不妊治療をしてまで子どもは欲しくないと思うことは、必ずしも珍しいことではありません。結婚・家族に関する意識の変化や、不妊治療の現実的な課題がそのような考えにつながる可能性もあります。この記事では、不妊治療してまで欲しくないと思う理由や妻・夫の心理面に関して、各種のアンケートや調査結果なども含めて解説します。
不妊治療してまで欲しくないと思う理由
不妊治療してまで欲しくないと思う理由として、まずは結婚・家族に関する意識の変化が考えられます。
国立社会保障・人口問題研究所が2021年に実施した第16回出生動向基本調査では、「結婚したら、子どもは持つべきだ」というアンケート項目で、賛成は未婚女性で36.6%、未婚男性で55.0%という結果でした1)。
同じアンケート項目に関して前回2015年の第15回出生動向基本調査では、未婚女性67.4%、未婚男性75.4%が賛成という結果であり2)、ここ数年でも子どもを持つべきという意識が大きく変化していることが窺えます。
また、実際に不妊治療を検討しても現実的な課題があるために、不妊治療に至らない場合もあります。
2025年に山梨県が実施した不妊治療に関する意識と実態調査では、「不妊治療を検討したものの、実施に至らなかった理由を教えてください」という質問に対して、以下のような結果となっています3)。
上記のように、費用の課題や、仕事との両立の課題、さらに医療機関や治療内容の不安など精神的な面も理由となります。
不妊治療は身体・精神・社会的な負担が伴うことも
不妊治療は、妊娠の可能性を広げる上で重要な選択肢であり、実際に治療に臨むカップルも増えています。一方で、不妊治療には体や精神、社会的な負担をもたらすケースもあり、以下のような例があります。
このように不妊治療にはさまざまな負担があり、耳にしたことがある内容も多いかもしれません。
現在では、不妊治療を受ける夫婦に対して、行政からの支援だけでなく、保険適用も拡大しています。それでもなお、不妊治療に取り組む夫婦が抱える課題は少なくありません。
パートナーが「不妊治療してまで欲しくない」と思う心理
子供や家庭に対しては、男女間で考え方に差があることも少なくありません。
不妊治療してまで欲しくないと思う心理としてどのような考え方の違いがあるかを知っておくことも重要です。
ここでは、日本財団が2024年に実施した「少子化に関する意識調査」4)、NPO法人Fineが2024年に実施した「不妊に関する意識・環境調査 2024」5)の結果を参照します。
妻が「不妊治療してまで欲しくない」と思う心理
女性側が「不妊治療してまで欲しくない」と思う心理の背景には、出産や育児に対してより現実的に捉えている傾向が多いことが窺えます。
日本財団の「少子化に関する意識調査」では、子供を持ちたくない理由として、「出産・育児に自信がないから」をあげる女性が多く、15〜25歳、26〜35歳、36〜45歳のいずれの年代でも40%以上の割合でという結果でした。一方、男性側でこの理由をあげた割合は、最も多い年代でも27.6%にとどまっており、男女間で最も差がある質問項目でした4)。
この結果は、女性側が必ずしも弱気であったり消極的であるということではなく、出産や育児に対してより厳しく現実的に捉えている可能性が考えられます。
ほかにも「自分の自由な時間や生活を優先したいから」、「子どものしつけなどストレスが増えそうだから」などの理由も女性側の回答数が多い結果となっており、実際に子どもが生まれた後の生活を、具体的に想定して考えている結果といえそうです。
夫が「不妊治療してまで欲しくない」と思う心理
男性側が「不妊治療してまで欲しくない」と思う心理の背景には、子どもを持ちたいという熱量の差や、不妊や不妊治療に対する知識が不十分である可能性が考えられます。
日本財団の「少子化に関する意識調査」の子供を持ちたくない理由として、「特に明確な理由はない・わからない」と回答した男性は、15〜25歳、26〜35歳、36〜45歳の年代で10.9〜17.6%であり、女性の6.5〜7.3%をいずれの年代でも上回る結果でした4)。
この結果からは、明確な理由はなくても子供を持ちたくないと思う男性が一定数おり、不妊治療をしてまで欲しくないと思う心理につながることが考えられます。
また、NPO法人Fineの「不妊に関する意識・環境調査 2024」では、不妊に関する各項目について「知っている・聞いたことがある」かどうかを男女それぞれにアンケートを実施しています。
男性と女性の回答に差が大きかったものとして、「妊娠にいたらない期間が1年を超えると不妊症と診断される」については男性39%・女性71%、「不育症という言葉」については男性20%、女性62%という結果でした5)。
この結果から、男性は不妊に関する知識が不足している傾向があり、治療に踏み出す際の心理的ハードルが高くなりやすい可能性も考えられます。
パートナーと気持ちがすれ違うときにできること
パートナーと気持ちがすれ違うとき、まずは夫婦の考え方の違いを把握するところから始めるのが良いでしょう。
前述のとおり、男女間では出産・育児に対する捉え方や子どもを持ちたいという熱量、不妊や不妊治療に対する知識量の差がある可能性があります。
以下のような内容を話し合っておくと、迷いが生じたときにひとつの指針となるでしょう。
- 子どもをどのくらいの望んでいるか
- 不妊や不妊治療の知識と、治療を受ける希望があるか
- 不妊治療を受ける場合、いつ、どこで、どの段階まで続けるのか
また、上記を話し合うときには結論だけでなく「なぜそう思うのか」まで共有すると、よりお互いの理解が深まることが期待できます。
不妊治療の負担からメンタルを保つ方法
不妊治療の負担からメンタルを保つためには、「パートナーとのコミュニケーション」と「セルフケア」が欠かせません。
治療を進めるかどうか、どの段階まで続けるのか、大切な判断を一人で抱え込むのではなく、2人で話し合うことが重要です。
また、自分自身のケアも行いましょう。
不妊治療には心身への負担が伴うため、ストレスを完全になくすことは難しいものです。ときには「ストレスを感じるのは自然なこと」と受け入れることもひとつの対策といえます。
ストレッチや深呼吸などを習慣化し、心と体のリラックスも心がけましょう。
不妊治療は、まるで先の見えないトンネルを歩くようだと例えられることがあります。
結果だけにとらわれすぎず、夫婦で声をかけ合いながら、少しずつメンタルケアに取り組んでいきましょう。
一人で抱え込まず専門家に相談する選択肢も
不妊治療について悩んだときには、専門家への相談も検討しましょう。
自治体によっては不妊専門相談センターが配置されているところもあります。不妊専門相談センターは、不妊について悩む夫婦などを対象に、医師や助産師などの専門家が相談に乗ってくれる公共機関のサービスです6)。
無料で利用できるため、気軽に相談できる人が周りにいない場合や専門家の意見も聞いてみたい場合は利用を検討しましょう。
全国の不妊専門相談センターは以下のページから確認できます。
参考サイト:全国の不妊専門相談センター一覧(こども家庭庁)
おわりに
参考文献
1)国立社会保障・人口問題研究所. 第16回出生動向基本調査報告書(2021年調査). 国立社会保障・人口問題研究所ウェブサイト
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16_ReportALL.pdf
2)国立社会保障・人口問題研究所. 第15回出生動向基本調査 結果の概要. 国立社会保障・人口問題研究所ウェブサイト
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/nfs15_gaiyou.pdf
3)山梨県. 令和7年度 不妊治療に関する意識と実態調査 報告書. 山梨県ウェブサイト
https://www.pref.yamanashi.jp/documents/122737/r7funinchiryoucyousakekka.pdf
4)日本財団. 少子化に関する意識調査 ~報告書~. 日本財団ウェブサイト
https://www.nippon-foundation.or.jp/wp-content/uploads/2024/11/new_pr_20241129_01.pdf
5)NPO法人Fine. 「不妊に関する意識・環境調査 2024」グラフ集. 特定非営利活動法人Fineウェブサイト
https://j-fine.jp/prs/prs/fineprs_funin_ishiki2024_graph.pdf
6)こども家庭庁. 不妊に悩む夫婦への支援について. こども家庭庁ウェブサイト
https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/funin/tokutei

