妊娠初期の流産について|流産の確率や原因のほか、見られる兆候や症状なども

最終更新日時:
2024-11-27
市山 卓彦
市山 卓彦 医師
院長 婦人科 生殖医療科 医師
2010年順天堂大学医学部卒。2012年同大学産婦人科学講座に入局、周産期救急を中心に研鑽を重ねる。2016年国内有数の不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で、女性不妊症のみでなく男性不妊症も含めた臨床及び研究に従事。2019年には国際学会で日本人唯一の表彰を受け、優秀口頭発表賞および若手研究者賞を同時受賞。2021年には世界的な権威と共に招待公演に登壇するなど、着床不全の分野で注目されている。2019年4月より順天堂浦安病院不妊センターにて副センター長を務め、2022年5月トーチクリニックを開業。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

流産は、特に妊娠初期(妊娠12週未満)に多くみられ、約15%の女性が流産を経験するといわれています。その原因は胎児の染色体異常と母体要因に分けられます。性器出血や腹痛が主な兆候ですが、そのような症状が出たからといって必ずしも流産であるとは限らず、安静状態での経過観察が重要です。

流産の定義

流産とは、妊娠22週より前に赤ちゃんが亡くなってしまうことを指します。22週未満の胎児は成長が未発達であり、母体の外に出ると救命できないため、この週数が区切りとなります。なお、22週以降のものは死産と定義されます。

流産は妊娠した女性のうち約15%が経験するといわれており、珍しい現象ではありません。中でも、妊娠12週未満での流産(早期流産)が全体の8割以上を占めます。

妊娠初期の流産の原因

妊娠初期の流産には複数の原因がありますが、そのうち60〜70%は胎児(胚)の染色体異常によるものです。胎児(胚)の染色体異常は、母体が高齢であるほど起こりやすくなります。

母体側の原因としては子宮疾患、抗リン脂質抗体症候群、内分泌疾患、感染症、生活習慣などが挙げられます。また、夫婦の染色体構造異常も流産の一因となり得ます。

胎児側の原因

妊娠初期の流産のうち、半数以上が胎児側の原因によるものです。

中でも、胎児(胚)の染色体異常が原因の大半を占めます。具体的には、一部の染色体が通常の2本1対(つい)でなく3本1対となるトリソミーが最もみられます。染色体異常は事前に防げるものではないため、罪悪感をおぼえたり、責任を感じたりする必要はありません。

母体側の要因として挙げられるのは年齢であり、高齢になるにつれ、胎児の染色体異常の確率が高くなります。特に40歳以上になると、流産の8割以上が染色体異常によるものといわれています。

また、低確率ではありますが胎児の遺伝性疾患や、受精卵から生じた胎児付属物の異常が流産の原因となりうることもあります。

母体側の原因

妊娠初期の流産における母体側の原因としては、

①子宮形態異常や子宮筋腫のような子宮疾患

②抗リン脂質抗体症候群(APS)

③糖尿病などの内分泌疾患

④細菌やウイルスによる感染症

⑤生活習慣(喫煙、カフェインの過剰摂取等)

などが挙げられます。そのほか、夫婦の染色体構造異常も流産の一因とされています。

流産を経験した妊婦さんが、不安や抑うつ症状を強く感じることが心的ストレスとなり、流産の再発を起こしうることもいわれています。

不育症とは

不育症とは、妊娠したものの流産、死産を2回以上繰り返して生児が得られない状態を指します。

妊娠初期の流産の半数以上は胎児(胚)の偶発的な染色体異常によるものですが、不育症では母体側に流産のリスク因子がある可能性が高いとされています。そのため、前の項目で述べた子宮疾患や抗リン脂質抗体症候群、糖尿病などに対する治療を行う必要があります。

不育症の場合は医師と相談し、必要に応じて検査を実施することでリスク因子の特定を目指します。ただし、母体が高齢の場合はそもそも胎児側の染色体異常が起こる確率が高いため、リスク因子がなくとも複数回流産することは珍しくありません。

流産後の処置

妊娠初期に流産した場合、流産手術または待機の選択を行います。

子宮を妊娠前の状態にリセットするためには、胎児(胚)と絨毛(胎盤)を取り除くことでhCGというホルモンの分泌を止める必要があります。それらが自然に体外に排出されるのを待つのが待機であり、人為的に除去するのが手術です。待機の場合でも、急な腹痛や出血が起きた場合は手術に切り替えることがあります。

待機と手術のどちらにするか、希望を聞かれるケースもありますが、母体の状況や医療機関・医師の方針でどちらの方針をとるかが決定される場合もあります。

流産で自分を責めないように

妊娠初期の流産は、胎児(胚)の染色体異常によるものが半数以上を占めています。

流産を経験するとそれまでの自身の行いに対して罪悪感を持ってしまうかもしれませんが、母体側の日常的な行為が早期流産に直結するケースはほとんどありません。自分を責めすぎないようにしましょう。不安が残る場合は、医師に相談することもおすすめです。

流産の確率

妊娠した場合、約15%の確率で自然流産となることが知られています。そのうち妊娠12週未満に起こる早期流産が8割以上を占めます。

流産の分類と種類

流産は原因や症状、進行度合いや回数、状態、時期によっていくつかの病態に分けられます。日本産科婦人科学会でまとめられているものは以下の通りです。

原因による分類

流産は、自然に発生したものと人為的に起こしたことによるものに分けられます。

先に述べたさまざまな原因によって自然に発生した流産は、すべて自然流産と呼びます。

一方で、人為的に妊娠を中断することによる流産は「人工妊娠中絶」、すなわち人工流産といいます。人工流産は、妊娠12週未満であれば手術による子宮中身の除去、妊娠12週以上22週未満であれば人為的に分娩を引き起こすことでなされます。なお母体保護法により、人工流産は妊娠22週未満でのみ認められています。

症状による分類

流産を症状により分類すると、稽留流産と進行流産に分けられます。

稽留流産とは、胎児が死亡している一方で出血・腹痛などの症状がない場合を指します。自覚症状がなく、超音波検査で初めて確認されます。

一方で進行流産とは、出血がはじまって子宮内容物が外に出てきている状態を指し、いわゆる「流産」のことを指します。

流産の進行具合による分類

上述した進行流産は、その進行具合によってさらに完全流産と不全流産に分けられます。

完全流産とは子宮内容物がすべて自然に出きった状態であり、出血、腹痛等の兆候が治まっていることが多いため、経過観察で対処できる場合が多いです。

一方の不全流産では、子宮内容物の一部が排出しきれず子宮内に残存している状態です。そのため、出血・腹痛等が続いている場合が多く、手術によって子宮内容物を完全に除去することが多いです。

流産に伴う状態による名称

流産が細菌感染を伴う場合、感染流産と呼ばれます。多くの場合、腟内における細菌感染が子宮まで広がることで起こります。適切な処置を行わなければ敗血症へ進行するおそれもあり、母体死亡のリスクがあるため注意が必要です。

感染流産は、妊娠初期の早期流産に比べると、妊娠12週〜22週の間に起こる後期流産の原因となることが多いです。なお、流産時の手術により子宮内感染が起きることはまれといわれています。

流産の回数による名称

流産を2回繰り返す場合「反復流産」、3回以上繰り返す場合「習慣流産」といいます。

流産は通常偶発的なものであるため、反復流産は2〜5%、習慣流産は1%ほどの割合といわれています。3回以上繰り返す習慣流産の場合、両親に何らかの原因や疾患がある可能性が考えられます。検査により子宮形態異常や染色体異常、疾患といった流産の要因を明らかにできることもありますが、はっきりした原因がわからずじまいの場合も多いです。

流産の時期による名称

尿や血液を用いて妊娠反応を確認後、超音波検査で妊娠を確認する前に起きた流産を化学(的)流産といいます。非常に早い時期に起こるため、妊娠検査薬の普及によって気づく人が増えてきた病態です。

化学(的)流産の場合、経血のような性器出血が起こるため、検査をしていない場合は月経と間違えられることもあります。特に治療は必要でなく、経過観察で済む場合が多いです。

妊娠初期の流産の前に見られる兆候と症状

妊娠初期の流産は、少量の出血や軽い腹痛といった兆候が起きる場合があります。しかし、正常な妊娠でもこのような症状は起こり得るため、妊娠初期に出血や腹痛があったからといっても、早急に医療機関を受診すべきというわけではありません。実際に流産による症状であったとしても出血や腹痛が軽い段階では有効な処置を行えないため、翌日または健診日の受診で問題ありません。

ただし、出血量が多い場合や我慢できないレベルの腹痛が起きた場合は進行流産や異所性妊娠などのおそれがありますので、すぐに医療機関を受診するようにしてください。

切迫流産とは

切迫流産とは、胎児の心拍が確認できるものの性器出血や腹痛がある状態であり、流産の一歩手前とされています。

妊娠12週までの切迫流産には有効な対処法がなく、安静状態での経過観察を行います。「切迫」と名がついていますが、実際には経過観察によって妊娠を継続できる場合が多いです。ただし、過去に流産したことがある場合にはより慎重な管理が必要となります。

妊娠初期の流産を避けるには

流産の半数以上は妊卵の染色体異常によるものですが、これは配偶子(精子や卵子)の形成時点で決まっているものですので、妊娠中の過ごし方で避けられるものではありません。

流産を完全に防ぐことは不可能ですが、母体側の生活習慣を改めることで流産のリスクを下げられます。例えば、カフェインの過剰摂取や喫煙、飲酒をやめるほか、感染症への感染を避けることも有効とされています。

流産後の妊娠

流産の原因は半数以上が偶発的なものであり、流産後に無事妊娠し、出産される女性は大勢います。流産から次の妊娠までは一定期間を空けるべきである、というWHOのガイドラインを否定する報告もあるため(※)、流産による精神的ストレスが緩和されたタイミングで再び妊娠を試みることで問題ないと、当院では考えています。

ただし、複数回流産している場合は両親側にリスク因子がある可能性があるため、医師の指示に従ってください。

(※)Schliep et al. (2016). Trying to Conceive After an Early Pregnancy Loss: An Assessment on How Long Couples Should Wait. Obstetrics & Gynecology, 127(2), 204-212. 

おわりに

トーチクリニックでは、将来妊娠を考えている方向けのブライダルチェックなども提供しています。ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えることを目的に、結婚や妊娠を控えたカップルを対象にした健康状態の確認のための検査です。

トーチクリニックは恵比寿駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、週7日(平日・土日祝)開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。

医師による診断や治療のカウンセリングに加えて、心理カウンセラーが心理的な負担や人に話しにくい悩みなど、医療での解決が難しい「お困りごと」について一緒に考える機会も提供しています。

ブライダルチェックにご関心のある方は、お気軽にご相談ください。ブライダルチェックのご予約はウェブからも受け付けております。

また、ブライダルチェックについての解説記事もご参考ください。