不妊治療を始めたくても、どの病院やクリニックを選べばよいかわからないという方も多いのではないでしょうか。通いやすさや仕事との両立ができるかなど、考慮したいポイントはいくつかあります。今回の記事は、不妊治療ができる病院・クリニックの種類と選び方のポイント、受診のタイミングなどについて解説します。
不妊治療ができる病院・クリニックの種類
不妊治療ができる病院やクリニックとして、東京都福祉局のサイトでは以下の3種類を例としてあげています1)。
- 一般婦人科医院
- 不妊専門のクリニック
- 不妊外来のある総合病院・大学病院
それぞれの特徴やメリット、デメリットについて解説します。
一般婦人科医院
一般婦人科医院は比較的身近な医療機関であり、数も多いのが特徴です。
クリニックの数が多い分、アクセスや診療時間の面で通いやすいところを選びやすいというメリットがあります。すでに婦人科領域で受診歴がある場合は、既往歴を踏まえて不妊について相談できる点も利点です。
一方で、一般の婦人科医院では高度生殖医療を行っていない場合も少なくありません。そのため、タイミング法や人工授精といった一般的な不妊治療で妊娠に至らなかった場合には、次のステップとして高度生殖医療を実施している医療機関へ転院する必要があります。
不妊専門のクリニック
不妊専門のクリニックは、不妊症の検査や治療に特化した医療機関です。
生殖医療の専門医が在籍していることが多く、体外受精や顕微授精などの高度生殖医療まで幅広く提供している場合が多いです。不妊治療に対する知見や経験値の高さが期待できる点がメリットです。
一方で、一般婦人科に比べるとクリニックの数は多くなく、地域によっては近隣に見つからない可能性もあります。
不妊外来のある総合病院・大学病院
不妊外来のある総合病院や大学病院では、婦人科や泌尿器科、内科など複数の診療科と連携した診療を受けられるのが特徴です。
高度生殖医療を含む幅広い治療を行っている場合が多く、難しい症例や合併症を伴うケースにも対応できる体制が整っている点は大きなメリットです。研究機関としての役割も担っているため、最新の知見や治療法が導入されやすい点も強みといえます。
一方で、患者数が多いために予約が取りにくい可能性や、待ち時間が長くなる可能性があり、これらがデメリットとなる場合があります。また、診療日や時間帯が限られている可能性や施設数が限られる点から、通院のしやすさを確認しておくことが大切です。
不妊治療ができる病院・クリニックの選び方のポイント
不妊治療を始めるにあたって、治療を無理なく続けていくためにも自分に合った病院やクリニックを選ぶことは大切です。通院のしやすさや仕事との両立など、さまざまな観点から自分に合った医療機関を見つけるためのポイントについてご紹介します。
通いやすさ
体外受精や顕微授精などの高度な治療になると、卵胞の状態の確認や注射のために月にまとまった回数の通院をする必要があります。実際に通院する回数は医療機関の方針によっても異なりますが、1回の月経周期あたりで通院する回数の目安は以下のとおりです2)。
医療機関を選ぶうえで自宅や勤務先からの通いやすさは、最初に確認しておきたい点といえるでしょう。
自宅からの距離だけでなく、駅からのアクセスの良さや、車で通院する場合には駐車場の有無なども事前に確認しておくと安心です。
仕事と両立できるか
近年、晩婚化などの影響から、働きながら不妊治療に取り組む方が増えています。しかし、厚生労働省の調査では、不妊治療をしている労働者のうち、約4人に1人は「仕事との両立ができなかった」と回答しており、その難しさが浮き彫りになっています2)。
仕事と治療を両立するには、通勤前や退勤後、あるいは土日でも受診できる病院やクリニックを選ぶことで、仕事への影響をできるだけ抑えることが重要です。また予約制の導入や、待ち時間短縮の工夫がされているかどうかも確認するべきポイントです。
できるだけ通院回数を減らしたい場合は、排卵誘発剤の自己注射ができるかどうかもチェックすると良いでしょう。自己注射が可能であれば、注射のためだけに病院に行く必要がなくなり、通院による負担が軽減できる可能性があります。
男性の不妊検査ができるか
不妊の約半数は男性にも原因があるとされています。また、精子の運動率は加齢によって低下することが知られており3)、受精率や妊娠率の低下につながる可能性もあります。そのため不妊症の検査は女性だけでなく、男性も初期の段階で受けることが重要です。
不妊専門のクリニックや総合病院・大学病院であれば、男性不妊の検査にも対応している場合が多いですが、一般婦人科では対応していない場合もあるため、事前に確認しておくと良いでしょう。
二人の望む治療ができるか
すべての病院やクリニックで、同じ内容の不妊治療が受けられるわけではありません。体外受精や顕微授精といった高度な治療は、それに対応できる設備や専門的な技術が必要になります。
幅広い治療法を選択肢に含めたい場合は、あらかじめ病院やクリニックのホームページなどを見て、事前に確認しておく必要があります。治療の進め方やステップアップの時期については、医師と相談しながら進めていくことになりますが、自分たちの望む治療をパートナーとよく話し合っておくのがよいでしょう。
心理的なサポートがあるか
不妊治療では治療期間が長くなるほど、なかなか妊婦になれない焦りや不安が積み重なり、精神的なストレスを感じる場面が増えてくることがあります。海外の研究では、ストレスが妊娠のしやすさに悪影響を与える可能性があるという報告もあり4)、なるべく一人で抱え込まないことが大切です。
しかし、不妊治療に関する悩みは非常にデリケートな内容であるため、相談できる相手が限られてしまうのが現状です。このようなとき、病院やクリニックでの心理的サポートが受けられると大きな心の支えとなるでしょう。
また治療を続けていくためには、病院やクリニックのスタッフとの相性も重要です。気持ちに寄り添ってくれるスタッフがいるところであれば、安心感につながったり、前向きな気持ちで治療に向き合いやすくなります。
生殖医療専門医がいるか
生殖医療専門医とは、日本生殖医学会の認定条件を満たした医師のことです。
同学会の「生殖医療従事者資格制度」は、生殖医療における広い知識、練磨された技能と高い倫理性を備えた医師を養成し、更に生涯にわたる研修を推進することによって、生殖医療の水準を高めることを目的としています5)。
生殖医療専門医になるには、学会が定めた研修内容を修了し、認定試験に合格する必要があります。一定の水準に達した医師を学会が認定しているため、専門性の指標のひとつといえ、生殖医療専門医が在籍している医療機関では、専門的な知識と経験に基づいた診療が期待できます。
病院・クリニックの受診・検査のタイミング
日本では、妊娠を望む健康な男女が、避妊をしないで性交していたにもかかわらず、1年間妊娠しない場合を不妊症と定義しています6)。1年妊娠しない場合は病院やクリニックに受診するタイミングのひとつです。
ただし、年齢やこれまでにかかった疾患によっては1年待たずに受診することが推奨されるケースもあります。例えば、正常な排卵がない場合や子宮内膜症がある場合などは、通常よりも妊娠しにくい可能性があります。
また、女性は30歳を過ぎた頃から妊孕性(にんようせい:妊娠する力)が低下することが知られています。特に35歳以上ではその傾向が顕著になり、アメリカの生殖医学会では、女性が35歳以上の場合は6か月後に評価を開始する必要があるとしています7)。このような点から35歳以上の場合はより早期に受診することが推奨されます。
不妊でなくてもブライダルチェックは選択肢となる
出産や妊娠に影響がある問題を調べたい場合、各クリニックが提供しているブライダルチェックも選択肢となります。ブライダルチェックは不妊の自覚や症状がなくても、受けられる検査であり、妊活中はもちろん、妊活前や結婚前でもあまり制限がないのが一般的です。
ブライダルチェックは医療機関によって、検査の内容や費用なども異なるため、まずは病院やクリニックのホームページなどで確認するようにしましょう。
ブライダルチェックについては、以下のページで詳しく解説しているのであわせて参考にしてください。
関連ページ:女性ブライダルチェック
職場への説明はどうする?
不妊治療を受けていることを職場に伝えるかは、プライバシーにも大きく関わる問題であり、明確なルールがあるわけでもありません。厚生労働省が2023年に実施した調査では、不妊治療を受けていることを職場に「一切伝えていない(伝えない予定)」が47.1%という結果であり2)、約半数の人は伝えてないという状況でした。
大切なのは、自分自身が過度な負担やストレスを抱え込まないように選択することです。職場に伝える場合には、厚生労働省が作成している「不妊治療連絡カード」を活用するのも一つの方法です。
このカードは、不妊治療を受けていることや通院による欠勤の可能性などを勤務先に伝えるための書面で、連絡事項の部分は医師が記入します8)。適切に活用することで、治療と仕事の両立をよりスムーズに進めやすくなります。
おわりに
参考文献
1)東京都福祉局. 東京都妊活課 不妊・不育ホットラインカウンセラーの相談エッセイ. 東京都福祉局ウェブサイト
https://www.ninkatsuka.metro.tokyo.lg.jp/column/column02.html
2)厚生労働省. 不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック. 厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30l.pdf
3)日本生殖医学会. 男性の加齢は不妊症・流産にどんな影響を与えるのですか?.日本生殖医学会ウェブサイト
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa25.html
4)CD Lynch, R Sundaram, JM Maisog, AM Sweeney, GM Buck Louis. Preconception stress increases the risk of infertility: results from a couple-based prospective cohort study—the LIFE study. Hum Reprod. 2014 May;29(5):1067–1075.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3984126/
5)日本生殖医学会. 生殖医療従事者資格制度概要. 日本生殖医学会ウェブサイト
http://www.jsrm.or.jp/qualification/index.html
6)日本産科婦人科学会. 不妊症. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5718/
7)American Society for Reproductive Medicine. Definition of infertility. Practice Committee Documents. ASRM.
https://www.asrm.org/practice-guidance/practice-committee-documents/definition-of-infertility
8)厚生労働省. 不妊治療連絡カード. 厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30b.pdf