第17回出生動向基本調査から─「何人ほしいか」と「何をすべきか」

市山 卓彦
市山 卓彦 医師
上野院 院長 婦人科 生殖医療科 医師
お二人の道のりが明るく照らされるよう「理解」と「納得」の上で選択いただく過程を大切にしています。エビデンスに基づいた高水準の医療提供により「幸せな家族計画の実現」をお手伝いさせていただきます。
医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

2026年9月11日、国立社会保障・人口問題研究所から第17回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)の結果が公表されました。

私(理事長 市山)は、5年に1回のこの統計が出るのを楽しみにしています。出生数や合計特殊出生率だけでは見えない、今の日本人が結婚や子どもを持つことをどう考えているのか、その希望と実際の家族形成のあいだにどんなずれがあるのかが見えてくるからです。

この「希望と現実のずれ」に、医療としてどう関われるか。これは、私がこの領域で開業した理由、モチベーションの一つでもあります。今回の統計から見えることを、生殖医療に従事する医療者としての立場から解釈させていただけたらと思います。

この調査は何をみているのか

第17回出生動向基本調査は2025年6月に実施されました。対象は、全国1,000調査区に居住する18歳以上55歳未満の独身者と、妻の年齢が55歳未満の夫婦です。夫婦調査の回答者は妻です。有効票は独身者調査6,756票、夫婦調査5,024票でした。

まず、この調査には「希望子ども数」「理想子ども数」「予定子ども数」「実際の出生子ども数」という、似ているようで意味が異なる言葉が並んでいます。

未婚者における「希望子ども数」は、本人に「あなたは、子どもは何人くらいほしいですか」と尋ねたものです。

夫婦の「理想子ども数」は、「あなた方ご夫婦にとって理想的な子どもの数は何人ですか」という設問です。そして「予定子ども数」は、「あなた方ご夫婦は全部で何人のお子さんを持つおつもりですか」への回答で、今いる子どもの数と追加で予定している子どもの数を合わせた概念です。少々複雑ですよね。

※5人以上は5人として平均が計算されています。

なお「完結出生子ども数」は、結婚後15〜19年が経過し、追加出生がほぼ終わったとみなされる夫婦が、実際に何人の子どもを持ったかを示しています。

今回の結果を読むときは、この4つを分けて理解する必要があります。

未婚の男女が「ほしい子どもの数」は低下した

18〜34歳の未婚者(男性1,247人、女性1,367人)のうち、「いずれ結婚するつもり」と回答した人=結婚の意思がある男女に限ると、平均で希望している子どもの数は男性1.64人、女性1.70人でした。

前回2021年は男性1.83人、女性1.79人で、いずれ結婚の意思がある若年未婚者の希望している子どもの数は減っています。

今回の調査では、18〜34歳で「いずれ結婚するつもり」と答えた男女の割合も男性75.1%、女性77.8%まで低下し、初めて8割を下回りました。

若年世代では、

・結婚するつもりのある男女の割合が下がっている

・その中でも希望する子どもの数が下がっている

という二つの変化が重なっています。

夫婦の理想とする子どもの数も減った

夫婦調査では、平均理想子ども数は2.18人、平均予定子ども数は1.95人でした。

前回2021年は、それぞれ2.25人、2.01人です。

予定する子ども数が2人を下回ったのは、1977年の第7回調査以降初めてです。

予定する子どもの人数の分布では、1人が17.9%、0人が7.1%まで増えています。

特に興味深いのは、結婚してからの期間が0〜4年の年数が浅い夫婦において、平均の理想とする子どもの数が1.99人と2人を下回ったことです。少なくとも結婚後0〜4年の夫婦では、理想として回答される子どもの数自体が2人を下回っています。

3組に1組は結婚時に予定していた子どもの数に届いていない

ここからが、生殖医療の立場で特に重要だと感じた部分です。

社人研は、結婚後15〜19年が経過した初婚どうしの夫婦について、「結婚した当時に持つつもりだった子ども数」と「実際に持っている子ども数」を比較しています。

その結果、全体の約3分の1で、実際の子どもの数が結婚当時に予定していた子どもの数を下回っていました。

さらに妻の初婚年齢別にみると、30歳未満での初婚カップルは予定の家族像への未達成が約4分の1だったのに対し、30歳以上での初婚の場合は47.4%と約半分でした。

1人産めるかではなく、理想を実現できるかという問題にどう向き合うか

結婚持続期間15〜19年の夫婦の平均完結出生子ども数は1.86人で、過去最低を更新しました。

出生した子どもが0人の夫婦は9.6%、1人が20.4%、2人が48.7%でした。2人の子どもを持つ夫婦の割合が1977年以降初めて50%を下回っています。

生殖医療の観点からも、これは非常に重要な視点です。

35歳で受診した患者さんが「1人希望」なのか、まず1人=本当は「2人希望」なのかで、同じ年齢・同じAMHでも、時間の使い方は変わります。

第1子を妊娠できる確率だけではなく、第2子、第3子まで含めて、どの程度の猶予があるのか将来の妊孕性まで考えなければならないからです。

なお、これは治療を急げばよいという意味ではありません。

むしろ、患者さんが希望する家族のかたちを先に確認し、その希望に対して、自然妊娠、一般不妊治療、ART、胚凍結などの選択肢がそれぞれどの程度の時間を使い、どの程度の可能性を残すのかを説明する必要がある、ということです。

「理想より少ない」の理由は一つではない

今回の調査では、理想としている子どもの数より予定している子どもの数が少ない夫婦に、その理由も尋ねています。対象は、予定子ども数が理想子ども数を下回る、妻50歳未満の初婚どうしの夫婦751組です。複数回答で、最も多かったのは「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」の52.9%でした。

ただし、理想と現実のずれが生じる背景は一様ではありません。例えば、理想は3人以上で、予定している子どもの数は2人以上と回答した夫婦では、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が65.1%で最も多くなっています。

一方、理想としては1人以上の子どもを望みながら、調査上「予定子ども数0人」に分類された夫婦では、「ほしいけれどもできないから」が40.9%でした。ここでいう「予定子ども数0人」は、あくまで調査上の分類です。このグループは理想としては1人以上の子どもを望んでおり、「子どもを望んでいない」という意味ではありません。

同じように理想子ども数と予定子ども数に差があっても、その理由は同じではありません。より多くの子どもを理想とする夫婦では経済的な負担が目立つ一方、理想として子どもを望みながら予定子ども数が0人となっている夫婦では、「ほしいけれどもできない」という回答が大きな割合を占めています。社人研も、このグループについては「身体的理由が主」と整理しています。

少子化や家族形成の変化を、「お金の問題」「晩婚化」「不妊」といった一つの理由だけで説明することはできません。どのくらいの子どもの数を望み、どの段階で理想と現実のずれが生じているのかによって、背景も、必要な支援も異なるということです。

不妊の検査・治療経験は22.8%

今回の調査では、不妊について「心配したことがある」夫婦は42.1%でした。

一方、実際に不妊の検査または治療を受けた経験がある夫婦は22.8%で、約4.4組に1組にあたります。前回2021年調査の22.7%とほぼ同水準でした。この数字から、不妊の検査・治療経験が決して珍しいものではないことが分かります。

前回調査とほぼ同じ割合だったことも重要です。ただし、この22.8%は「これまでに検査や治療を受けた経験があるか」を示す数字であり、受診のしやすさや医療へのアクセスそのものを直接測った指標ではありません。この数字だけから、アクセスが改善した、あるいは改善していないと結論づけることはできません。

働き続けられるようにはなったが、子どもの数は減る

第1子出産前後の妻の就業継続率は、2020〜2024年に出産した女性で80.5%まで上昇しました。2015〜2019年は69.9%でした。さまざまな課題はあるものの、夫の育児参加や育児休業利用も改善しています。

一方で、今回の調査では理想子ども数も予定子ども数も低下しました。

就労と育児の両立支援をしても少子化は改善しないと結論づけるのはナンセンスですが、少なくとも「仕事と育児の両立だけを改善すれば、希望子ども数や出生子ども数が増える」という単純なモデルでは説明できないことは分かります。

厳しい財政面、育児そのものの心理的・身体的負担、結婚やパートナー形成、家族観を分けて考える必要があります。

生殖医療従事者の立場から考える

確かに夫婦の理想子ども数も、予定子ども数も減っていますが、結婚時に予定していた人数まで実際には到達していない夫婦も約3分の1います。

政策として少子化をどう考えるかと、医療者として一人ひとりの家族計画をどう支援するかは、同じ問いではありません。

我々の役割は、患者さんに2人、3人の子どもを持つことを勧めることではありません。その人が望む家族を実現するために必要な情報と選択肢を、時間が残っている段階で提示し、それを叶えるサポートをすることです。

生殖医療で確認すべきなのは、妊娠したいかだけではなく

「何人」「いつ頃までに」「そのためにどの程度の時間をどの選択肢に使えるのか」

ここまで確認して、初めて治療法や選択の時間をその人の目標に合わせられると考えています。torch clinicでは、この「どのような家族を、いつまでに築きたいか」をReproductive Goalとして捉えています。

今回の出生動向基本調査は、日本全体の数字が変わっていることだけでなく、理想や予定、現実の間にズレが存在していることを示しています。データを眺めるだけではなく、そのズレに対して我々が何が出来るのかを考える、そこに意味があると思います。