ブライダルチェックは将来の妊娠・出産に備えるもの、不妊検査は不妊の原因を特定するものです。検査内容は共通する項目が多いですが、目的や対象がそれぞれ異なります。この記事では、ブライダルチェックと不妊検査における検査内容や費用、保険適用の有無や助成金について解説します。
ブライダルチェックと不妊検査の違い
ブライダルチェックと不妊検査は、どちらも妊娠や出産に関わる検査ですが、目的や対象が異なります。
ブライダルチェックは、現在の体の状態を調べ、将来の妊娠や出産に問題がないかを把握するためのものです。結婚の予定がなくても、将来的に妊娠を考えている方であれば、誰でも対象となります。
一方、不妊検査は不妊に悩む方が原因を特定し、治療へとつなげるために行う検査です。
ブライダルチェックと不妊検査で調べる項目は共通するものが多く、明確な区別がない場合もありますが、 それぞれの目的によって選ばれる検査が異なります。
ブライダルチェックは現在の体の状態を調べる
ブライダルチェックとは、将来の妊娠や出産に備え、現在の体の状態や性感染症の有無、妊娠・出産に関わる可能性がある病気の有無などを確認します。
ブライダルチェックに明確な定義はなく、検査のメニューや費用も医療機関によって異なりますが、一般的な検査内容は以下のものがあります。
- 医師によるカウンセリング
- 超音波検査
- 血液検査 など
これらの検査を通して現在の体の状態を把握します。もし異常が見つかった場合には、必要に応じた治療を実施するケースもあり、将来の妊娠・出産に向けて準備を整えられます。
不妊検査は治療に向けて不妊の原因を特定する
不妊検査は、妊娠を希望しているにもかかわらず、一定期間妊娠に至らない場合に原因を特定し、適切な治療へとつなげるために行われます。また、不妊症につながるリスクがある疾患があったり、過去に経験した場合にも検査を実施する場合があります。
不妊の原因は多岐にわたり、女性側、男性側または両方に原因がある場合もあります。不妊検査では、妊娠を妨げている要因を詳しく調べるため、ブライダルチェックよりも詳細な検査が行われる場合があります。
不妊検査は不妊治療につなげる前提で実施するため、検査結果に応じて治療の方針を決めることになります。
検査項目は共通のものも多い
ブライダルチェックと不妊検査では、それぞれの目的や対象は異なりますが、共通する検査項目が多いのが特徴です。
例えば、子宮・卵巣の状態を調べる経腟超音波検査、ホルモン検査などはブライダルチェックでも不妊検査でも行われるのが一般的です。子宮や卵巣の状態は妊娠できるかを調べる上で重要な検査であり、最初に確認する項目のひとつです。
検査項目は、実施する医療機関の方針や患者さんの年齢、既往歴、現在の健康状態、希望などによっても変わってくるため、事前に把握したい場合は医療機関のホームページなどを確認しましょう。
ブライダルチェックや不妊検査の検査項目
ここでは、ブライダルチェックや不妊検査の代表的な項目についてご紹介します。
女性側の主な検査項目
女性側の検査項目は超音波検査と女性ホルモンをはじめとした血液検査、性感染症検査が主要な検査項目となります。
経腟超音波検査
子宮や卵巣の状態を超音波で観察する検査であり、不妊症の原因となる「子宮筋腫」「子宮内膜症」「卵巣腫瘍」などの疾患がないかも確認します。
女性ホルモン基礎値
E2(エストラジオール)、LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)などの女性ホルモン値を調べ、卵巣機能の評価をします。また、不妊の原因にもなる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断の指標にもなります1)。
ホルモン検査については、以下のページで詳しく解説しているので合わせてご覧ください。
関連ページ:ホルモン検査
AMH(抗ミュラー管ホルモン)
AMHは体内に残っている卵胞の数を反映するといわれています。卵巣予備能ともいわれ、残存する卵子の数や排卵誘発時に反応する卵胞の数を評価する値として利用されます。必ずしも卵子の質を反映するものではありません。
AMHについては、以下のページで詳しく解説しているので合わせてご覧ください。
関連ページ:AMH
クラミジア検査
クラミジア感染症は卵管性不妊症の原因となることが多い感染症です。無症状の感染者も少なくないため、感染症検査の中でも重要な検査項目のひとつです。
子宮卵管造影検査
卵管が詰まっていたり狭まっていないか、子宮の中にくっついている箇所がないかなどを確認する目的で実施されます。子宮内に造影剤を注入し、X線で撮影して画像を確認します。卵管の通りがよくなることで、妊娠率が上がる可能性が報告されています2)。
子宮卵管造影検査については、以下のページで詳しく解説しているので合わせてご覧ください。
関連ページ:子宮卵管造影検査
その他、女性側の主な検査項目については、以下の関連ページで詳細を解説しています。
関連ページ:女性ブライダルチェック
男性側の主な検査項目
男性側の検査項目は精液検査、男性ホルモン基礎値検査などが主要な検査項目となります。
精液検査
男性不妊症における基本的な検査でかつ重要な検査です。精液量や精液中の精子濃度、運動率などを調べ、基準値を下回っていないかを確認します。
注意点として、精液の状態は日々変動するため、1回の精液検査で結果が悪くても、必ずしも不妊症と判断されるわけではありません。結果が不良であった場合は再検査を実施した上で再度判定することが一般的です。
精液検査の詳細については、以下のページで詳しく解説しているので合わせてご覧ください。
関連ページ:精液検査
男性ホルモン基礎値検査
男性ホルモン基礎値検査ではLH(黄体形成ホルモン)やFSH(卵胞刺激ホルモン)、T(テストステロン)などの値が検査の対象となります。
精子は精巣で作られ、脳の下垂体から分泌されるホルモンによってコントロールされています。 そのバランスが崩れると、精子が作られにくくなる可能性があります。LHは睾丸からの男性ホルモンの分泌を促す作用、FSHは睾丸に働き、精子の形成を促す作用などがあり、これらの値が異常となる場合は不妊につながる疾患がある可能性があります。
その他、男性側の主な検査項目については、以下の関連ページで詳細を解説しています。
関連ページ:男性ブライダルチェック
ブライダルチェックや不妊検査の費用と保険適用について
ブライダルチェックと不妊検査では、費用や保険適用の有無が異なります。
ブライダルチェックは原則として保険適用外となり、全額自己負担となります。これは、ブライダルチェックが病気の治療を目的としたものではないためです。
ただし、ブライダルチェックの検査項目に保険適用に該当する症状があった場合は、部分的に保険適用される場合もあるため、念のため保険証を持参すると安心です。
ブライダルチェックの費用は医療機関が独自に設定するため、一律の基準があるわけではありません。医療機関によっては検査項目が最低限のものから、フルスクリーニングの位置付けで実施するセットもあります。女性向けでは10,000円台〜50,000円台のコース、男性では5,000円以下〜40,000円台のコースなどが比較的よくみられる価格帯です。
一方、不妊検査は不妊症の診断や治療の一環として行われるため、原則として保険適用となります。保険適用の場合は、検査メニューごとに国が定める診療報酬点数表に従って費用が決まり、一般的には3割負担となります。ただし、全ての検査が保険適用になるわけではなく、検査内容や医療機関の方針によって自費診療となるものがあります。
不妊検査の費用は、原因の特定のために必要な検査項目が多岐にわたるため、一概にいくらかかるとは言えません。一般的に女性の不妊検査は男性よりも多くの項目が含まれるため、費用が高くなる傾向にあります。
トーチクリニックの女性ブライダルチェックの費用と内容
トーチクリニックの女性ブライダルチェックは、ライトセット、妊活セット、フルスクリーニングセットの3種類となっています。
「医師によるカウンセリング」、「超音波検査」、「AMH」はどのセットにも含まれ、妊活セットではこれに加えて「女性ホルモン基礎値」、「クラミジア抗体検査」などの検査も受けることができます。さらにフルスクリーニングセットでは、妊活セットの内容に加え「子宮頸がん検査」や、妊娠時にもリスクとなり得る糖尿病に関連する検査内容が含まれます。
女性ブライダルチェックの詳細は以下のページをご覧ください。
関連ページ:女性ブライダルチェック
トーチクリニックの男性ブライダルチェックの費用と内容
トーチクリニックの男性ブライダルチェックも、ライトセット、妊活セット、フルスクリーニングセットの3種類です。
「医師によるカウンセリング」と「精液検査(一般検査)」は、どのセットにも含まれます。妊活セットでは、これに加えて「男性ホルモン基礎値」や「クラミジア抗体検査」などの検査を受けることができます。
フルスクリーニングセットでは、妊活セットの内容に加え、DNAに損傷がある割合などを調べる詳細な精液検査が含まれます。
※DFI:DNAに損傷がある割合
TAC:酸化ストレスに対する抵抗力
男性ブライダルチェックの詳細は以下のページをご覧ください。
関連ページ:男性ブライダルチェック
ブライダルチェックと不妊検査の助成金について
助成金に関しては、ブライダルチェックと不妊検査のいずれでも対象になる可能性があります。東京都を例にあげると、不妊検査等助成事業で最大5万円が助成されます。
関連サイト:東京都 不妊検査等助成事業の概要
注意したい点として、ブライダルチェックの中でも将来の妊娠に向けてヘルスチェックを行いたい、といった検診目的で受けたものは対象になりません2)。医師が不妊を疑って行う検査が対象であり、助成金の申請に使用する証明書(不妊検査等助成事業受診等証明書)を医療機関から発行してもらう必要があります。
ブライダルチェックと助成金に関しては、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
関連記事:ブライダルチェックで使える助成金とは?東京・神奈川・埼玉・千葉の制度や保険適用について解説
ブライダルチェックや不妊検査を受けるタイミングは
ブライダルチェックを受けるタイミングは、個々の医療機関によって詳細は異なるものの、明確な規定はなくいつでも受けられることが一般的です。
- 結婚や妊娠を控えている
- 将来的に妊娠を考えている
- まだ妊娠の予定はないものの、自分の体の状態を知っておきたい
多くの医療機関では、上記のように自分の望むタイミングで受けることができます。近年の調査では不妊症に悩む夫婦は増えており、不妊症の検査や治療経験がある夫婦の割合は22.7%、不妊の心配をしたことがある夫婦の割合は39.2%という結果も公表されているため3)、少しでも妊娠のことが気になった場合は、早めに検討してみるのもよいでしょう。
一方で、不妊検査を受けるべきタイミングとしては、一般的に以下のような状況が挙げられます。
- 妊活を始めてから1年以上経過しても妊娠に至らない場合
- 女性の年齢が35歳以上の場合
- 不妊かもしれないと不安を感じる場合
日本産科婦人科学会では、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交していたにもかかわらず、1年間妊娠しない場合を、不妊症と定義しています4)。このため、1年以上妊娠しない場合は受診することを検討しましょう。
また、女性の場合は35歳以上になると顕著に妊娠率が低下することが知られており、アメリカの生殖医学会では、女性が35歳以上の場合は6か月後に評価を開始する必要があるとしています5)。このような点から35歳以上の場合は1年を待たずに受診を検討することが推奨されます。
年齢的な要因以外にも、排卵がない場合や子宮内膜症にかかったことがある、骨盤腹膜炎にかかったことがあるなどの場合は不妊の原因になることがあります。自分の過去の病気や現在の体調を考慮し、不妊かもしれないと思う場合は早期の受診も選択肢として考えるのがよいでしょう。
おわりに
参考文献
1)成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業(健やか次世代育成総合研究事業). 患者さんのための生殖医療ガイドライン. 東大病院女性診療科・産科/女性外科ウェブサイト
https://www.gynecology-htu.jp/reproduction/dl/seishokuiryo_gl.pdf
2)東京都福祉局. 不妊検査等助成事業の概要. 東京都福祉局ウェブサイト
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/funinkensa/gaiyou
3)国立社会保障・人口問題研究所. 第16回出生動向基本調査報告書(2021年調査). 国立社会保障・人口問題研究所ウェブサイト
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16_ReportALL.pdf
4)日本産科婦人科学会. 不妊症. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5718/
5)American Society for Reproductive Medicine. Definition of infertility. Practice Committee Documents. ASRM.
https://www.asrm.org/practice-guidance/practice-committee-documents/definition-of-infertility

