「いつかは子どもを授かりたいけど、今すぐ妊娠は考えていない」という場合、卵子凍結は将来の妊娠に備える選択肢のひとつです。
卵子凍結とは、若い時期の卵子をあらかじめ凍結し保存しておく方法です。ライフプランに合わせて妊娠・出産の時期を考えられますが、採卵や凍結した卵子を使用する年齢には目安があります。
将来安心して妊活に取り組めるよう、卵子凍結の年齢制限や注意しておきたい点について理解を深めましょう。
卵子凍結は何歳までできる?
2013年の日本生殖医学会による「社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン」では、卵子凍結は成人女性を対象とし、以下の年齢が望ましいと記載されています1)。
- 採卵する年齢:40歳未満(40歳以上は推奨できない)
- 凍結した卵子を使用する年齢:45歳未満(45歳以上は推奨できない)
法的には年齢制限はありません。しかし、年齢を重ねることで妊娠率が下がり流産や合併症のリスクが高まるため、このような目安が設けられています。
採卵する年齢の目安は40歳まで
日本生殖医学会の2013年のガイドラインに準じて、採卵する年齢を40歳までとする医療機関が多い傾向です。卵子凍結に関する助成金制度でも、40歳未満を対象とする自治体が多くなっています。
2023年の東京都福祉局による調査では「卵子凍結する年齢の上限は40歳が望ましい」と考える専門医が最も多い結果となっています。
同じ調査において健康な女性ではじめて採卵した年齢は、35〜39歳の人が最も多く全体の45.4%を占めています。一方、40歳以上は22.4%と高くありません2)。
なお、1回の採卵で得られる卵子の数は年齢とともに減少することも示されていました。
【実際に凍結した卵子の数(1回の採卵当たり)】
採卵できる卵子の数は30代後半から減少し、40歳以降では顕著に減ることが分かります。一方で年齢が上がると染色体異常の頻度が増えるため、1個の正倍数性胚(正常な染色体の胚)を得るために必要な卵子数は年齢とともに顕著に上昇します。
卵子凍結を考えている場合、年齢上限に関わらず、できるだけ早いタイミングが推奨されるといえます。
凍結した卵子を使用する年齢の目安は45歳まで
一般的に、凍結保存した卵子を移植する年齢は、45歳までが目安とされます。医学的には閉経まで妊娠できるものの、年齢が上がるほど妊娠合併症や流産などのリスクが高まるためです。
日本産科婦人科学会でも「採卵した女性の生殖年齢を超えないものとする」との見解が示されています3)。女性の生殖に適した年齢である性成熟期の上限は、一般的には45歳程度とされています。
東京都福祉局による調査でも、胚移植年齢の上限と考える年齢は「45歳」と回答した医療機関が最も多くなっています2)。
ただし、医療機関ごとに独自の制限を設けているケースもあります。目安よりも早い年齢を上限とする施設もあるため、卵子凍結を検討する際は事前に確認しましょう。
40歳以上で卵子凍結が推奨されない理由
40歳以上での卵子凍結が推奨されない理由は、加齢によって妊孕性(にんようせい:妊娠する力)に影響する変化が起こるためです。
とくに以下2つの変化は、妊娠の可能性を低下させる主な要因です。
- 卵子の量と質が年齢とともに低下する
- 婦人科系の病気のリスクが高まる
卵子の量と質が年齢とともに低下する
卵子は、出生後に新しく作られることがなく、年齢とともに少しずつ減っていきます。特に37歳以降は減少のスピードが加速するといわれており4)一度の採卵で得られる卵子の数も少なくなる傾向があります。
また、卵子は胎児期に作られてから体内で長期間保存されるため、質の低下も避けられません。30代を過ぎると染色体異常が生じやすくなり、赤ちゃんの先天的な病気や流産につながる可能性が高まります。40代以降の流産の約80%は、染色体異常が原因という報告もあります5)。
現在の医療技術では卵子の質や数の低下を防ぐ方法はなく、生殖補助医療(ART)でも影響は避けられません。将来の妊娠の可能性を残すためには、より若いうちに卵子を凍結保存することが望ましいのです。
年齢とともに婦人科系の病気のリスクが高くなる
婦人科系の病気にかかると、妊娠に必要な卵子が得られにくくなる可能性があります。卵巣の機能を低下させ、卵子の質・量にも影響することがあるためです。
加齢とともに子宮や卵巣の働きが変化しやすく、婦人科系の病気にかかるリスクも高まります。たとえ卵子を採取して移植できたとしても、病気によって着床や妊娠維持が妨げられるケースもあります。
主な婦人科系の病気としては、以下が挙げられます。
特に30〜40代以降では婦人科系疾患の発症率が上がり、健康な状態で採卵できない可能性があります。また、高齢での妊娠・出産では、妊娠合併症や早産・流産といったさまざまなリスクも伴います。
できるだけ若いうちに質の良い卵子を凍結し、望ましいタイミングで使用することが、お母さんと赤ちゃんの健康を守るために大切なのです。
卵子凍結は何歳からできる?
日本生殖医学会のガイドラインでは「成人女性」を対象とすることが示されていますが、明確な規定があるわけではありません。ただし、自治体の助成金制度では下限が設定されていることが一般的であり、例を上げると東京都では18歳以上が対象となっています6)。
また、東京都福祉局の調査では、健康な人では20歳以上、病気により妊孕性が低下する人では18歳を下限と考える専門医が多い結果となっています2)。
実際の対応年齢は施設や自治体によって異なる場合があるため、個別に確認が必要です。
卵子凍結は妊娠を保証するものではありませんが、採卵時点での卵子の状態を保ち、加齢による妊孕性への影響に対応することが可能です。
「いつかは子どもを授かりたいけれど、今はパートナーがいない」「今は仕事を優先したい」という場合、卵子凍結は将来の妊娠に備えるための選択肢のひとつとなるでしょう。
卵子凍結のメリット
卵子凍結のメリットは、質が良い卵子を将来の妊娠に向けて残せることです。若いときに採取した卵子を使い、妊娠を希望した時期に不妊治療を開始できます。
妊娠のタイミングを調整できることで、以下のメリットも得られます。
- 将来のリスクに備えられる
- ライフプランの選択肢が広がる
加齢とともに妊娠に適した卵子が少なくなります。質の良い卵子を保存しておけば、将来妊娠しにくい状態でも、凍結した年齢時の卵子を用いて妊娠を目指すことが可能です。若年女性の提供卵子を用いた場合には、女性の年齢に関わらず高い妊娠率が維持されます。
30代後半で妊娠を考える場合、自然妊娠を目指すよりも30代前半までに凍結した卵子のほうが妊娠率は高くなると考えられます。
今は結婚・妊娠の予定がなくても将来子どもを授かりたい人にとって、卵子凍結は妊娠の可能性を残す選択肢となるのです。
卵子凍結のデメリット・注意点
卵子凍結は将来の妊娠の可能性を残す有効な手段ですが、注意しておきたい点もあります。
特に以下3つは、考慮すべきポイントです。
- 将来の妊娠を約束するものではない
- 年齢が高くなるほど妊娠率が下がる
- 高齢出産のリスクを解消するわけではない
凍結卵子を用いても、加齢が及ぼす卵子や母体への影響は避けられません。卵子凍結を検討する上ではリスクも正しく理解しましょう。
将来の妊娠を約束するものではない
卵子凍結は将来の妊娠を保証するものではありません。凍結した卵子は、解凍後に受精や着床といったいくつかの過程を経なければならないためです。途中でうまく進まないこともあるため、必ず赤ちゃんの誕生につながるとは限らないのです。
以下の表では、各治療ステップと成功率を示します。
【卵子凍結の治療ステップと成功率】
卵子1個あたりの着床率は17〜41%、出生率は4.5〜12%と報告されています。凍結卵子を使用しても、必ず授かれるわけではないことは理解しておきましょう。
卵子凍結の流れや妊娠率については、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:卵子凍結とは?流れや妊娠率、メリット・デメリット、費用などわかりやすく解説
年齢が高くなるほど妊娠率が下がる
妊娠・出産に至る確率は、採卵時の年齢によっても変わります。
30代前半までは凍結した卵子の数が多いほど妊娠率も高くなりますが、30代後半になるとたくさん採卵できても妊娠率は頭打ちになります7)。
加齢とともに卵子の質が低下するため、確保したい凍結卵子の目標数も増えます。しかし、36歳以降では、凍結卵子の数を多く採取できても妊娠につながるとは限らないのです。
卵子凍結は、年齢による影響を踏まえて早いタイミングで検討することが大切です。
高齢出産のリスクを解消するわけではない
卵子凍結によって卵子の質は維持できますが、出産に伴うリスクは減らせません。若いときに採取した卵子を使用しても、移植する年齢が高ければ自然妊娠と同じリスクを伴います。
特に35歳以降では、お母さんだけでなく赤ちゃんにもリスクがあります。
【高齢出産に伴うリスク】
年齢が上がると出産そのものによる体への負担は少なくありません。妊娠合併症だけでなく、分娩時の緊急トラブルや流産・早産の可能性も高まります。
こうしたリスクを踏まえ、凍結卵子の使用に年齢制限を設ける医療機関が多いのです。
卵子凍結を検討する際は、妊娠・出産する時期も視野に入れ、ライフプラン全体を考えることが重要です。
卵子凍結の助成金制度について(東京都の場合)
卵子凍結は高額な自由診療になりますが、東京都では費用負担を軽くする助成制度が設けられています6)。東京都に住民登録がある女性が対象です。
- 対象となる医療行為:採卵準備のための投薬・採卵・卵子凍結
- 対象者:都内に住民登録している18〜39歳の女性
助成金は以下の通りです。
申請には東京都が主催する説明会への参加が必須です。次年度以降の助成を受けるには、保管に係る調査への回答も条件となります。その他、対象となる条件や必要書類の詳細は、東京都福祉局の公式サイトをご確認ください。
卵子凍結の助成を受けるには、都が指定する登録医療機関で治療する必要があります。トーチクリニックは登録医療機関であり、対象となる医療行為の助成を受けることが可能です。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
関連記事:卵子凍結に関する東京都助成金制度について
卵子凍結に関してよくある質問
卵子凍結についてよく寄せられる質問にお答えします。
Q:卵子凍結に合併症などのリスクはありますか?
卵子凍結では、採卵の過程で副作用や合併症が起こることがあります。採卵後の出血や麻酔によるアレルギーなども考えられます。
特に注意したいのは「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」です。OHSSとは、採卵の際に使用する排卵誘発薬に対して卵巣が強く反応して起こる副作用です。
卵巣が腫れたり腹水がたまったりするほか、重症の場合は腎不全や血栓症を引き起こす可能性もあります。ただし、発生頻度は0.8〜1.5%とされており8)、誰にでもおこるものではないため過度に心配する必要はありません。
これらのリスクを防ぐには、事前の検査と医師との十分なカウンセリングが大切です。不安や疑問はひとりで抱えず、医師にしっかりと相談しましょう。
Q:何歳まで出産できますか?
女性の妊娠・出産可能な年齢は40代前半頃〜閉経までが目安です。ただし、妊娠を望む場合はできるだけ早い段階から計画することが重要です。
加齢に伴い卵子の質と数は低下し、妊娠しにくくなるだけでなく、流産や染色体異常のリスクも上昇します。また、母体そのものが子宮筋腫や子宮内膜症など、妊娠を妨げる病気を抱える可能性もあります。
日本産科婦人科学会が出している生殖補助医療に関するデータによると、出産率は37歳を過ぎると急激に低下し、39歳頃になると流産率が出産率を上回るとされています9)。不妊治療を受けても、妊娠できない可能性が高まるのです。
若いうちに卵子を凍結しても、妊娠・出産を考える時点で母体が高齢であれば、合併症などのリスクは避けられません。将来の妊娠の選択肢を広げるためは、凍結のタイミングだけでなく「いつ頃までに授かりたいか」まで考えておくとよいでしょう。
Q:ピル服用中でも採卵できますか?
ピル服用中でも採卵は可能ですが、多くの場合一時的に中止するよう指導されます。
ピルの影響で卵胞の発育が抑えられ、採卵できる卵子の数が少ない可能性があるためです。実際に、卵子数の目安であるAMH値は低くなる傾向もあります。
服用を中止するタイミングは採卵の2〜3か月前が望ましいとされますが2)、医師によって指示が異なることもあります。人によっては中止期間が長くなるケースも考えられるため、卵子凍結を検討している人は、早めに専門医に相談しておくと安心です。
おわりに
参考文献
1)日本生殖医学会. 社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン. 日本生殖医学会ウェブサイト.
http://www.jsrm.or.jp/guideline-statem/guideline_2013_02.pdf
2)東京都福祉局 子供・子育て支援部. 卵子凍結への支援の検討に関する状況調査結果. 東京都福祉局ウェブサイト.
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/fukushi/ranshi-chousakekka
3)日本産科婦人科学会. ヒト受精胚および卵子の凍結保存と移植に関する見解. 日本産科婦人科学会雑誌. 2025;77(8):1020-1021.
https://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=77/8/077081014.pdf
4)日本生殖医学会. Q24. 加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか? 日本生殖医学会ウェブサイト.
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa24.html
5)日本産科婦人科医会. 1. 総論. 日本産科婦人科医会ウェブサイト. https://www.jaog.or.jp/note/1%ef%bc%8e%e7%b7%8f%e8%ab%96/
6)東京都福祉局. 卵子凍結に係る費用の助成. 東京都福祉局ウェブサイト
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/ranshitouketsu/touketsu/gaiyou
7)日本産科婦人科学会. ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ. 日本産科婦人科学会ウェブサイト.
https://www.jsog.or.jp/modules/public/index.php?content_id=9
8)日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023.
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2023.pdf
9)日本産科婦人科医会. 1. 妊娠適齢年令. 日本産科婦人科医会ウェブサイト.
https://www.jaog.or.jp/lecture/1-%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E9%81%A9%E9%BD%A2%E5%B9%B4%E4%BB%A4/