胚移植の日が少しずれても大丈夫?──「着床の窓」と移植タイミングを1,170件の研究からやさしく解説

小林 睦
小林 睦 医師
医師 婦人科 生殖医療科 医師
お二人の治療に関する不安に寄り添いながら、卒業まで伴走させていただきます。わからないことなど、お気軽にご質問いただけたら幸いです。
torch clinic医師

不妊治療で凍結した受精卵(胚)を子宮に戻す「胚移植」。その日取りが、休診日やご自身のご都合と重なってしまうこともあります。「最適な日からずれたら、妊娠率は下がってしまうのでは?」と不安に思われる方は少なくありません。本記事では、染色体が正常と確認された胚(正常胚)の移植1,170件を分析した研究(Ann BGL et al. Hum Reprod, 2022)をご紹介します。結論からお伝えすると、胚が着床できる期間(着床の窓)は思いのほか広く、特にご自身の排卵(LHサージ)を利用する周期では、移植日が予定から1日ほど前後しても、出産率は大きくは変わらないと考えられます。

なぜこの研究が行われたのか

体外受精では、子宮の内側(子宮内膜)が胚を受け入れられる状態になる限られた期間があり、これを「着床の窓」と呼びます。胚の発育段階と、子宮内膜の準備が整うタイミングがうまく合うほど、妊娠が成立しやすいと考えられてきました。

そのため理屈の上では、移植のタイミングを「最適」とされる時間に合わせるほど結果が良くなりそうです。一方で、着床の窓には個人差があり、多少早くても遅くても結果は変わらないという見方もありました。実際のところ「ある一定の時間帯に移植を絞り込むことに意味があるのか」は、これまで十分に検証されていませんでした。そこで研究チームは、この疑問に正面から取り組みました。

どんな研究だったか

オーストラリアの3施設で、2015年から2019年に行われた凍結融解胚移植1,170件を分析した研究です。対象は、着床前検査(PGT)で染色体が正常と確認された胚(正常胚)を1個ずつ移植したケースに限られています。胚の染色体の問題という「結果を大きく左右する要因」をあらかじめ取り除くことで、タイミングそのものの影響を見極めやすくする狙いがありました。対象者の平均年齢は36.3歳でした。

移植のタイミングは、排卵からの時間で評価されました。研究チームは、排卵のおよそ120時間後を「最適タイミング」と定め、この窓の中で移植した場合と、外で移植した場合の出産率を比べました。

なお、この研究では2種類の周期が扱われています。ひとつはご自身の自然な排卵(LHサージ)を利用する「自然周期」もうひとつは排卵を促す注射(hCG)でタイミングを整える「修正自然周期」です。いずれも、ご自身の排卵を利用する点が共通しています。

わかったこと

① 全体では、最適タイミングの方がやや有利だった

すべての周期をまとめて見ると、最適タイミングで移植した場合の出産率は44.7%、その外で移植した場合は36.0%でした。最適タイミングの方が、わずかに高い結果でした(下図は比に変換)。

② その差は、主に「修正自然周期」によるものだった

周期の種類で分けると、この差が目立ったのは修正自然周期(注射で排卵を促す方法)でした。最適タイミングでの出産率は55.8%、外では36.7%と、はっきりした差が見られました。注射で排卵の時間をそろえやすいぶん、タイミングを合わせやすかったと考えられます。

③ 自然周期では、はっきりした差は見られなかった

一方、ご自身の自然な排卵を利用する自然周期では、最適タイミングで移植しても、その外で移植しても、出産率にはっきりした差は認められませんでした。言いかえると、自然周期では着床の窓が比較的広く、移植日が多少前後しても結果は大きくは変わらなかったということです。研究チームは、移植のタイミングが1日ほど早くても遅くても、十分に許容できる出産率が得られたとまとめています(下図)。

この結果をどう受け止めるか

この研究には、件数が多く、染色体の影響を除いてタイミングの効果を見やすくしたという強みがあります。一方で、いくつか注意点もあります。

まず、これは過去の記録をさかのぼって分析した研究(後ろ向き研究)であり、見えていない偏りが残っている可能性は否定できません。また、対象は着床前検査を受けた正常胚に限られているため、検査をしていない胚や一般の方すべてにそのまま当てはまるとは限りません。

さらに、自然周期で「はっきりした差が出なかった」ことの解釈には慎重さが必要です。自然周期では排卵の正確な時刻を見極めること自体が難しく、研究チームは「最適な窓が見つからなかったのは、自然周期のタイミング判定にまだ改善の余地があるためかもしれない」とも述べています。つまり「タイミングはまったく関係ない」という意味ではなく、「窓は広く、多少ずれても大きな不利益にはなりにくい」と理解するのが適切です。これらを確かなものにするには、今後さらに質の高い研究(ランダム化比較試験)での確認が必要です。

当院の考え方

当院では、できるだけ最適とされるタイミングでの移植を基本としています。ただし、移植の適日に休診日が重なったり、お仕事やご体調などでご都合がつかなかったりする場合には、日程を1日ほど前後に調整させていただくことがあります。今回ご紹介した研究が示すように、こうした調整によって妊娠・出産率が大きく損なわれる可能性は低いと考えられますので、どうぞ過度にご心配なさらないでください。スケジュールについて不安な点があれば、遠慮なく担当医にご相談ください。

おわりに

当院では、これから妊娠を考えている方や不妊治療中の方に向けて、お一人おひとりの状況に合わせたご相談・診療を行っています。移植のスケジュールやタイミングについてのご不安も、診察の際にていねいにご説明させていただきます。

出典・参考文献

  1. An BGL, Chapman M, Tilia L, Venetis C. Is there an optimal window of time for transferring single frozen-thawed euploid blastocysts? A cohort study of 1170 embryo transfers. Hum Reprod. 2022;37(12):2797–2807. doi:10.1093/humrep/deac227

文責

小林 睦(torch clinic 常勤医師)

※ 本記事は2026年6月時点の情報に基づいて作成しています。