卵子、胚の体外培養について
卵子と精子が結合したばかりの卵子を「受精卵」、細胞分裂がはじまった受精卵を「胚」といいます。胚(受精卵)は、自然妊娠の場合は母体の卵管から5~6日間かけて子宮に移動しながら発育していきます。体外受精などの高度生殖医療は、この過程を母体の体外で行うことになりますので、培養環境をいかに胚に優しい環境(体内の環境に)へ近づけるかが重要です。
体外培養
卵子を採取し、受精させて子宮に戻すまで、体の外で受精卵を育てる方法です。通常採卵後から3〜6日間行なわれます。
クリーンベンチ内操作
卵子や精子は目視できないため、多くの操作は顕微鏡下で行います。体内と同じ無菌環境で操作を行う必要があるため、クリーンベンチ(ゴミやホコリ、微生物の混入を防ぐために管理された作業台)の中で卵子や胚を取り扱います。
培養液
卵子と精子の受精の確認と、その後の胚培養は培養液中で行なわれます。培養液とは、体内で受精・発育する場所である卵管の環境を模倣し、卵管液の役目を果たしています。卵管に存在している栄養素を含み、胚に栄養を供給します。
胚培養の培養液は大きく分けると2つあります。
- 8細胞期以降から必要とする栄養素が変わることに合わせ、2種類の培養液を使い分ける「シーケンシャルメディウム」
- 胚は成長に合わせ、自ら必要な栄養素を選択しているとの考えから、受精から胚盤胞まで同一の培養液を使う「シングルステップメディウム」
受精前の卵子、受精後の胚は必要とする栄養素が日々変化します。培養液は、受精や胚の発育に影響するため、培養液の質の管理は重要です。
培養器:インキュベーター
胚培養は数日間行なわれるため、卵子や胚は操作時以外は培養器(インキュベーター)の中に保存します。培養器は受精卵が発育する女性の生体内の環境を模倣しており、庫内は暗所で、温度・酸素濃度・二酸化炭素濃度を一定に保たれています。培養器内の酸素や二酸化炭素の濃度は受精や胚培養に影響を与えるので、培養環境を一定の状態に保つことが重要となります。
受精確認〜胚培養
卵子と精子が受精した翌日は「前核期胚」と呼ばれ、卵子の中心に丸い核が現れます。1つが卵子由来、もう1つが精子由来となっており、2つ見えると正常受精と判断します。2日目以降に4細胞、3日目で8細胞(「初期胚」と言います)、4日目で桑の実のような見た目の「桑実期胚」、5日目〜6日目で風船のように膨らんだ「胚盤胞」という状態に育ちます。
初期胚のグレード Veeck分類
初期胚の段階でVeeck分類という評価方法でグレーディングをします。卵子の割球の均一さや細胞の欠片(フラグメンテーション)の割合を見て5段階で評価をします。グレード1が最もよい状態です。
グレード1:卵割球の形態が均一でフラグメンテーションを認めない胚グレード2:卵割球の形態は均一であるがわずかにフラグメンテーションを認める胚グレード3:卵割球の形態が不均一な胚グレード4:卵割球の形態は均一または不均一でかなりのフラグメンテーションを認める胚グレード5:卵割球をほとんど認めずフラグメンテーションが著しい胚
胚盤胞のグレード Gardner分類
胚盤胞の段階でGardner分類という評価方法でグレーディングします。
グレードの例:4BB
数字は胚盤胞のステージを表しています。
1:初期胚盤胞 (胞胚腔が半分以下)
2:胚盤胞 (胞胚腔が半分以上)
3:完全胚盤胞 (胞胚腔が完全に広がる)
4:拡張胚盤胞 (透明帯が薄くなるほど拡張)
5:孵化中胚盤胞 (一部透明帯から胚盤胞が脱出している)
6:孵化胚盤胞 (胚盤胞が完全に脱出している)
アルファベットの前列は将来赤ちゃんになる細胞=内部細胞塊のグレードを表しています。A・B・Cの3段階評価で評価します。
A:内部細胞塊が密である
B:内部細胞塊がやや均一さに欠ける
C:内部細胞塊の細胞数がかなり少ない
アルファベットの後列は将来胎盤になる細胞=栄養外胚葉のグレードを表しています。A・B・Cの3段階評価で評価します。
A:栄養外胚葉は均一な単層を形成している
B:栄養外胚葉は細胞数がやや少なく、均一さに欠ける
C:栄養外胚葉の細胞数がかなり少なく、均一さに欠ける
体外培養に関連する卵子の質の低下要因
培養液のpH変化→酵素反応への影響
温度変化→紡錘体、酵素反応への影響
浸透圧変化→細胞質内成分(アミノ酸等)の流出
アンモニア→代謝産物で胚発生へ悪影響
VOC(揮発性有機化合物)→建築用資材、消毒用エタノールなど胚発生へ悪影響
紫外線→DNAへダメージ