子宮外妊娠(異所性妊娠)は、受精卵が子宮内膜以外の場所に着床する状態を指します。
以前は「子宮外妊娠」という用語が一般的に使用されていましたが、現在は医学的には「異所性妊娠」という名称が使われています。
この記事では、子宮外妊娠の概要、症状、原因、診断方法、および治療法について分かりやすく解説します。
子宮外妊娠(異所性妊娠)とは?発症確率は?
子宮外妊娠(異所性妊娠)とは、受精卵が子宮内膜以外の場所に着床して発育することです。
その着床部位により、卵管妊娠、 間質部妊娠、頸管妊娠、帝王切開瘢痕部妊娠、卵巣妊娠、腹腔妊娠、さらに精査によっても着床部位不明でhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)のみ陽性を示す着床部位不明異所性妊娠などに分類されます。
子宮外妊娠(異所性妊娠)は、全妊娠の1〜2%程度の頻度で発症すると言われており、そのうち90%以上は卵管妊娠です。
子宮外妊娠と正常妊娠の違い
正常妊娠では、精子と卵子が卵管で受精し、その後受精卵は子宮内膜に着床しますが、子宮外妊娠(異所性妊娠)では、子宮以外の場所に着床します。
子宮外妊娠(異所性妊娠)が発症する原因と危険因子
正常な妊娠では、受精卵は細胞分裂を繰り返しながら、卵管を通って子宮へ移動し、約7日後に子宮内膜に着床します。しかし、何らかの原因でその過程が妨げられることで子宮外妊娠(異所性妊娠)が起こるのです。
クラミジアなどの感染症、過去の卵管や卵巣の手術、帝王切開など子宮の手術による卵管の癒着・狭窄など、卵管付近に何らかの炎症が起こっている場合、卵管の通りが悪くなり、受精卵が子宮内膜まで移動できなくなる可能性が指摘されています。
しかしながら、上記のリスク因子がない場合でも子宮外妊娠(異所性妊娠)は起こることがあり、その原因が完全に解明されているわけではありません。
子宮外妊娠(異所性妊娠)によって起こる症状
代表的な症状は無月経、下腹痛、性器出血ですが、無症状の場合もあります。これは、妊娠初期の症状や流産の症状とも似ています。
妊娠を意識していない場合は、腹痛や不正出血を月経によるものと勘違いすることもありますので、症状で子宮外妊娠(異所性妊娠)を判断するのは非常に難しいと言えるでしょう。
子宮外での妊娠が進行すると、破裂による大量出血によるショック状態で生命が危険な状態になる可能性もあります。
子宮外妊娠(異所性妊娠)の危険性
子宮以外の組織では胎児の成長に必要な環境が整っていないため、胎児の生存は不可能です。
妊娠が進行し、妊娠している部位が破裂すると、強い腹痛や多量の出血が生じ、ショック状態に陥ることもあり、生命に危険が及ぶ可能性も否定できません。
以前は、破裂による大量出血や、急激な腹痛などの症状が出るまでわからないこともありましたが、現在は高感度の妊娠検査薬と経腟超音波の精度も上がり、無症状の子宮外妊娠(異所性妊娠)でも破裂する前の早い段階で診断されるようになりました。
卵管破裂と卵管流産の違い
子宮外妊娠(異所性妊娠)の大部分を占める卵管妊娠では、受精卵が卵管に着床して発育します。
しかし、この状態での妊娠継続は不可能であり、卵管破裂または卵管流産となります。妊娠の進行に伴い卵管が破裂すると、腹腔内に大量出血が起こり、ショック状態に陥る可能性も否定できません。卵管流産になった場合は、一般的には剥がれた部分からの出血は多くなく、自然に止血することもあります。
子宮外妊娠(異所性妊娠)の検査方法は?いつわかる?
子宮外妊娠(異所性妊娠)は、経腟超音波検査と妊娠反応検査を組み合わせて診断します。
妊娠反応陽性であるのに子宮内に胎囊などが確認されない場合、ごく初期の正常妊娠、流産、子宮外妊娠(異所性妊娠)が考えられます。
妊娠5〜6週以降に胎囊が子宮内に確認できない場合には、超音波検査や血液でhCG 測定などを実施します。
子宮外に胎嚢や胎芽が確認できれば、子宮外妊娠(異所性妊娠)の確定診断となります。
※胎嚢は妊娠初期に子宮の中にできる小さな袋状のもので、通常妊娠5〜6週で確認できます。胎芽は、胎嚢の中で成長し始めた赤ちゃんの最も初期の姿です。
子宮外妊娠(異所性妊娠)の治療方法
子宮外妊娠(異所性妊娠)の治療には、手術療法、薬物療法、待機療法があります。
それぞれの治療法の対象や具体的な内容について説明しましょう。
手術療法
子宮外妊娠(異所性妊娠)の治療の原則は手術療法(開腹手術または腹腔鏡下手術)です。
大量出血などによる母体の全身状態が悪く、緊急を要する場合には、開腹手術により卵管摘出術を選択することが多いと言われています。
母体の症状などが落ち着いており、全身状態が安定してい る場合には、施設の状況などによりますが、腹腔鏡下手術が選択される場合が一般的です。腹腔鏡下手術は、開腹手術に比べ手術時間や入院期間が短いこと、手術中の出血が少ないことなどの利点があります。
どちらの手術であっても、次回の妊娠率には差がないと言われています。
卵管切開術と卵管切除術の違い
卵管妊娠の場合の手術療法として、卵管切開術と卵管切除術の2つの方法があります。
卵管切開術は、卵管を温存する手術方法で、卵管の妊娠部位を小さく切開し、胎嚢を摘出する方法です。卵管切開術が適応される基準は、日本産科婦人科内視鏡学会では下記の6つの条件を満たす場合とされています。
・挙児希望がある
・病巣の大きさが5cm未満
・血中hCG値が10,000IU/L以下
・初回の卵管妊娠である
・胎児心拍がない
・卵管が破裂してない
手術後も受精卵の一部の成分が卵管内に残存し、薬物療法、再手術などの追加治療が必要となる可能性があるため、hCG値が非妊時レベルとなるまで慎重に経過観察を行います。
例えば、貧血、低血圧、腹腔内出血、下腹痛、ショックなど緊急を要する場合など、卵管切開術の基準項目を満たさない場合は、着床部位の卵管ごと切除する卵管切除術が選択されます。
いずれの手術であっても、手術後の妊孕性(妊娠するための力)に大きな差はないと言われています。また、再度子宮外妊娠(異所性妊娠)が起こる確率が10〜15%程度あるとされています。
薬物療法
母体の状態が安定しており、着床部位(頚管や帝王切開瘢痕部妊娠など)によっては、薬物療法を先に行うこともあります。
薬物療法には MTX(メトトレキサート) が使用されます。MTXによる薬物療法は、諸外国ではその有効性が確立され、子宮外妊娠(異所性妊娠)に対する薬物療法の第一選択とされていますが、日本では保険適応外です。
MTX 療法の適応として、諸外国のガイドラインでは下記のような条件が挙げられています。
・全身状態が安定していること
・痛みがないこと
・血液中のhCG が 1,500IU/L 未満(5,000IU/Lまでは可能)
・胎児心拍が確認できないこと
薬物療法が成功した場合、将来の妊孕性、異所性妊娠再発率、卵管通過性は手術療法と同じ程度です。
待機療法
待機療法は手術や薬物療法を行わずに経過をみる方法です。
待機療法を選択する基準としては、①胎児心拍がない、②30mm未満の腫瘤かつ血液中のhCGが1,500IU/L未満、③hCG値1,000IU/L未満などを推奨する国内外のガイドラインがあります。
血液中のhCGが低値であるほど成功率が高いと言われています。
薬物療法および待機療法の場合には、卵管妊娠破裂などにより母体症状が急激に悪化する可能性があるため、常に緊急対応が可能な状態で経過観察を行います。
子宮外妊娠の再発率
手術療法や薬物療法で治療後、子宮外妊娠(異所性妊娠)が再び起こる確率は10〜15%程度あります。
子宮外妊娠(異所性妊娠)に関連したよくある質問
Q:子宮外妊娠を発症しても生理になる?
子宮外妊娠(異所性妊娠)は、正常な妊娠ではありませんが、無月経となります。
子宮外妊娠(異所性妊娠)の主な症状は、少量の性器出血や軽度の下腹部痛であり、切迫流産、または月経や他の原因での不正出血との区別は困難なため、診断するには医療機関での診察が不可欠です。
Q:子宮外妊娠を発症しても妊娠検査薬は陽性になる?
子宮外妊娠(異所性妊娠)の場合でも、正常な妊娠と同様にhCGというホルモンが分泌されるため妊娠検査薬は陽性となります。
したがって、妊娠検査薬で陽性反応が出た場合は、正常妊娠の可能性だけでなく、子宮外妊娠(異所性妊娠)の可能性も考慮して、速やかに産婦人科を受診することが重要です。
子宮外妊娠でも出産できる?
子宮以外の組織では胎児を適切に支えたり、必要な血液を供給したりすることができないため、胎児の生存は不可能です。
そのため、子宮外妊娠(異所性妊娠)と診断された場合は、残念ながら妊娠の継続や出産を諦めざるを得ません。
ただし、非常に稀ですが、子宮内妊娠(通常の妊娠)と子宮外妊娠(異所性妊娠)が共存する正所異所同時妊娠という場合があります。異所性妊娠している赤ちゃんは生存し続けることはできませんが、子宮内で妊娠している赤ちゃんは、出産できる可能性があり、国内でも出産に至った事例も報告されています。
自然妊娠では 15,000〜30,000 妊娠に1回の頻度ですが、生殖補助医療による妊娠では 0.15〜1%前後にまで上昇すると言われています。
子宮外妊娠でおこる流産と早期流産の違いは?
妊娠したにもかかわらず、妊娠の早い時期に赤ちゃんが亡くなってしまうことを流産と言います。早期流産は、子宮内妊娠(正常妊娠)で起こる妊娠12週未満の流産のことです。
これまで説明したとおり、子宮外は胎児の発育できる環境ではないため、最終的には流産となります。
流産と診断された場合には、待機的管理と子宮内容除去術のいずれかを選択することになります。
おわりに
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