つわりとは妊娠初期に多くの妊婦が経験する症状で、吐き気、食欲不振、においに敏感になるなどが特徴です。本記事ではつわりの種類やそれぞれに伴う症状などを紹介します。また、つわりのピークや症状、つわりがひどい場合の軽減方法について解説します。
つわり(悪阻)はいつからいつまで続く?
多くの妊婦さんが妊娠初期に経験するつわりは、一般的に妊娠5~6週頃から始まり、8~12週頃にピークを迎え、その後12~16週頃に落ち着くことが多いです。
しかし、症状の程度や期間には個人差があり、中には妊娠後期に再びつわりの症状が現れる「後期つわり」を経験する方もいます。それぞれ詳しく解説します。
つわりが始まるのは妊娠5~6週頃から
つわりを経験し始めるのは、妊娠5~6週頃からとされています。
生理の遅れなどにより妊娠に気付き始める時期に、吐き気やだるさといった症状を感じ始めることが多いです。症状の程度には個人差はありますが、最大で8割程度の妊婦さんがつわりを経験するといわれています。
つわりのピークは妊娠8~11週頃に迎える
つわりの症状が最もひどくなるのは、妊娠8~11週頃といわれています。この時期は吐き気や嘔吐がひどくなったり、これまで気にならなかった特定の食べ物や香水の匂いに敏感になったりする時期です。
体調が優れない日が多くなるかもしれませんが、休めるときは横になったり、消化に良いものを少しずつ摂ったりするなど、ご自身の体を第一に考えて過ごすことが大切です。
また、つらいときは一人で抱え込まず、必要に応じてかかりつけの医師に相談しましょう。
つわりが終わるのは妊娠12~16週頃
つわりは長く続くものではなく、多くの場合、妊娠12~16週頃までに症状が落ち着いてくることが多いです。つらい時期を乗り越えると、少しずつ食欲が戻ってきたり、体調が楽になったりするのを感じられるでしょう。
後期つわり|妊娠後期につわりが再開する人も
後期つわりとは、妊娠後期(妊娠28週〜)に現れる吐き気や嘔吐、胃の不快感、胸焼けなどの症状をいいます。子宮による胃の圧迫やホルモンの影響がおもな原因と考えられます。
赤ちゃんが大きくなり子宮も大きくなると、妊婦さんの胃腸を圧迫します。すると、胃酸が逆流しやすくなり、胃の不快な症状を招くのです。
また、妊娠後期はプロゲステロン(黄体ホルモン)が増加します。プロゲステロンの影響によって胃や腸の運動機能が低下し、吐き気や嘔吐などが生じやすくなるのです。
なお、後期つわりの和らげ方については、後期つわりとは?吐き気や頭痛の和らげ方についてで詳しく解説しています。
そもそもつわりとは?
つわりとは、妊娠初期に起こる吐き気や嘔吐、食欲低下や胃の不快感といった症状のことで、妊婦さんのおよそ8割が経験するとされています。妊娠12週以降に改善することが多いですが、重症化すると「妊娠悪阻(にんしんおそ)」に移行する恐れがあり、注意が必要です。
つわりが起こる原因
つわりの原因は完全に解明されていませんが、最近の研究では赤ちゃんから作られるGDF15というホルモンが関連している可能性が指摘されています1)。
この研究では、お母さんの血液中のGDF15が高いほど、妊娠中の嘔吐や妊娠悪阻が出やすいことが確認されています。また、妊娠していない時からGDF15の値が慢性的に高い女性は、妊娠しても吐き気や嘔吐があまりないという結果も出ており、この点からもつわりとの関連が深い物質であることが考えられています。
上記の内容は現在でも研究中であり、つわりの症状や程度、つわりが起こりやすい条件などには個人差も大きいため、症状がつらい場合はかかりつけの医師に相談しましょう。
つわりの種類と症状
つわりの種類には、以下のものがあります。
- 吐きつわり
- 食べつわり
- においつわり
- よだれつわり
このように「つわり」といってもさまざまな症状や種類があるため、詳しく解説します。
吐きつわり
吐きつわりとは、妊娠初期に吐き気や嘔吐が頻繁に起こる状態を指します。
主に空腹時や食事後に症状が現れやすく、体がホルモンの変化に反応して消化機能が低下するためとされています。食事のタイミングや内容によっても症状が悪化することがあります。
食べつわり
食べつわりとは、空腹になると強い吐き気が生じる状態で、少しでも食べ物を口にすると症状が和らぐことが特徴です。
お腹は空くけど食べたくないと感じるかもしれませんが、血糖値の低下や空腹時の胃酸過多が原因であることが多く、食事の間隔を空けないようにすることが有効なことがあります。
においつわり
においつわりとは、特定のにおいに敏感になり、それが原因で吐き気や不快感を引き起こす状態を指します。
普段は気にならない食べ物や香水、タバコの煙などのにおいが急に強く感じられることが多くあります。
よだれつわり
よだれつわりとは、妊娠初期に唾液の分泌が増加し、口の中に唾液が溜まりやすくなる状態を指します。
この症状は、ホルモンの影響や胃の不調によって唾液腺が刺激されることで起こると言われています。食事やにおいの影響を受けやすく、口の不快感を伴うことがあります。
妊娠悪阻(にんしんおそ)について
妊娠悪阻とは、つわりが悪化して食べたり飲んだりできず、急激な体重減少や脱水症状を引き起こした状態をいいます。
人によっては、頭痛や軽い意識障害、めまいや肝機能障害が現われることもあります。ひどくなると、脱水による血栓症や、ビタミン不足(特にB1)による脳症のリスクもあり、命に関わる状態も引き起こします。体重が5%以上減っているときは、点滴が必要と言われており、1週間に3〜4kgの体重減少がある場合などは注意が必要です。
妊娠悪阻の症状が見られる場合は、すぐに産婦人科を受診してください。我慢すると別の病気を引き起こす恐れがあるので、我慢しないようにしましょう。
つわりを軽減させる方法
つわりの症状は多岐にわたり、タイプによって対処方法が異なります。ここでは、代表的なつわりの種類とそれぞれの軽減方法についてご紹介します。
吐きつわり|食べられるときに食べられるものを食べる
吐きつわりがひどいと「また吐いてしまうかも」と思い、何も食べたくないときもあるかもしれません。しかし、空腹が続くと、逆に吐き気が強くなることもあります。吐き気が落ち着いているタイミングで、食べられるものを食べましょう。脱水にならないように、水分補給はこまめにおこなってください。
口の中をさっぱりさせるのも効果的です。果物を食べると、酸味ですっきりする場合もあります。飴をなめたり、ガムを噛むのもよいでしょう。
食べつわり|食事を小分けにして食べる
食べつわりは、空腹時に吐き気があらわれます。できるだけ空腹にならないようにすることが大事です。食事を1日5〜6回に分けて食べると、症状が抑えられる場合があります。
すぐに食べられるおにぎりやクッキー、野菜スティックなどを準備しておくとよいでしょう。
においつわり|におい対策をして過ごす
妊娠中はにおいに敏感になります。吐き気を招くにおいは避けるようにしましょう。マスクを着用したり、においの少ない冷たい食べ物を選んだりしてみてください。
調理のにおいでつわりが起こる場合は、調理方法の工夫が必要です。レンジで加熱調理する、家族に作ってもらうなどしましょう。
においがこもらないよう、部屋の換気をこまめにおこなうのも効果的です。
よだれつわり|よだれをこまめに吐き出す
よだれつわりの場合、早く唾液をなんとかしたくなります。すぐにできるのは、よだれを吐き出すことです。ティッシュなどを常備し、吐き出すようにしましょう。歯磨きをしたり、マウスウォッシュでうがいをしたりすると、口の中がさっぱりします。
つわりに関するよくある質問
つわりに関する質問に対して解説していますので、こちらも参考にしてください。
Q:つわりに波があります。なぜでしょうか?
つわりに波があるのは、ホルモンバランスの変動や個々の体調の変化が影響しているためと考えられます。
最近は赤ちゃんから作られるGDF15というホルモンが、つわりの原因となっている可能性が指摘されています。ただし、妊娠中はほかにもさまざまな要因が体調に影響を与えるため、症状が一定しないことも少なくありません。
妊娠中は無理な計画を立てず、日によって体調が変化する可能性があることを考慮しながら、ある程度の余裕を持った生活スタイルを心がけるとよいでしょう。
Q:つわりで夜眠れません。どうしたらいいですか?
つわりで眠れない場合、枕を高くして寝る、少しの間食を取る、リラックスできる呼吸法やアロマを試すなどが効果的です。
また、寝る前の軽いストレッチもおすすめです。症状が続く場合は、医師に相談することが大切です。
Q:つわりが軽い人の特徴は?
つわりが軽い人の特徴は、まだはっきりとわかっていません。
最近の研究では、GDF15というホルモンの値が妊娠前から高い女性は、妊娠後のつわりが軽いという結果もありますが1)、あくまでひとつの例です。
一方で、妊娠中につわりがあったほうが正期産(安全に出産できる時期での出産)になりやすいという調査結果も出ています2)。この調査では「つわりがなかった」と回答した人は、つわりがあった人よりも早産になりやすい傾向がみられました。
この結果から、つわりがあることは必ずしも悪いことではなく、より安全な出産につながる可能性もあると考えられます。つわりの有無や重さは自分ではコントロールできない部分も多いため、必要に応じて医師に相談しながら過ごすようにしましょう。
Q:つわり中でも仕事は続けられますか?職場への伝え方は?
つわりがひどく仕事への影響が大きい場合は、無理せず医師に相談し、「母性健康管理指導事項連絡カード」の活用を検討しましょう。
母性健康管理指導事項連絡カードとは、医師が妊婦さんの健康状態に応じて勤務緩和などを指示するための書面で、職場に対して配慮を求めることができる制度です。勤務時間の短縮や通勤緩和などを、職場に検討してもらうことができます。
職場には、ご自身の体調と医師からの指示を具体的に伝えるようにしてください。
Q:つわり中に食べられるものが限られます。赤ちゃんに影響はありませんか?
つわりで食べられるものが限られていても、妊娠初期の赤ちゃんの成長に大きな影響を及ぼすことは少ないとされています。妊娠初期の赤ちゃんは母体の蓄えから栄養を得るため、一時的な食事の偏りは心配しすぎなくて大丈夫です。
ただし、水分が摂れないほど重症な場合は、速やかに医師に相談してください。
おわりに
参考文献
1)Fejzo M, Rocha N, Cimino I, et al. GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy. Nature. 2023;625(7996):760-767.
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06921-9
2)富山大学 医学部内エコチル調査富山ユニットセンター. つわりは朗報? つわりの程度と早産の関係. エコチル調査富山ユニットセンターウェブサイト
http://www.med.u-toyama.ac.jp/eco-tuc/result/tuwari2.html