hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、妊娠時に分泌されるホルモンです。妊娠初期に分泌量が急増し、産後は消失していきます。妊娠の成立の判断のほか、異常妊娠や出生前診断にも用いられます。hCGはタイミング療法や人工授精、体外受精などの治療でも使われます。
hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)とは?妊娠時における役割
hCGは、妊娠成立後に胎盤絨毛組織から分泌される性腺刺激ホルモンです。妊娠成立後に分泌され、黄体を刺激してプロゲステロンの産生を促し、妊娠の維持に重要な役割を果たしています。
検査は血液検査または尿検査で行います。妊娠の判定のほか、異常妊娠の診断や出生前診断、腫瘍マーカーとしても用いられます。
妊娠週数ごとのhCGの基準値
hCGの数値は、血液検査や尿検査でわかります。妊娠初期に急増し、8~12週でピークを迎え、産後1~2週間で消失します。血液検査による基準値は表のとおりです。
妊娠判定でhCGの数値が低い場合の妊娠継続への影響
妊娠判定でhCG値が低いことが、必ずしも妊娠に悪影響を及ぼすとは限りません。判定時に低値が示された場合でも、その後の検査で妊娠の継続が確認される場合があります。
一方、hCGが高くても、必ずしも心拍が確認でき、正常な妊娠が維持されるわけではなく、流産となる場合もあります。このように、hCG値だけで妊娠の継続や異常を判断するのは難しいのが現状です。
hCGの数値は妊娠判定以外でも活用されている
hCGの数値は、異所性妊娠の可能性や胞状奇胎の診断、出生前診断の判断材料としても使われます。一つずつ詳しく見ていきましょう。
異所性妊娠(子宮外妊娠)や流産の可能性を調べるための指標
hCGの数値は、異所性妊娠や流産の可能性を調べるために使われるときがあります。
異所性妊娠(子宮外妊娠)とは、卵管など子宮以外のところや、子宮内の傷に着床し、妊娠することです。妊娠初期はほとんど自覚症状が見られず、また正常妊娠と同様にhCGは高値となるため、市販の妊娠検査薬でも陽性となります
卵管での妊娠(卵管膨大部妊娠など)の場合、赤ちゃんの成長により、卵管破裂を起こす場合があります。超音波検査で胎嚢が確認できないのにもかかわらずhCGが高い場合は、異所性妊娠の可能性があります。
詳しくは子宮外妊娠(異所性妊娠)とは?の記事をご覧ください。
胞状奇胎の診断をするための判断材料
hCG値は、胞状奇胎の判断材料の一つとなります。胞状奇胎とは、受精卵の細胞が異常な増殖を起こすことで生じる疾患です。主に卵子のゲノム(遺伝情報)の異常が原因と考えられています。
胞状奇胎では、子宮内に多数の囊胞があらわれるのが特徴です。全胞状奇胎と部分胞状奇胎の2つに分類されます。正常な妊娠でもhCG値は高くなりますが、胞状奇胎の場合、さらに高い数値を示します。
治療には、子宮内容除去術が必要になります。妊娠週数が早い胞状奇胎は、超音波検査による判別が難しい場合もあり、正式には手術後の病理検査の結果で診断されます。
出生前診断の判断材料
出生前診断の判断材料としてhCG値が使われます。出生前診断とは、赤ちゃんに先天性の病気や染色体異常がないかどうかを調べる検査です。妊婦全員が受ける妊婦健診とは異なり、希望した人だけが受けることができる検査です。
出生前診断は、赤ちゃんの体の様子がわかる「超音波検査」と、赤ちゃんの染色体を調べる「遺伝学的検査」に大きく分けられます1)。hCGは、遺伝学的検査のなかの「母体血清マーカー検査」「コンバインド検査」での検査項目となっています。
出生前診断を行うことで、思わぬ結果が出る場合もあります。検査を受ける前には、望まない結果が出た場合も見据え、パートナーとよく話し合うようにしましょう。医師からも十分な説明を受けるようにしてください。
詳しくは、出生前診断とは?をご覧ください。
母体血清マーカー検査
母体血清マーカー検査は、ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、開放性神経管奇形の可能性があるかを調べる検査です。検査内容や検査項目、検査時期などについては、下記の表を参照ください。
コンバインド検査
コンバインド検査は、ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミーの可能性があるかを調べる検査です。超音波検査と血液検査を組み合わせることで、精度が高くなります。検査内容や検査項目、検査時期などについては、下記の表を参照ください。
特定の腫瘍を発見するための指標
hCGは、特定の腫瘍を発見するための指標として用いられるケースがあります。代表的なものには、絨毛がんや卵巣がんがあります。血液や尿中のhCGが、正常妊娠時よりも非常に高くなります。
hCGに関連するよくある質問
hCGは注射薬があり、タイミング療法や体外受精で使用されます。関連するよくある質問をまとめました。
Q:体外受精(不妊治療)で使用されるhCG注射にはどのような働きがある?
体外受精で使用されるhCG注射には、卵子を成熟させる働きがあります。hCG注射にはLH(黄体ホルモン)の作用があり、注射をすると卵子を成熟させ、排卵を促します。通常は、採卵2日前の指示された時間に注射を行います。
詳しくは体外受精(不妊治療)の注射とは?自己注射の種類やメリットを解説をご覧ください。
Q:タイミング療法や人工授精でもhCG注射は使われる?
hCG注射は、タイミング療法や人工授精でも使われます。注射のタイミングや目的をそれぞれ見ていきましょう。
タイミング療法
タイミング療法とは、妊娠率を高めるのに最適な日(性交渉を持つべきタイミング)を医師が指導し、妊娠を目指す方法です。
一般的には、生理周期の14日目ごろにクリニックを受診します。超音波検査などによって排卵時期を予想でき、そのタイミングでの性交渉が望まれます。状況に応じて薬が処方されたり、hCGの注射を行ったりすることもあります。
詳しくは、タイミング療法をご覧ください。
人工授精
人工授精(AIH)とは、排卵の時期に合わせて、子宮の入り口からカテーテルを挿入し、処理された精子を子宮内腔へ直接注入する方法です。体外受精のように、採卵手術をしたり、受精卵を子宮に戻したりする必要はありません。自然妊娠に近く、女性の身体への負担は少なくなります。
hCG注射は、人工授精の前日に、排卵誘発を目的として使用されます。注射後はおよそ36時間前後で排卵するとされています。
詳しくは、人工授精の記事をご覧ください。
Q:着床障害(着床不全)の原因は?
着床障害(着床不全)とは、3回程度良好な胚を移植しても、妊娠が成立しない状態をいいます。おもに、受精卵(胚)側の問題や子宮側の問題、免疫の問題により生じるとされています。
不妊の原因が着床障害の場合、子宮内膜受容能検査(ERA検査)が行なわれることがあります。子宮内膜を採取し、内膜組織が着床に適しているかを評価する検査です。検査の過程でhCGが投与されます。
詳しくは着床障害(着床不全)とは?原因と検査方法についてをご覧ください。
おわりに
トーチクリニックでは、将来妊娠を考えている方向けのブライダルチェックなども提供しています。ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。
恵比寿駅・上野駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、土曜日も開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。
医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。
ブライダルチェックにご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ブライダルチェックのご予約はウェブからも受け付けております。
また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考ください。
参考文献
1)出生前検査とはなんですか?/公益社団法人 日本産婦人科医会
https://www.jaog.or.jp/qa/confinement/jyosei200115/