妊娠初期の妊娠継続率はどのくらい?hCGとの関係についても解説

市山 卓彦
市山 卓彦 医師
上野院 院長 婦人科 生殖医療科 医師
お二人の道のりが明るく照らされるよう「理解」と「納得」の上で選択いただく過程を大切にしています。エビデンスに基づいた高水準の医療提供により「幸せな家族計画の実現」をお手伝いさせていただきます。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医 / 日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科学会専門医指導医 / 臨床研修指導医
torch clinic医師

妊娠が発覚しても、無事に出産までたどりつけるか不安に感じる方は少なくありません。とくに流産は妊娠初期に起きやすく、胎嚢や心拍が確認できても必ず安心というわけではないことも知られています。この記事では妊娠初期の妊娠継続率や、hCGの値から分かることについて解説します。

妊娠初期の妊娠継続率

流産の多くは妊娠初期に起こるものとされており、妊娠が発覚しても不安を感じるケースは少なくありません。実際に流産の90%以上は、妊娠10週未満に起こるとされています。

この章では妊娠継続率を調べた研究の例として、不妊治療クリニックに通う患者さんを対象に胎嚢確認後、卵黄嚢確認後、心拍確認後の妊娠継続率を調べた調査1)の内容を解説します。

胎嚢確認後の妊娠継続率(妊娠4〜5週目以降)

胎嚢(たいのう)とは、妊娠初期に赤ちゃんを包む袋のことで、早ければ妊娠4〜5週目くらいから経腟超音波で確認できるようになります。

調査の結果は、受精後33~36日目(妊娠6〜7週目)に胎嚢の大きさが12mm以上と確認された妊婦では、20週を超える妊娠継続率が91.9%でした。

一方で、8〜12mmの場合は74.1%、8mm未満の場合は14.7%という結果であり1)、胎嚢が確認できるだけでなくその大きさも妊娠継続率に大きな影響があることが考えられます。

卵黄嚢確認後の妊娠継続率(妊娠5〜6週目以降)

卵黄嚢(らんおうのう)は、胎盤ができるまで胚に栄養を送るといった役割がある器官です。胎嚢の中でリング状に見え、一般的に胎嚢が確認できてから少し後の妊娠5〜6週目以降に確認できます。

調査は胎嚢と同じく受精後33~36日目(妊娠6〜7週目)で確認しており、卵黄嚢の大きさが2~6mmの場合は妊娠継続率は89.2%という結果でした。

一方で、6mm超の場合と2mm未満の場合はともに20%であり1)、適正な大きさが重要であることがわかる結果となっています。

心拍確認後の妊娠継続率(妊娠5〜8週目以降)

通常、胎児の心拍は早ければ5週目の終わりごろから確認でき、8週目までには全ての例で確認できるとされています。

同じく受精後33~36日目(妊娠6〜7週目)に心拍確認ができた妊婦では、妊娠継続率が90.5%であったとされています1)

胎嚢、卵黄嚢、心拍のすべてが良い結果の場合は高い妊娠継続率

この調査では、3つ指標がすべて良い結果(胎嚢が12mm以上、卵黄嚢が2〜6mm、心拍が確認)だと妊娠継続率が94%という高い結果になることも確認されています。

受精後33~36日目
(妊娠6〜7週目)の結果
20週以降の妊娠継続率
胎嚢 12mm以上の場合 91.90%
卵黄嚢 2〜6mmの場合 89.20%
心拍 確認できた場合 90.50%
3つの指標 胎嚢:12mm以上
卵黄嚢:2〜6mm
心拍:確認
94.00%

この傾向は反復流産の経験がある女性を対象にした場合でも同様であり、同じく94%の妊娠継続率が確認されています1)

胎嚢と卵黄嚢が適切な大きさで確認されて、心拍も確認されれば高い確率で妊娠が継続されることがわかる調査結果と言えます。

ただし、この基準から外れても妊娠が継続しないわけではありません。特に胎嚢に関しては、8〜12mmの場合でも74.1%の妊娠継続率という結果であり、必ず12mm以上でないといけないわけではありません。

妊娠週数のずれや個人差もある指標のため、担当医師の見解をしっかり聞き、胎児の成長を見ていくようにしましょう。

hCGと妊娠継続率の関係

hCGの値と妊娠継続率には深い関係があるとされています。この章ではhCGについてや、hCGの値が妊娠に与える影響について説明します。

hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)とは

hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)とは、妊娠時に胎盤のもととなる絨毛組織から分泌されるホルモンです。受精卵が子宮内膜に着床すると分泌が始まり、その後急速に増加し、母体の血液や尿から検出できるようになります。

妊娠初期には黄体に働きかけて黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌を促進させ、妊娠の継続に重要な役割を果たします。また、hCGは妊娠の判定だけでなく、異常妊娠の診断や流産のリスク評価、腫瘍などの指標のひとつとして用いられることもあります。

妊娠初期にhCGが順調に増えることが大切

hCGは生理予定日ごろ(妊娠4週目)で50〜100 IU/Lほどから急速に増えはじめ、1.4〜2.1日ごとに倍増するとされています。妊娠8〜10週では50,000〜100,000 IU/Lに達することが知られています2)

日本のクリニックにおける研究結果で、胚盤胞(採卵から5〜6日間培養した受精卵)移植後のhCGを計測し、年齢の区分別に妊娠率や出生率を集計している報告があります3)。その報告では、胚盤胞移植後7日目(妊娠3〜4週頃に該当)で、年齢が若くhCGが高い状態であると臨床妊娠率や出生率が高いことが確認されています。

胚盤胞移植後7日目でhCGが50IU/L以上であると、年齢にかかわらず90%以上の確率で胎嚢が見える臨床妊娠が確認されています。

出生率については年齢によっても開きがあり、以下の結果となっています。

hCGの値 50.0~59.9 60.0~69.9 70.0~79.9 ≥80
グループA
(21〜34歳)
84.80% 87.10% 87.40% 93.70%
グループB
(35〜39歳)
75.70% 82.60% 84.30% 87.90%
グループC
(40〜44歳)
58.10% 66.30% 64.30% 76.20%

上記のとおり、年齢による幅はありますが初期のhCGの数値が高いほど、妊娠継続率が高くなる結果となっています。

妊娠初期においてhCGがしっかりと分泌され、順調に増加していくことが妊娠を維持する上で重要と考えられます。

hCGが低い場合

妊娠初期のhCGが極端に低い場合、受精卵に染色体異常があるなどが原因で、流産につながる可能性があります

ただし、hCGが低いからといって必ずしも流産に至るわけではありません。初期に低値が示された場合でも、その後順調に上昇し、妊娠が継続するケースもあります。落ち着いて経過をみることが大切です。

妊娠判定でhCGが低い場合の妊娠継続への影響については、以下の記事で詳しく解説しているのであわせてご覧ください。

関連記事:妊娠判定でhCGが低い場合の妊娠継続への影響|妊娠週数ごとのhCGの基準値や妊娠時における役割も解説

hCGが高い場合

hCGが高い場合も注意が必要なケースがあります。双子などの多胎妊娠の場合、hCGの数値が高くなる傾向があります。

また、hCGが妊娠中期でも高い値となっている場合は妊娠高血圧症などのリスクが高まる可能性も報告されています4)

通常、hCGはピークを迎えたあと徐々に減少するとされていますが、高値が続く場合は検査で原因を調べる場合もあるため、医師の指示に従いましょう。

hCGの増え方がゆっくりの場合

hCGの増加スピードが通常よりも遅い妊娠の場合も注意を要する場合があります。

前述のとおり、妊娠初期のhCGは1.4〜2.1日ごとに倍増するとされています2)。一方で倍増する日数が3.2日を超える場合、72.7%が妊娠継続とならなかったという報告があります5)

ただし、hCGの増え方についても個人差が大きく、ゆっくりであった場合でも問題なく出産まで至るケースもあります。医師とのコミュニケーションをしっかり取り、慎重に経過を見ることが大切です。

年齢と妊娠継続率の関係

母親の年齢とhCG値のあいだには明確な相関関係はないと考えられています。一方で、年齢とともに流産のリスクは高まることが知られています。

以下は女性の年齢と流産の件数を集計した海外の調査結果です6)

出生数 流産数 流産の割合
12-19歳 44,674 5,427 10.80%
20-24歳 246,038 24,465 9.00%
25-29歳 312,904 33,728 9.70%
30-34歳 157,457 22,391 12.40%
35-39歳 43,471 11,369 20.70%
40-44歳 5,101 3,962 43.70%
45歳以上 117 509 81.30%

心拍が確認されhCGが順調に増えていても、加齢による流産リスクは上昇することを念頭に置いておきましょう。

おわりに

トーチクリニックには生殖医療専門医が在籍し、一般不妊治療(タイミング療法、人工授精)に加えて、高度生殖医療(体外受精、顕微授精など)も提供しています。

恵比寿駅・上野駅から徒歩1分の便利な場所に位置し、土日も開院しており、働きながらでも通いやすい環境を提供しています。

不妊治療で新たなステップを考えている方は、お気軽にご相談ください。

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参考文献

1)Bae S, Karnitis J. Triple ultrasound markers including fetal cardiac activity are related to miscarriage risk. Fertil Steril. 2011;96(5):1145-1148.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0015028211024289

2)Demetrio Larraín, Javier Caradeux .β-Human Chorionic Gonadotropin Dynamics in Early Gestational Events: A Practical and Updated Reappraisal.Obstet Gynecol Int. 2024 Mar 7;2024:8351132.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10940029/

3)Satoshi Ueno, Kenji Ezoe, Takashi Abe, Akiko Yabuuchi, Kazuo Uchiyama,Takashi Okuno, Tamotsu Kobayashi, Keiichi Kato.Maternal age and initial β-hCG levels predict pregnancy outcome after single vitrified-warmed blastocyst transfer.J Assist Reprod Genet. 2014 Jun 12;31(9):1175–1181. 
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4156940/

4)Ashour AM, Lieberman ES, Haug LE, Repke JT. The value of elevated second-trimester beta-human chorionic gonadotropin in predicting development of preeclampsia. Am J Obstet Gynecol. 1997;176(2):438-442.
https://www.ajog.org/article/S0002-9378(97)70512-X/abstract

5)J H Check, J R Liss, Y Katz, K Shucoski.Slow rising serial chorionic gonadotropins predict poor pregnancy outcome despite sonographic viability.Clin Exp Obstet Gynecol. 2003;30(4):193-4.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14664408/

6)Andersen AMN, Wohlfahrt J, Christens P, Olsen J, Melbye M. Maternal age and fetal loss: population based register linkage study. BMJ. 2000;320(7251):1708-1712.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC27416/