここでは妊娠時期に応じた、飛行機に乗るかどうかの判断基準について解説します。
妊娠12週まで(妊娠初期の後半時期まで)
妊娠初期は13週6日までを指しますが、この妊娠初期の時期のうち妊娠12週までは、なるべく飛行機に乗ることを控えることが推奨されます。体調の変化が起こりやすいことや、流産のリスクがあることが理由です。
妊娠初期はつわりの症状が出る時期で、環境の変化が体調に影響を及ぼしやすくなります。飛行機内では気圧や酸素分圧の変化が起こりやすく、それによってつわりが悪化する可能性もあるので、心配な場合は妊娠初期の12週までは飛行機に乗るのを避けましょう。
また、流産は妊娠12週目までに起こることが多いです。飛行機に乗ることで流産の確率が上がるわけではありません。しかし、体調不良の際にすぐに処置を受けられない環境に身を置くリスクを考えると、なるべく飛行機の利用は避けるのが安心です。
妊娠12週〜28週(妊娠初期の後半から妊娠中期まで)
妊娠期間中に飛行機に乗るのであれば、妊娠12〜28週頃までが適していると考えられています。この時期のうち、妊娠16週(5か月)以降を、一般的には安定期と呼びます。
飛行機内は気圧や酸素濃度、湿度が地上と異なり、振動や密室環境も加わって身体への負担が大きくなります。体調が変化しやすい妊娠初期や妊娠後期は、こうした環境による影響を受けやすく、搭乗には注意が必要です。一方で、比較的状態が安定している妊娠中期であれば、飛行機搭乗にも適しているといえるでしょう。
ただし、そのときの体調や妊娠状態によって異なるため、最終的には主治医に相談した上で判断をしましょう。
妊娠28週以降(妊娠後期)
妊娠28週以降の妊娠後期に飛行機に乗ることはなるべく避けましょう。妊娠後期になると出産予定日が近い時期になるため、環境の変化によって出産タイミングが早まることなどが想定されるからです。
また、国土交通省によって、出産予定日から28日以内(国際線は36日以内)については医師の許可が必要と定められているため1)、妊娠後期に飛行機に乗る際は、航空会社ごとに診断書の提出などが求められます。
妊娠後期にどうしても飛行機に乗る必要がある場合は、航空会社の利用条件を十分確認した上で、主治医に相談してから判断しましょう。
各航空会社の妊娠中の利用条件について
国土交通省により、妊娠中の飛行機の利用について、出産予定日から28日以内(妊娠36週以降)、国際線は36日以内(妊娠34週6日以降)については医師の許可が必要と定められています。ここでは、代表的な航空会社の搭乗条件を確認してみましょう。
ANA
国内線・国際線ともに出産予定日を含めて28日以内については診断書の提出が必要とされています。さらに国内線では7日以内、国際線では14日以内で医師の同伴も必要となるため注意しましょう。
いずれの診断書も搭乗日の7日以内に発行されたもので、「お客様が航空旅行を行われるにあたり、健康上支障がない」という旨を医師が明記したものという条件があります。ANAのホームページにて診断書のフォーマットをダウンロードすることができるので、飛行機に乗る際は、事前にダウンロードして主治医に診断書の作成依頼をしましょう。
参考:ANA 飛行機のご搭乗に際し診断書が必要になる場合のご案内
JAL
国内線・国際線ともに出産予定日を含めて28日以内については診断書の提出が必要とされています。国内線では7日以内、国際線では14日以内で医師の同伴も必要となります。また、国際線の場合は「出産予定日がはっきりしない場合」「双子以上の妊娠をしている方」「早産の経験がある方」についても診断書の提出が必要となるため注意しましょう。
用意する診断書は搭乗日の7日以内に発行されたもので、「お客さまが航空旅行を行われるに当たり、健康上支障がない」という旨を医師が明記したものという条件があります。JALのホームページにて診断書のフォーマットをダウンロードすることができるので、飛行機に乗る際は、事前にダウンロードして主治医に診断書の作成依頼をしましょう。
参考:JAL 診断書の記入・提出が必要な場合(診断書のダウンロード)
妊娠中に飛行機に乗るリスク
飛行機内は地上に比べて特殊な環境です。妊娠中は、心身ともに環境の変化の影響を受けやすい状態のため、飛行機に乗ることによって少なからず健康リスクが生じます。
ここでは、妊娠中に飛行機に乗ることによる具体的なリスクについて詳しく解説します。
エコノミークラス症候群になりやすい
飛行機では、長時間椅子に座ることにより血栓(血のかたまり)ができて血管が詰まってしまう「エコノミークラス症候群」になるリスクが高まります。特に妊娠中は、エコノミークラス症候群になりやすいと考えられています。これは出産に備えて血液を固める成分の働きが強くなっていることに加え、子宮が大きくなって足の血流が悪くなっていることが原因です。
また、胎盤の血管が詰まることで、赤ちゃんへ血流が行き届かなくなるというリスクもあります。もし飛行機に乗る際は、エコノミークラス症候群を予防するために水分を十分にこまめに取り、ときどき軽いストレッチ運動を行うことを心がけましょう。
気圧の変化による体調不良
飛行機内の気圧は水平飛行中で約0.8気圧程度と、標高約2,000mにいるのと同じような環境と言われているため、地上と比べて体調に変化が起こりやすい状態です。また、航空機の離陸時や高度が上がるタイミングでは気圧が大きく下がり、気圧の低下に伴って体内のガスが膨張することで、ガスが内臓を圧迫して痛みや呼吸困難などの症状が現れることがあります。
気圧の変化に伴って酸素分圧も低くなるため、つわりの症状が悪化するリスクも考えられます。
妊娠中に飛行機へ乗ると赤ちゃんに影響はある?
飛行機に乗ることによる赤ちゃんへの影響を不安視するケースとしてよく出てくる話題に、搭乗前の金属探知機や、搭乗後の上空での放射線の被曝(ひばく)の話が挙げられます。
金属探知機は、電磁波を使用して金属製の持ち物を検出するための検査であり、レントゲンのように放射線を浴びせるものではありません。電磁波自体も微弱なため、赤ちゃんに障害を与える可能性はないと考えられています。
飛行機搭乗時の放射線被曝について、母体と赤ちゃんへの影響は少ないと考えられています。
上空では地上より多くの放射線を浴びますが、その量はごくわずかです。赤ちゃんに先天異常や流産のリスクが生じるとされる放射線量は200mSvを超える場合とされています2)。一方、日本から欧米都市への往復フライトで受ける放射線量は約0.1mSvにとどまります3)。つまり、赤ちゃんに影響が出るレベルの放射線を浴びるには、日本と欧米を約2,000往復以上する必要があり、これは現実的ではありません。
そのため、妊娠中に数回程度の飛行機利用であれば、放射線による赤ちゃんへの影響はほとんど心配ないと考えられます。
妊娠中に飛行機に乗るときの準備
妊娠中に飛行機に乗ることのリスクを理解したうえで、妊娠中に飛行機に乗るために準備しておくべきことについて解説します。最低限準備しておくべきことは以下の3点です。
医師に相談する
妊娠中に飛行機に乗ることによるリスクが大きくないタイミングであっても、飛行機内の環境は地上とは大きく異なるため、事前に自身の状態について確認しておくことが大切です。そのためには、母体・赤ちゃん共に飛行機に乗っても良い状態なのかについて、事前に主治医に相談しましょう。
また、妊娠後期に飛行機に乗る場合は、航空会社の利用条件を確認したうえで、診断書などの医師に作成してもらう必要書類も持参しましょう。
母子手帳、保険証、緊急連絡先を書いたものを携帯しておく
母子手帳には妊娠の経過や通院している医療機関など、母体と赤ちゃんの状態を知る上で必要な情報が集約されています。飛行機に乗っていて体調が悪くなり、自身の状態について詳細な説明ができなくなるような場合に備えて、母子手帳を持参しておくことは大切です。
トラブルが発生した際にいつ病院にかかっても対応できるように、母子手帳・保険証・緊急連絡先を控えたメモは携帯しておきましょう。
目的地の産婦人科、医療機関を調べておく
飛行機を利用して移動する場合、飛行機に乗っているときだけでなく、目的地に到着してから体調が悪くなる可能性もあります。事前に医療機関の場所を調べておくことで、トラブルが発生した際も慌てずに落ち着いて病院にかかることができます。
特に、海外などの土地勘がなくこれまで訪れたことがないような場所の場合は、念入りに現地の医療事情を調査しておきましょう。
おわりに
参考文献
1)国土交通省. 航空機利用に関する質問. 国土交通省ウェブサイト
https://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000718.html
2)Health Physics Society. Pregnancy and radiation exposure. Health Physics Society.
https://hps.org/hpspublications/articles/pregnancyandradiationexposureinfosheet/
3)日本原子力研究開発機構. 航空機搭乗者の被ばく線量. 原子力百科事典ATOMICA.
https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_09-01-05-11.html