妊活とは、妊娠を望むカップルが妊娠しやすい体づくりや生活習慣の見直しなどを行う取り組みのことです。中でも「性行為のタイミング」は重要なポイントとされており、妊娠の可能性を高めるためには、正しい知識が欠かせません。
本記事では、妊娠しやすい時期の見極め方や性行為のコツについて詳しく解説します。
妊娠しやすいタイミングとは?

卵子と精子には寿命があり、妊娠しやすいタイミングは限られています。なかでも、排卵日の1〜2日前は、最も妊娠率が高いとされています。
その理由を、以下の3つの観点から解説します。
- 妊娠が成立する仕組み
- 排卵日と妊娠確率の関係
- 排卵日の2日前が最も妊娠しやすいタイミング
詳しく見ていきましょう。
妊娠が成立する仕組み
妊娠は「性交・排卵・受精・着床」という4つのステップを経て成立します。
まず、性行為により射精された精子は子宮を通過し、卵管へ向かいます。精子は卵子と出会うまで、卵管内で数日間生存します。
一方、女性では月経周期に応じて排卵が起こり、卵巣から排出された卵子が卵管に取り込まれます。卵子の寿命は約24時間で、この間に精子と出会えれば受精します。
受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を移動し、数日かけて子宮へと到達します。その後、妊娠に備えて厚くなった子宮内膜に着床すれば、妊娠の成立です。
この一連のプロセスには、ホルモン分泌、卵管の通過性、子宮内膜の状態など複数の要因が関与します。いずれかの過程がうまく進まなければ、妊娠には至りません。妊娠は偶然ではなく、身体のしくみが連携してこそ成立する現象だといえます。
排卵日と妊娠確率の関係
妊娠の可能性を高めるには、排卵日周辺のタイミングで性行為を行うことが大切です。というのも、妊娠の成立には受精可能な「限られた期間」があり、排卵日から遠いほど妊娠率は下がるためです。
排卵の6日以上前や排卵翌日以降は妊娠率がほぼ0%とされ、逆に排卵日の前後数日が「妊娠可能期間」にあたります1)。この期間にタイミングを合わせた場合でも、1周期あたりの妊娠率は20%程度にとどまります2)。
排卵日の1〜2日前が最も妊娠しやすいタイミング
最も妊娠しやすいタイミングは、排卵日の1〜2日前とされています。なぜなら、この時期は精子が卵子を待ち受けやすく、受精の成立率が高まるからです。
また、排卵の4日前から前日までの間は、頸管粘液がサラサラとした透明な状態に変化し、精子が子宮内へ届きやすくなるなど、妊娠に適した環境が整いやすくなります。妊娠の可能性を高めるには、この期間に1〜2日おきに性行為を行うのが効果的とされており、排卵日直前のタイミングを逃さないことが重要です1)。
妊娠率は排卵のタイミングに大きく左右されるため、まずは妊娠しやすい時期を正しく理解しておきましょう。
タイミング法とは?
タイミング法とは、排卵日を予測し、それに合わせて、性交渉をする方法のことをいいます。
卵巣内の卵胞は約20mmになると排卵するとされるため、卵胞の大きさを経腟超音波検査で測定し、モニタニングすることにより、排卵日を予測します。また、補助的に尿中や血中の排卵を促すホルモン(LH)の値も測定し、その値も排卵日の予測に利用することもあります。
排卵日を知るには?
排卵日を予測する方法として以下のようなものが挙げられます。
・基礎体温を測る
・排卵日予測検査薬(排卵日チェッカー)を使う
・おりものの性状から予測する
それぞれの内容について詳しく解説します。
基礎体温を測る

基礎体温とは、朝起きてすぐ安静な状態で口の中(舌下)で測る体温のことです。月経周期にともなう体温の変化から、排卵の有無を推測できます。排卵後は黄体ホルモンの影響で体温が0.3度以上上がり、高温期に入ります。
ただし、基礎体温は睡眠時間・室温・アルコール・体調・生活リズムなどの影響を受けやすく、正確な予測には不向きです。実際、排卵日の推定と一致するのは低温相最終日で62.5%、体温陥落日では約28%とされており、信頼性に限界があります3)。
現在では、基礎体温は排卵日を特定する手段というよりも、自身の体調リズムを知る参考ツールとして活用されています。
排卵日予測検査薬(排卵日チェッカー)を使う
排卵日予測検査薬は、排卵直前に分泌が急増する「黄体形成ホルモン(LH)」を尿中から検出することで、排卵のタイミングを予測するためのツールです。基礎体温と併用することで排卵日の予測精度が高まるとされています。
黄体形成ホルモン(LH)の急上昇は「LHサージ」と呼ばれ、LHサージが確認されてから約40時間以内に排卵が起こるとされています。
検査薬は尿に含まれるLHの量を測定し、陽性反応が出た場合には排卵が近いことを示していますが、排卵を直接確認するわけではありません。6周期以上使用しても妊娠しない場合は、婦人科での受診も検討しましょう。
おりものの性状から予測する

おりものの性状の変化は、妊娠しやすい時期を予測する目安のひとつとなります。おりものは子宮頸管から分泌される頸管粘液の他、腟壁からの漏出液、子宮内膜や卵管からの分泌液などで構成されています。排卵が近づくと、頸管粘液はサラサラとした透明で水っぽい状態になり、精子が子宮内へ進みやすくなるのが特徴です。
こうした変化を観察することで排卵期の予測は可能ですが、体調や個人差によるばらつきも多く、正確な特定は難しいとされています。病院でも検査はできますが、排卵日を断定できるわけではありません。おりものの性状は、あくまで目安として活用すると良いでしょう。
排卵日のおりものに関しては、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
関連記事:排卵日におりものは増える?のびるおりものの状態から排卵日や妊娠しやすいタイミングを予測する
病院で排卵日を予測してもらう
排卵日を知りたい場合、病院で予測してもらうことが精度の高い方法と言えます。経腟超音波断層法と尿中血中LH検査についてそれぞれ解説します。
経腟超音波断層法
経腟超音波断層法は、超音波で卵巣内の卵胞の様子を観察することで排卵日を特定する検査です。排卵日が近づくと、卵巣内の卵胞が約20mm前後に大きくなるため、卵胞の大きさを測ることで排卵日を推定できます。
また、排卵後は破裂した卵胞が縮小していくので、これを観察して排卵が起こったことを確認できるため、精度の高い方法です。
尿中血中LH検査
排卵期の特徴的なホルモンの変動の仕方に、「LHサージ」というものがあります。LHサージとは、脳から分泌される排卵を促すLHホルモンが急激に増えることで、これが起こると排卵が起こります。
そのため、血中のLHの値を調べることで、排卵日の予測をすることができます。また、LH分泌量が増えると尿中に排泄されるLHも増加するため、尿中LH測定からもLHサージを捉えることができます。
尿中LH診断キットは市販されており、自宅での測定も可能です。検査が陽性になった後の1~2日以内に排卵が起こると予測でき、実際に排卵を認める確率は91.1%と報告されています3)。
妊娠に向けた体づくりのポイント
妊活において、妊娠の確率を高めるには、排卵のタイミングだけでなく、妊娠しやすい体の土台を整えることも大切です。
ホルモンバランスや子宮内の環境は、日々の食事や生活習慣に大きく影響されます。
ここでは、妊娠を望む方に知っておいてほしい体づくりのポイントとして、次の5点についてお伝えします。
- 食生活を見直す
- 適度な運動を習慣的に行う
- 十分な睡眠を確保する
- タバコやアルコール・喫煙を控える
- ストレスを溜めない
栄養や運動、生活習慣の見直しを通じて、妊娠しやすい体を目指しましょう。
食生活を見直す
妊活において、妊娠しやすい体を目指すのであれば、まずは日々の食生活を見直すことが基本です。
ここでは、食生活の中でも意識したいポイントを紹介します。
炭水化物を中心にバランスの良い食事を意識する
炭水化物を中心としたバランスの良い食事は、エネルギー源として重要な役割を果たします。炭水化物は体内でブドウ糖に分解され、脳や筋肉の活動を支えるため、日々の食事で適切に摂取することが求められます。
また、炭水化物を主食とし、主菜や副菜を組み合わせることで、栄養バランスが整いやすくなります。妊娠を望む方は、炭水化物を中心にバランスの良い食事を意識し、健康的な体づくりを心がけましょう。
良質な脂質を取り入れる
脂肪については、オメガ3脂肪酸とも呼ばれるn-3系脂肪酸を多く摂ることが、妊娠の成功率を上げると言われています。一方で、加工食品やマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸は排卵障害や精子の量を減少させる可能性があるため、避けるようにしましょう。
妊活中から葉酸を意識的に摂取する
葉酸は、胎児の神経管の正常な発達に不可欠な栄養素です。葉酸が不足すると、無脳症や二分脊椎などの先天異常リスクが高まることが知られており、妊活中から積極的に摂取することが推奨されています。
厚生労働省は、先天異常のリスク低減のため、モノグルタミン酸型葉酸を1日400μg、食事以外のサプリメントなどから補うことを勧めています4)。
食品では、ほうれん草・ブロッコリーなどの緑黄色野菜や、納豆・レバー・いちごなどに多く含まれており、サプリメントと併用しながら補うと良いでしょう4)。
ビタミンDを摂取する
ビタミンDは、骨の健康維持に加え、カルシウムの吸収を助ける働きがあり、骨の健康維持に欠かせない栄養素です。また、着床や流産に関わるとされ、不妊女性の87.3%はビタミンD不足と言われており5)、妊活を考える際には定期的な摂取が重要です。
食材では、鮭・いわし・マグロなどの魚や、卵黄、キノコ類などに含まれており、カルシウムを多く含む乳製品や小魚と組み合わせてとることで、より効率的な吸収が期待できます6),7)。
また、日光を浴びることで皮膚でも合成されるため、1日15〜30分程度の軽い日光浴も有効です。
適度な運動を習慣的に行う
日常的に適度な運動を取り入れることは、妊娠しやすい体づくりにつながります。ウォーキングやストレッチ、軽い筋トレなどは血流を促進し、ホルモンバランスの安定にも役立ちます。
また、妊活中に体力をつけると、妊娠中の身体的な負担にも備えやすくなるでしょう。過度な運動は逆効果になることもあるため、無理のない範囲で継続することが大切です。週に数回でも、できることから始めてみましょう。
十分な睡眠を確保する
妊娠を目指すうえで、睡眠の質と量を確保することも欠かせません。睡眠中はホルモンの分泌や自律神経のバランスが整い、体調管理やストレス軽減にもつながります。
とくに、排卵や子宮内膜の状態にはホルモンが大きく関与しているため、慢性的な睡眠不足は、妊娠の可能性を下げる一因になり得ます。
毎日決まった時間に就寝・起床し、できるだけ6〜8時間の睡眠を取るように心がけましょう。寝る前のスマートフォンやカフェインの摂取は避け、リラックスできる環境を整えることも重要です。
タバコやアルコール・カフェインを控える
妊活において妊娠しやすい体を目指す場合、タバコや過度なアルコール、カフェインの摂取は控えたほうがよいとされています。
喫煙は卵子の質の低下や排卵障害、着床率の低下と関連しており、妊娠率を下げる要因となります8)。アルコールもホルモンバランスに影響を及ぼす可能性があるため、妊活中はなるべく避けることが望ましいでしょう。
また、カフェインについても摂りすぎは流産リスクの上昇と関連するという報告があるため、コーヒーやお茶などは1日1〜2杯程度にとどめておくのが安心です9)。
ストレスを溜めない
ストレスは妊娠に深く関わるホルモンの分泌やエストロゲンの合成を低下させ、周期や卵子の質に影響し、自律神経を乱し、不妊や不育の原因となります。男性も精子の質が低下します。ストレスを完全に無くすのは難しいですが、妊活中はストレスを溜めず、自分に適したストレス解消方法を見つけましょう。
性交渉後の体位で妊娠確率を上げられる?
性交後に仰向けで安静にするなどの行動は、妊娠率の向上に影響を与えるという科学的根拠はありません10)。
理由として、精子は射精後数分以内に子宮頸管を通過し、子宮・卵管へと到達することがわかっており、この過程は体位や姿勢に関係なく起こります。
そのため、性交後に特定の体位をとったり、長時間安静にしたりすることが妊娠の確率を上げるとは考えにくいとされています。
タイミング法で妊娠しない場合は不妊治療も検討しよう
タイミング法を続けても妊娠に至らない場合は、不妊治療を含めた次のステップを検討しましょう。
特に、女性の妊娠率は加齢とともに低下し、36歳を過ぎるとさらにその傾向が強まります。「排卵日を見極めて適切なタイミングで性行為を行う」といった妊活を半年以上続けても妊娠しないことがあります。
日本産婦人科医会によると、原因不明の不妊症におけるタイミング法の1周期あたりの妊娠率は約5%で、6か月の累積妊娠率は約50%、24か月では約60%と横ばいになります1)。そのため、およそ1年を目安に専門クリニックで相談するのも一つの方法です。
不妊の原因は、女性だけでなく男性側にも不妊につながる要因があるケースもあります。まずは2人で検査を受け、妊娠を妨げる要因がないか確認しておくと安心です。
おわりに
参考文献
1)公益社団法人日本産婦人科医会,産婦人科ゼミナール,9.タイミング
https://www.jaog.or.jp/lecture/9-タイミング
2)聖マリアンナ以下大学病院生殖医療センター,不妊症とは
https://www.marianna-u.ac.jp/reproduction/diagnosis/diagnosis01.html
3)公益社団法人日本産婦人科医会,産婦人科ゼミナール,4.排卵の予測
https://www.jaog.or.jp/lecture/4-排卵の予測/
4)厚生労働省,”令和2年ど子ども・子育て支援推進調査研究事業,妊娠前からはじめよう 健やかなからだづくりと食生活Book” P6
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a29a9bee-4d29-482d-a63b-5f9cb8ea0aa2/a962bb7e/20230401_policies_boshihoken_shokuji_06.pdf
5)Ikemoto Y, Kuroda K, Nakagawa K, et al. Vitamin D regulates maternal T-helper cytokine production in infertile women. Nutrients. 2018;10(7):902.
https://www.mdpi.com/2072-6643/10/7/902
6)厚生労働省 eJIM,海外の情報 ビタミンD(医療関係者の方へ)
https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c03/17.html
7)厚生労働省 eJIM,海外の情報 ビタミンD(一般の方へ)
https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/10.html
8)Lambers DS, Clark KE. The maternal and fetal physiologic effects of nicotine. Semin Perinatol. 1996;20(2):115-126. doi:10.1016/S0146-0005(96)80079-4.
https://journals.lww.com/greenjournal/abstract/1996/11000/the_effects_of_smoking_on_ovarian_function_and.9.aspx
9)Li J, Zhao H, Song JM, et al. Maternal caffeine intake during pregnancy and risk of pregnancy loss: a systematic review and dose–response meta-analysis. BMC Pregnancy Childbirth. 2022;22(1):676. doi:10.1186/s12884-022-04972-2
https://www.frontiersin.org/journals/nutrition/articles/10.3389/fnut.2022.886224/full
10)Allen VM, Wilson RD, Cheung A, et al. Preconception Folic Acid and Multivitamin Supplementation for the Primary and Secondary Prevention of Neural Tube Defects and Other Fetal Anomalies. J Obstet Gynaecol Can. 2023;45(7):627-638. doi:10.1016/j.jogc.2023.02.009
https://journalrbgo.org/article/increasing-the-chances-of-natural-conception-opinion-statement-from-the-the-brazilian-federation-of-gynecology-and-obstetrics-associations-febrasgo-committee-of-gynecological-endocrinology/