妊娠と麻疹(はしか) -いま知っておきたい予防の重要性-

市山 卓彦
市山 卓彦 医師
上野院 院長 婦人科 生殖医療科 医師
お二人の道のりが明るく照らされるよう「理解」と「納得」の上で選択いただく過程を大切にしています。エビデンスに基づいた高水準の医療提供により「幸せな家族計画の実現」をお手伝いさせていただきます。
医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

国内でも麻疹が増えています

「麻疹は昔の子どもの病気」というイメージをお持ちの方は少なくありません。しかし、2026年に入ってから日本国内の麻疹報告数は急増しています。

国立健康危機管理研究機構(JIHS)のデータによると、2026年1月から5月27日までの全国累計報告数は511例に達しています。これは前年同期(2025年第21週累計130例)の約4倍にあたります(1)。

特に注目すべきは、感染している年齢層です。2026年の流行では20代だけで全体の約32%(164例)、30代が約21%(108例)を占めており、20〜39歳で全体の約53%にのぼります(1)。つまり、いま麻疹にかかっているのは、まさに妊娠・出産を考える世代の方々なのです。

地域別では東京都を中心に首都圏で感染が拡大しており、埼玉・神奈川・千葉などへ広がりを見せています。背景には、インバウンドや海外渡航の回復により海外からのウイルス流入(輸入例)が増え、国内で二次感染を起こしている事情があります。

なぜ麻疹がこれほど怖いのか

麻疹ウイルスは、数ある感染症のなかでも突出した感染力を持っており、1人の患者から12〜18人に感染が広がる可能性が指摘されています(2)。免疫を持たない集団では、同じ空間にいるだけでほぼ全員に感染が広がりうるほどです。

そして麻疹には、有効な治療薬が存在しません。治療は対症療法(休養・水分補給・解熱など)にとどまります。だからこそ、ワクチンによる予防が唯一かつ最善の手段となります。

妊娠中の麻疹は、お母さんにも赤ちゃんにもリスクが高い

ここが特に大切なポイントです。妊娠中の免疫学的な変化により、妊婦さんは呼吸器感染症にかかりやすく、また重症化しやすくなります。

米国産婦人科学会(ACOG)の機関誌に2026年に発表された総説論文では、妊娠中の麻疹について次のようなリスクが報告されています(2)。

お母さん(母体)への影響

妊娠中の麻疹は、一般集団と比べて肺炎・入院・呼吸補助の必要性・死亡のリスクが高まります。ある研究をまとめた報告では、妊婦さんの麻疹合併症として肺炎が約18%、肝炎が約11%にみられ、妊娠中の死亡率が約4.3%と報告されています。地域や医療体制の違いはあるものの、複数の研究で妊娠中は麻疹が重症化しやすいことが一貫して示されています。

赤ちゃん(胎児・新生児)への影響

妊娠中に麻疹にかかると、流産・死産・早産・低出生体重のリスクが高まることが報告されています。あるコホート研究では、麻疹にかかった妊娠で流産(15%)や早産(25%)の割合が、麻疹にかからなかった妊娠(流産率 6.7%、早産率 6.7%)よりも有意に高いという結果でした。また、出産前後に母体が感染した場合、まれではありますが新生児が「先天性麻疹」を発症し、重症化することがあります。

なお、麻疹ウイルス自体は催奇形性(生まれつきの異常を引き起こす性質)が確立されているわけではありませんが、上記のような妊娠・分娩への影響が懸念されます。

妊娠中はワクチンが打てません — だからこそ「妊娠前」が肝心

麻疹を防ぐMRワクチン(麻しん・風しん混合ワクチン)は生ワクチンのため、妊娠中は接種できません。これは、風疹ワクチン成分による先天性風疹症候群への理論上のリスクを考慮したものです。

つまり、妊娠してからでは麻疹・風疹に対する備えができないのです。

MRワクチンは安全で効果の高いワクチンです。重い副反応は、自然に麻疹にかかった場合よりもはるかにまれです。だからこそ、妊娠を考える前の段階で、ご自身の免疫を確認し、必要であれば接種を済ませておくことが何より大切になります。

生ワクチン接種後は、念のため2ヶ月間は避妊することが必要です。

当院ではブライダルチェックに麻疹を追加しました

こうした状況を踏まえ、当院ではブライダルチェック(妊娠・結婚に向けた健康チェック)に麻疹の項目を新たに追加いたしました。あわせて、麻しん・風しん混合ワクチン(MRワクチン)の接種も当院で受けていただけるようになっています。

特に次のような方は、この機会にぜひご確認・ご相談ください。

  • 1970年代後半〜1980年代生まれの方(原則1回接種世代で風疹・麻疹抗体価が不十分な可能性があります。母子手帳で接種歴をご確認ください)
  • 母子手帳が手元になく、接種歴がはっきりしない方
  • 過去に2回の接種を完了していない方
  • これから妊娠・結婚を考えている方とそのパートナー

接種歴がはっきりしない場合は、抗体検査で免疫の有無を確認するか、MRワクチンを追加で接種することで対応できます。麻疹は風疹とともに、妊娠を考えるうえで一度きちんと確認しておきたい感染症です。

まとめ

麻疹は、いま実際に妊娠・出産世代を中心に増えている、決して他人事ではない感染症です。有効な治療薬がなく、妊娠中はワクチンが打てない——だからこそ、妊娠前の予防がカギになります。

ご自身とお腹の赤ちゃんを守るために、そしてパートナーやご家族の健康のためにも、まずはご自身の麻疹・風疹の免疫を確認することから始めてみませんか。ブライダルチェックやMRワクチン接種について、どうぞお気軽に当院へご相談ください。

出典・参考文献

  1. 国立健康危機管理研究機構(JIHS)感染症情報提供サイト.「麻疹 発生動向調査」. https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/diseases/measles/graph/index.html(参照 2026-06-06)
  2. Joseph NT. Measles in Pregnancy: Clinical Considerations and Challenges. Obstet Gynecol. 2026;147(1):44-53. doi:10.1097/AOG.0000000000006126

文責

小林 睦(torch clinic 常勤医師)

※ 本記事は2026年6月時点の情報に基づいて作成しています。流行状況は変化しますので、最新情報は厚生労働省・国立健康危機管理研究機構などの公的機関の発表もあわせてご確認ください。