子宮内膜ポリープは、子宮内腔(子宮の内側・子宮内膜が覆っている部分)にできる良性のできものです。受精卵の着床に影響が出るなど、不妊の原因になることがあります。ただし適切な治療で、子宮内膜ポリープによる不妊の改善は可能です。
本記事では、子宮内膜ポリープの症状や検査、治療などについて解説します。気になる症状がある場合、病院に行く際の事前情報としてお役立てください。
子宮内膜ポリープとは?
子宮内膜ポリープとは、子宮内膜の表面から子宮内腔に向かって突出する良性のできものです。内膜腺や血管、間質といった組織から構成されています。卵のような丸みを帯びた形で細い茎を持つものが多い特徴があります。
同じく子宮に発生する子宮筋腫とは違うもので、発生の詳しいメカニズムはまだ解明されていません。大きさはさまざまで、ひとつだけでなく複数できる場合もあります。子宮内膜が厚くなる黄体期など月経周期によっては検査で見つかりにくくなるため、月経直後の子宮内膜が薄い時期が検査に適したタイミングです。
子宮内膜ポリープは約25%の割合で子宮頸管ポリープと合併することがあり、多くは無症状で偶然発見されますが、不正出血などの症状が現れることもあります。また、ポリープの位置や大きさによっては不妊の原因になると知られています。
子宮内膜ポリープ・子宮頸管ポリープ・子宮筋腫の違い
子宮内膜ポリープ、子宮頸管ポリープ、子宮筋腫の違いについて解説します。
子宮内膜ポリープは、子宮内膜にできるポリープ(「いぼ」のように膨らんだもの)です。不正出血や月経時の出血量が増える原因になり、不妊症につながることもあります。多くが良性ですが、悪性の可能性も否定できません。
子宮頸管ポリープは、頸管と呼ばれる子宮の入り口付近にできるポリープです。何かに接触すると簡単に出血しますが、ほとんどの場合無症状で、検診で見つかることが多いです。ほとんどが良性ですが、まれに悪性のものがあるため、大きいものは婦人科で摘出することが推奨されています。
子宮筋腫は子宮の筋肉層にできる「こぶ」のような良性腫瘍です。30歳以上の女性の3割前後に、子宮筋腫を認めるといわれています1)。できる場所によって症状が異なり、子宮の内側(粘膜下筋腫)だと小さくても生理痛や貧血を引き起こします。外側(漿膜下筋腫)は無症状のことが多いですが、大きくなるとトイレが近くなるなどの圧迫症状が出ます。
子宮内膜ポリープの原因と症状
子宮内膜ポリープの原因ははっきりしていませんが、ホルモンバランスに関連があると考えられています。また、子宮内膜ポリープは症状が現れない場合も多いですが、不正出血が見られることもあります。以下で詳しく見ていきましょう。
子宮内膜ポリープが発生する原因|エストロゲンの分泌過多やストレス等
子宮内膜ポリープが発生する原因は、現在はっきりわかっていません。しかし、炎症細胞との関連や、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの分泌異常の影響で発生しやすくなると言われています。エストロゲンが過剰に分泌されると、子宮内膜が厚くなりすぎてポリープが形成されることも明らかになっています。
ホルモンバランスを乱す原因として、ストレスや肥満との関係が指摘されています。ストレスは自律神経を乱し、ホルモン分泌に影響を与えるのです。また、エストロゲンは脂肪細胞からも作られるため、肥満気味の人はリスクが高まります。
その他に、乳がん治療で使われる「タモキシフェン」や更年期障害のホルモン補充療法も子宮内膜ポリープの要因になることがあるとされています。
子宮内膜ポリープの主な症状|不正出血や子宮内出血等
子宮内膜ポリープの主な症状は、不正出血、子宮内出血(体外に血が出ない場合を含む)、月経の出血過多、月経期間が長くなることです。しかし、無症状の場合もあります。出血が多い場合には、それにともなって貧血症状が出る可能性もあります。
普段とは違うタイミングの出血や、月経の期間が長引いたとき、出血量がかなり多いなどの場合は、医療機関の受診を検討しましょう。
子宮内膜ポリープと不妊症の関連はある?
子宮内膜ポリープは、不妊の原因になる場合があります。子宮内膜ポリープは一般の女性の約1割に発生していると推定されていますが2)、不妊症の方の中では約24%と言われています3)。ポリープが存在することで、子宮内の炎症や精子や卵子が子宮内でスムーズに動くのを妨げるといった、不妊の一因となる悪影響が起きることも想定されます。
不妊の原因が子宮内膜ポリープ以外にない場合には、ポリープ除去によって妊娠の可能性が向上すると報告されています。特に子宮内膜ポリープが子宮内膜の中央部分の受精卵が着床する部分に位置する場合には、着床を妨げるリスクが高くなります。
切除後から不妊治療開始までの期間は妊娠率に関係しません。また、直後から不妊治療を開始しても影響がないことも報告されています4)。
子宮内膜ポリープの検査方法
子宮内膜ポリープの主な検査法は、経腟超音波検査、ソノヒステログラフィー、子宮鏡検査です。一般的には最初に経腟超音波を行い、必要に応じてほかの検査が行われる場合が多くなります。ここでは、具体的な検査法や検査の目的など、それぞれの検査の特徴をご紹介します。
経腟超音波検査
経腟超音波検査は、直径約1.5〜2 cmと細い棒状の器具(プローブ)を腟から挿入し、子宮や卵巣の状態を詳しく観察する検査です。子宮内膜ポリープと思われる病変があるかどうかを調べるために行われます。子宮内膜ポリープだけでなく、子宮筋腫や卵巣のう腫、子宮内膜症などの異常がないかも確認できます。
子宮内膜ポリープの検査として最初に行われることが多く、痛みはほとんど感じずに短時間で終わることが多いでしょう。月経が終わった直後、子宮内膜が薄い時期に検査するとポリープを発見しやすいので、このタイミングでの検査が望ましいとされています。経腟超音波検査で子宮内膜ポリープが疑われた場合、確定診断を行うために次のステップに進みます。
ソノヒステログラフィー
細い管で子宮内に生理食塩水を入れながら行う経腟超音波検査です。ほとんどの婦人科で使われている超音波機器で実施でき、専用の機械は必要ありません。検査時は約半数に軽い腹痛が報告されていますが、子宮の形や内膜の状態を詳しく観察し、子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫など通常の超音波検査では見えにくい病変をはっきり映し出せます。
特に不正出血がある女性の子宮内腔病変に優れているとされています。子宮内膜ポリープは、ソノヒステログラフィーによって陽性・陰性を正しく判断できる確率が高いという報告があります。また、病変が子宮の内腔にどの程度突出しているかを評価できるため、治療方針決定にも有用です。
子宮鏡検査
先端に小さなカメラがついた細い器具を腟から入れ、モニターに映し出された子宮内部の様子を観察する検査です。麻酔をかけずに行われる場合が多く、検査時間は約5~10分間程度です。
子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫を肉眼で確認できます。また、子宮内膜症や卵管周囲の癒着など、不妊症の原因となる子宮を含めた骨盤内臓器の異常を見つけるのに特に有効です。不妊の患者さんに対して子宮鏡を使って子宮内膜ポリープを取り除くと妊娠率が高くなるという報告もいくつかあります4)。ポリープが見つかればその場で切除可能です。
子宮鏡検査の詳しい内容については以下の記事も参考にしてください。
関連記事:子宮鏡検査とは?方法やわかること、痛みの有無についても解説
子宮内膜ポリープの治療法
子宮内膜ポリープの治療法は、主に手術療法です。従来から行われてきた掻爬(そうは)術、近年主流となっている子宮鏡下手術があります。妊娠を希望しておらず、不正出血などの症状もなく、ポリープが小さい場合は、治療を行わずに定期的な経過観察で対応することもあります。
子宮内膜ポリープの手術療法について詳しく解説します。
手術療法|子宮鏡下手術や掻爬術等
子宮鏡検査で適応があると診断された場合、子宮鏡下手術や掻爬術などの手術療法が行われることがあります。ポリープの数や大きさによって、日帰り可能または入院が必要な場合が判断されます。
子宮鏡下手術は、膣から挿入した内視鏡で直接子宮内膜を確認しながらポリープを切除する方法です。鉗子やメス、レーザーなどでポリープの付け根の部分を切除します。子宮鏡検査を行っている途中にポリープを発見した場合、検査中に切除することも可能です。
子宮内膜全面掻爬術は、従来から行われてきた子宮内膜ポリープの手術法です。子宮内膜の過剰な増殖や流産後の残存組織に対して行われる方法で、子宮内腔をきれいにして内膜を正常な環境に整えます。
Q:子宮内膜ポリープに関するよくある質問
ここからは、子宮内膜ポリープに関わる内容のよくある質問と答えをご紹介します。妊娠率に影響するか、悪性の可能性があるのか、といった疑問がある方はぜひ参考にしてください。
Q:手術をして子宮内膜ポリープを除去すると妊娠率に影響する?
不妊の原因が子宮内膜ポリープ以外にない場合はポリープを摘出すると妊娠率が高まるとされています。また、不妊の患者さんに対して、子宮鏡下子宮内膜ポリープ摘出術は妊娠率を高めるという多くの報告があります。このような事実を考慮して、2023年版の産婦人科診療ガイドラインにおいても、子宮内膜ポリープが不妊の一要因と考えられる場合は子宮鏡下手術が勧められています4)。
また、不妊治療で人工授精を受ける予定の女性を対象にした研究では、子宮内膜ポリープを切除したグループの65%が初回人工授精実施前に自然妊娠した、という結果が示されました5)。これは、ポリープが子宮内環境に影響を与え、着床を妨げる可能性があることを示唆しています。
Q:子宮内膜ポリープが悪性である確率はどれくらい?
子宮内膜ポリープが悪性である確率として、明確ながんであったものは0.8%という報告があります。その他の内訳は、良性ポリープが70.3%、子宮内膜増殖症が25.7%、異型性増殖症が3.1%という結果であり6)、悪性である確率は決して高くありません。ただし、年齢や閉経状態、高血圧は、悪性のポリープのリスクを高める可能性があるため注意が必要です。
また、乳がん治療でタモキシフェンを長期服用している場合も注意が必要です。子宮内膜への刺激作用があり、ポリープ発生率が2〜3倍に増加します。実際、子宮内膜ポリープの出現率が8~36%で、そのうち3~10.7%に悪性所見が見られたとの報告があります4)。
Q:子宮内膜ポリープが悪性疑いだった場合どうなる?治療法は?
子宮内膜ポリープに悪性の疑いがある場合、確定診断すべく手術療法を行います。子宮鏡下ポリープ切除術で切除したポリープについて病理検査し、悪性だった場合は子宮体がんとして治療が行われます。子宮内膜ポリープのほとんどは良性ですが、偶然悪性とわかって早期治療が可能となった症例も報告されています。
良性の場合は、その後特別に治療を追加することはありません。一方、子宮体がんと診断された場合、基本的に手術療法を行い、場合によって放射線療法や化学療法を追加することがあります。
特にタモキシフェンを服用している患者さんは、悪性の発生率が高い傾向です。出血や内膜肥厚を認めた場合は、組織検査を行うことが望ましいとされています。
Q:子宮内膜ポリープと子宮体がんの違いは?
子宮内膜ポリープは、子宮内膜が局所的に過剰に増殖した良性の腫瘍で、不正出血や不妊の原因になることがあります。一方、子宮体がんは悪性のがん細胞が増殖する病気で、進行すると他の臓器に転移します。
このような違いがありながらも鑑別がとても難しい場合が存在し、診断時には組織を採取して行う病理検査が必須です。どちらも症状は不正出血と共通しています。
Q:子宮内膜ポリープ切除後の性行為はいつから?
手術後の性行為の再開タイミングは、子宮鏡の手術の場合は約1週間後がおおよその目安です。ただし、子宮内容除去術の場合は、約3週間後が目安となります。
ただし、個々の手術の内容や症状によって異なるので、担当の医師の診察のもと、子宮の回復を確認してから再開しましょう。痛みや異常を感じた場合には中止して、病院で医師の指示を仰いでください。
Q:子宮内膜ポリープが生理で流れることはある?
子宮内膜ポリープが生理の経血と一緒に完全に流れ出ることは、基本的にありません。生理は厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちて出血が起こる現象ですが、ポリープは内膜の一部の組織が局所的に増殖してできたものであり、剥がれ落ちることはほとんどありません。
生理とは関係なく、無症状の閉経前の女性の子宮内ポリープは自然退縮する場合があります。しかし1cm以上の大きさになると自然退縮しにくいことも知られています7)。
Q:子宮内膜ポリープを放置するとどのようなリスクがある?
子宮内膜ポリープを放置した場合、不妊やがん化のリスクがあります。特に不妊治療中の方や妊娠を希望する方は切除が推奨されています。稀にがん化する可能性も指摘されており、閉経後の方やホルモンバランスの乱れがある方は特に注意が必要です。
子宮内膜ポリープでは症状として不正出血が見られる場合もありますが、無症状のこともあります。子宮内膜ポリープが発見されたら、無症状でも放置せず定期的に婦人科を受診し、経過観察しましょう。
おわりに
参考文献
1)日本産科婦人科学会. 子宮筋腫. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5711/
2)Lieng M, et al.: Treatment of endometrial polyps: a systematic review. Acta Obset Gynecol Stand. 89: 992-1002, 2010
https://obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.3109/00016349.2010.493196
3)Clark TJ, et al.: A randomised controlled trial of outpatient versus inpatient polyp treatment (OPT) for abnormal uterine bleeding. Health Technol Assess. 19(61), 2015.
https://www.journalslibrary.nihr.ac.uk/hta/HTA19610
4)日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編 2023. Accessed April.,2025.
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2023.pdf
5)Ilan Cohen:Endometrial pathologies associated with postmenopausal tamoxifen treatment. Gynecol Oncol. 94(2):256-66. 2004 Aug;
https://www.gynecologiconcology-online.net/article/S0090-8258(04)00237-9/abstract
6)Luca Savelli, et al.: Histopathologic features and risk factors for benignity, hyperplasia, and cancer in endometrial polyps. General Obstetrics and Gynecology GynecologyVolume 188, Issue 4,p927-931,April
https://www.ajog.org/article/S0002-9378(03)00069-3/abstract
7)Byung Chul Jee, et al.:Management of endometrial polyps in infertile women: A mini-review. Clin Exp Reprod Med. 2021 Sep;48(3):198-202.
https://ecerm.org/journal/view.php?doi=10.5653/cerm.2020.04119