30代になって「なかなか妊娠できない」と感じる人は多いのではないでしょうか。年齢による妊娠率の変化や、生活習慣・体調の影響、男女双方の要因など、気になる点は少なくありません。
この記事では、妊娠率と原因、妊娠の可能性につながる体づくり、基礎体温や排卵日の見極め方など分かりやすく解説します。
30代はなかなか妊娠できない?妊娠率と年齢による変化
厚生労働省の人口動態統計によると2024年の第1子出生時の母の平均年齢は31.0歳とされており1)、30代で妊娠・出産をすることは一般的となっています。
一方で女性の妊孕性(にんようせい:妊娠する力)は、30歳頃から徐々に減少することが知られており、35歳を過ぎるとその低下が顕著になり、40歳を過ぎるとさらに急速に低下します。
実際の30代妊娠率の参考になるデータとして、日本産科婦人科学会が公開している体外受精の臨床実施成績がありますが2)、以下のように女性の年齢が上がるほど妊娠率は低下する傾向があります。
30代でなかなか妊娠できない主な原因
30代になると妊娠率が下がり、不妊に悩むカップルも増えてきます。女性だけでなく、男性側にも原因があるケースは少なくありません。また、原因不明のケースもあります。
ここでは、代表的な不妊原因について、男女それぞれ考えられる原因を解説します。
女性側の原因
日本産科婦人科学会によると、女性不妊の主な原因には、以下のようなものが挙げられます3)。
- 排卵の異常
- 卵管の異常
- 子宮頸管の異常
- 子宮の異常
- 加齢の影響
この中で30代以降に特に考慮したいのが「加齢の影響」です。女性の年齢の増加による妊孕力の低下の主な原因は、卵子の質の低下とされています。
卵子の質を確認した調査の内容では、ドナー卵子として年齢の若い女性から卵子提供を受けると、女性の年齢の増加による妊娠率・生産率の低下は見られなくなることが確認されており、この点から妊孕力の低下の原因は加齢であることが分かっています4)。
また、女性は年齢が増加すると、婦人科系の疾患にかかりやすくなり、「排卵の異常」や「卵管の異常」なども起こりやすくなるため、複合的に不妊の原因が関係してくる可能性が高まります。
男性側の原因
不妊症の原因は、WHO(世界保健機関)の調査では「男性のみ」が24%、「男女ともにあり」が24%であり、約半数は男性側もしています。
日本産科婦人科学会で挙げられている男性不妊の主な原因は以下のとおりです3)。
- 精巣の機能異常
- 精子の通過障害
- 性交の障害
- 加齢の影響
上記のとおり、男性側も「加齢の影響」が不妊原因となる可能性があります。ただし、男性ホルモンをつくる力などは年齢とともに低下しますが、女性の閉経のように明確な変化があるわけでなく、必ずしも30代などの年代で大きく区切られることもありません。
女性ほど大きな影響は考えられていませんが、年齢を重ねることで精液量や精子運動率、精子正常形態率は低下するとされています5)。
加齢以外では、精巣の機能異常(造精機能障害)、精子の通過障害(精路通過障害)、性交の障害(性機能障害)が主な原因であり、最も比率として多いのが造精機能障害です。造精機能障害の代表例として、精巣や周りの静脈が拡張して精子が作りづらくなる「精索静脈瘤」などが知られています。
原因不明の不妊症
不妊症の原因がわからないケースも一定数あり、WHOの調査では11%が原因不明とされています。また、原因不明の不妊症は、年齢が高くなると原因不明の割合も高くなることが知られています6)。
ただし、原因不明の不妊症でも妊娠できないわけではなく、不妊治療を行うことで妊娠できるケースも十分にあるため、医療機関に相談して適切な治療を受けることが重要となります。
30代妊娠しやすい体づくりのポイント
30代で妊娠しやすい体を整えるためには、日常生活の工夫も重要です。夫婦で協力しながら、食事・運動・睡眠・ストレス対策を見直すことが大切です。
また、喫煙や飲酒を控え、プレコンセプションケア(プレコン)を取り入れることも妊活に役立ちます。
以下に、具体的なポイントを見ていきましょう。
パートナーと話し合い協力する
妊活は女性だけの努力ではなく、夫婦で協力して取り組むことが成功への近道です。
不妊症の原因は男性側にあるケースもあり、前述のとおり不妊の約半数は男性因子が関与していると報告されています。そのため、女性だけでなくパートナーとともに検査を受けることが推奨されます。
また、検査や治療の進め方を共有すると、不安や心理的な負担の軽減にもつながります。
妊活によい食生活を心がける
妊娠を考える段階から、主食・主菜・副菜・乳製品・果物をバランスよく摂取しましょう。
特に、葉酸は胎児の神経管閉鎖障害の予防に有効で、妊娠を考えた時点から1日400μgの摂取が推奨されています7)。枝豆やいちご、緑黄色野菜に多く含まれますが、必要量を満たすためにはサプリメントの活用も有効です。
鉄分やカルシウム、たんぱく質は血液やホルモンをつくる基盤となり、妊娠を支える体づくりに欠かせません。また、ビタミン類も代謝や免疫を整えるために大切です。
一方、カフェインは摂りすぎに注意が必要です。安全な摂取量は明確に定められていませんが、例として、カナダ保健省では妊娠を希望する方は1日300mg以下を目安に控えることが勧められています8)。
適度な運動を取り入れる
妊娠しやすい体をつくるためには、無理のない運動を習慣にすることが役立ちます。運動によって血流が良くなると卵巣や子宮にも十分な酸素や栄養が届きやすくなり、ホルモンバランスの安定にもつながるでしょう。
ウォーキングやストレッチ、ヨガなどは妊活中でも取り入れやすく、ストレス解消や睡眠の質の改善にも期待ができます。
ストレスを溜め込まない工夫をする
妊活では、ストレスを溜め込まない工夫が重要です。
強いストレスは自律神経やホルモン分泌を乱し、排卵障害や月経不順の原因になるといわれています。また、不妊治療中は結果への不安やプレッシャーが重なることもあります。
対策としては、信頼できる人に気持ちを話す、趣味やリラクゼーションを取り入れる、マインドフルネスや呼吸法を実践するなどが有効です。
必要に応じて、カウンセリングを利用することも心理的な支えになるでしょう。
基礎体温を測定し、排卵日を予測する
基礎体温を測定することは、妊娠のタイミングを知るために役立ちます。
基礎体温は、毎朝起床時に体温を測ることで排卵の有無を把握できる大切な指標です。通常は低温期と高温期の二相に分かれ、体温が上昇する直前の数日間が最も妊娠しやすい時期とされています。
グラフに記録して周期の特徴を知ることは、自然妊娠のタイミングを取る目安となるだけでなく、不妊治療や医師の診断にも役立つでしょう。
近年は基礎体温を自動で記録できるアプリや専用デバイスも普及しており、無理なく続けやすくなっています。
ただし、睡眠不足や体調の影響で体温が変動することもあるため、あくまで目安として活用し、気になる場合は早めに専門医へ相談しましょう。
良質な睡眠を確保する
妊活中は良質な睡眠を確保することが重要です。
睡眠不足や質の悪い睡眠は、ホルモン分泌や自律神経の働きを乱し、排卵障害や月経不順につながる可能性があります。
妊活中は、毎日同じ時間に寝起きする・就寝前のスマホ使用を控えるなど、良質な睡眠を確保できるよう工夫しましょう。
アルコールや喫煙を控える
妊娠を望むなら、男女ともに禁煙・節酒を意識することが大切です。
喫煙は卵子や精子の質を低下させ、妊娠率を下げることが分かっています。また、女性の喫煙は卵巣機能を阻害し、妊娠の可能性を低下させるとも知られています。
さらに過度な飲酒はホルモン分泌や排卵、着床に悪影響を及ぼし、不妊につながる可能性があります。
夫婦で一緒に取り組むことで習慣改善が続けやすく、妊娠率の向上や将来の母体と赤ちゃんの健康にもつながるでしょう。
プレコンセプションケアを始める
妊娠を望む場合、「プレコンセプションケア(プレコン)」は、妊活の第一歩として重要です。
プレコンセプションケア(プレコン)とは、妊娠前から心身の健康状態を整え、将来の妊娠や出産に備える取り組みです。
栄養状態や体重、喫煙や飲酒の習慣、持病や服薬、感染症やワクチン接種歴、メンタルヘルスなどを幅広く確認し、改善につなげることで、不妊や妊娠合併症のリスクを減らすことが期待されます。女性だけでなく男性も対象で、夫婦で取り組むことが推奨されています。
30代でなかなか妊娠できない場合はブライダルチェックや不妊治療も選択肢の1つ
望んでもなかなか妊娠できない場合は、ブライダルチェックや不妊治療を医療機関で受けることも選択肢となります。
ブライダルチェックとは将来的な妊娠に備え、出産や妊娠に影響がある問題などを確認するための検査です。検査を通じてホルモン値や卵巣・子宮の状態、精子の状態などを確認でき、必要に応じて治療や生活改善につなげることができます。
日本では、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交していたにもかかわらず、1年間妊娠しない場合を不妊症としているため3)、1年程度不妊が続く場合は何らかの検査を受けることを検討するのが推奨されます。
また、前述のとおり35歳以降では妊孕性の低下が顕著になるため、妊娠できない期間が続く場合は1年を待たないタイミングでも検査を検討してもよいでしょう。
例として、アメリカの生殖医学会は「定期的な性交を行っており、どちらのパートナーにも生殖能力の低下を示す要因がない場合、女性が35歳以上の場合は6か月後に評価を開始する必要がある」としており9)、35歳以上では6か月が検査を受けるタイミングのひとつの目安となります。
おわりに
参考文献
1)厚生労働省. 令和6年(2024)人口動態統計 結果の概要. 厚生労働省ウェブサイト.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai24/dl/kekka.pdf
2)日本産科婦人科学会. 2023年体外受精・胚移植等の臨床実施成績. 日本産科婦人科学会ウェブサイト.
https://www.jsog.or.jp/activity/art/2023_JSOG-ART.pdf
3)日本産科婦人科学会. 不妊症. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5718/
4)日本生殖医学会. Q24 加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか? 日本生殖医学会ウェブサイト
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa24.html
5)日本生殖医学会. Q24 加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか? 日本生殖医学会ウェブサイト
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa25.html
6)日本生殖医学会. Q4.不妊症の原因にはどういうものがありますか? 日本生殖医学会ウェブサイト
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa04.html
7)厚生労働省. 葉酸とサプリメント‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果. 厚生労働省ウェブサイト
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-05-002
8)厚生労働省. 食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~. 厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170477.html
9)American Society for Reproductive Medicine. Definition of infertility. Practice Committee Documents. ASRM.
https://www.asrm.org/practice-guidance/practice-committee-documents/definition-of-infertility