タイミング法で妊娠しない原因はさまざまな可能性があり、医療機関での検査・相談が重要です。この記事ではタイミング法で妊娠しない場合に考えられる原因や一般的な対応策についてまとめています。タイミング法からのステップアップについても解説しているので現在タイミング法を実践している方は参考にしてください。
タイミング法の基本事項と妊娠率
タイミング法は、不妊治療の中でも最初に行われることが多く、最も妊娠しやすいと言われている排卵の直前(排卵の1~2日前から排卵当日)に性交渉するよう医師が指導し、それを実践する方法です1)。
医師は超音波検査やホルモン検査を使って排卵日を予測し、その時期に性交渉を持つよう指導します。自然に近い形で妊娠を目指せるため、心身への負担が比較的少ない治療法とされています。
タイミング法の流れは以下のとおりです。
- 月経周期などから排卵日を予測
- 排卵期が近づいたらクリニックで超音波検査を受け、卵胞の成長を確認
- 検査結果を総合的に判断し、性交渉のタイミングを指導
- 指導された時期に性交渉を行う
- 月経予定日を過ぎても生理が来なければ妊娠判定を実施
妊娠率は1周期あたり約5%ですが、6か月継続すれば累積妊娠率は約50%、2年続けると約60%に達するとされています2)。
タイミング法の費用は、1周期あたり10,000円程度(保険適用)が目安です。排卵誘発剤の使用有無や薬剤の種類により変動します。
タイミング法の詳細については、以下のページで詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
関連ページ:タイミング療法
タイミング法の適応となる人
タイミング法は、検査では異常がないのに妊娠に至らないカップルを中心に実施します。不妊の原因が特定できない場合も、まずはタイミング法を試すことがあります。
たとえば、以下のように体に異常が見られない場合、排卵と性交渉のタイミングをとると妊娠できる可能性があります。
- 女性:卵管や排卵に異常がない
- 男性:精液検査の結果に異常がない
とくに女性の年齢が若く、不妊期間が短いカップルは自然妊娠できる可能性があるため、状況に応じて6か月〜1年程度タイミング法を試みることもあります。
ただし、年齢が高くなると早期に不妊治療のステップアップが検討される場合もあります。女性の場合、とくに35歳以上になると妊娠率の低下が顕著になるためです。人工授精や体外受精へのステップアップが選択肢となります。
タイミング法で妊娠しない原因
タイミング法を行っても妊娠に至らない場合には、複数の要因が関係している可能性があります。
たとえば以下の原因が考えられます。
- 精子の状態がよくない
- 精子の通り道に問題がある
- 卵管の通り道に問題がある
- 子宮の環境が妊娠に適していない
- 正常に排卵していない
- 加齢により卵子や精子の質が低下している
- 性交渉が適切なタイミング・頻度で行えていない
- 妊娠に悪影響を与える生活習慣がある
何かしら妊娠しない原因がある場合、タイミングを合わせても妊娠は難しくなります。原因を特定するためには、セルフチェックだけでなく医療機関での検査・相談が重要です。
精子の状態がよくない、通り道に問題がある
男性側の要因は、不妊原因全体の約半数を占めます。
精子の数・運動率・形態に異常があると、卵子まで到達できなかったり受精力が低下したりするためです。また、精子の通り道に問題があるために到達できないケースもあります。
タイミング法を試みても妊娠できないと考えられる要因は以下の状態です。
- 造精機能障害:精子をつくる力が弱く、数が少ない(乏精子症)、動きが悪い(精子無力症)、形の異常が多い(奇形精子症)など
- 精路通過障害:精子は作られているものの、通り道が塞がり精液中に出てこない(閉塞性無精子症)
これらがあると自然妊娠は難しくなるため、早めの精液検査や医師の診察が推奨されます。
卵管の通り道に問題がある
卵管は卵子と精子が出会うための重要な場所であり、異常があると妊娠が難しくなることがあります。卵管が閉塞・癒着していると精子と卵子が出会えなくなるからです。
以下が原因で、卵管の通り道に異常が生じることがあります。
- 過去の性感染症(特にクラミジア感染症)による炎症
- 子宮内膜症による癒着
- 虫垂炎や帝王切開など、腹部手術後の癒着
卵管異常は自覚症状が少ないため、不妊検査ではじめて分かることも少なくありません。
子宮の環境が妊娠に適していない
子宮内膜に受精卵が着床できなければ妊娠は成立しません。
子宮の環境が整っていなければ、不妊の一因となることがあります。
以下のように子宮内膜や子宮頸管に異常があると、タイミング法で受精が成立しても着床がうまくいかないことがあります。
- 子宮頸管の問題:排卵期に分泌される頸管粘液が少ない・性状が悪いと精子が子宮に届きにくい
- 子宮の病気:子宮内膜ポリープ、子宮筋腫、子宮腺筋症などが着床を妨げる
- 子宮内の癒着:手術や炎症後に起こり、着床障害を引き起こす
正常に排卵していない
タイミング法を行うには、排卵が正常に起きていることが前提です。排卵が不規則、またはうまく排卵していない場合、性交渉のタイミングを合わせても妊娠は難しくなります。
以下の状態や病気があると、排卵異常が起こりやすくなります。
- ストレスや体重変化によるホルモンバランスの乱れ
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 高プロラクチン血症
- 甲状腺機能異常
月経(生理)のような出血があっても、必ず排卵しているとは言えません。排卵の有無を確かめる方法のひとつに、基礎体温の変化で目安をつける方法があります。ただし、基礎体温だけで排卵を正確に判断できるわけではないため、必要に応じて排卵検査薬や超音波検査などを組み合わせて確認するようにしましょう。
加齢により卵子や精子の質が低下している
加齢は妊孕性(にんようせい:妊娠する力)に大きく影響します。
女性では卵子の数・質が年齢とともに低下し、受精率の低下や染色体異常の増加につながります。日本生殖医学会が公表している資料によると、女性の年齢が21〜24歳のカップルの比率を1.00とした時、それぞれの年齢ごとの妊娠する比率は以下のとおりです3)。
上記のとおり、女性は年齢を重ねるごとに妊娠する割合が低下し、特に30代後半からは低下の割合が顕著になります。
男性は女性ほど年齢による影響が顕著でないものの、精子の数や運動性の低下、精子のDNAの損傷が増えることなどが知られています4)。
性交渉が適切なタイミング・頻度で行えていない
性交渉のタイミングや頻度も妊娠率に影響します。妊娠の可能性が高いのは排卵日の1〜2日前であり、この時期に性交渉を持つことで卵子と精子が出会う確率が高まります。
性交渉の頻度の例として、排卵4日前から排卵前日の期間に、1〜2日おきのペースが目安となります。しかし、精神的な負担になると性交渉自体がうまく行かなくなることもあるため、無理のないペースを心がけましょう。
妊娠に悪影響を与える生活習慣がある
タイミングを合わせていても、生活習慣の乱れが妊孕性に影響を与えることがあります。
喫煙はなるべく避けるようにし、飲酒も適量を心がけるのがよいでしょう。体重についてはBMIが指標として使われるのが一般的です5)。
BMI=体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)
BMIが18.5未満では低体重(やせ)と判定され、女性では貧血や骨粗鬆症の原因になる可能性があります。25.0以上では肥満と判定され、女性の場合は糖尿病や高血圧など病気のリスクが高くなり妊娠率が低下することが知られています。
肥満の男性の場合は、精子の数、濃度、運動性が低くなり、奇形率が多いことが知られています。
タイミング法で妊娠しない場合は?
タイミング法を続けても妊娠に至らない場合は、医療機関とも相談の上で追加の検査を実施したり、次のステップに進むことになります。
不妊の原因は複数の要素が関わっており、必ずしも特定できるとは限りません。医師と相談しながら治療方針を見直し、適切なタイミングでステップアップを検討することも重要です。
タイミング法で妊娠しない場合は以下のようなことが検討されます。
- 不妊の原因を調べる検査
- 妊娠しやすいタイミング・頻度の見直し
- 生活習慣を見直す
- 治療の段階的ステップアップ
不妊の原因を調べる検査
タイミング法を実施する前にブライダルチェックなどの検査を実施しているカップルも多いですが、もし事前に実施していない検査があったり、原因を特定する上で必要な検査があれば追加で実施する場合があります。
不妊の原因を調べる代表的な検査には、男性では精液検査、女性では子宮卵管造影検査・ホルモン検査・AMH検査などがあります。
精液検査
精液検査では、精子の数や動き、形などを評価します。不妊要因の約半数は男性側も関係するため、重要な検査のひとつです。マスターベーションで採取した精液を顕微鏡で調べるもので、痛みはありません。
チェックする主な項目は以下のとおりです。
- 精液量
- 濃度
- 運動率
- 総精子数
- 前進運動精子数
なお、精液の状態は日々の変動も少なくありません。そのため、1回の精液検査ですべての状態を判断できない場合もあります。1回目の精液所見が不良であっても、再検査で正常と判断するケースもあるため、必要に応じて複数回実施されます。
精液検査については以下のページで詳しくまとめているので、あわせてご覧ください。
関連ページ:精液検査
子宮卵管造影検査
子宮卵管造影検査は、子宮内に造影剤を注入してX線で撮影する検査です。卵管が詰まっていたり狭まっていたりしないか、子宮の中にくっついている箇所(癒着)がないかなどを確認します。
また、卵管に造影剤を通過させることで、卵管の通りがよくなる場合もあり、治療的な面もある検査です。
子宮卵管造影検査については、以下のページで詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
関連ページ:子宮卵管造影検査
ホルモン検査
排卵〜着床の過程に関連するホルモンを調べ、不妊の要因となる異常がないか確認するために行います
主な検査項目は以下のとおりです。
- 卵胞刺激ホルモン(FSH):脳から分泌され、卵巣内の卵胞(卵子の袋)を育てる
- 黄体形成ホルモン(LH):脳から分泌され、成熟した卵胞からの排卵を促す
- エストロゲン(E2、卵胞ホルモン):卵胞から分泌され、子宮内膜を厚くするなど、妊娠の準備を整える
- プロゲステロン(P4、黄体ホルモン):排卵後の卵胞(黄体)から分泌され、着床しやすいように子宮内膜の状態を維持する
- プロラクチン(PRL):乳汁の分泌を促すホルモンで、高すぎると排卵を抑制する
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)、甲状腺ホルモン(FT4):排卵に影響を与えることがある
ホルモン検査については、以下のページで詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
関連ページ:ホルモン検査
AMH検査
AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査は、卵巣内にどれくらい卵子が残っているかの目安となります。現在の排卵状態などを確認する他のホルモン検査と異なり、必ずしも妊娠のしやすさに直結する指標ではありませんが、治療の進め方を考える上で参考になります。
AMHについては、以下のページで詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
関連ページ:AMH
妊娠しやすいタイミング・頻度の見直し
タイミング法は医師から指定された時期に性交渉をもつことが重要です。医師から指定された妊娠しやすい時期を守れているかを含めて確認し、タイミングや頻度を見直す場合もあります。
タイミング法の実施状況をしっかりと医師側に伝え、自分たちの希望なども含め次回以降の方針を決めることになります。
もし指定されたタイミングでの性交渉ができていない場合は、その旨をしっかり医療機関に相談するようにしましょう。タイミング法は男性側にもストレスがかかり、性行為自体がうまくできないケースも少なくありません。対処法やタイミング法を継続するかも含め医師と相談するようにしましょう。
生活習慣を見直す
生活習慣を整えることで、ホルモンバランスが安定し妊娠のしやすさにもつながる可能性があります。
- 適正な体重の維持
- 良質な睡眠をとる
- 禁煙する
- 飲酒の量を減らす
- ストレスをため込まない
生活習慣の改善は即効性があるようなものではないため、できることから少しずつ取り入れることが大切です。妊娠の可能性を高めるだけでなく、将来の健康維持にもつながるため、無理のない範囲で継続して取り組んでいきましょう。
治療の段階的ステップアップ
タイミング法で一定期間妊娠できない場合、不妊治療の次のステップへ移行することも検討されます。
ステップアップのタイミングは必ずしも一律ではなく、年齢や不妊の期間、卵管や精子の状態などを考慮して総合的に判断されます。
タイミング法の次のステップとして、多くの場合は人工授精に進みますが、個人の状況によっては体外受精に移行する場合もあります。
ステップアップについては医師と相談して決めることになるため、まずはしっかりと現在の状態を伝えておくようにしましょう。
おわりに
参考文献
1)日本産科婦人科学会. 不妊症. 日本産科婦人科学会ウェブサイト.
https://www.jsog.or.jp/citizen/5718/
2)日本産婦人科医会. 9.タイミング. 日本産婦人科医会ウェブサイト.
https://www.jaog.or.jp/lecture/9-%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%B0/
3)日本生殖医学会. 生殖医療 Q&A 2025 22. 女性の加齢は不妊症にどんな影響を与えるのですか? 日本生殖医学会ウェブサイト.
http://www.jsrm.or.jp/public/document/seishoku_qa_2025.pdf
4)日本生殖医学会. Q25.男性の加齢は不妊症・流産にどんな影響を与えるのですか? 日本生殖医学会ウェブサイト.
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa25.html
5)日本肥満学会.肥満度分類.日本肥満学会ウェブサイト.
https://www.jasso.or.jp/data/magazine/pdf/chart_A.pdf