生理前や生理中に強い眠気を感じ、「寝た方がいいのか」「我慢すべきか」と悩む人もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、生理で眠くなる理由や眠気を軽減するためのセルフケア、仕事や学校での乗り切り方をわかりやすく解説します。
【結論】生理で眠いときは寝た方がいい!体が休息を求めているサイン
生理前や生理中の眠気が強いときは、無理せず仮眠や休憩をとることが大切です。生理中はホルモンバランスの影響で、体が普段以上に疲れやすくなっています。
「休む=長時間眠ること」と考えなくても大丈夫です。10〜20分程度の仮眠でも気分が落ち着き、体のだるさが和らぐこともあります。短い時間でも、自分をいたわる行動が体調管理につながります。
「寝た方がいいのかな」と迷ったときこそ、自分の体のサインに耳を傾けて、やさしくケアしてあげましょう。
生理前・生理中に眠くなる代表的な4つの原因
生理前・生理中に眠くなる原因として、主に以下のようなものが関係しています。
- 女性ホルモン(プロゲステロン)の影響
- 体温の変化
- 貧血や鉄分不足による影響
- PMS・PMDDによる強い眠気
なかでも女性ホルモンのひとつであるプロゲステロンは、排卵後から生理にかけて増え始め、強い眠気を引き起こすことがあります1)。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
女性ホルモン(プロゲステロン)の影響
生理前から生理中にかけての眠気は、主に女性ホルモンのひとつである「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の影響が大きいとされています1)。
排卵後に増加するプロゲステロンには、自然な催眠作用があり、体温を上昇させるとともに中枢神経系に直接働きかけて眠気を誘発します。
プロゲステロンはその代謝物が脳内のGABA受容体に作用し、神経の興奮を抑制する効果があるため、リラックス状態になりやすく、特に生理前の黄体期に強い眠気を感じるケースは少なくありません2)。
また、このホルモンは睡眠の質にも関与し、レム睡眠とノンレム睡眠のバランスに影響を与えることが研究で明らかになっています。自然なホルモン変動による眠気なので、過度に心配する必要はありません。
体温の変化
生理前から生理中の眠気は、月経周期にともなう体温の変化も関係しています。
女性の体は月経周期にあわせて、卵胞期(生理〜排卵)と黄体期(排卵〜次の生理)に分かれます。
黄体期になると、プロゲステロンの影響で深部体温が上がりやすくなります。通常であれば、夜は体温が下がることで深い眠りにつながりますが、この時期は夜間の体温が十分に下がらず、眠りが浅くなる傾向があります3)。
朝の体温もゆるやかにしか上がらないため、寝起きがつらく感じたり、午前中に強い眠気を感じる場合もあるでしょう。
貧血や鉄分不足による影響
生理に関連する眠気は、貧血や鉄分不足の影響を受けることもあります。
生理による出血が続くと、体内の鉄分が失われやすくなります。鉄分は、血液の材料として欠かせない栄養素です。不足すると貧血を招きやすく、疲れやすさやだるさ、生理中に眠いと感じる原因にもなり得るでしょう。
さらに、鉄分不足の状態では「むずむず脚症候群」と呼ばれる症状が出やすくなることも知られています1)。むずむず脚症候群とは、夜に足がむずむずして眠れなくなるもので、睡眠の質を下げる一因になります。
眠気が気になるときは、鉄分の不足もひとつの要因と考えてみるとよいかもしれません。
PMS・PMDDによる強い眠気
生理前になると、こころや体に不調を感じる「月経前症候群(PMS)」に悩まされる女性は少なくありません。主な症状には、イライラ、不安感、だるさ、眠気、頭痛、むくみなどがあり、生理が始まると自然に軽くなるのが特徴です。
とくに眠気が強い場合は、PMSの中でも「月経前不快気分障害(PMDD)」の可能性もあります。これは精神的な症状が強く、日常生活に支障をきたすほどの眠気や抑うつが現れることもあります。
こうした状態は、ホルモンバランスの乱れによって脳内の神経伝達物質が変化し、睡眠の質が低下しているサインかもしれません。生理中の眠気が異常に強い場合、PMSやPMDDが隠れていることも考えられます。
生理中の眠気を軽減する生活習慣とセルフケア
生理前・生理中に眠いと感じるときは、生活習慣を見直すことが眠気の軽減につながります。具体的には、以下のようなセルフケアがおすすめです。
- 短時間の仮眠を取り入れる
- 規則正しい生活リズムを保つ
- 鉄分やビタミンを意識して食事を整える
- 軽い運動を日常に取り入れる
それぞれの対策について、詳しくご紹介します。
短時間の仮眠を取り入れる
生理中に眠いと感じたときは、無理をせず短時間の仮眠を取り入れるのがおすすめです。
一般的に14〜16時に生じる眠気が覚醒水準や作業効率の低下を招くと言われています。14時から仮眠を取った場合の効果をみた調査では、15分程度の仮眠をとることで眠気を改善する効果がみられたという結果となっています4)。
ただし、この研究では仮眠を始めてから20分経った場合は強制的に起こされる研究内容となっており、その場合、自発的に起きた場合にくらべて、仮眠の効果がやや低下するとしています。
自発的に起きる仮眠がより有効と考えられるため、この点も気をつけるのが良いでしょう。
規則正しい生活リズムを保つ
生理中に眠いと感じやすいときこそ、毎日同じ時間に寝て起きるなど、生活リズムを整えることが大切です。体内時計が安定し、眠気やだるさを感じにくくなります。
また、睡眠の質を下げないためには、就寝前の過ごし方も工夫しましょう。寝る直前のスマホ使用は、ブルーライトが脳を刺激して眠りを浅くする原因になります。明るい照明も同様に睡眠の妨げになるため、夜はやわらかい光に切り替えるのがおすすめです。
入浴や読書など、音楽、アロマなど、自分に合ったリラクゼーション法を取り入れてみるのもよいでしょう。心身の緊張がやわらぐことで、生理前や生理中に眠いと感じるときも、より心地よく眠りにつきやすくなります。
鉄分やビタミンを意識して食事を整える
生理中の眠気をやわらげたいときは、食事から鉄分やビタミンをしっかりとることがひとつの対策になります。なかでも、レバーや赤身の肉、魚などに含まれる「ヘム鉄」は吸収率が高く、効率よく補うことができます5)。
また、鉄を運ぶ赤血球をつくるには、鉄分だけでなくたんぱく質も必要です。パンや麺に偏りがちな食事ではたんぱく質が不足しやすくなるため、肉・魚・卵・大豆製品などを組み合わせ、バランスの良い食事を意識しましょう。
一方、カフェインには鉄の吸収を妨げる性質があるため、コーヒーやお茶は食事の前後1〜2時間を避けて飲むと安心です6)。また、むずむず脚症候群を防ぐためにも、カフェインやアルコールの摂取を控えることが効果的とされています1)。
日々の食生活を少し意識するだけでも、生理前・生理中の眠気をやわらげやすくなります。
軽い運動を日常に取り入れる
生理中に眠いと感じるときは、無理のない範囲で体を動かすことが、眠気の改善に役立ちます。ウォーキングやヨガ、ストレッチなどの軽い運動は血行を促進し、自律神経を整えることで、心身ともにリラックスしやすくなるでしょう。
特に、日中や夕方に運動を行うと、深部体温が一度上がり、その後の体温低下が入眠を促す効果につながるとされています。寝る直前の激しい運動は避け、就寝2~4時間前を目安に取り入れるのがおすすめです。
また、就寝前の軽い運動は、むずむず脚症候群の予防にも効果が期待できるとされています。
仕事や学校で眠れないときの乗り切り方
生理前・生理中に眠い、集中できないといった症状が仕事や学業のパフォーマンスに影響する場合も少なくありません。仮眠がとれない環境でも、以下のような工夫を取り入れると、眠気を軽減できるでしょう。
- 体を動かして眠気をリセットする
- 作業の工夫で負担を減らす
- 周囲に理解を求める
それぞれ詳しく見ていきましょう。
体を動かして眠気をリセットする
生理中に眠いときは、机でうとうとする前に背伸びや肩回しなどのストレッチを行い、深呼吸で酸素をゆっくり取り込むと脳が覚醒しやすくなります。
それでも眠気のピークが続く場合は、コーヒーや緑茶を飲んでから15〜20分だけ目を閉じるのも1つの方法です。カフェインの覚醒効果が表れる頃に目覚めるため、ぼんやり感が少なく作業効率が上がると報告されています。
ただし、夕方以降は睡眠を妨げる恐れがあるため、カフェインの摂取量と時間帯に注意しつつ、こうした方法を組み合わせて乗り切りましょう。
作業の工夫で負担を減らす
生理前・生理中に眠いときは、作業を「25分集中・5分休憩」のサイクルで細分化すると脳への負担を抑えつつ集中を維持しやすくなります。これはポモドーロテクニックと呼ばれる方法です。
まずタスクを一覧にし、期限と重要度で並べ替えて優先度の高いものだけに絞りましょう。作業の区切りごとに水分補給や軽いストレッチを挟むと眠気がやわらぎやすくなります。
さらに、タイマーで残り時間を可視化するとワーキングメモリを節約でき、思考が整理しやすくなることが示されています。
周囲に理解を求める
生理中に眠いと感じていても、仮眠が取れない環境では無理が生じやすくなります。そうしたときは、上司や同僚、学校の先生に「月経で体調が優れない」ことを適切に伝え、配慮を求めることも大切です。
たとえば、スケジュールの調整や負担の大きい業務の一時的な見直しなど、できる範囲で働き方を調整できるか相談してみましょう。
日本では「生理休暇制度」が労働基準法で認められています。体の不調は我慢せず、周囲と協力しながら自分のペースで働く工夫をしましょう。
こんな眠気は要注意!病院を受診すべきサイン
生理中に眠い・だるいと感じるのはよくあることですが、日常生活に支障が出るほどの強い眠気がある場合は注意が必要です。
生理以外の時期でも眠気が続く、月経過多や貧血症状、気分の落ち込み、過食などが見られるときは、月経前不快気分障害(PMDD)などの可能性も否定できません。
また、睡眠時無呼吸症候群や無呼吸、突然眠ってしまう、といった症状がある場合は、睡眠時無呼吸やナルコレプシーという睡眠障害が関係しているケースもあります。
生理中の眠気があまりにつらい、異常だと感じるときは我慢せず、婦人科や睡眠外来で一度相談してみましょう。早めの対応が、体調維持や日常生活を快適に過ごすことに役立ちます。
おわりに
参考文献
1)厚生労働省, 健康づくりのための睡眠ガイド2023
https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
2)昭和学士会誌 第77巻 第4号. PMS. PMDDの診断と治療ー他科疾患との鑑別ー
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/77/4/77_360/_pdf/-char/ja
3)一般社団法人日本睡眠学会,睡眠について
https://www.jssr.jp/basicofsleep6
4)Japanese Journal of Physiotogical Psychology and Psychophysiology,“自己覚醒法による短時間仮眠後の睡眠慣性抑制効果”
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjppp1983/19/1/19_7/_pdf
5)厚生労働省,働く女性の心とからだの応援サイト,貧血・かくれ貧血
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/health/anemia.html
6)厚生労働症.働く女性の心とからだの応援サイト,Q&A 3.食事,貧血対策 何を食べたらいいですか?
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/health/q_a.html