女性が1番妊娠しやすい年齢は20歳前後とされていますが、それが必ずしも妊娠に適した年齢となるわけではありません。一方で年齢を重ねると妊娠しにくくなることもわかっており、妊娠に適した年齢を把握して、自分の状況に合わせて備えることが重要です。この記事では女性の妊娠しやすい年齢のほか、年齢別の不妊の割合や妊娠率、男性の年齢の影響などを解説します。
女性が1番妊娠しやすい年齢は?
女性が1番妊娠しやすい年齢は、一般的に20歳前後といわれています1)。
ただし、妊娠に適した年齢という観点では、20代前半から30代前半と考えられています2)。この理由は、10代の妊娠では先天的な構造異常のリスクが高いことが知られており3)、必ずしも若ければ若いほど良いというわけではありません。
一方で、女性の妊娠しやすさは32歳前後を境に徐々に低下し、37歳以降は急速に低下するという報告もあり4)、年齢を重ねると妊娠そのものが難しくなっていく傾向があります。
重要なことは、年齢による妊娠への影響を理解し、自分の体の状態にあわせた備えをしていくことです。
女性の1番妊娠しやすい年齢に関連する指標
女性の妊娠しやすさに関して公表されている指標やデータについて、代表的なものを取り上げます。
- 不妊の割合
- 不妊治療における年齢別妊娠率
不妊の割合
日本産科婦人科学会では、「妊娠を望む健康な男女が、避妊をしないで性交していたにもかかわらず、1年間妊娠しない場合」を不妊症と定義しています5)。
現在の日本では約4.4組に1組の夫婦が不妊に悩んでいるとされていますが6)、一般的に年齢が上がるにつれ不妊の割合は上昇します。
「患者さんのための生殖医療ガイドライン」に記載されている女性の年齢ごとの不妊の割合は以下のとおりです7)。
20代の不妊の頻度は10%未満ですが、40代以降では約64%に上昇します。年齢とともに不妊の割合は増加し、その変化は年齢が上がるほど顕著です。
不妊治療(生殖補助医療)における年齢別妊娠率
不妊治療はタイミング法から始まり、人工授精、体外受精(c-IVF)および顕微授精(ICSI)を含む生殖補助医療(ART)とステップアップしていくのが一般的です。
日本産科婦人科学会が公開している生殖補助医療の臨床実施成績「ARTデータブック2023」では、年齢別の妊娠率などのデータが掲載されています。
ARTデータブック2023における総治療周期数(生殖補助医療が実施された回数)から計算した年齢別妊娠率は以下のとおりです8)。
生殖補助医療の不妊治療においても、女性の年齢が上がるほど妊娠率は低下する傾向が確認されています。
生殖補助医療を含む各不妊治療の妊娠率については、以下の記事でも解説しているのであわせてご覧ください。
関連記事:不妊治療の妊娠確率は?年齢・治療法別(タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精)に解説
女性の年齢が高くなると妊娠しづらくなる要因
女性の年齢が高くなると妊娠しづらくなる主な要因として、以下の2つが挙げられます。
- 生殖機能の低下
- 婦人科疾患の増加
「年齢が高いと妊娠しづらい」という事実だけでなく、その背景にある要因も理解しておきましょう。
生殖機能の低下
女性が年齢を重ねると妊娠しづらくなる理由は、生殖機能の低下です。女性の卵子は胎生期初期から産生され、妊娠20週前後でピークを迎え、年齢とともに減少していきます。
女性の卵子の数と時期による変化の目安は以下のとおりです9)。
さらに、卵子の質も年齢とともに低下するため、35歳前後では染色体異常の割合も増加し受精や着床の成功率が下がります。
加齢による生殖機能の衰えは誰にでも起こる自然な変化でもあり、妊娠に大きく関わる要因のひとつです。
婦人科疾患の増加
女性は年齢を重ねると、子宮内膜症や子宮筋腫、卵管炎などさまざまな婦人科疾患にかかりやすくなります。これらの疾患は慢性化しやすく、子宮や卵巣・卵管といった生殖器に癒着や病変を生じさせ、受精や着床を妨げる要因となる場合があります。
それぞれの疾患が妊娠に与える影響は以下のとおりです。
子宮内膜症は、月経ではがれ落ちるはずの子宮の内膜組織が子宮内部以外に入り込み、発育してしまう疾患です。20~30代の女性で発症しやすく、ピークは30~40歳ともいわれています10)。
子宮筋腫は子宮にできる良性の腫瘍です。30歳以上になると約3割の女性に筋腫を認めるといわれています11)。
卵管炎の主な原因は、クラミジアなどによる感染症です。女性の不妊原因の約25〜35%が卵管因子とされ、そのうち50%以上が卵管炎によるものとされています12)。
男性の1番妊娠しやすい年齢は?
男性の場合は、女性のように妊娠しやすい年齢が必ずしも明確ではありませんが、一般的には年齢を重ねると精子をつくる機能が少しずつ低下することが知られています。
ここでは、男性の年齢が生殖機能や妊娠に与える影響について解説します。
男性の年齢と生殖機能
男性の年齢が上がるにつれて精液量や精子濃度、精子の運動性の低下などが知られています。
海外の研究の例を紹介すると、50歳を超える男性は、精液量、精子濃度、精子DNAの断片化の異常を示す可能性が高い、41歳以上の男性は精子濃度が低い傾向がある、31歳以上の男性は精子の運動性が低下する傾向がある、という報告があります13)。
男性の年齢と妊娠への影響
前述のとおり、男性は年齢を重ねることで精液への影響が知られていますが、男性の年齢によって実際に妊娠率にも変化があることが知られています。
こちらも海外の研究の例をあげると、40歳未満の男性では40歳以上の男性と比較し、臨床妊娠率が1.65倍、生児出生率が2.10倍、流産率が0.74倍であり、統計的にも差がある結果が報告されています14)。
いずれも40歳以上の男性より40歳未満の男性の方が良い結果であり、男性の年齢も妊娠率や出生率に影響があることが考えられます。
2人で始める妊活のポイント
妊活は夫婦やパートナー2人で取り組みましょう。今日から2人で始められる主な妊活のポイントは以下のとおりです。
- 運動と休息のバランスを保つ
- バランスのよい食事を摂る
- 禁煙・禁酒を心がける
- 妊活やライフプランについて定期的に話し合う
- ブライダルチェックを受ける
男女それぞれが妊娠しやすい体づくりを目指すための、参考にしてください。
運動と休息のバランスを保つ
適度な運動と十分な休息は、男女ともに妊娠しやすい体づくりにつながります。
日頃から散歩やストレッチなどの無理のない運動を取り入れ、夜はしっかり睡眠をとりましょう。2人で一緒に取り組むことでコミュニケーションも深まります。
ただし、過度な運動は逆効果になる場合もあります。特に健康的な体型の女性が、激しい運動を連日行うと妊娠に悪影響を及ぼすこともあるため注意してください。
適度な運動を意識し、疲れを感じたらしっかりと体を休めましょう。
バランスのよい食事を摂る
バランスの良い食事は、女性にとっては妊娠しやすい体づくりに、男性にとっては健全な精子づくりに欠かせません。
食事面で特に意識したい栄養素は女性は葉酸やビタミンD、男性は亜鉛が代表例としてあげられます。
女性は葉酸を摂取することで、赤ちゃんの神経管形成に問題がおきるリスクを下げることができます。
葉酸はブロッコリーや小松菜、納豆などに多く含まれており、妊活中〜妊娠初期の女性は、食事に加えて1日400μgの葉酸をサプリで補うように推奨されています。
また、魚類やきのこに多く含まれるビタミンDは、着床、妊娠率に関係している可能性が知られています。
亜鉛は精子の形成や運動に関与する重要なミネラルです。成人男性の推奨量は1日あたり11mgとされ、不足すると精子数の減少や運動率の低下を招く可能性があります。
亜鉛はカキや牛肉、カニなどに多く含まれています。
普通の食事であれば亜鉛のとりすぎになるケースは考えにくいとされていますが、サプリメントを利用する場合には用法用量を守り、過剰摂取にならないよう注意してください。
禁煙・禁酒を心がける
妊活中は男女ともに禁煙・禁酒を心がけましょう。
喫煙は男性・女性双方の不妊リスクを高めることがわかっています。タバコの有害物質は卵巣や精巣の機能にダメージを与え、受動喫煙や電子タバコであっても同様の悪影響を及ぼします。
妊娠を希望する場合には、2人そろって禁煙するのが望ましいでしょう。
また、飲酒についても注意が必要です。
女性はもし妊娠していた場合、アルコールが赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性があり、妊活中からの禁酒が推奨されています。
男性の飲酒と妊娠への影響として、直接的な研究報告はされていません。しかし、多量の飲酒は体に悪影響を与えます。
妊娠しやすい体づくりや、もし妊娠していたときのために2人で禁煙・節酒に取り組みましょう。
妊活やライフプランについて定期的に話し合う
妊娠や出産は人生における重大なライフイベントです。そのため、妊活やライフプランについて日頃から2人で話し合う習慣を持ちましょう。
不妊治療の現場では女性が医師の説明を聞き、男性は女性から話を聞くのみというパターンが少なくありません。
このような状況になると、女性側は精神的にも肉体的にも負担を感じやすくなります。また、男性側も自分事として捉えられず、プレッシャーだけを感じてしまう場合もあるのです。
そうならないためにも、妊活や将来の方針については定期的に話し合うようにしましょう。
子どもは何人ほしいのか?妊活はいつまでするのか?不妊治療はどこまでするのか?など話し合っておくべき内容は多岐にわたります。
日頃からこうした話し合いを重ねて価値観のすり合わせをしておくことで、妊活中の意思決定もスムーズになるでしょう。
ブライダルチェックを受ける
ブライダルチェックとは、自身の健康状態や将来の妊娠に影響のある病気はないかなどを確認することを目的とした検査です。詳細な検査内容はそれぞれの医療機関によって異なりますが、一般的にはホルモン等の血液検査、超音波検査、性感染症の検査などが該当します。
医療機関でブライダルチェックを受けておくことで、結果に問題なければ安心して妊活を進めることができる、もしくは何か問題があった場合は、その対処を含めより良い方法を医療機関の専門家と相談しながら妊活を進めることが期待できます。
ブライダルチェックは「女性だけが受ける検査」と思われがちですが、不妊の原因の約半数は男性にもあることが分かっています。夫婦やパートナーの2人で一緒に受けることが理想的です。
トーチクリニックでは男女ともにブライダルチェックを行っております。
女性は卵巣機能や子宮の状態、性感染症の有無などを、男性は精液検査やホルモン値などを調べることが可能です。
詳しくは以下のページで解説しているので、あわせてご覧ください。
関連ページ:女性ブライダルチェック
関連ページ:男性ブライダルチェック
女性の妊娠しやすい年齢に関するよくある質問
女性の妊娠しやすい年齢について、よく質問される内容にお答えします。
妊活や不妊治療に年齢制限はありますか?
妊活や不妊治療において、明確な年齢制限は設定されていません。しかし、保険適用で不妊治療を受ける場合、治療方法によっては女性の年齢によって制限があります。
10代は1番妊娠しやすい時期ですか?
女性は若いほど、妊孕性は高い傾向にあります。しかし、10代での妊娠・出産には多くのリスクが伴うため、必ずしも適切な時期とは言えません。
医学的な観点として、前述のとおり10代の妊娠では先天的な構造異常のリスクが高いことが知られています。
また、社会的な観点でも、10代の場合は経済的基盤も未確立なケースが少なくありません。出産後は経済的な負担もあるため、社会的な面からも不安を減らしておけるのが理想といえます。
おわりに
参考文献
1)日本生殖医学会. Q3 不妊症の人はどのくらいいるのですか? 日本生殖医学会ウェブサイト
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa03.html
2)日本生殖医学会. Q21 女性の妊娠・分娩に最適な年齢はいくつくらいですか? 日本生殖医学会ウェブサイ
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa21.html
3)Pethő B, Mátrai Á, Agócs G, et al. Maternal age is highly associated with non-chromosomal congenital anomalies: Analysis of a population-based case-control database. BJOG. 2023;130(10):1217-1225.
https://obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1471-0528.17461
4)American College of Obstetricians and Gynecologists Committee on Gynecologic Practice; Practice Committee. Female age-related fertility decline. Committee Opinion No. 589. Fertil Steril. 2014;101(3):633-634.
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(13)03464-X/fulltext
5)日本産科婦人科学会. 不妊症. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5718/
6)国立社会保障・人口問題研究所. 第16回出生動向基本調査報告書(2021年調査). 国立社会保障・人口問題研究所ウェブサイト
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16_ReportALL.pdf
7)令和4年度厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業(健やか次世代育成総合研究事業) 標準的な生殖医療の知識啓発と情報提供のためのシステム構築に関する研究. 患者さんのための生殖医療ガイドライン. 東大病院女性診療科・産科/女性外科ウェブサイト
https://www.gynecology-htu.jp/reproduction/dl/seishokuiryo_gl_2-q2.pdf
8)日本産科婦人科学会. 2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/activity/art/2023_JSOG-ART.pdf
9)厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合研究事業 総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究. 若年患者の妊よう性の温存
https://www.j-sfp.org/o-peace/patients/2_3_onzon.html
10)日本産科婦人科学会. 子宮内膜症. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5712/
11)日本産科婦人科学会. 子宮筋腫. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5711/
12)日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2023.pdf
13)Pino V, Sanz A, Valdés N, Crosby J, Mackenna A. The effects of aging on semen parameters and sperm DNA fragmentation. JBRA Assist Reprod. 2020;24(1):82-86.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6993171/
14)Murugesu S, Kasaven LS, Petrie A, et al. Does advanced paternal age affect outcomes following assisted reproductive technology? A systematic review and meta-analysis. Reprod Biomed Online. 2022;45(2):283-331.
https://www.rbmojournal.com/article/S1472-6483(22)00229-2/fulltext

