体外受精の出産予定日の計算は排卵日もしくは黄体ホルモン製剤を開始した日を妊娠2週0日とし、妊娠40週を目安とします。体外受精の場合は採卵日や胚移植日が特定できるため自然妊娠よりも高い精度で予定日を設定できます。この記事では出産予定日の具体的な計算方法や、予定日よりも早く産まれるケースなどについて解説します。
出産予定日とは
出産予定日(分娩予定日)とは、医学的に赤ちゃんが生まれると予測される日のことで、妊婦健診のスケジュール立案、胎児の発育評価、分娩時期の判断などの重要な指標となります。最終月経の開始日を基準に計算されますが、出産予定日当日に出産する割合は4-5%程度で、実際には予定日の前後2週間(38-42週)の間に約95%の出産が起こります。初産婦では予定日より遅れる傾向があり、経産婦では早まる傾向があることが知られています。
通常は最終月経日を0週0日、排卵日を2週0日として計算し、40週0日目を出産予定日としますが、排卵日が不確かである場合には、妊婦健診中の赤ちゃんの大きさなどで修正されることもあります。
体外受精の出産予定日の計算方法
体外受精の出産予定日の計算は、基本的には自然妊娠と同じく「妊娠2週0日(排卵日)」を起点に妊娠40週(280日)を目安として算出します。
胚移植の場合の排卵日は「移植した胚が受精から何日目にあたるか(日齢)」で分かります。たとえば、4細胞期胚を移植した場合は移植日の2日前、8細胞期胚なら3日前、胚盤胞(5日目胚)なら5日前を「受精日=排卵日(妊娠2週0日)」とし、そこから妊娠週数を数えます1)。
逆に胚移植周期では排卵日が特定されたら、移植した胚の日齢に合わせて移植日が設定されます。
体外受精が自然妊娠より出産予定日を特定しやすい理由
前述のとおり、自然妊娠の場合は排卵日や受精日から出産予定日が計算されます。最終月経日や基礎体温、超音波検査、尿検査をもとに排卵日を推定し、予定日を計算するのが一般的ですが、月経周期の個人差などから誤差が生じることも多く、正確な出産予定日を推定することが難しいことは少なくありません。
体外受精では採卵日や胚移植日など特定のタイミングを管理できるため、排卵日や受精日を明確に把握できます。そのため、これらの情報を基準として出産予定日を算出できるため、自然妊娠の出産予定日と比べて誤差が少ないとされています。
実際に海外の研究においても、体外受精の妊娠では採卵日や移植日を基準とした予定日の推定が比較的高い精度を示すことが報告されています2)。
出産日が早まる・遅れる原因
出産予定日が決まっても、必ずしも予定日どおりに生まれるとは限りません。なぜ出産予定日が早まったり遅れたりするのか、詳しく見ていきましょう。
早産(出産予定日より早まる)の原因
早産とは、妊娠22週から36週で出産することです。母体や胎児の状態によって予期せず発生しますが、主な原因として以下のようなものがあります。
日本の早産率は約5.7%と報告されており、諸外国と比べると低い水準です。一方で、世界的には5~18%と幅があり、地域や医療環境によって差が見られます3)。アメリカでは新生児の約10人に1人が早産で生まれており、早産児は周産期死亡(妊娠22週以降~生後1週間未満の死亡)の4分の3を占め、成長後も長期に渡って健康問題も多いことが報告されています4)。このため、適切なスクリーニングや管理が重要です。
早産のリスクを減らす方法
早産は必ずしも防げるものではありません。妊娠高血圧症候群・前置胎盤・常位胎盤早期剥離などの産科合併症を発症した場合など、早産となってしまうことを事前に防ぐことが難しいケースもあり、リスクを確実に無くすことはできません。
しかし、まずは妊娠する前から自身の体の状況を理解して、体調を整えておくこと(プレコンセプションケア)は個人でできることであり、早産のリスクを減らすことにつながる可能性があります。
プレコンセプションケアとは、妊娠前に性や妊娠に関する正しい知識を身に付け健康管理を行うよう促すことです5)。具体的な内容として、今の自分を知る(基礎体温や適正体重、ストレスなど)、生活を整える(基本的な栄養や葉酸の摂取、禁煙したりアルコールを控えるなど)といったアクションがあります。
また、これまでの病気や現在の妊娠中の状態に応じて、医療的な処置を行う場合もあります。それぞれの原因によって、手術や薬物治療を実施することがあるため、過去の病歴や現在の状態を正確に伝えるように心がけましょう。
過期産(出産予定日より遅れる)の原因
過期産とは、妊娠42週を超えた出産です。明確な原因が分からない場合も多いですが、過去にも過期産の経験がある場合は、リスクが高くなるとされています6)。
また、アメリカの産婦人科医会(ACOG)では、以下の点を過期妊娠の原因の可能性としてあげています。
- 初産
- 男児の妊娠
- 過去にも過期妊娠となった妊婦
- 肥満
過期産の対処法として、42週に入る前に薬剤で陣痛を促進させる分娩誘発が一般的であり、これによって妊婦さんや赤ちゃんへのリスクの軽減につながるとされています。ただし、分娩管理の方針は施設や妊婦さんの状態によって異なるため、主治医とよく相談することが大切です。
出産予定日がわかったあとにやったほうがよいこと
出産予定日が決まったら、余裕を持って利用できる制度などを調べておきましょう。以下の点について解説します。
- 産休・育休の取得準備
- 出産育児一時金の利用準備
- 高額療養費制度の利用準備
産休・育休の取得準備
会社員など雇用されている労働者に該当する場合は、産休・育休の準備を進めましょう。産休は会社員・契約社員・パートも含め対象となり、育休も条件を満たすことで、契約社員やパートも対象になります。
産休(産前・産後休業)は労働基準法第65条第1項によって産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後は8週間と定められており、女性労働者が請求すれば取得可能です。
なお、産後6週間は強制的な休業ですが、6週間を経過した後は労働者本人が請求し、医師が支障ないと認めた場合は早期に復帰することも可能と定められています。
以下のサイトで詳しく解説されているので、あわせて参考にしてください。
関連サイト:働く女性の心とからだの応援サイト 産前・産後休業を取るときは
一方、育休(育児休業)については育児・介護休業法第5条~第9条の6で定められています。原則として、子どもが1歳に達するまでの間、育児休業をとることができます。
また、保育所が満員で入園できないようなケースでは、1歳6か月まで延長でき、さらに必要に応じて2歳まで延長可能です。
細かい条件などは以下のサイトで詳しく解説されているので、こちらも参考にしてください。
関連サイト:働く女性の心とからだの応援サイト 働くママの育児について
出産育児一時金の利用準備
出産育児一時金とは、出産した時点で日本の公的保険に加入しており、妊娠4か月(85日)以上で出産すると受け取れるお金です。一児につき50万円(産科医療補償制度未加入の医療機関や妊娠週数22週未満の場合は48.8万円)が支給されます。双子などの多胎出産では胎児数分の受給が可能です。
申請法は「直接支払制度」が多く利用されています。これは保険者から医療機関へ出産育児一時金が直接支払われる仕組みで、妊婦さん自身が高額な出産費用を準備しなくて済むメリットがあります。費用が一時金を下回る時は差額申請も可能です。
制度を利用する際は、加入している健康保険や分娩予定の医療機関が制度に対応しているかを事前に確認し、手続きを進めると安心です。
高額療養費制度の利用準備
高額療養費制度とは、1か月(1日から末日まで)に支払った医療費の自己負担が一定額を超えた場合、その超えた分が後から払い戻される仕組みです。また、事前に「限度額適用認定証」を申請しておけば、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることもできます。
通常の健康な状態で出産を終えた場合(正常分娩)は対象にはなりませんが、帝王切開などの保険適用される医療処置がある場合は、条件によって対象になる場合があります。
双子の妊娠がわかり帝王切開になる場合など、対象になる可能性があるときは加入している健康保険組合に、限度額適用認定証の申請方法や制度の利用条件を確認するようにしましょう。
限度額は年齢や所得によって変わるため、以下の表で自分の区分を確認しておくと安心です。
<高額療養費の適用区分(69歳以下の場合)7)>
注: 1つの医療機関等での自己負担(院外処方代を含む)では上限額を超えないときでも、同じ月の別の医療機関等での自己負担(69歳以下の場合は2万1,000円以上であることが必要)を合算できます。この合算額が上限額を超えれば、高額療養費の支給対象となります。
おわりに
参考文献
1)日本産科婦人科学会. 産婦人科 診療ガイドライン 産科編 2023 CQ009 分娩予定日決定法については? 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2023.pdf
2)Hawken S, Olibris B, Ducharme R, et al. Validation of gestational age determination from ultrasound or a metabolic gestational age algorithm using exact date of conception in a cohort of newborns conceived using assisted reproduction technologies. AJOG Glob Rep. 2022;2(4):100091.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666577822000405?via%3Dihub
3)日本産科婦人科学会. 早産・切迫早産. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5708/
4)American College of Obstetricians and Gynecologists’ Committee on Practice Bulletins—Obstetrics. Prediction and prevention of spontaneous preterm birth. ACOG Practice Bulletin No. 234. Obstet Gynecol. 2021;138(2):e65-e90.
https://www.acog.org/clinical/clinical-guidance/practice-bulletin/articles/2021/08/prediction-and-prevention-of-spontaneous-preterm-birth
5)東京都福祉局. プレコンセプションケア. 東京都福祉局ウェブサイト
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/preconceptioncare
6)MSD株式会社. MSDマニュアル プロフェッショナル版 過期産児.
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E5%91%A8%E7%94%A3%E6%9C%9F%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E9%81%8E%E6%9C%9F%E7%94%A3%E5%85%90
7)厚生労働省保険局. 高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から).厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf