妊活中や不妊治療を行っている方にとって、妊娠できているか早く確認したいと思うのはごく自然な気持ちです。一般的な妊娠検査薬は「生理予定日の1週間後」以降に使うものです。それより早く使ういわゆる「フライング検査」では、正しい結果がでない可能性があるため推奨されません。この記事では妊娠検査薬を早期に使った場合に起こることや、早期妊娠検査薬について解説します。
妊娠検査薬とは
妊娠検査薬は、妊娠すると体内で増えるhCGというホルモンを尿から検出して妊娠の可能性を調べる薬です。検査キットの形で市販されており、一般的な検査薬では生理予定日の1週間後から調べることができます。
最近は市販の妊娠検査薬の種類も増えているので、それぞれの薬の説明書に書かれているタイミングで使用して妊娠の有無を検査します。
妊娠検査薬の原理
妊娠検査薬は、尿中のhCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)の有無を調べ、妊娠を判定する試薬です。
hCGは、妊娠すると胎盤の絨毛という組織から分泌されます。受精卵が着床して、成長する過程で胎盤が形成されてhCGが分泌され、その結果、尿中にhCGが排出されます。こういった原理で、妊娠検査薬で妊娠判定ができるのです。
妊娠検査薬はいつから使える?
一般的な妊娠検査薬では、生理予定日から1週間後に使用するのが望ましい1)です。妊娠検査薬が検出できるhCGの濃度(50IU/L)に達するのが、妊娠4週頃であるためです。
排卵が遅れる可能性や判定の精度を考慮すると、生理予定日から1週間後が検査をするには望ましいといわれています。赤ちゃんを待ち望み、早く検査をしたいと思う方もいるかもしれませんが、妊娠4週より前に検査すると、正しい結果が出ない可能性があります。正しい結果を得るためには、妊娠検査薬は適切な時期に使用することが大切です。
妊娠検査薬の使い方
妊娠検査薬は、検査スティックに尿をかけて判定します。
検査スティックは、個包装を検査直前に開封して取り出します。スティックを取り出したあと、採尿部に尿をかけるか、尿の入った紙コップなどに浸します。尿をかける時間は、製品の指定時間を守りましょう。スティックは平らな場所に置き、1〜3分(製品によって異なる)待ちます。
判定窓にラインが出た場合は陽性で「妊娠反応あり」となります。色が薄くても縦のラインが現れたら陽性です。判定窓にラインが出ない場合は陰性で「妊娠反応なし」と判定します。
主な注意点
妊娠検査薬は、正しく使用すれば精度の高い結果が得られます。しかし、妊娠初期では、人によってhCGの量が非常に少ないこともあり、明らかな結果が得られない場合もあります。その場合、1週間後に再検査をすることをおすすめします。
妊娠検査薬で陽性となったときは、最後の生理から6週間後を目安に必ず産婦人科を受診し妊娠の確定診断を受けてください。妊娠5週以降になると病院の経腟超音波検査で、胎嚢が確認できます。子宮外妊娠や流産の可能性を確認するためにも重要です。
結果が陰性であっても、お腹の痛みがあったり、3か月以上生理が来ないときは治療が必要なことがあるため、医師の診察が必要です。
フライング検査とは
フライング検査は、一般的な妊娠検査薬の本来の使用時期「生理予定日の1週間後」よりも早い段階で検査することを指します。妊娠の可能性を早く知りたい、心の準備をしたいなどの理由でフライング検査を実施する人もいますが、正しい使用法でなく妊娠していても陰性になる可能性があるため、推奨されない使い方です。
なお、フライング検査という用語は正式な医学用語ではなく、一般的に使われている呼び方です。
フライング検査はいつから?
前述のとおり、フライング検査という名称は医学用語ではないため、いつからがフライング検査に該当するかなどの定義はありません。一般的な妊娠検査薬を生理予定日の1週間後よりも早く使う場合は、すべてフライング検査に該当すると言えます。
例えば、生理予定日の当日に検査薬を使用するケースでは、本来の使用時期よりも1週間ほど早いため、実際に妊娠していてもhCGの濃度が十分に高くなっていない可能性があります。そのため、陰性の結果が出る可能性があります。
フライング検査で陽性になる確率
妊娠検査薬のフライング検査で陽性になる確率を調べた調査などは基本的にはありませんが、一般の妊娠検査薬よりも反応の感度が高い検査薬を使って、早期に検査結果を確認した調査などはいくつか報告されています。
hCGの感度が非常に高い検査法を使った調査では、実際に妊娠している場合は最大で90%であり、妊娠が確認できなかったのは10%であったとしています2)。ただし、一般の妊娠検査薬の感度とは異なるため、通常の妊娠検査薬ではこのような確率で検出することはできません。
他にも、感度が高い妊娠検査薬(hCG検出感度が6.3 IU/L)を使うことで生理予定日当日に95%以上が検出可能、25IU/Lの検査薬では80%を検出できるという報告もあります3)。これらの結果も日本における一般の妊娠検査薬の感度(50IU/L)とは異なるため、実際にこのような確率で陽性になるわけではありません。
どうしても早期に検査をしたい場合は、一般の妊娠検査薬ではなく、体外診断用医薬品である早期妊娠検査薬を使用する方法もあります。
早期妊娠検査薬ならフライング検査でも検出できる場合も
早期妊娠検査薬は、通常の妊娠検査薬よりも少量のhCGで反応し、生理開始予定日当日から使用できるタイプの検査薬です。尿中のhCGが25IU/Lや12.5IU/Lなどで反応する感度の高い検査薬なので、一般の妊娠検査薬の使用法である「生理開始予定日の1週間後」より前のフライング検査でも使用できます。
ただし、生理開始予定日ごろに陽性を確認してすぐに病院を受診しても、超音波検査で胎嚢の確認ができる時期になっていません。病院で正式な診断が可能になるのは妊娠5週目頃なので、その頃まで待つことになります。早期妊娠検査薬は価格も高いので、どうしても早期に確認したい場合でなければ、必ずしも使用する必要はありません。
妊娠検査薬と早期妊娠検査薬の違い
一般的な妊娠検査薬と早期妊娠検査薬は、使用できるタイミングや反応する尿中hCGの量が異なります。一般的な妊娠検査薬は、生理開始予定日の1週間後から使用でき、尿中のhCG濃度が50IU/L以上で陽性反応を示します。一方、早期妊娠検査薬は、生理開始予定日当日から使用でき、25IU/Lや12.5IU/L以上と低いhCG濃度でも反応するよう設計されています。
また、一般的な妊娠検査薬は第二類医薬品でドラッグストアなど身近な店舗で販売されていますが、早期妊娠検査薬は体外診断用医薬品のため、薬剤師がいる調剤施設のある店舗で販売される薬で、費用も高くなります。
妊娠検査薬の購入方法と製品例
一般用妊娠検査薬と早期妊娠検査薬の購入方法と現在販売されている主な製品をそれぞれ紹介します。
一般用妊娠検査薬(生理予定日1週間後から使用可能)
一般用妊娠検査薬は生理予定日の1週間後から検査可能で、市販されている妊娠検査薬の多くがこれにあたります。薬剤師もしくは登録販売者が常駐している店舗であれば購入できる第二類医薬品で、ドラッグストアや薬局、インターネット通販などで手軽に入手できます。
価格は製品や何回分かによって異なりますが、おおむね数百円〜1,000円前後で買える製品が多く、代表的な製品には以下のようなものがあります。採尿にかかる時間が製品によって違うので説明書をよく読んで使い方を確認しましょう。
早期妊娠検査薬(フライング検査で使用できることも)
早期妊娠検査薬は、一般用妊娠検査薬よりも早いタイミングの生理開始予定当日から使用できる薬です。尿中のhCGホルモン検出濃度が25IU/Lや12.5IU/Lなどの製品であり、一般的な妊娠検査薬より低い濃度でも反応を示します。
早期妊娠検査薬は体外診断用医薬品に分類されるため、調剤施設のある薬局で薬剤師から購入する必要があり、価格も一般妊娠検査薬よりも高くなっています。
早期妊娠検査薬の代表的な製品は以下のとおりです。
偽陽性(陽性の結果が間違い)となるのは?
妊娠検査薬で偽陽性となるのは、以下のとおりです。
- 尿をかけすぎた場合
- 化学流産の場合
- 不妊治療でhCG注射を受けている場合
- 糖尿病や膀胱炎の場合
- hCG産生腫瘍の場合
- 閉経前後の場合
ひとつずつ詳しく解説します。
尿をかけすぎた場合
妊娠検査薬に尿を多くかけてしまうと、正しい結果が得られない可能性があります。尿をスティックにかける時間や、採尿部を尿に浸す時間は、製品ごとに決まっています。説明書をよく読み、正しく使用しましょう。
化学流産の場合
化学的流産の場合、偽陽性となる場合があります。化学的流産とは、赤ちゃんの胎嚢が確認される前に、流産となる状態です。
早期妊娠検査薬を使用すると、hCGが低めでも陽性となる可能性があります。妊娠検査薬の感度が高くなったことで、これまで認識されなかったような、ごく初期の妊娠が認識されるようになったのです4)。
不妊治療でhCG注射を受けている場合
不妊治療でhCG注射を受けたあとに妊娠検査薬を使用すると、陽性反応を示す場合があります。hCGがしばらく体内に残るためです。治療後すぐに検査をすると、妊娠していなくても、陽性となるときもあるため、検査をするタイミングは、医師と相談するようにしてください。
糖尿病や膀胱炎の場合
尿中に高濃度のタンパクや糖が出ていると、陽性反応を示す場合があります5)。膀胱炎や糖尿病の方は、判定結果に注意が必要です。
また、採取した尿を放置すると尿中の成分が分解し、検査結果に影響を与える可能性があります。採尿後は速やかに検査することが重要です。
hCG産生腫瘍の場合
hCG産生腫瘍の場合、hCGの上昇によって陽性反応を示す場合があります。hCG産生腫瘍とは、妊娠していなくてもhCGが高くなる腫瘍で、卵巣がんが代表的です。この他、膀胱がんや腎臓がんといった妊娠とは関わりのない臓器のがんでも、hCGが高くなることがあります。
閉経前後の場合
閉経前後の女性は、年齢とともにhCGが上昇するため、妊娠検査が陽性となる場合があります。更年期障害の治療でホルモン剤を使用している人も、尿中にhCGが出て、反応が現われるときがあります。
偽陰性(陰性の結果が間違い)となるのは?
妊娠検査薬で偽陰性となるのは、以下のとおりです。
- 検査のタイミングが早すぎたり正しく使用できていない場合
- 尿の濃度が薄くなっている場合
- 尿中のhCG値が高すぎる場合
ひとつずつ詳しく解説します。
検査のタイミングが早すぎたり正しく使用できていない場合
検査のタイミングが早すぎる、正しく使用できていないなどの場合、妊娠しているにも関わらず陰性となるケースがあります。一般的な妊娠検査薬は、妊娠4週目ころからhCGに反応するように作られているためです。
尿をかける部位を間違えたり、尿の量が多すぎたり少なすぎたりしても、陰性になる場合があります。使用期限が切れた検査薬を使用した場合も正しい結果が得られません。使用方法や使用期限を守りましょう。
尿の濃度が薄くなっている場合
水分を摂り過ぎると尿中のhCG濃度が低くなり、陰性となる場合があります。検査前は水分を過剰に摂らないよう注意しましょう。おすすめの検査のタイミングは朝起きたときです。
尿中hCG値が高すぎる場合
尿中のhCG値が高すぎても、陽性とならないケースがあります。異常妊娠の場合や胎児異常の場合、胞状奇胎などで大量にhCGが分泌された場合です。
妊娠検査薬に関するよくある質問
判定や妊娠検査薬についてよくある質問をまとめました。
Q:判定窓の濃さは週数に関係ある?
判定窓のラインは、尿中のhCG量により、濃くなる場合や薄くなる場合がありますが、必ずしも週数に比例するわけではありません。通常は5週以降であれば、ラインが濃くなります。
濃さは個人差もありますし、そのときの体調によっても左右されます。色が濃くても薄くても、ラインが出ていれば陽性と判断できるでしょう。
Q:判定窓の陽性のラインが薄い場合は?
正しい方法で検査ができていれば、ラインが薄くても陽性と判断できます。しかし、判定のタイミングによっては「蒸発線」が現われることもあり、注意が必要です。
蒸発線とは、妊娠検査薬で判定を行なう際、指定の時間以上置いた場合に見られる線です。尿の水分が蒸発し、濃縮された尿の成分が判定窓に残ることが原因と考えられます。10分を過ぎてから現われる線は、正しい結果ではありません。判断に迷う場合は数日後に再検査をすることをおすすめします。
Q:妊娠検査薬の結果が間違いの場合はありますか
妊娠検査薬は、正しい方法で検査を行わなかったり、特定の状態であったりするときは、間違った結果が出る可能性があります。
例えば、不妊治療でhCG注射を行なったあとです。妊娠していない場合でも、陽性となるケースがあります。また、絨毛性疾患や胞状奇胎などのときも陽性を示すときがあります。妊娠検査薬の結果のみで判断せず、きちんと医師の診察を受けることが重要です。
Q:妊娠検査薬で陽性となったらどうすれば良い?
妊娠検査薬で陽性となった場合は、最後の月経から6週間後を目安に産婦人科を受診し、医師の確定診断を受けましょう。
一般的な妊娠検査では、問診票の記入、尿検査・血液検査、経腟エコー検査などが行なわれます。最終月経や月経周期、妊娠・出産経験の有無などを事前にメモしておくと、問診票を記入する際に役立ちます。
Q:ルトラールを服用中ですが妊娠検査薬に影響が出ますか?
影響はでません。ルトラールは黄体ホルモンを補うための飲み薬で、成分はクロルマジノン酢酸エステルです。妊娠検査薬が反応するhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)とは異なる成分であるため、ルトラールの服用が原因で、妊娠していないのに検査薬が陽性を示す偽陽性につながることはありません。
ただし、hCG注射を併用している場合は注意が必要です。排卵誘発や黄体機能補充の目的で使われるhCG注射は、妊娠していなくても尿中のhCGが増えて検査薬が陽性を示すことがあります。
妊娠後のスケジュールと費用について
妊娠が確定したら、出産まで定期的に妊婦健診を受けることが推奨されています。妊娠してから出産までの妊婦健診は14回程度です。費用は基本的に全額自己負担ですが、お住まいの自治体で公的な補助や助成を受けられるケースが多いです。妊娠届を提出することで、補助や助成を受けられるので、早めに提出しましょう。
妊婦健診の標準的なスケジュール例6)を下記に示します。
※こども家庭庁 出生前検査認証制度等啓発事業.妊娠中の検査に関する情報サイト.妊婦健診の検査.“検査の内容は?”.こども家庭庁ウェブサイトより作図
https://prenatal.cfa.go.jp/pregnancy-and-childbirth/
妊娠中や産前産後は、自治体や職場からさまざまな支援を受けられます。お住まいの自治体や職場、加入している健康保険組合などに確認しましょう。
おわりに
参考文献
1)国立研究開発法人国立成育医療研究センター.“妊娠したと思ったら病院に行くタイミングはいつ?検査の流れなどを解説”.国立研究開発法人国立成育医療研究センターウェブサイト
https://www.ncchd.go.jp/hospital/pregnancy/column/itsu.html
2) Wilcox AJ, Baird DD, Dunson D, McChesney R, Weinberg CR. Natural limits of pregnancy testing in relation to the expected menstrual period. JAMA. 2001;286(14):1759–1761.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/194261
3) Cole LA, Sutton-Riley JM, Khanlian SA, Borkovskaya M, Rayburn BB, Rayburn WF. Sensitivity of over-the-counter pregnancy tests: comparison of utility and marketing messages. J Am Pharm Assoc (2003). 2005;45(5):608-615.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1544319115316307
4)日本産婦人科医会.No99.流産のすべて”1.生化学的妊娠(Biochemical pregnancy)の扱い方
https://www.jaog.or.jp/note/1.生化学的妊娠(biochemical-pregnancy)の扱い方/
5)厚生労働省.登録販売者試験問題作成に関する手引き(令和6年4月).第3章XVI 一般用検査薬.厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/content/001243494.pdf
6)こども家庭庁 出生前検査認証制度等啓発事業.妊娠中の検査に関する情報サイト.妊婦健診の検査.“検査の内容は?”.こども家庭庁ウェブサイト
https://prenatal.cfa.go.jp/pregnancy-and-childbirth/