AMH値が低いと、「ダウン症など赤ちゃんへの影響があるのでは」と不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。この記事ではAMH値とダウン症の関係性をはじめ、ダウン症の主な原因や、AMH検査でわかることについて詳しく解説します。
AMH値とダウン症の関係
AMH値とダウン症は、結論からいうと相関関係はありません。AMH検査では何がわかるのか、ダウン症と関係がない理由について説明します。
AMH値とは卵巣の予備能の指標
AMH(抗ミュラー管ホルモン)とは、卵子を覆う細胞から分泌されるホルモンです。
卵子は卵巣内で卵胞と呼ばれる袋の中で育ち、排卵されます。卵胞は原子卵胞という初期の状態から前胞状卵胞、成熟卵胞の順に発育します。
原子卵胞は女性の誕生時、卵巣に200万個ほど存在しますが、それ以降減少し続け、増えることはありません。
AMHは主に前胞状卵胞の顆粒膜細胞という部分から分泌されるため、AMHの値から卵巣に残っている卵胞、つまり卵子のおおよその残数(卵巣の予備能)を推測することができます1)。
AMHについては以下の診療内容ページでも詳しく解説しているので参考にしてください。
関連ページ:AMH
ダウン症の発症率とは無関係
AMH値とダウン症の発症率とは関係がないことが知られています。海外の研究でも、AMH値とダウン症を含む赤ちゃんの異常は、関係ないことが示されています2)。
AMH値は卵子の残りの数を推測することはできますが、卵子の質については評価できません。
ダウン症は染色体の異常により発生する病気のため、受精したときの卵子の質が大きく関与します。この質の低下は主に加齢に伴って起こるもので、AMH値そのものとは直接関係しないため、AMH値が低くても、ダウン症のリスクが高まったり、子どもに影響が及んだりすることはありません。
ダウン症とは
ダウン症とはどのような病気なのか、発症の原因やダウン症を調べる検査についても説明します。
染色体異常が原因

ヒトの染色体は、通常全部で46本(23対)あり、受精したときに両親から半分ずつ受け継いでいます。ダウン症の多くは、21番目の染色体が1本多く3本あることで発症し、21トリソミーと呼ばれます。
ダウン症の多くは偶発的に発生し、誰にでも起こりえます。また両親からの遺伝は関係ないことがほとんどです3)。しかし親が転座染色体という特殊な遺伝子を保有していた場合は、遺伝によりダウン症の赤ちゃんが生まれる可能性が高くなります。
ダウン症の特徴として、筋力の弱さ、低身長、平坦な顔立ち、先天性の心疾患などが挙げられます。また程度に個人差はありますが、知的発達の遅れがみられることが多いです。
加齢によりリスクがあがる

厚生労働省.「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」報告書を参考に作成
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11908000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Boshihokenka/0000016944.pdf
ダウン症の主なリスク要因は、母親の加齢です。母親が高齢になるほど、ダウン症の赤ちゃんが生まれるリスクは上昇します。たとえば母親が25歳の場合、ダウン症の発生率は1250分の1ですが、35歳では385分の1、40歳では106分の1となり、年齢と比例して確率が上昇します4)。
これは加齢により卵子の質が下がり、染色体異常の頻度が高くなるためと考えられています。
ダウン症を調べる検査
ダウン症を調べる方法のひとつに、出生前検査があります。出生前検査とは、赤ちゃんが生まれる前に染色体異常などの先天性の病気がないか調べる検査です。
出生前検査には以下のものがあります5)。
NIPTは比較的初期(妊娠10週ごろ)から、認定された病院で検査を受けることが可能です。コンバインド検査やクアトロテストよりも精度は高いとされていますが、非確定検査のため異常が見つかった場合、確定検査(絨毛検査や羊水検査)をする必要があります。
出生前検査はお腹の中の赤ちゃんに病気があるかを調べ、生まれてくる前に病気に備えることができます。しかし異常が見つかった場合、心配や悩みが増えることは避けられないでしょう。
検査を受ける際はパートナーとよく話し合い、万が一異常が見つかった場合はどうするかなど、あらかじめじっくりと考えておくことが大切です。
AMH値は年齢とともに低下
AMH値は20代前半にピークを迎え、その後年齢とともに低下していきます。とくに30代後半からは急激に低下し、閉経後はほとんど検出されません。
ただしAMH値には個人差があり、年齢が若くても数値が低い人や、高齢でも数値が高い人もいます。
20〜30代で極端にAMHが低い場合は、早期卵巣不全※という病気の可能性もあるため、早めの受診が望ましいとされています。
出典:JISART 多施設共同研究での国内検討データ
※早期卵巣不全:40歳未満で卵巣機能が低下し、月経がこなくなった状態。早発閉経とも呼ばれる。
AMH値が低いとどうなるか
AMHが低いということは、卵子の残りの数が少なくなってきており、今後妊娠できる期間が限られていることを意味します。
ただし、妊娠のしやすさは卵子の数ではなく質によって大きく左右されるため、AMH値が低いからといって必ずしも妊娠できないわけではありません。AMHが1以下でも、卵子の質がよければ自然妊娠も可能です。
国内の研究で、AMHが1未満と1以上の人たちをそれぞれの群に分け、不妊治療中の妊娠率を比較したデータがあります。これによると、治療期間や採卵数は両群で差があるものの、妊娠率に大きな差は見られなかったことが報告されています6)。
卵子の質は年齢とともに低下するため、妊娠を考える際はAMH値に加えて「妊活をはじめる年齢」も重視すべきポイントとなるでしょう。
AMH値が低いときの対処法
AMHが低いといわれた場合の対処法について説明します。
生活習慣を見直す
AMH値を改善したり増やしたりする方法は、現在の医療では確立していません。
ただし、直接AMH値を上げるわけではありませんが、以下の生活習慣を見直すことで妊娠に向けた体づくりをすることはできます。
- 十分な睡眠
- ストレスを溜め込まない
- 栄養バランスの良い食事
- 適度な運動
適度な睡眠やストレスを溜め込まないことは、ホルモンバランスを整えるうえで重要です。また肥満は排卵障害や不妊につながるという報告もあるため7)、適度な運動を意識しながら、栄養バランスの良い食生活を目指しましょう。
妊活の開始時期を早める
AMH値が低い場合、今後の妊娠のチャンスが少なくなってきていることが考えられます。
低AMHで妊娠の希望がある際は、早めに妊活をはじめることを検討しましょう。
未婚の方やまだ妊娠を考えていない人でも、AMH検査の結果次第では、今後のライフプランや不妊治療の選択について考える必要がでてきます。将来的に妊娠を希望しているのであれば、早めにAMHや妊娠に関連する検査を受けておくことがおすすめです。
トーチクリニックではAMH検査を含むブライダルチェックを実施していますので、ご自身の体の状態を知るための一歩としてご利用いただけます。
ブライダルチェックのプランや費用については、こちらの記事をご覧ください。
参考記事:女性ブライダルチェック
不妊治療のクリニックを受診する
妊娠を希望する場合、AMH値や他のホルモンの検査値、年齢などを考慮した上で早い段階から不妊治療を受けた方が良いケースもあります。
不妊治療の専門クリニックであれば、AMHが低値でも妊娠の可能性を高める治療法を医師と考えることができます。
例えば、現在は卵子凍結を実施できる不妊治療クリニックも増えてきています。低AMHの場合は1回の採卵で得られる卵子数が限られることもあるため、若い時期から早めに検討し、必要に応じて複数回の採卵を行うことで、将来の妊娠の可能性を高め、不安を軽減することも可能です。
AMHの値やそれ以外にも妊娠に関する不安がある場合は、不妊治療専門クリニックの受診も検討しましょう。
おわりに
参考文献
1)日本産婦人科医会. 卵巣予備能とは
https://www.jaog.or.jp/note/%EF%BC%883%EF%BC%89%E5%8D%B5%E5%B7%A3%E4%BA%88%E5%82%99%E8%83%BD%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F/
2)Beth J Plante, Carmen Beamon, Colleen L Schmitt, Julie S Moldenhauer, Anne Z Steiner. Maternal antimullerian hormone levels do not predict fetal aneuploidy. J Assist Reprod Genet. 2010 May 20;27(7):409–414.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2922710/
3)日本小児神経学会. Q48:染色体異常は遺伝するのでしょうか。
https://www.childneuro.jp/general/6515/
4)厚生労働省.「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」報告書を参考に作成
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11908000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Boshihokenka/0000016944.pdf
5)国立医療育成医療センター. 周産期遺伝外
https://www.ncchd.go.jp/hospital/pregnancy/saniden/saniden.html
6)國島温志, 安藤寿夫, 鈴木範子, ほか. 当院におけるAMH1.0未満のARTの年齢別の妊娠率や採卵数の検討. 日本IVF学会学術集会 一般演題(口頭発表), 2016, 豊橋.
https://www.jsar.or.jp/dissertation/%E5%BD%93%E9%99%A2%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8Bamh1-0%E6%9C%AA%E6%BA%80%E3%81%AE-art%E3%81%AE%E5%B9%B4%E9%BD%A2%E5%88%A5%E3%81%AE%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E7%8E%87%E3%82%84%E6%8E%A1%E5%8D%B5%E6%95%B0/
7)原田 美由紀. 生殖内分泌とプレコンセプションケア 生活習慣と卵巣機能. 日本生殖内分泌学会雑誌 2020 Vol.25
https://jsre.umin.jp/20_25kan/25_topix_1.pdf