多嚢胞性卵巣症候群を持つ人の妊娠率を上げる方法は?診断方法や治療についても解説

最終更新日時:
2024-01-30
市山 卓彦
医師
torch clinic医師

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)とは、月経周期異常があり、ときに多毛やにきびなどの男性化兆候や症状を伴うこともある疾患です。PCOSにより排卵が起こりにくくなるため、不妊の原因にもなります。しかしPCOSであっても、治療によって妊娠率の上昇を期待できるケースもあります。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovarian syndrome)は「両側の卵巣が腫大・肥厚・多嚢胞化し、月経異常や不妊に多毛・男性化・肥満などを伴う症候群」と定義されている疾患です。生殖年齢女性の6〜10%に見られ、妊活中の女性ではそれに起因する排卵障害がしばしば問題となります。

はっきりとした原因はわかっていませんが、母親がPCOSの場合はその娘もPCOSになりやすい傾向があると言われています(いわゆる「遺伝性」ではなく「体質が似る」程度の傾向です)。またPCOSの女性の一部には、血糖値のコントロールに必要なインスリンの作用に対する体の反応が低下している状態が見られます。

排卵障害が起こる原因は、脳から分泌されるホルモン(卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモン)と、卵巣から分泌されるホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)のバランスが崩れれ、卵胞の発育が滞ることです。また、男性ホルモンが高くなることで卵巣の表面が硬くなり、卵子が卵巣から飛び出す排卵が起こりにくい例が知られています。

多嚢胞性卵巣症候群の妊娠率は?

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に罹患している方の妊娠率は、罹患していない方よりも低い傾向にあります。

一般的なPCOSの方が初めて妊娠、出産する確率は、そうでない方よりも最大20%低いと言われています。さらに自然妊娠のみに限定すれば、最大で40%低いというデータもあります。

また、出産までの期間は約2年遅くなると言われています。

避妊せずに性交渉を適切な回数行っていてもなかなか妊娠しないと感じられている場合は、PCOSの可能性もあるため、早めに受診するとよいでしょう。

多嚢胞性卵巣症候群の症状

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の主な症状は、月経異常、男性化兆候(多毛、にきび、肥満など)、不妊です。PCOSによる月経異常では、月経周期が長かったりばらばらである例がよく見られます。またなかには3ヶ月以上月経が来ない方もおられます。これらはホルモンバランスの乱れによって周期的な排卵が上手く起こらないことが主な原因です。

月経周期の正常範囲は25〜38日間ですが、それより長かったり周期がばらついている場合や、不正出血を認める場合は、排卵障害がある可能性が高いので婦人科医に相談しましょう。

また、PCOSの女性は、ホルモンバランスの乱れから男性ホルモンの血中濃度が高い場合があり、にきびや多毛を主訴に医療機関を受診した結果、PCOSと診断される例もあります。

PCOSは不妊や月経異常の原因である以外にもいくつかの問題点が指摘されています。

PCOSの女性は、メタボリックシンドローム、糖尿病、脂質異常症、心血管系合併症の発症頻度が高いことや、無月経が長く続き子宮内膜癌(子宮体癌のひとつ)の発症に関与することなどが挙げられます。

多嚢胞性卵巣症候群の診断方法

症状から多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が疑われるときに、以下の2つの検査を行います。

  • 超音波検査
  • 血液検査

超音波検査

卵巣に10mm未満の小さな卵胞がいくつあるのかを確認します。片方の卵巣に10個以上の小卵胞を認める場合は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に罹患している可能性があります。

血液検査

卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)を測定します。これらを測定するには月経中のタイミングで採血する必要がありますが、月経周期の長い方やなかなか月経が来ない患者さんの場合は、それ以外のタイミングで測定することもあります。

また、男性ホルモン(テストステロンやアンドロステジオン)を測定することもあります。

日本産科婦人科学会の診断基準では、以下の3つ全て満たす場合にPCOSと診断します。

①月経異常

②一方の卵巣に小卵胞を10個以上認める

③男性ホルモン高値、またはLH高値でFSHより高いとき

※患者さんの体型によって一部基準が変わったり、基礎疾患や現病歴等から総合的に判断することもあります。

多嚢胞性卵巣症候群のある患者さんの治療法は?

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療では、今すぐの妊娠を希望する場合としない場合で、方針が大きく変わります。

ここでは、今すぐの妊娠を希望する方に向けての治療法(不妊治療)を説明していきます。

①生活習慣の改善

②排卵誘発剤を用いた一般不妊治療(タイミング法、人工授精)

③体外受精

④手術療法

生活習慣の改善

BMIが25gkg/m2以上の肥満の方では、減量と運動により多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が改善される例が多くあります。具体的には、食習慣の改善と運動により5〜10%の減量と2〜6ヶか月間のダイエット期間を目標とすると良いとされます。

排卵誘発剤を用いた一般不妊治療(タイミング法、人工授精)

タイミング法

タイミング法とは、性交渉をもつべきタイミングを医師が指導し妊娠を目指す方法です。不妊治療の中では身体的、金銭的負担が少なく自然妊娠に近いのが特徴です。

人工授精

人工授精とは、排卵の時期に合わせて子宮の入口からカテーテルを挿入し、子宮内腔へ処理された精液を直接注入する方法です。採卵等は必要ないため、自然妊娠に近く女性の身体への負担が少ない不妊治療です。

排卵誘発療法には、以下の方法があります。
・クロミフェン療法
・アロマターゼ阻害薬(レトロゾール、フェマーラ)
・ゴナドトロピン療法
また、肥満や血糖値のコントロール機能に不具合のある方は、糖尿病の薬であるメトホルミンを併用することがあります。

クロミフェン療法

クロミフェンクエン酸塩(以下クロミフェン)は経口薬です。

体内にあるエストロゲンに似た構造をしており、もともとあるエストロゲンを押しのけて視床下部のエストロゲンレセプターにくっつく性質があります。

クロミフェンがエストロゲンレセプターをブロックすることで、視床下部の細胞はエストロゲンが減っていると間違って判断し、下垂体からの卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンの分泌を促進。その結果、卵胞の発育が促されるのです。

繰り返し使用することで子宮頸管粘液の分泌が減少し子宮内膜が薄くなる副作用があり、排卵障害が改善しても妊娠率の低下を招くため、長期間の使用には適していません。長くとも6周期以上妊娠成立に至らない場合は、他の治療法への変更が望ましいです。

また、クロミフェンによる多胎妊娠のリスクもあり、双子と三つ子の妊娠率はそれぞれ7.5%と0.3%と報告されています。その他にも、視覚症状(目がかすむなど)、頭痛などの副作用が知られています。

アロマターゼ阻害薬(フェマーラ、レトロゾール)

もともとは乳がんの治療薬として開発された経口薬です。卵巣でのエストロゲン産生を抑制し血中のエストロゲン濃度を低下させることで、下垂体から卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンの分泌を増加させ、卵胞発育が促進されます。

クロミフェンとは異なり、子宮内膜の厚さや頸管粘液量に影響を与えません。最近の比較試験では、PCOSのある女性において、クロミフェンよりも妊娠率が高かったと報告されています。

ゴナドトロピン療法

ゴナドトロピンは皮下注射、または筋肉注射の排卵誘発剤です。

ゴナドトロピン製剤には、FSH製剤とHMG製剤がありますが、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方はHMG製剤で卵巣過剰刺激症候群のリスクが高まるため、FSH製剤を投与することが多いです。

FSH製剤は卵巣に直接作用して卵胞の発育を促す役割があります。

自己注射が可能な種類もあるので、注射のための頻繁な受診を減らすことができます。

副作用には、卵巣過剰刺激症候群(OHSS:ovarian hyper stimulation syndrome)と多胎妊娠があり、クロミフェンやレトロゾールと比較して発生頻度が高いため、使用には細心の注意が必要です。多胎妊娠率は17.2%(双子14.3%、三つ子2.5%、四つ子0.4%)とかなり高く、妊娠が成立してもその後の流産率が高いと報告されています。

上記の副作用のため、実際に一般不妊治療でゴナドトロピン製剤を使用する頻度は低い傾向にあります。

体外受精

体外受精(c-IVF) / 顕微授精(ICSI)

体外受精は高度生殖補助医療のひとつで、卵巣で発育した卵子を体外に取り出し、精子と受精させる治療です。受精方法は2種類あり、体外受精(Conventional-IVF:c-IVF)と顕微授精(ICSI:Intra Cytoplasmic Sperm Injection)に分けられます。

IVFは卵子と精子を同じ容器の中に入れ、精子自らの力で受精させる方法で、ICSIは顕微鏡を使って形態や運動性が良好な精子を選択し、卵子の中に細い針で注入する受精方法です。

一般不妊治療で卵胞の発育が緩慢な場合や、逆に薬剤の調整が難しく一度に多数の卵胞が育ってしまい多胎妊娠のリスクから治療がキャンセルになるような方には、体外受精へのステップアップを早めにおすすめすることがあります。

PCOSの方の場合、ゴナドトロピンの注射により一度に多数の卵胞が育ちやすく、卵巣過剰刺激症候群のリスクをなるべく避けるために、得られた受精卵を一度すべて凍結し、採卵と胚移植の周期の間を1〜2ヶ月あけることが多いです。

手術療法

腹腔鏡下卵巣多孔術(LOD)

卵巣の表面に電気メスやレーザーメスで複数の小さな穴をあける手術です。作用機序ははっきりしていませんが、術後の自然排卵率は74%で、妊娠率も60%と報告されています。ゴナドトロピン療法に比べて多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群のリスクが低いため、クロミフェンの効果が乏しい方や卵巣過剰刺激症候群のリスクが高い方に有効な治療法です。

手術は腹腔鏡下に行うので入院は数日で済み、傷跡も小さく目立たないことが多いです。

まとめ

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、月経不順や無月経を理由に婦人科を受診して診断されるケースが多いですが、なかには希望しているのになかなか妊娠しないために検査を受け、そこで初めて指摘される例も多く見られます。

特に、長年月経不順がある場合は、異常と感じずに見過ごされる例もあります。

早期の診断や治療が、不妊治療の長期化を避けられる場合もあります。月経異常やなかなか妊娠が成立されない方には、早めの婦人科受診をぜひおすすめします。